エスペラント―――それは軍事帝国アドラーが誇る最強にして最新の人間兵器。単純な膂力や速度、頑強さだけでも超人的な、否、超人そのものと言える性能となるが、何よりもその本領は
そして今、タツヤ・奏・アマツとギルベルト・ハーヴェス、軍事帝国アドラーに於いても最高峰の完成度を誇る両名はその本領を発揮しようとしていた。
「いざ並べ、死後裁判は開かれた。眠りにまどろむ魂魄ならば我が法廷に凜と立て。
公正無私の判決に、賄賂も媚態も通じはしない。 宿業見通す炯眼は、清白たる裁きのために重ねた功徳を抉り出す」
「偉大なるかな天頂神。天に轟く雷霆が、遍く闇を打ち砕く。
刮目せよ、訪れたるは希望に満ちた新世界。”勝利”の光は輝く明日を約束した」
両名の口より紡がれるのはその身を只の超人から最小単位の星へと変える
「汝、穢れた罪人ならば禊の罰を受けるべし。地獄の責苦にのたうちながら、苦悶の淵へと沈むのだ。汝、貴き善人ならば恐れることなど何も無し。敬虔な光の使徒に、万代不易の祝福を」
光は光で、闇は闇。勝者は勝者で、敗者は敗者。信賞必罰。因果応報。自分はただ、世に於いて
「ああされど、我が目に映るは迷える子羊。聞こえてくるは惑いの声。冥府に満ちた怨嗟はなべて、
ならばこそ天頂神より跡を託された
だが
努力と意志ではどうにもならない壁を前に絶望した者―――クロウ・ムラサメの姿が今もその心に残っているが故に。
「これぞ白夜の審判である。さあ正しき者よ、この聖印を受けるがよい。 約束された繁栄を極楽浄土で齎そう」
「ならばこそ、この身が照らし慈しもう。優しき焔の
だから自分はそれを胸に刻み、
「
「
告げて、両雄の死闘が本格的に開幕した。
「殺す気で往かせてもらうぞギル、
タツヤの持つ異能それは火炎発生能力という至って
鉄をも溶断する業火、それは直撃を喰らえばエスペラントと言えど一たまりもなく絶命するであろう威力が込められている必殺の一撃だ。
「ああ、無論だとも。故にどうか君も私に見せてくれ。閣下より跡を託されし
無論ギルベルト・ハーヴェスという男はそんな程度で終わる容易い男ではない。
自身の星辰光を活かした加速により、回避する。放っているのが人で在る以上、それは未来予知染みた先読み能力を持つギルベルトにとって躱す事は造作もないのだ。
―――相対している使い手が生まれ持った素質に胡坐をかいた愚者ならば。
「―――ああ、当然だな。お前がこの程度で終わるはずがない」
そしてこれまた当然の事だが、ギルベルトが心から尊敬する友人はそんな愚者ではない。
広範囲を焼き払う業火が放たれる。集束された火炎が熱線となってギルベルトの身を貫かんと襲う。発生した火炎が起点となり連鎖的に炎が燃え広がり、さらにはそれら総てが生き物の如く方向を変えてくる。当然ギルベルトも反撃を試みる為自身の攻撃が届く近距離へと肉薄せんと試みる。
「ああ、そうだ。まだだ、まだだ、まだだ。こんな程度でお前が終わるはずがないのだから!俺は決して手を緩めんぞギル!」
しかし、反撃の基点を潰すが如く襲い続ける業火。それを前にさしもののギルベルトも回避に専念をせざるを得ない。
ギルベルトが劣勢に陥った理由、それは簡単に言えばエスペラントとしてのステータス差と能力の相性差、そして
だがタツヤ・奏・アマツは軍事帝国アドラーに於いて副総統というギルベルトの上位となる地位を得ていた男だ。当然、ギルベルトの星辰光の詳細を知る事など容易い。さらには亡きヴァルゼライドよりギルベルトとの激突を視野に入れておくよう忠告を受けていた為にいずれ来る戦いに備えたシミュレートもまた万全。ギルベルトに引けを取らない未来予知染みた先読みの力をも駆使して、
そしてギルベルトはそれら総ての攻撃を
「素晴らしいな我が友よ。君は出会った頃から変わらない。常に私の予測した最高を往き続ける」
そんな状況下に於いてギルベルトの表情に浮かぶのは微かな笑みだった。
目前の親友が自らの期待と予測を裏切る事無く、最善手を打ち続けて来ている事それがギルベルトには嬉しかった。そう何故ならば彼我の相性とステータスを比較すれば今の状況になるのはある種の必然なのだから。ギルベルト・ハーヴェスはエスペラントとして高い素養を有している。だが目前の親友のステータスはそんなギルベルトをも上回っているのだ。そして異能の相性差も鑑みれば、ギルベルト・ハーヴェスがタツヤ・奏・アマツを相手に劣勢となるのは順当というべきですらある。そうならないのであればそれはギルベルトにとっては甚だ不本意な事にタツヤ・奏・アマツがギルベルトの予測を下回ったという事なのだから。
ならばギルベルトは最初からタツヤ・奏・アマツが自らよりも上だと認め、己が敗北を予見していたという事だろうか?
「故に私とてこんな程度では終わらんとも」
否、諦めるという文字などギルベルト・ハーヴェスの辞書からはクリストファー・ヴァルゼライドと出会った日に吹き飛んでいる。まして現状は未だに
「さて、それでは今度は私が攻める番だ」
瞬間、ギルベルトは回避しながらその震脚で砕き続けていた足場、そして自身の身体へと仕込み続けていた衝撃を一斉に解き放つ。
―――足場が砕けた事でタツヤの行動がわずかに遅れる。
―――さらに自身へと飛来してきた大量の瓦礫の破片、その迎撃に手を割かれる。
そうして半手分の遅れを無くしたギルベルトが最大の加速を以て一挙に肉薄。
「
距離を詰められた事でタツヤもまた自身の炎をその身に纏う事により近接戦へと対応する事を選択。
炎の装甲を纏った太陽神に切っ先が届く距離まで近づいたことで必然、その焔がギルベルトの身を炙るが当然ギルベルトの振るう剣技にほんのわずかな乱れもない。
光を名乗るに相応しいその太陽の輝きに敬意を払いながらも、かつてその身を焼いた
繰り出された審判者の一刀、回避は不可能と判断した太陽神も臆する事無く自らの剣を以て迎撃。火花を散らしながら二刀が交錯。両者はすかさず刃を返して二刀目を放つ。
「さあ、どうするタツヤ」
そしてそれは即ち太陽神が審判者の統べる極楽浄土へと踏み込んだという事。審判者は間髪入れずに一刀目にて太陽神の剣へと付着させた衝撃を解放。軌道を外れていくタツヤの一閃。必然生じた致命的な隙をギルベルトが見逃すはずもなく、振り下ろされる剛剣。音速を超えたその一撃はタツヤの肉体を両断して余りあるほどの威力が込められていて―――
「こうするまでの事!」
ギルベルトの剛剣がめり込んだその一瞬、タツヤは被弾した個所を一挙に爆破。切っ先が骨を断つよりも速く、生じた反動を以て強引な回避を実行。代償として傷口が炭化して当然のようにその脳へと
己が付属性の許容を超えた星辰光の行使、そして無茶苦茶な加速と機動によって肉体が悲鳴を挙げ続けるも、無理の一つや二つをしなければ勝機などあり得ない相手だと爆炎を利用した強引な加速を以て審判者の牙城を突き崩さんとする。
「―――素晴らしい。それでこそタツヤ・奏・アマツだとも!」
そしてそんな無茶苦茶な友の暴挙を見てギルベルトは破顔。歓喜と共に負けてはならないとばかりに迎撃。両者の間にいくつもの火花が散り、轟音が響き、ギルベルトの身をタツヤの焔が焼き、タツヤの
彼の愛する妻や妹が見たら卒倒するであろう狂気の所業というべき行いだ―――しかし、その無茶の甲斐はあったというべきだろう。
「ぬゥゥッ」
これまで劣勢にあってもどこか余裕が存在した審判者の表情に初めて苦悶が浮かぶ。
審判者の最高速度で選択される最適解を、タツヤ・奏・アマツの狂気的な選択が上を行き始めたのだ。
このままいけば遠からず太陽神の振るう刃が審判者の牙城を突き崩すだろう。
そう、このまま行けば。
「流石だよ我が友。そんな君だからこそ私は共に光を目指したいと願った。ならばこそ―――この程度の劣勢を跳ね除けられぬ男に君の友足る資格はあるまい!
―――そう、まだだッ!」
叫び上げた裂帛の気合、それは単なる決意の表明。
本来であればそんなもので奇跡等起きはしない―――常識的に考えれば。
大気に満ちる星辰体、それがギルベルトの放った裂帛の叫びと共にその精神に呼応するが如く、否、真実呼応してギルベルトの肉体と本来の限界を越えて感応する。
跳ね上がった出力により無数の瓦礫が大瀑布となって舞い上がる。広範囲で炸裂した衝撃が未曽有の量に達する破片を散らす。
「わかっていたとも。お前がこの程度で終わるわけがないと!拡散性、最大!」
本来であれば困惑を隠せないであろう慮外の事態を前にしてもタツヤ・奏・アマツに動揺はない。
目前の親友ならまあ
そして両雄はその才智を尽くして力を、知恵を、読みを、意志を、矜持を―――自身の持つ総てをぶつけ合う。彼我の姿を閃光に、鳴り響く剣戟の音は雷鳴と化して、悲鳴を挙げる肉体を意志の力でねじ伏せながら。
「なぁギル、お前はそんなにも弱者が憎いのか?」
頑張っている者が報われる社会であって欲しいという想い、それはタツヤにも痛いほどにわかるし自分も同じだと信じている。にも拘わらず今こうして譲るわけにはいかないと心を叱咤して死闘を繰り広げているのは偏にギルベルトが作ろうとしている極楽浄土、それが極一部の強者だけしか住めない場所だからに他ならない。そこにタツヤは目前の友人の中にあるついぞ自分には向けられたことがない感情があると思わずにはいられなかった。
「質問に質問で返して悪いが、私の方こそ聞きたいよタツヤ。何故君はそうまでして弱者を甘やかそうとするのだね?」
そこが自分にはどうしても理解できないのだとギルベルトの口より再び堰を切ったようにその想いが語られていく。
「確かにのっぴきならない理由によって苦渋を舐める者が居る事は認めよう」
目前の親友の護衛にして自らも剣の手ほどきを受けた当代最高峰の剣士にして、不幸にも星に選ばれなかったと聞く男の姿をギルベルトを思い浮かべる。
「しかしそういう
「だから、そんな連中への助けは不要だって?逆だろう、そういう者達にも這い上がるチャンスを与えてこその社会だろう。お前は出来ない奴だから罰を受けろ、それが嫌なら出来るようになれ。お前が罵倒されるのはお前が出来ない塵だから―――なんて言われて奮い立てるような奴はそれこそ自力で這い上がって見せるだろうさ」
叩きつけられたギルベルト・ハーヴェスという男の中に存在する怒りの感情、それを前にしてもタツヤ・奏・アマツはそんな指導者としての原則論を尚口にする。
「友よ、いい加減お為ごかしは止めないか?知らないわけではあるまい、自らを甘やかし、輝ける勝者を羨み、不平不満を吐くばかりの豚共の醜さを。どうしようもない落伍者達が放つ悪臭を。奴らは甘やかされれば際限なく付け上がる、それは歴史が証明している通りではないか」
「そうして人の上に立つものが自制する事無く他者を不要だと断じた結果、誕生するのが己が意に沿わぬものを切り捨てる暴君だ。それこそ歴史が証明している通りだろう」
譲れない、決して譲るわけにはいかないと己が心を燃やしながら太陽神は審判者と剣と言葉の双方で切り結び続ける。
「お前が御為ごかしと言った弱者を慈しむ心、それこそ権力者が―――いいや、人が人であるために失ってはならないものだろうギル。……どの口でそんな事を言っているんだって自分でも思うけどな」
タツヤ・奏・アマツは直接、間接問わずに多くの者達を轢殺してきた。その想いを砕いてきた。それが自分の望む未来の為の必要な犠牲だと嘯いて。そんな自分が弱者を守る事を説くなど確かにお為ごかしでであり綺麗事だろう。
「だけど!だからこそそれを無くしてはいけないだろう!お前が語った通り導となる光が無ければ人は容易く堕落してしまうんだからな!
なぁギル、もう一度考えてみてくれ。迷う事とはそんなに悪い事か?俺を高く評価してくれているのは嬉しい。だが、俺だって人間だ。迷いも葛藤も当然抱えている。この身に背負う責任を投げ出したいと思う時だってある。だからこそ、堕落を防ぐ為に導となる光が必要だという事も、善行を為した者には祝福が、悪行を為した者には相応の罰が下る世界であって欲しいという事もわかるさ。
だけどそれをお前が語るように
告げられた言葉に宿る感情、それは糾弾よりも懇願の色こそが強く出ていた。何故ならばギルベルト・ハーヴェスはタツヤ・奏・アマツにとって共に理想を語り合った親友だから。彼の考えの根底にある祈りが理解出来るからこそタツヤ・奏・アマツにギルベルト・ハーヴェスを全否定する事は出来なかった。
「……本当に変わらんな、君は」
零れた笑い、それは常のギルベルトが浮かべるものとは異なっていた。それは自らの愚かさを笑う自嘲の笑みだった。
「どこまでも清廉で、真っ直ぐで、前へと進みながらも自己を律する高潔さがある。ああ、閣下が君をこそ自らの後継としたのも納得する他ない。指摘の数々にも確かな理があるとも。正しきもの
かつて自分が作ろうとしているのは恒星だけの世界だと敬愛する英雄へと言われた事をギルベルトは思い出す。目前の親友が語る内容、それはかつて英雄から言われた事とほとんど同じであった。
自分の作る世界、それは過半の者を振るい落とす。自分が作ろうとしている楽園に民の居場所はない、故に民に光を齎そうとする者としてそれを認める事が出来ない―――と。
そしてギルベルト・ハーヴェスは
天頂神より神託を下される前ならばいざ知らず、敬愛する英雄より告げられた言葉を信奉者足る審判者が無視するなどあり得ないのだから。
「ああ、そうだとも―――私は
それまで散々に恩恵を享受し、痛みを伴う決断からは逃れ、乗り越えようともしなかった者が自己にとっての不利益になるとなるや否や、その痛みを背負い進み続けてきた者を批判する等どう考えたとて道理に合わぬだろう。不正義だと糾弾するのならば、糾弾した者は正義を示すべきだ。なのに自分達は弱いから、出来ないのだから仕方がないと言い訳をして自分達は出来ないままに出来る者達にのみ正しく在ろうとする事を求める?ああ、なんだそれは?道理に合わぬだろう。間違いなのだと断じたのだろう?ならば示さねばならぬだろう、自己の正しさを。
迷い、揺れた葛藤の末の決断にこそ価値は宿る?時間が無限に存在するというのならばそれも良かろう。だが、迷い揺れている間にも時は待ってはくれなどしない。そしてその間にも、
ギルベルト・ハーヴェスの中にある感情、それは怒りだ。正しいものをこそ愛するが故に彼は正しく在ろうとしないもの達を許す事が出来ない。
「世界の為に、誰かの為に、身を削りながら戦っているのは常に君のような強者ばかり。
そんな強者と弱者の価値が同じだと?否、断じて否!同じで良いはずがない!」
「……ギル、お前のそれは」
「指導者の論理ではない、だろう?
だがその上で、止まれんのだよ私という塵屑は。あの輝かしい背中に続くのだと。挑み続けるのだとこの魂が吠えているのだ。
挑み続ける為ならば何を犠牲にしても惜しくないと思えてしまうのだ。全く以て破綻しているとも」
そして
齎される側の意志などお構いなしに、自らが定めた光を齎さんとするのだ。
「だがそれでも、私は
故に太陽神よ、どうか私のこの聖印を受け取ってくれと審判者が―――
「―――報われるさ。大切な家族と
故に審判者よ、今一度天頂神の教えを思い出せと太陽神が―――譲れぬ想いを叩きつけ合う。
演じられる戦いは完全に拮抗し、泥仕合となりつつあった。
爆炎加速によってタツヤの肉体が悲鳴を挙げて、その肉片が飛び散っていく。
上昇した出力によってギルベルトの肉体が悲鳴を挙げて、血管が破れ血が飛び散っていく。
相手とどちらが上かを競い合うはずの戦いは、両者共に自壊していく
両者は
そしてならばこそ、不利なのはタツヤの側であった。何故ならばタツヤ・奏・アマツは光に焦がれた
精神力で以て森羅を砕き、己が限界を突破する―――そんな事を呼吸するも同然のように出来はしないのだ。彼に出来るのはあくまで限界寸前の肉体を叱咤して突き動かす、そこまでなのだから。
ヴァルゼライドという
故にタツヤが勝つにはそうなる前にもう後一押しが必要なのだが……
「さあ、どうするタツヤ。どうする太陽神よ。生憎だが私は君という賢者の言葉で止まれる程に賢明な男ではない。ならばこそこの愚者を止めるというのならば、どうか君の持つ光を私に見せて欲しい。そして深く魅了して欲しい―――あの素晴らしき英雄のように!」
当然のことながらタツヤ・奏・アマツはクリストファー・ヴァルゼライドではない以上、英雄の信奉者が望むような事は出来はしない。
「―――悪いなギル、生憎だがお前の望むようなやり方は出来ない。俺としても出来る事ならば俺一人の力でお前に勝ちたかったが、いやはや流石はギルベルト・ハーヴェスだよ。
だがその上で俺は軍事帝国アドラー第38代総統としてこの国の命運を委ねる事は出来ない。ならばこそ、
故にタツヤ・奏・アマツの活路は雄々しき英雄ならば用いない手段に他ならなかった。
「すまない、
「
瞬間、審判者のみを狙い炸裂したのは雷鳴と閃光。
さらに回避した審判者を逃すまいと続けざまに鎌鼬と化した乱気流が荒れ狂う。
そうして現在アドラーに於いて最高戦力と謳われる女傑がその場に姿を現す。
「なるほど、そう来たか」
乱入者の存在にも動揺は欠片たりとも見せず審判者はしてやられたなと苦笑を浮かべる。
「済まないなギル、お前には友人としての腹を割った二人きりの話し合いだと告げたが、実はお前との会話は総て我が副官の星辰光によって朧大将とも共有させて貰っていた」
当然だがギルベルト・ハーヴェスという男がこの程度の策を想定できなかったはずがない。
何せここは彼が統べる東部戦線ではなくタツヤ・奏・アマツの本拠地足るセントラルなのだから。
タツヤへと助力する援軍の可能性は当然のようにギルベルトは考慮に入れていた。
にも拘わらず何故ギルベルト程の男がそうした不利を承知の上でこの場で己が理想を吐露したかと言えばそれは―――
「悪いな、友情へと付け込ませて貰った。恨んでくれても良いし、絶縁を突きつけられても文句は言えん」
ギルベルト・ハーヴェスがタツヤ・奏・アマツの事を親友だと思っていたからに他ならない。
そんな
故にこれは王としての器で以てタツヤがギルベルトの上を行っただとか、紡いだ絆の力、雄々しき英雄には出来なかった他者と手を取り合う道を選んだ者が持てる強さ等と言った
単にタツヤ・奏・アマツが無情かつ恥知らずにも親友との友誼を利用し付け込んだという到底表沙汰には出来ないような話なのだ。
当然のようにギルベルトには親友としてそれを糾弾する権利が存在したのだがーーー
「恨む?一体どこに恨む理由が存在するというのだね?君は私に勝つ為にあらゆる努力を払ったという事だろう?
むしろこれは我が身の不徳という他ないだろう。私の語った理想と君の理想、裁きの女神の天秤は君をこそ正義と判断したという事なのだから」
怒りの素振りなど欠片も見せず、むしろ賞賛さえしてのけるその様はどこまでも堂々とした物であった。
そこらの雑兵ならばいざ知らずチトセ・朧・アマツもまた彼が敬意を払い、報われるべきと信ずる輝ける勝者だ。
そんな彼女が自分ではなく太陽神に助力する事を選んだというその
「だがその上で言わせてもらおう。“勝つ”のは私だ」
宣した言葉はどこまでも熱く雄々しく。尊敬する英雄のように自分はこの試練を乗り越えようと審判者は不屈の意志を見せつける。
だが、その雄々しき決意が報われる事は無く。想い一つで総てがまかり通る程にこの世は甘くはないのだと突きつけられるかのようにやがて沈むのであった。
ギルベルトの敗因:セントラルというお兄様のホームグラウンドで自分の理想を打ち明けちゃった事
協力を依頼されたアオイちゃんとチトセネキは「いやそりゃ指導者としては正しいんだろうけど……」みたいな感じのなんとも言えない表情を浮かべた模様。