ドラゴンボール レッドリボン軍創設秘話   作:ヒアデス

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第二話 ヘッドハンティング

 ヴァーミリオンが大尉だったころから少し時は流れ……

 

「ブリーフ博士、『カプセルコーポレーション』の上場そしてCEO就任おめでとうございます! 博士が発明した『ホイポイカプセル』は世界、いや歴史的商品だと好評ですよ」

「ははは、褒めすぎですよ。楽に物を動かしたいと横着しようとした結果できた産物です」

 

 モニターにはカプセルコーポレーションを訪れてブリーフ博士に賛辞を贈るアナウンサーと、謙遜のようで本音を隠さず手を振るブリーフが映っていた。

 『ホイポイカプセル』。物体にある細工を施してカプセル状に変えることで持ち運びを容易にするという代物だった。タンスや本をぎゅうぎゅうに詰めた棚どころか家そのものまでカプセルに変えることで持ち歩くことができる。世界の産業そのものが大きく変わることは間違いない世紀の発明品だ。

 このホイポイカプセルは値段も安いこともあり発売後間を置かず世界中で爆売れした。ホイポイカプセルの性質上世界各地にすみやかに輸送され人里離れた秘境でない限りどこにでも売られている。

 

「物をカプセルにか……そういう解決法もあったか」

 

 メカトロニクス・コーポレーションの社長用開発室の壁面と一体化したモニターを見てゲロはうなった。

 ゲロが設立したメカトロニクス・コーポレーションも人間を重労働から解放するためのロボットを作り世に送り出すゲロなりの目的で作った企業だ。

 だが作るだけでも巨額の費用が掛かるロボットでは庶民の手が届く値段にできずたまに金持ちが何体か買っていくだけだ。中流くらいが無理をして購入してもロボットに作業を任せて無理な作業で体を壊すことなく、数年後には元が取れるというのがゲロの考えだったのだが。

 だがホイポイカプセルなら費用はたいして掛からず、それゆえに販売価格も安くできて城まで容易に移動が可能というロボットよりはるかに効率的な製品だ。

 

「…………」

 

 ゲロは今パソコンから打ち込んでいるAIのプログラム作成も忘れうなだれた。

 ホイポイカプセルの登場でロボットの需要はますます遠のくだろう。今の金持ちたちもゲロからロボットを買うのをやめる者が出てくるに違いない。

 

(これで客は軍やヴァーミリオンくらいになるな。しかも彼らが買っていくのは銃や弾丸をはじめとした兵器ばかり。軍需企業に転換せざるを得なくなるのも時間の問題か…)

 

 頼まれてもいない仕事の続きをする気も起きずしばらく呆けているとスピーカーから会社運営用のAIの声がした。

 

『ブリーフ様がお越しになられました。お通ししますか?』

「なに!? ブリーフが?」

 

 ゲロにとってついさっきテレビに映っていた時の人物の名前を告げられゲロは困惑する。

 しばらくたっても主からの返事が返ってこないのでAIはプログラム通り報告を繰り返した。

 

『ブリーフ様がお越しになられました。お通ししますか?』

「あ…ああ。マルテに案内させてくれ」

『かしこまりました。到着は20分後の予定です』

 

 ブリーフの歩幅、会社内の観察にかかりそうな時間を計測してAIはそう告げる。

 

(時代から取り残されたうちなんかにブリーフが一体何の用だ?)

 

 ゲロは戸惑いから復帰できずその間20分はあっという間に流れた。

 インターホンが来客を告げる。

 いつの間にか開発室の扉の手前にマルテとブリーフがたどり着いたらしい。ゲロは受話器を取る。

 

『ブリーフ様をお連れしました。お通ししてもよろしいでしょうか?』

「……あ、ああ待ってくれ」

 

 ゲロが端末のスイッチを入れるとロック解除の後扉は真横にスライドした。

 扉の向こうにはゲロと同年代の初老の男と案内用ロボットマルテが立っていた。

 マルテは先に開発室に入り来客を促す。

 

『ようこそ社長室へ、中へお入りください』

「どうも、案内ありがとう」

 

 マルテに促され男は社長用開発室に入ってくる。テレビに映っていた時同様白衣を着たままで富豪の仲間入りをしたというのに身なりを飾ったりはしない。

 

「はじめましてゲロです。ブリーフ博士のご活躍はテレビで拝見しております」

 

 ゲロは立ち上がりブリーフのもとへ歩み寄った。

 そんなゲロにブリーフは破顔した笑みを浮かべる。

 

「お恥ずかしい。テレビ慣れしてないものでみっともないところを世間様に見せてしまいました。ブリーフです。ゲロ博士のお噂は大学時代によく耳にしていましたよ。いままでお会いする機会がなかったのが残念でした。今日は忘れられない日になりそうですな」

「そんな…恐れ多い。世界的企業のCEOと潰れかけの事業主とでは釣り合いが取れませんよ」

 

 謙遜ではなく本心からゲロはそう言った。内心では負け組となった自分をあざ笑いに来たのかと憤慨してもいた。

 

「販売が伸び悩んでいるのは残念ですな。僕を案内してくれたロボットといい皆うちとは比べ物にならないくらい優秀なのに…」

 

 ブリーフは笑みを消し、心から残念そうに言った。

 

「優秀?……本当にそう思っていただけるのですか? お金に余裕のある方しか買ってもらえないのに」

 

 ブリーフからの思わぬ賛辞にゲロは戸惑う。

 

「ええ、あんなに人間と変わらない動きをするロボットは見たことがない。僕の家にいるメイド型ロボットなんて来客を告げてあとは棒立ちしたままですよ。骨組みがむき出しでメイド型というのも名ばかりです」

 

 ブリーフの言う通り彼が購入したロボットはゲロの作ったものではなく別のロボット販売会社から買ったものだ。動きもAIも姿もゲロが作ったものとは比べ物にならない。

 

「本当にそう思っていただけるなら嬉しいです。ブリーフ博士のような方にそう言われるだけで科学者冥利に尽きます。最後にいい思い出ができましたな」

 

 感慨のあまりついこぼしてしまったゲロの言葉にブリーフは眉をあげる。

 

「最後? まさかゲロさん、ロボット作りをやめてしまわれるのですか? そんなもったいない」

「ブリーフ博士に引き留めていただけるとは光栄です。しかし私には妻も子もいる。息子は軍学校に入ったばかり、逃げ出して軍人とは別の道に進もうとするかもしれません。私はまだ家族を養ってやらなくてはならない。そろそろ売れる商品づくりに精を出さなくてはならないと思い始めていたところです」

「売れる商品? もしやあそこの銃のような物のことですか? 軍人相手の商売もしているとは聞いていましたが…」

 

 ブリーフはロボットの隣に釣り下がっている銃を見て思い出す。ゲロが経営するメカトロニクス・コーポレーションは軍や一部の将兵にむけた兵器も販売しているのだ。

 

「ロボットに未練がないわけではない、いずれロボットが時代の主役になる。そんな思いはまだあります。ですが来るかわからない未来より私は家族のことを考えねば」

 

 ゲロの苦い吐露にブリーフはうつむき考え込み、そして言った。

 

「……ゲロ博士、うちに…カプセルコーポレーションに来ませんか?」

「…えっ!?」

 

 ブリーフの突然の招聘にゲロは目を見開いた。

 

「失礼ながら貴社の不景気の話はすでに耳にしておりました。ゲロさんが売りたかったロボットの注文は来ず銃ばかりが売れていると……」

「お恥ずかしながら……」

 

 ブリーフの指摘にゲロは恥じ入りうつむく。そんなゲロの肩に手を置きブリーフはゲロを促す。

 

「長くなります。お互い腰をかけて話せる場所に移しませんか。決して悪い話ではありません」

 

 

 

 それからゲロとブリーフは応接室に身を移した。常連となったヴァーミリオンが座れる場所が欲しいと言うので設けた部屋でヴァーミリオン以外の客を案内したのは初めてだ。ほこりが少し積もっていたので小型の掃除用ロボットが二人が到着してもまだほこりを吸い取っていた。

 この掃除用ロボットはマルテや開発中のロボットと違って人型ではなく小さい円の形をしてほこりを吸い取っていた。ほどなく掃除が終わりロボットは指定の場所に戻る。

 こんなロボットならゲロでなくても作れる。というより大昔から販売されていた。だが一つだけそれらのロボットとは違う機能があることにブリーフは気づいた。

 

「あのロボットが待機している場所は充電器ではありませんな。まさか今まで充電していないのに動いていたんですか?」

「ええ。エネルギー保存の法則は言うまでもありませんな。私は消費されるエネルギーをロボット内に閉じ込め元のエネルギーそのままに利用し続ける仕掛けを思いついたのです」

 

 ゲロの説明にブリーフは感心する。エネルギー変換を抑え利用し続けるなどカプセルコーポレーションでも実現できていないテクノロジーだった。

 

「……やはりゲロ博士がロボット作りをやめてしまうのは惜しい。いずれゲロ博士の考えた技術が必要になる時代が来るはずです」

「そうだとよいのですが……」

 

 ブリーフの賛辞をゲロは素直に喜べない。

 エネルギーが無限なのでロボットは壊れない限りは働き続け高値で買ってもいずれ元は取れる。しかしロボット自体に表面上できてしまう傷や破損はそうはいかない。何より客にはエネルギーの形は見えず補充なしで動くといわれても信じてもらえないのだ。

 これだけではロボットの売り上げを出すことができない。

 ゲロが生きている間はロボットの時代が来ることはないだろう。

 ブリーフはこのエネルギー反復の技術を自社の製品に応用させるためゲロを引き込もうとしているのだろうか?

 

「実は僕は最初からゲロ博士をカプセルコーポレーションにお招きするためにここを訪れました。我が社はカプセル変換の開発に力を注いでいたのでロボットの技術は他の会社より弱い。新たに作る部門の責任者としてゲロ博士に来ていただきたいと思っていたのです」

「私がカプセルコーポレーションに新設される部門の責任者にですか?」

 

 困惑するゲロに向かってブリーフはうなずく。

 

「あなた以上の適任者はいないでしょう。ゲロ博士のロボット技術とうちのカプセル技術を組み合わせれば世界はもっと大きく変わる。本当ならメカトロニクス・コーポレーションと合併して共同経営者として手を組みたいのですが、会社というものは僕一人のわがままが通らないこともありまして」

「いえわかります。私一人が好き勝手している個人事業と違って、数億人の社員が在籍していると社長一人で決められない事もあるのでしょう」

 

 ゲロをよくて一幹部という形でしか入れられないと頭を下げるブリーフをゲロがなだめる。

 

「ではゲロさん、うちに来ていただけるのですか?」

 

 目を輝かせてゲロの見上げるブリーフに今度はゲロが詫びる。

 

「いい話だと思います。……ただ考える時間をいただけませんか。私もプライドというものがありますし兵器関連なら顧客もいます。戦いを嫌う博士のお考えはわかりますが私の顧客も世界の治安を守っている自負を持って職務に励んでいるのです。私の息子も将来は軍人になりたいと訓練に精を出しています」

 

 ブリーフは表情を暗くして務めて笑顔を見せてみせた。

 

「そうですか。いえゲロさんのお話も分かるのです。……ですが私たちとあなたが手を取り合えば人間同士が戦わずにすむ世を築けると思うのです。例えばロボットが警官になって町の平和を守るとか……博士、なにとぞカプセルコーポレーション参与のお話、前向きにお考え下さい」

 

 そういって今までで一番深く頭を下げるブリーフをゲロはまぶしく見つめる。

 

(テレビで見たときは庶民派を装いながら世界有数の富豪に手が届いてさぞ傲慢な奴だと思っていたが、私はブリーフという男を見誤っていたようだ)

 

 ブリーフを見送りゲロは開発室に戻る。

 ああは言ったがゲロにとって過ぎた金より夢が大切だ。カプセルコーポレーションに入ればロボット開発をしながら家族を養う給料も入ってくるだろう。ヴァーミリオンともそろそろお別れだな。

 椅子に座ってPCを立ち上げ起動まで待っているとスマホに着信が入った。

 画面には息子の名が表示されている。

 ゲロはすぐ電話に出た。

「どうした? 今の時間だとまだ訓練は終わってない頃だが…」

『父さん、やっと繋がった。まだメールを見てないのか?』

「メール? ああ届いているな。来客が訪れていて見る暇がなかった」

『今すぐに見ろ! 俺は現地に向かうところだ!』

 

 ただならぬ息子の威勢に気圧されゲロはメールを立ち上げ数時間前に届いたメールを見てみる。

 そこには……

 

『ジンジャータウンでテロ発生! 被害者500人以上。遺族と思われる方々にメールを送付しますので至急確認をお願いします 王国政府民政局 ×××』

 

 ジンジャータウンで起こったテロと被害者の名前の一覧が乗ったメールだった。

 そして被害者一覧の一番上に表示されていた名前は、ゲロの妻の名だった。

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