魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第92話 訪問

克也のベッド脇からすすり泣く声が聞こえてくる。それは悲しみと愛のハーモニーを奏でているかのようだ。シーツには涙でできた大きなシミが広がっており、相当量の涙を流していたのが想像できる。

 

「克也さん、早く目を覚ましてよ。じゃないと私…」

「アヤコの言う通りよカツヤ。貴方がいないと四葉は立ち直れないわ。それだけ重要な人だって貴方は気付いてる?」

 

亜夜子とリーナは毎日のように克也の治療室を訪れては、目を覚ますように願っていた。来る度に涙を流し辛い思いをすると同時に、何か安心させられるという矛盾を感じていた。

 

「何でカツヤがこんな目に遭わないとといけないの?ひどいひどすぎる」

 

リーナが何度目かもわからない嗚咽を漏らして泣いているのを、亜夜子は顔は心配そうに。しかし内心は乗り越えなければならない最強の敵になり得る人物だと思いながら見つめていた。

 

リーナ自身は克也に異性の好意を抱いているわけではなく、友人以上恋人未満の好意だと認識している。だが亜夜子は異性として1人の男性として純粋な好意を、リーナが克也に抱いているのを敏感に感じ取っている。それを伝えない・気付いていないことに憤りを感じていた。

 

亜夜子は克也がリーナと自分に対する態度と話し方が違うことに、少しの寂しさに近い感情を感じていた。

 

克也は意識しての行動ではないが、リーナに対する態度や話し方は同年代という親近感からである。亜夜子との距離感は家族としての繋がりからだ。友人と家族との距離感の違いを、敏感に感じ取ってしまう亜夜子の観察力は異常だ。

 

女性としても美人な亜夜子は、克也の左手を握りながら泣いているリーナを改めて見る。

 

背中の中程まで伸ばされ、癖がなく溜息が漏れるような美しい黄金の髪。冬を思わせる蒼穹の碧眼は、世の男を虜にするほどの美貌である。控えめだが柔らかな膨らみのある胸部。筋肉質で程よい柔らかさを感じさせる引き締まったくびれのあるボディ。そして安産型と思われる下品ではなく、上品に見えるヒップ。

 

女性が求める全てを合わせたような存在。

 

深雪と競わせても同等の票が2人に入るだろう。

 

克也は闇を思わせる黒髪に同じような黒い瞳。だが瞳は闇のような色合いの黒ではなく、夜空を思わせる人の心を包み込むようなそんな優しい黒。闇に溶け込みながらも、温かさと強さで仲間を導くようだ。そしてシャープであり少し幼さが含まれる顔立ちは、女性が理想とする男性を体現させたような存在。

 

達也は反対に甘さを全て取り去ったシャープな顔立ちなので、2人が二卵性の双子だと言われても信じられないだろう。だが纏う空気が酷似しているため何故か納得できる。

 

そんな風に他人を評価する亜夜子だが、亜夜子自身もかなりの美女である。

 

化粧をしなくても女優として活動できる美しさ。おっとりとしているが時にはハキハキとした雰囲気の彼女も、男性が理想とする女性を体現させたような容姿である。リーナや深雪と比べるとワンランク劣ってしまうだろうが、十分に美人の範疇に入る。

 

リーナや深雪が規格外過ぎるのである。

 

人は自分を批判的に捉え、他人を褒める傾向にある。決して相手の機嫌取りをしているわけではなく、本心で思っていることなのだが、自分の容姿などを上に見ることも必要である。あまりにも自分は高みにいると考えていると、周囲から批判を受けることがあるので、程度は弁えなければならない。

 

リーナが出ていくのを見送り、亜夜子はこっそりと瞬間的に自分の唇を意識のない克也の唇に触れさせる。きっと目を覚ますと。克也はすぐにでも捜索を開始するが、自分の気持ちには気付かないと踏んでの行為だった。

 

「ファーストキスがこんな冷たいものだなんて。辛いですわ克也さん」

 

涙をこぼしながら悲しげな笑みを浮かべる亜夜子は、小さく呟き治療室を出て行った。

 

亜夜子がもう少し落ち着いていれば、克也の身体が少しだけ震えて、僅かに体温が上昇したことに気付いていたかもしれない。克也の体温と心拍を表すグラフが微かに。しかし確実に上昇したことに気付いた者は、亜夜子を含めて誰1人いなかった。

 

 

 

 

 

克也が倒れてから早1ヶ月。捜索は依然として進展しておらず、黒羽家だけでなく四葉家も焦りを感じていた。ちょっとした尻尾を見つけたとしても、すぐにそれも取り除かれてしまう。完璧に奴等の掌で弄ばれている。そんな状況が丸わかりな状態だった。

 

長期に渡る捜索の疲労感故か。それとも手掛かりを見つけられない苛立ち故か。四葉家屈指の諜報部隊である黒羽家配下の魔法師が、過去に類を見ない勢いでバタバタと倒れていった。

 

亜夜子も文弥も貢もその例外ではなかった。

 

「少しぐらい自分の身体を考えなさい」

「リーナさんに言われなくても自分でよく分かっています」

「分かっているならしばらく任務を休みなさいよ。貴方の能力がなければ絶対に見つからないわ」

「いいんです。情報が見つからないより、自分の身体が壊れてる方がマシです」

 

リーナは本家にある亜夜子の部屋で看病しながら怒っていた。リーナは心の底から亜夜子の心配をしているのだが、亜夜子は聞き入れるつもりはなかった。弱った自分に向けられる恋敵の言葉ほど腹立たしいものはない。

 

前向きに物事を考えてくれるのは良いのだが、腹黒い考え方であれば心情を知っていても納得はできない。それを知らないリーナは、亜夜子が克也の敵討ちを手伝っていると勘違いしていた。

 

あながち間違いとは言えないが、その裏に個人的な心情が紛れ込んでいるとは思いもしないだろう。

 

「それでも万全な状態で任務に当たらなければ、できることもできなくなるわ」

「…分かりました」

 

亜夜子が素直に言うことを聞いたことに安堵したリーナは、一応の看病を終えたので部屋から出て行った。

 

結果的にという意味合いが強いが、亜夜子がリーナの言葉に従ったのは、旧USNA〈スターズ〉総隊長 アンジー・シリウスであったリーナが、過酷な任務を遂行し続けたことを知っていたためだ。

 

任務遂行中に自分の無理がたたり、部下を何人も失ったと話してくれたことを思い出す。背負っている重荷は違えど、個人の感情で動けば迷惑でしかない行為だと教えてもらった。それを看病しながら何も言わずに、もう一度教えてくれたことに感謝して言う通りにする。

 

「本当に適わないなぁ」

 

ポツリと呟かれた言葉には、1人の魔法師である黒羽家の魔法師としての感情ではなく、1人の片想いする女性の本音が込められていた。

 

 

 

 

 

達也と深雪はその日、樹里と仕事部屋でゆっくりとした時間を過ごしていた。克也が倒れて意識が戻らないという気落ちしても仕方ない状況であるが、2人にとって唯一不安を忘れさせてくれるのが樹里の存在だった。

 

深雪が事務処理をしている傍ら、達也は樹里の相手をしていた。初対面の人間なら達也を本能的に恐れてしまうものだが、樹里は怯えることなく穏やかに寝息を立てている。達也の血を受け継いでいるのも理由の1つだろう。父親であり傷つけられることはなく、安心して寝ていられる。生後1ヶ月の子供でも理解しているのかもしれない。

 

樹里を抱っこしている達也の表情は、新しく儚い今すぐに命を失ってしまう存在を守る。そんな決意が込められている優しいものだった。笑みではないが、心が安らいでいるのが一目見れば分かるだろう。感情を失った達也は、本当の意味での喜怒哀楽を感じられないが、僅かずつ取り戻しているように克也と深雪は感じていた。

 

克也の自分勝手な行動に対する怒りや、水波を失ったことへの悲しみ、樹里を愛するという愛情。それらは無くなったと思えない感情を表すようになっている。深雪はこれを嬉しく思い、すべてが戻ることを願っている。完全に感情を取り戻すことはないと分かっているが、そうあってほしいと願ってしまうのだ。

 

失ったのではなく、忘れたわけでもなく、消されたのだから二度と元には戻らない。だがそれでも願ってしまうのはエゴなのか。深雪にとって最後で最大の望みなのか。それは深雪以外には分からない。

 

もしかしたら深雪自身も分かっていないのかもしれない。

 

「深雪様、面会の方が来られております」

「面会ですか?明後日まで予定はないはずですが」

 

ドアをノックして入ってきたシルヴィの言葉に、深雪と達也は首を傾げた。達也の気配の揺れを察知したのか。樹里がぐずり始めたので、達也は慌てながらあやし始める。

 

「どなたからですか?」

「七草香澄様・泉美様と申されております」

 

さらに2人は首を傾げると樹里がまたぐずり始め、達也は慌ててまたあやし始める。

 

「取り敢えず話だけでも聞いてきたらどうだ深雪。何かしら理由があるのだろう」

「分かりました。シルヴィさん、お願いします」

「畏まりました」

 

シルヴィのあとに続いて深雪は仕事部屋から出て行く。2人を見送り樹里をあやしている達也は、2人がやってきたことに疑問を抱いていた。

 

2人が尋ねてくるなど思いもしなかったな。克也の見舞いに来たのか?いや、あのことは四葉家の関係者と友人達にしか知らせていないはずだ。一体何のようだ?

 

達也が2人が尋ねてきた理由を知るのはもう少し先の話だ。そしてその要件が捜索の鍵になるとは、2人も深雪もそして達也でさえ思いもしなかった。

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