ありふれたチートで世界最強   作:漆屋

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異世界召喚

 タツヤが目を開けるとまず目に飛び込んできたのは、巨大な壁画だった。

縦横十メートルはある壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらとほほ笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だが、タツヤには胡散臭く感じる。

 

 周りをよく見渡すと、どとうやら自分達が巨大な広間にいるらしいことが分かった。大理石のような光沢滑かな白い石作りの建物のようだ。これまた美しい彫刻が彫られた柱に支えられ、天井はドーム状になっている。如何にも大聖堂という感じの広間である。

 

タツヤ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはタツヤと同じように呆然と辺りを見渡すクラスメイトがいた、その中にハジメと香織と雫がいた。三人の無事を確認しこの現状を説明できるであろう台座の周囲にいる者たちの観察に移した。

 

 少なくても三十人近い人々が祈りを捧げるように跪いている。

 金の刺繍をした法衣の様なものを纏った其の集団のの中で特に豪華で煌びやかな衣装を纏った七十代くらい老人が進み出てきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎しますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いております。イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後宜しくお願い致しますぞ。」

 

 そう言ってイシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 現在、タツヤ達は、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通された。

 

 この部屋も例にももれず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵や壁紙が職人芸の粋を集めたモノだと分かる。

 

上座に近い場所に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。タツヤとハジメは最後方だ。

 

 

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が、入ってきた。そう、生メイドである!

地球産の某聖地のエセメイドや外国のでっぷりとしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を体現したような美女・美少女メイドである。

 

 こんな状況でも、思春期男子の飽くなき探求心と欲望は健在で男子の大半がメイドさんを凝視している。もっとも、それを見た女子の視線は、物凄く冷たかった。

 

 タツヤとハジメも飲み物を給仕してくれたメイドさんを思わず凝視・・・しそうになって悪寒を感じ正面に視線を固定した。

 

 二人は悪寒を感じる方に視線を向けると、何故か満面の笑みで香織がジッとこちらを見ていた。二人は見なかったことにした。

 

 

 全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話をし始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まず私の話を最後までお聞きくだされ。」

 

 

 そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもなく勝手なものだった。

 

まず、この世界はトータスと呼ばれている。トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

 

 人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の樹海でひっそりと暮らしていると。

 

 

 この内、人間族と魔人族は何百年も戦争をしている。

 

 

 魔人族は数では人間には及ばないもの個人の力は大きいらしく、その力の差に人間は数で対抗していたそうだ。

戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年は起きていないが、最近になって異常事態が多発しているという。

 

 魔人族による魔物の使役だ。

 

 魔物とは通常の野生動物が魔力を取り込み変質した異形の事だと言われている。強力な固有魔法を使える強力で凶悪な害獣とのことだ。

 

 今まで本能のまま活動する魔物を使役できる者はほとんど居なかった。出来ても一二匹程度だったその常識が覆ったのである。

 

 これの意味することろは、人間族の数というアドバンテージが崩れたのこと。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

 

「あなた方を召還したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を作った至高の神。恐らく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚れた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前にエヒト様から信託があったのですよ。あなた方という救いを送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人類を救ってい頂きたい。」

 

 イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。信託を受けた時のことを思い出したのだろう。

 

(エヒト様の御意志の下ねぇ~)

 

 

 イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信者らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく教会の高位の地位に就くらしい。

 

 

(その神託はだれが証明するのだか・・・・悪魔の証明だな)

 

 タツヤは神の意志を疑うこともなく、それどころかイキイキと従うこの世界の歪さに危機感を覚える。

 

 そんな中、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 

 愛子先生だ

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を帰してください!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

(愛子先生がんばっているな)

 

必死に抗議してる愛子先生に生徒たちは「ああ、また愛ちゃんががんばっている」と和んでいる。

 

 彼女は今年で二十五歳になる社会科の教師で非情に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら生徒の為に走り回るその姿は微笑ましく、いつも一生懸命な姿と大抵から回ってしまう残念さのギャップに庇護欲をかぎ立てる生徒は少なくない。

 

 

 そんな愛子先生にイシュタルが言い放った

 

「お気持ちは察します。しかし・・・あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

場に静寂が満ちる。

 

 

「ふ、不可能って・・・ど、どういうことですか!?喚べたのだから帰せるでしょう!?」

 

 

「先ほど言ったように、あなた方を召還したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉する様な魔法が使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかも、エヒト様の御意志次第ということですな」

「そ、そんな・・・」

 

 イシュタルの言葉に愛子先生は脱力し椅子に腰を落とす。それと同時に周りも騒ぎ始めた。

 

「うそだろ?帰れないってなんだよ!」

「いやよ!何でもいいから帰して!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけるなよ!」

「なんで、なんで、なんで・・・・」

 

(エヒト様の御意志ねぇ・・・)

 

 

 生徒達がパニックを起こす中、タツヤは平然としながら飲み物を口に運び思考を巡らせた。

 

 タツヤはオタクである故にこういう創作物を何度も読んでいるので幾つかのパターンを予想していた。その中でのパターンの一つは勇者達を奴隷扱いというものだが、イシュタルの発言で最悪のパターンを想像した。それは、神によって全て仕組まれたモノというパターンだ。よくある物語で神が遊びで人の人生を弄んだり、信仰を得るための自作自演等だ。そうだとすると、今の自分たちでは抗うすべは皆無だろう。

 

「ハジメ、どう思う?」

「うん、やっぱり怪しいよ」

「だよな」

 

 

 小声でハジメと話しイシュタルをみる。

 

 皆が狼狽える中、イシュタルは「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」と言う

 

 

 パニックが収まらない中、我らが勇者(笑)が口を開いた。

 

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言って意味がない。彼にだってどう仕様もないんだ。・・・俺は、戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って放っておくことはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済が終われば帰してくれるかもしれない。・・・・イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな?エヒト様も救世主の願いを無下にしますまい。」

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲ってる感じがします。」

「ええ、そうです。この世界の物と比べるとざっと数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界と皆を救ってみせる!!」

 

 光輝の遺憾なく発揮されるカリスマで絶望的だったクラスのみんなの顔は活気と冷静さを取り戻していった。

 光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子の半数以上は熱っぽい視線を

送っている。

 

(なにが、大丈夫だ・・・皆を落ち着かせるための止む得ない判断ならいざ知らず・・・安直過ぎるぞ)

 

 タツヤは内心毒づいた。其れもそのはずこの世界の事をよく知りもせず尚且、自身の力程を理解せず戦争に参加するというのだ光輝の事だからそういった考えなど皆無だろう。

 

(・・・ともあれこうなった以上腹をくくるしか無いか・・・)

 

 

「へっ、お前ならそう言うだろうと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。・・・俺もやるぜ?」

(馬鹿追加)

「龍太郎」

「今のところ、それしかないわよね。・・・・気に食わないけど・・・私もやるわ」

(そうだな、今はそれしかないよな)

「雫」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織」

 

賛同する三人、後は当然の流れとしてクラスメート達も賛同していく。愛子先生は涙目で反対したが光輝の作った流れは止まらない。

 

 

 結局、クラス全員で戦争に参加することになった。おそらく、クラスの殆どは戦争に参加することの意味を理解していないだろう。崩れそうな精神を支える為の現実逃避かもしれない。

 

 

 

 タツヤはそんなことを考えながらイシュタルを観察した。彼は実に満足そうな笑みを浮かべている

 

 

 タツヤは気づいていた。イシュタルが事情を説明する間、光輝を観察していたことに。

 

 正義感の強い光輝が人間族の悲劇を語られた時の反応は分かりやすかった。さらに、魔人族の冷酷非情さや残酷さを強調するように話していた。イシュタルは見抜いていたんだろうこの中で誰が一番影響力を持っているか。

 

 油断ならない人物だろうとタツヤは頭の中のリストに加えた。

 

 


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