【完結】シルヴァリオサーガRPG実況プレイ   作:ライアン

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出会いと青春、そしてこう生きてこう死ぬのだと定めた己が生き方を奪われるまでのお話


クロウ・ムラサメの絶望

「うむ、これから頼りにしているぞクロウ!」

 

 言葉の内に宿るはさながら焔のように熱い情熱。

 

「は、御身に絶対の忠誠を」

 

 故にそれに応じるが為に為されたそれは決してただの儀礼的なものだけではなかった。

 

 クロウ・ムラサメは欲の薄い男だ。主の剣たるムラサメの一族に於いても黙々と剣を磨くことに打ち込んだクロウは模範生として師や親族からも称賛を受けた。ならばこそ16という若さでムラサメを名乗る事を許された。しかしそんな男にもーーーいや、そんなムラサメの模範生とでもいうべき男だからこそ己が剣を捧げる主は相応の器を持つ人物であって欲しいという願望が存在した。

 自らの主君となる、最前線を志願した今のアドラーに於いてはなんとも奇特な奏の家の次期御当主殿ははてさて如何なる人物なのかーーーと内心でその器を見定めんとしようとしていながら訪れた最初の邂逅を経てのクロウ・ムラサメの印象、それは極めて好意的なものであった。

 なるほどなるほど、これは中々どうして大した人物と巡り会えたかもしれんーーー等と内心で仄かな喜びを滲ませながら気づけばクロウ・ムラサメは自然と臣下の礼を取っていた。それは自分よりもはるかに大きな器を持った高潔なる強者と巡り会った際に湧き上がる敬意が為さしめたものであった。

 

「ハッハッハ、差し出がましい等という事があるものか!彼らにも言ったが俺など所詮未だ実際に戦場に出たこともない未熟な若僧だ。短慮に駆られる事もあるだろう、視野が狭くもあるだろう。ならばこそ俺とは異なる視点からその短慮を諫めてくれる臣下こそ宝というもの。これからも遠慮などせずにどんどんと言ってくれ」

 

 クリストファー・ヴァルゼライド伍長とアルバート・ロデオン軍曹、スラム上がりの両名と交流を持つのは彰隊長の訓示に反し危険なのではないかという差し出口(・・・・)、それに対して嫌な顔一つせずにむしろそんな出しゃばりをも受け容れ喜ぶ器をクロウ・ムラサメの主君は持っていた。

 器だけではない、軍略、政略、交渉術ーーー敵を斬るだけしか能がない自分と違いタツヤ・奏・アマツはありとあらゆる分野に優れた才智を有する紛れもない傑物であった。時間が経てば経つほどクロウ・ムラサメの中に存在する己が主君への敬意と忠誠の念は大きくなっていった。

 

「タツヤ様……御身は必ずや私が命に代えてもお守り致します」

 

 ならばこそ主君が自らの意志で以て司令官を逃がすために自ら囮役と殿を買って出た時に口より自然と出たその言葉は断じてムラサメとしての使命感のみが為さしめたものではなかった。クロウ・ムラサメは紛れもない本心からタツヤ・奏・アマツを自らの主君と認めて、この命に代えてでも守らねばならないーーーいや守りたいと思ったのだ。

 

「命に代えてでは困るぞ、クロウ。こんなところで俺は死ぬつもりはないし君という剣を失うつもりもない。俺の剣ならば()()()()()()()しっかりと生きて乗り越えてくれねばな」

 

 普段とは異なるどこか不敵な笑みを浮かべながら告げたその言葉は聞く者によっては不遜にも聞こえたかもしれない。己の才に思い上がった若者の傲慢さが為したものだとそんな風に受け取る者もいるだろう。だがクロウ・ムラサメは違った。その言葉の中に自らに対する確かな信頼を感じ取り、誇らしさと共に自然と笑みが浮かぶ。

 

「……承知いたしました。生きて御身を守り抜いて見せましょう」

 

 ならばこそクロウ・ムラサメはいつにも増して奮起してその剣を振るう。そう自分はクロウ・ムラサメーーー偉大なる主君タツヤ・奏・アマツの剣である。欲に目が眩んだ傭兵如き一体何するものぞと洗練された剣技を振るい襲い掛かってきた傭兵共を次々に返り討ちにしていった。

 

「タツヤ様……私が足止め致します。どうかお逃げください」

 

 しかし、そんなクロウ・ムラサメをして侮る事が出来ぬ強敵を前にして当然のように自らを囮にして主君を逃がさんとする。何故ならばそれこそがムラサメの役目であるが故に。しかしてそんなクロウの思いとは裏腹に主君はどこまでも雄々しくーーー

 

「いいや、私だけ逃げるつもりはない!言ったはずだぞクロウ!こんなところで君という剣を失うつもりはないとな。君の実力は知ってはいるが、今目前に居る二人は先ほどまでの連中とは桁が違う。流石の君でも一対二では厳しいだろう」

 

「しかし……!」

 

 半ば予想通りの回答に誇らしさと同時に恐れを滲ませながらクロウ・ムラサメは言い募る。そうクロウ・ムラサメは恐れていた。この素晴らしき主君を失ってしまう事を。自分の命が失われるよりもはるかに。役立たずのナマクラへと自分が堕してしまう事を何よりも恐れるが故に。

 

「それにアンタルヤが送り込んだ異名持ち(ネームド)がこの二人だけという保証はない。あるいはこの二人は君という護衛を俺から引きはがすための囮で、此処を君に任せて一人逃げだしたらまんまと伏兵が待ち構えていたとなる可能性とてある。そうなったら流石にお手上げというものだ。何せ俺は君のように一人で数十人数百人もの兵士を斬り伏せる事など出来ないからな。故に此処は二対二で以て眼前の敵を討ち取るが最善。そう俺は判断したが、何か間違いはあるかな、クロウ?」

 

 理路整然と告げられた内容はクロウ・ムラサメの主君が決して一時の感情に流されたわけではなくどこまでも冷静な判断に基づいている事を示していた。ならばこそあらゆる説得を諦めて……

 

「……承知いたしました。すぐに目前の者を片付けて援護に向かいます。どうかそれまでその身を守る事だけをお考え下さい!」」

 

「ハッハッハ、身の程は弁えているとも。何、それでも君が目前の敵を倒すまでの時間を稼ぐ程度の事はして見せるさ!目前の相手は俺よりは格上だろうが、それでもクリストファー・ヴァルゼライドとクロウ・ムラサメ以上という事は無いだろうからな!」

 

 一刻も早く主君の援護に赴かんとクロウ・ムラサメはその剣を振るう。しかし、敵もさるもの。中々どうして決定打を与えることが出来ず

 

「!?タツヤ様ァ!!」

 

 視界の端に敵の刃にその身を引き裂かれた主君の姿を捉えたクロウ・ムラサメは恐怖と共に叫んでいた。

 

「心配不要!この程度はかすり傷!基より己が格上と相対して無傷で済む等とは思っていない!俺の身を案ずるというのなら眼前の敵をただちに討って見せよ!クロウ・ムラサメ!!!」

 

 決して浅くはない手傷。それを負わされながらも、自らの命の危機に瀕しながらもどこまでも威風堂々と告げられた叱咤。それはクロウ・ムラサメの精神をかつてない集中状態へと導きーーー

 

「ーーー御意」

 

 クロウ・ムラサメをしてかつてない高みにまで研ぎ澄まされた剣技ーーーそれが眼前の敵を圧倒していき、ついに致命打を与えるのであった。後の事は語るまでもない、戦友を失った動揺をタツヤ・奏・アマツは逃さなかった。撤退の機を逸したもう一名を瞬く間に討ち取る事に成功したのであった。

 

「タツヤ様、この度は御身にそのような手傷を負わせてしまった事申し開きの仕様もございません。生きて帰った暁には如何なる処罰も受け入れる所存でございます」

 

 撤退する道すがらそんな風にクロウ・ムラサメは沈痛な表情で主君へと詫びる。しかしそんな己が剣に対してタツヤ・奏・アマツは一瞬怪訝な表情を浮かべた後すぐに常のように快活な笑みを浮かべて

 

「ハッハッハ、何を言っているクロウ。君がいたからこそ俺はこの程度の怪我で済んだんだ。君が居なければ俺は今頃アンタルヤの捕虜になっていたか、もしくは土に還る事になっていただろうさ。罰する等とんでもない、むしろその功には然るべき報奨が無ければならんだろうさ」

 

「そう言って頂けるのは有難く思いますが……御当主様と奥方様がなんと仰られるか……」

 

「良いかクロウ、俺は軍人だ。そして俺が配属されたバルゴは最前線であり激戦区だ。ならば傷を負う事などいわば日常茶飯事というもの。そのような()()、いちいち父上と母上に報告するようなことでもなかろう」

 

 つまりは今回の事でクロウ・ムラサメが罰されるような事は一切ないと告げたその意図を理解したが為に自然と首は垂れて

 

「タツヤ様のご厚意には感謝の念も御座いません。ご恩に報いるためにもこのクロウ・ムラサメ、これからも全霊を以てお仕え致します」

 

「ハッハッハ、礼を言うのはこちらの方だとも。先ほども言ったが今こうして俺が生きているのは全て君のおかげなのだからな。これからも至らぬこの身をどうか支えて欲しい」

 

「---この命尽き果てるまで」

 

 クロウ・ムラサメは断言する。自分は素晴らしく幸運な男だと。傑物と称するに足る偉大な主君からの信認の下身に着けた剣技を振るう、武人にとってこれ以上の幸福があるだろうか?永きにわたるムラサメの歴史に於いても自分ほどに幸福なものはそうそういまい。そんな確信と喜びと共にクロウ・ムラサメはその刃を主君の為に振るい続ける。

 クリストファー・ヴァルゼライドにギルベルト・ハーヴェスにアルバート・ロデオン、主君の友たる三人のように主君と肩を並べて遠い先の未来を見据えるような事はクロウ・ムラサメには出来ない。何故ならば紛れもない()()たるこの三人と違ってクロウ・ムラサメは真実敵を斬る事しか能がない男だったが故に*1。しかしクロウ・ムラサメの中にその事を恨めしく思う気持ちなどは微塵たりとて存在しなかった。

 なるほど、確かにその三人のように自分は真の意味でタツヤ・奏・アマツと対等の友となる事は出来ないのだろう。しかし、友となる事は出来なくても自分こそがタツヤ・奏・アマツの最強の剣だという自負がクロウ・ムラサメには存在した。君臣の間に存在する信頼関係と友人同士の間に存在する友情との間に優劣や貴賤などない。ならばこそクロウ・ムラサメは己を卑下する事無く、誇らしさと共にその刃を振るい続けるーーーそんな日々がその命が尽きるその時まで続くのだとクロウ・ムラサメは信じて疑っていなかった。

 

「なんだと……俺にはエスペラントになれる素質がないだと……!?」

 

 ならばこそクロウ・ムラサメはその事実を前にかつてなく動揺する。

 エスペラントという新時代の超人兵士となる資格ーーーそれはクロウ・ムラサメがこれからもタツヤ・奏・アマツの誇る最強の剣で在り続けるためには絶対に有していなければならないものであった。だというのに目前の技術者が語るのはどこまでも無慈悲かつ残酷な事実。曰くエスペラントとなる為に必要な星辰体と感応するための資質、それがクロウ・ムラサメには決定的に足りていないのだとーーー告げられた事実を前にクロウ・ムラサメは急に足元を喪失したような気分へと陥る。

 

 ---いや待て待ってくれ。何なのだそれは。

 

 確かに現実というのはそういうものなのだろう。今ある幸福が永遠に続く保証などはなく、ある日唐突かつ無慈悲で残酷になるものーーーそれが現実なのだという事位クロウ・ムラサメとて理解していた。だがそれにしても、それにしてもこれはあんまりだろう!大和(カミ)に誓ってもいい。自分は決して怠けてなどいなかった。誇らしき主君に巡り合う前からムラサメ足り得る為に友人と遊戯に興じるのが当然の年齢の頃から剣を磨き続けたし、偉大なる主君と巡り会えてからはそんな主に見合う剣で在るべく己を磨き続けた。主の友人でもある才を持ちえない身でありながらも意志の力によって多くの不可能を可能にする出鱈目な存在(クリストファー・ヴァルゼライド)をその目で見ればなおのこと、現状に甘んじることなど出来ようはずもない。クロウ・ムラサメは己を磨き続けた。そしてその甲斐あって歴代に於いても最強のムラサメとさえ称され始めていた。だというのに、そんな努力を嘲笑うかのようにただ資格を有していなかったというだけで自らは時代遅れの徒花と化すのかーーーと気が付けば怒りさえ込めながらクロウ・ムラサメは己が主君に必死の形相で懇願していた。

 

「タツヤ様……私とお手合わせを頂けないでしょうか。どうかこの私がーーームラサメの刃が時代遅れの徒花などではないことを証明する機会をお与え頂きたく!」

 

「それが君の望みと言うのであれば俺はそれに応じようーーークロウ」

 

 不躾かつ無礼にもほどがある己が剣からの嘆願、それに対してどこまでも静謐かつ真摯な表情でタツヤ・奏・アマツは答えた。

 そうして修練場にて両者は向かい合う。二人が剣を交わすのは珍しい事ではない。タツヤの望みによってクロウ・ムラサメはしばしば己が主君の剣の稽古相手を務めていた。だが当然ながらこれまでの戦いに於いて格上なのはクロウ・ムラサメの方であった。だが今は違う、ほんの数日の間にクロウ・ムラサメはタツヤ・奏・アマツの格下となったのだーーーただエスペラントの資質を有していたかどうかというただそれだけの差によって。

 

(捌いて見せる!たとえどれほどの速度を以て撃ち込まれた一撃で在ろうとこの磨きぬいたムラサメの秘奥を以て!)

 

 クロウ・ムラサメの脳裏に浮かぶのはエスペラントという新技術のデモンストレーションでクリストファー・ヴァルゼライドが見せたいとも容易く最新鋭の戦車と兵士を蹴散らしていく姿。なるほどアレは確かにすさまじい脅威だ、だがしかしそれでも自分よりも強くて、早くて、頑丈なだけならば十分に対処の仕様はある。人間以上のスペックを持つ存在など自然界には熊を筆頭に溢れているのだから。無論眼前に居る主君は技を知らぬ獣ではない、生まれ持った才に驕ることなくそれを磨き続けた一流の戦士だ。しかし、それでも勝つ。勝ってみせるとクロウ・ムラサメは裂帛の剣気を放つ。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星」

 

 放たれた詠唱。それはエスペラントが己が兵器としての本領を発揮するための起動式。クロウ・ムラサメの脳裏に自然と浮かび上がるはデモンストレーションでその目に焼き付けた御伽噺の勇者の如く光る剣を携えた英雄の姿

 

(問題はない、当たれば終わりな攻撃で在ろうと当たらなければいいのだから)

 

 故にさあどれほどの速度で斬りこんでこようと迎撃してみせようぞと意気込むクロウ・ムラサメの周辺でーーー突如として巨大な業火が発生した。

 

「その身を傷つけるのは忍びない。故に外した。だがその気になれば俺はこの修練場そのものを焼き払うだけの火炎を発生させることが出来る。加えてそれをこの身に纏う事も出来るーーークロウ、続けるか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 自然とその手から刀が滑り落ちる。衝撃の余り足腰に力が入らず膝から崩れ落ちる。

 なんだ、なんだそれは。突如として鋼鉄さえも溶かす熱量の火炎をこの修練場を覆うほどの規模で発生させることが出来るだと?しかもそんな真似をしながらも自分は火傷一つさえ負う事がないとーーーそんな理不尽に生身でどうやって立ち向かえば良いのというのか。技でどうにかなるような次元ではない。示された格の違いを前にもはや虚勢を張る事など出来ようはずもない。

 

 ーーーああ、俺はもうこの御方にその背を預けて頂けないのだな

 

「クロウ、例えエスペラントになれずとも君に対する俺の信頼は変わらない。クロウ・ムラサメは俺が最も信を置く剣だ」

 

 告げられる言葉、そこにこれまであった信頼ではなく消沈する自分への気遣いが込められている事を感じ取り、それがまたクロウ・ムラサメを追い詰める。気など使われたくなかったのだ。一体持ち主に気を遣わせる剣がどこに存在するというのかーーーと不甲斐なさからクロウ・ムラサメの中に己への怒りが湧き上がる。

 

「ならばこそ君にはその力を以て俺の掛け替えのない宝を守って欲しい。我が愛する妹をーーーナギサを守って欲しい、頼めるな?」

 

 わかっている、それが閑職などではないという事位。目前の主君の妹御への溺愛ぶりを知っていれば。それが最上級の信認の証だという事位。

 

「……それが……タツヤ様のご意志というのであれば……私は……それに従うのみです」

 

 それでもクロウ・ムラサメはタツヤ・奏・アマツの剣として生きてタツヤ・奏・アマツの為に死にたかったのだ。それこそがクロウ・ムラサメの真実たった一つの願いであったのだ……

 

 

*1
当然クリストファー・ヴァルゼライドという規格外の男が自らを「敵を斬ることしか能がない男」なのだと卑下する度にクロウ・ムラサメは「お前は何を言っているのだ」と指摘したい衝動に駆られた




せめてお兄様がアオイちゃんのようなタイプのエスペラントであればムラサメ師匠にも十分チャンスはあったし、ブラザーや姐さんのような単純なバフタイプの星辰光でもワンチャン以上はあったんですが……あいにくお兄様はチトセネキやギルベルトとも普通にやり合える級のエスペラントなので……
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