【完結】シルヴァリオサーガRPG実況プレイ   作:ライアン

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皆様いつも評価と感想をありがとうございます。
貰うたびに作者は伊三郎元帥が駆けつけてくれた時のグレンファルトのような心境になりますので今後ともよろしくお願いいたします。


クロウ・ムラサメの希望

 

 もはや自分では忠誠を誓った主君と並び立つ事は出来ない絶望を突きつけられた後もクロウ・ムラサメは自暴自棄になる事無く任務へと取り組みだした。

 何せクロウが敬愛する主君より授かった役目、それは主君が心より愛する愛妹足るナギサ・奏・アマツの守護である。主君の剣という理想の在り方をエスペラントという新兵種の誕生によって()()()()クロウにしてみればそれは決して違えるわけにはいかぬ使命である。もしもそれを違えてしまえばその時こそクロウ・ムラサメという男はムラサメを名乗る資格のない、真実何の価値もないナマクラへと成り下がってしまう。命よりも誇りをこそ重んじる人種であるクロウにとって、それは到底堪えられる事ではなかった。

 

「はい、クロウ。いつも守ってくれてありがとね!」

 

 まして護衛対象が高慢さとは程遠いなんとも護り甲斐のある優しさと愛らしさを持つ少女であれば尚の事。

 満面の笑みを浮かべながら差し出された花冠、それを受け取った時に浮かべた不器用な笑みは無論主君の愛妹に礼を失してはならぬという想いが為さしめたものだったが、決して()()()()ではなかった。

 

 ---ああ、そうだな。もはやどれほど望もうが俺のような旧型ではタツヤ様と並び立つ事は不可能なのだ。ならば、いつまでも叶わぬ理想に拘泥せずにナギサ様をお守りせねば。

 

 前向きには未だ大分遠いものの兎にも角にもクロウ・ムラサメは()()()()自らの現状に対する()()()()をつけて新たな主命へと励むようになった。

 もっとも当然ながら建国以来の名門にして次期当主がアリエスの隊長を務めるようになった奏家を襲撃するような命知らずなどそうそう現れようはずもない。クロウがその鍛え上げたムラサメの刃を振るう時など敬愛する主君と稽古で剣を交える時程度に限られた。

 天賦の才があった、その才を臣下であるクロウにすら教えを乞うて磨く向上心があった、そして何よりもクロウが焦がれながらもついに得られなかったエスペラントとしての最高峰と言って良い素質があったーーー故にタツヤ・奏・アマツの剣技は順当に磨かれてゆきクロウが授けた断刃(ムラサメ)の技はエスペラントという新時代の兵種が振るう最新式へと進化させられていく。そんな様を間近で見る事でクロウの胸を満たしていくのは誇らしさと同時にある種の()()()()だった。

 

「御見事ですタツヤ様。もはや私如きがタツヤ様にお教え出来る事は何も御座いません」

 

 数年をかけて断刃(ムラサメ)の技を体得してのけた主君へとクロウは脱帽の意を示した。

 

「タツヤ様は見事ムラサメの刃を体得して己が剣技として完全に昇華して見せました。私如き旧型ではもはやタツヤ様のお相手は務まらないでしょう」

 

 無論その生涯を剣へと捧げてきたクロウの刃は単純な技量で競えば未だタツヤのそれを上回っている。だが、それでももはやクロウ・ムラサメにはタツヤ・奏・アマツの相手は務まらないのだ。何故ならばクロウ・ムラサメはエスペラントではないのだから。星辰光という異能を抜きにしてもその身体能力は新時代の超人兵士であるエスペラントには当然及ぶべくもない。どうにかやり合えていた所以である技量差が大きく埋まった今となってはタツヤが()()()()()()()()()()()()()クロウは稽古中の事故によってあっさりと死んでしまいかねないのだから。クロウとの稽古の時間を実力が伯仲している他の人間との稽古に宛てる方がはるかに有意義である事は疑いようがなかった。

 

「ありがとう、クロウ。お前が授けてくれた技の数々決して無駄にはしないと今一度此処に誓おう。お前の剣は俺の中で生き続けるのだ」

 

 告げられる言葉はどこまでも雄々しく初めて出会った時から何も変わらぬ熱き信念と剣に過ぎない自分をも慮る誠実さが込められていた。

 

 ---こうしてこの方はどこまでも天に向かって飛び続けるのだろう。自分という旧型の持つ総てを己が糧として。あの規格外の英雄とさえも肩を並べる偉大なる英傑としてその名を歴史に刻むのだ。自分という存在がかつて肩を並べていた時代を過去として。

 

 故にクロウ・ムラサメの胸はどうしようもない寂寥感で満たされるのだ。目前の方の剣でこそ自分は在りたかったのだーーーともはや決して叶う事がない理想が今尚その胸を焦がす。

 

「そしてこれからもどうかナギサの事を頼むぞ、誇るべき我が断刃(ムラサメ)よ」

「……は!この身に代えましても!」

 

 ならばこそせめて与えられる主命を決して違えぬようにしようとクロウは誓う。主命を違えた(己が理想の通りに在れない)自分など到底クロウ自身が認められる己が在り方ではないから。

 

「ああ、それでは駄目だぞクロウ。その身に代えてもでは困る。必ず自分も生き抜いてナギサを守りぬけ。そうじゃないとあの子は絶対に泣くからな」

「……確かにタツヤ様の仰る通りですな。訂正させて頂きます、必ずや生き抜いてナギサ様をお守り致します」

 

 何故ならばクロウが守る主君の愛妹は心優しい少女だから。その花が咲いたような満面の笑顔を知っているが故にそれが曇る瞬間は確かに自分も見たくないなと思いながら主君の言葉へとクロウは応じたのだった。

 クロウ・ムラサメがナギサ・奏・アマツという少女の事を守るのは勿論彼女が忠誠を捧げた主君の愛妹でありそれが旧型へと堕した自らに与えられた役目であるが故だ。だがいつの日か決して()()()()ではなくなってきていた。朗らかに笑う少女の笑顔そのものを護りたいという想いをクロウは何時しか抱くようになっていたのだ。臣下の身では到底口に出す事は許されない不遜な想いであり、当人自身も気づいているかどうか怪しく他者から指摘されればきっぱりと否定するであろうがそれこそ父が娘に対して抱くものに近い感情を抱くようになりはじめていたのだ。

 

 だからこそ、アシュレイ・ホライゾンという少年に対してクロウ・ムラサメが抱いた()()()()()は決して良い部類のものではなかった。無論小舅のようにあからさまに威嚇したり嫌がらせをするような大人気ない真似をクロウはしない。そもそもあくまで護衛に過ぎないクロウが次期当主から正式に奏の家の当主となったタツヤが認めている()()()()()()()に対して無礼を働く事など許されるはずもないのだから。

 ただそれでも「果たしてこの少年はお嬢様の相手として相応しい男なのか」---等と臣下の分を越えた不遜な想いを抱かなかったと言えばそれは嘘になる。何故ならアシュレイ・ホライゾンという少年はクロウの目から見て余りに()()()少年だったから。鋼の英雄クリストファー・ヴァルゼライドの盟友にして軍事帝国アドラー副総統を務める当代の偉人にして英傑タツヤ・奏・アマツの愛妹たるナギサ・奏・アマツを娶り、主君の義弟となるに相応しい存在などとは到底思えなかったのだ。

 

「よろしくお願いします、師匠(センセイ)!」

 

 だから、少年に剣の手ほどきをする事になったも正直クロウ・ムラサメは然程乗り気ではなかった。はてさてどの程度のものなのかと大分冷めた気持ちで教えを施してみれば……

 

「結論から言おう。アッシュ、お前には凡そ剣、いや戦いという分野において才能というものが決定的に欠けている。生涯を費やしたところでタツヤ様の足下に及ぶかどうかといったところだろう」

 

 結果はどこまでも無情かつ残酷な現実を少年に突きつけるものだった。

 

「それでもお前がタツヤ様のようにエスペラントとして高い素質があれば、それを磨く事にも相応の意義があっただろう。だが残念な事にお前はそちらへの適性もなかったと聞く。ならばこのようなものを磨く事に今更大した意味はあるまい。時間は有限なのだ、不慣れなものを克服するのも結構だが得手を磨く事に費やした方が良かろう。ーーーなに、タツヤ様は素晴らしい御方だ。決してそれだけで不合格にするような事はあるまいよ」

 

 そう剣術などというものは所詮()()()()でしかないのだ。習得しているに越したことはないが、それでも上に立って他者を管理するような者が修めるべきものの優先順位としては低い部類に入るだろう。経済、政治、交渉、人心掌握術など優先順位が高いものは他にいくらでもある。

 むしろそちらも見事に修めた上で何事も修めておくに越したことはない、この世は()()()()()()()()()のだと言わんばかりに剣術をも皆伝の領域にまで修めてしまったタツヤ・奏・アマツこそが異常と呼ぶべきなのだ。人間にとって()()()()()()()()()なのだから。

 故にクロウが告げたそれは決して悪意に基づくものではなく善意によるものであった。()()()()()など先天的素養の有無によって容易く覆る程度のものでしかなく、大した価値のあるものではないのだからより有用な別のものを学べば良いのだと。

 そしてそれは荒事に不向きで、剣を振るった経験などほとんどない目前の少年にとっても受け容れやすい助言であるはずだったのだが……

 

「もう一本、お願いします!」

 

 出来の悪い教え子の反応はどこまでもクロウの予想を裏切るものだった。そこに宿っていたものは諦めの感情ではなく熱き気概と自らに対する憧憬であった。

 

「何故だ?重ねて言うがお前にこちらへの適性はほとんどない。そもそも大した価値があるものじゃないんだ、()()()()()()。星辰光という異能の前にはどれほど剣腕が卓越してようと無意味。容易く殺されて終わるだけなのだから」

 

 そうそれこそが現実だ。未だ単純な剣の技量に於いてはクロウに到底及んでいなかった主君はエスペラントとして高い素質を持っていたというそれのみでクロウなど及びもつかない超人になってしまったのだから。

 

「だって、憧れてしまったから」

「---何?」

 

 だからこそ目前の少年が語った言葉はクロウにとって完全に想像の埒外であった。

 

「憧れてしまったんです、師匠(センセイ)の剣に。すごくカッコ良くて綺麗だと思った。自分もあんな風に成りたいとそう思ったんです!」

 

 完全に空白となったクロウの意識。そんなクロウをどこまでも真っ直ぐな瞳で射抜きながら少年はその想いをぶつけて行く。

 

「勿論効率の面で考えれば俺は師匠(センセイ)の言う通りにするべきなんでしょう。でも自分は向いてないからってすぐに見切りをつけてしまうのはそれはそれで違うと思うんです。だって人生何がどう役に立つかなんてわからないんですから。逆に師匠(センセイ)に聞きますけど、全く武術の心得がない存在とある程度の心得がある存在、護衛の目から見て護りやすいのはどちらですか?」

「……それは無論、後者だな。驕る事無く自らの身を守る事に徹してくれるのならばという注釈は当然付くが」

「でしょう?だったらたとえ俺が師匠やタツヤさんの足下には生涯を懸けて到底及ばなかったとしても決して学んだことは無意味でも無駄でもないと思うんです。始まりが憧れでも、嘘であっても、どれだけ無様であろうとも、たどりつこうと足掻く間に生まれる意味は決して嘘なんかじゃないんですから」

 

 理想通りの自分に成れなかったとしても成ろうともがいて努力した事それ自体は決して()()()()()()()()()のだと告げる少年の言葉を現実の無情さを知らない若造の綺麗事だーーなどと何故だかクロウは切って捨てる事が出来なかった。

 

「勿論、師匠(センセイ)の言う通り俺には剣術以外にも学ばないといけない事が山ほどあるんですけどね。ただそれでも俺は貴方から剣を教わりたいと思ったんです。だからどうかお願いします、不出来にも程がある弟子かとは思いますが俺に貴方の剣を授けて頂けないでしょうか」

「---わかった。そこまで言うなら今後も厳しく扱いてやるとも。ただし覚悟しておくことだな。己自身の意志でそこまでの事を言ったんだ、これから行う修練は今までの比ではないほどに辛く厳しいものとなるぞ」

 

 微笑を零した事に自ら気づかないままに返事をしたそれからというもの、クロウ・ムラサメはこの出来の悪い弟子の面倒をよく見た。

 ---覚えが悪い。察しが悪い。しかも対応が素直過ぎる。懇切丁寧に技を実践して見せているというのになぜかつての自分や主君(タツヤ)のように一合で体得する事が出来ないのだと不思議にさえ思った。

 才能という土俵で競うならば自らの剣を見事新時代の剣として昇華させたタツヤ・奏・アマツとは比較するだけ可哀想になる有様だ。

 

「それでは聞こうかクロウ、一年間剣の師を務めたお前の目から見てアシュレイ・ホライゾンという少年はどう見えた」

「端的に評するならば才能がありません。根本的な部分で争いに不向きな人種なのでしょう、こちらの分野で大成するという事はまずあり得ないかと」

 

 故に主君からの質問に対する返答はどうしても酷評と呼べるものになってしまう。主君に対して虚偽を伝える事などクロウにとってみれば想像も出来ない事であり、何よりアッシュ自身の為にもならぬと思うが故に。

 

「ですがーーー」

 

 だが、しかし

 

「それでもアイツは、アッシュは得難い光を持っていると私は思っています。確かにタツヤ様が持っているような才気の光はありません。タツヤ様の盟友である英雄の如き森羅を砕くが如き強靭な意志もアイツにはありません。しかしアイツはそうした次元では測れない大切なものを持っている男です。私如きがタツヤ様のご深慮に口を挟めるものではありませんが、どうかその辺りをタツヤ様には汲んで頂けると幸いです」

 

 アシュレイ・ホライゾンという少年の抱いている価値は決してそんな次元のものではないのだとーーー気がつけばクロウは頭を下げながら主君に対して請願していた。

 そんな己が剣の様子にタツヤは驚いたように目を丸くした後、いつものような優しい微笑を湛えて

 

「ああ、よくわかったとも。アシュレイ・ホライゾンという少年にはクロウ・ムラサメ程の男が頭を下げて請願するほどの価値があるという事、よくよく胸に留めさせて貰うさ。

 故に安心しろ、クロウ。俺とて可愛い妹に嫌われたくなどないのだからな。愛情を取り違えて拗らせた意地悪な小舅にもいつまで経っても妹離れ出来ない兄にもなるつもりはないさ」

 

 告げたアシュレイ・ホライゾンという少年の持つ価値に理解を示してくれた言葉がクロウにとっては我が事のように嬉しかった。

 

「しかし、随分と良い顔をするようになったなクロウ。いや本当に良かった。そういう顔を浮かべられるようになったお前にならば、俺はある提案が出来る。どうだクロウ、新兵達にその剣を授ける教官役になるつもりはないか?エスペラントに選ばれたという一事を以て驕ってしまう新兵の扱いには苦慮していてな。今のお前ならばそうした驕りを砕く教官役として適任だと思っている。無論、このままナギサの護衛を務めてあげて貰う方でも当然構わない。どちらを選ぶかはお前次第だ」

 

 笑みを浮かべながらされた主君の提案、それに対してかつてのクロウであればこう答えただろう。

 タツヤ様の御心のままに。自分はタツヤ様の命に従いますーーーと。主君の忠実なる剣である事、それがクロウ・ムラサメに残された()()()()()()であったが故に。

 

「叶うのであれば、どうかこのままナギサ様の守護をお任せ頂きたく。今やナギサ様も御身同様に我が主君。武骨な剣なれど、その笑顔の花を護りたいと思うのです。出来の悪い愛弟子にもまだまだ教えたいことが山ほどありますので」

「---そうか、わかった。お前が望むのならばそうしよう。これからも俺の可愛い妹と()()の事を頼むぞ、クロウ」

 

 それから数日後、満面の笑みを浮かべながらされた教え子の報告にクロウ・ムラサメは万感の想いを込めて祝福したのであった。

 




「運命なんて、そんな御大層なもんじゃない。どこにだってあるんだよ。誰にだってあるんだよ。ただそれに、上手く気づけないだけだ」

クロウ・ムラサメの剣技を新時代の超人兵であるエスペラント用に再構築して昇華させたのは天才であり教科書にもでかでかと名が乗るであろう時代を代表する英傑のタツヤ・奏・アマツ。
自らをナマクラだ旧時代の遺物だと自嘲していたクロウ・ムラサメを救い人間にしたのは(この世界だと)歴史に名を刻んだりするわけでもないただ優しくてひたむきな少年だったアシュレイ・ホライゾン。

今回のは話は大体そんな話。
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