大国主「またか」
思兼「またね」
第九北部征圧部隊・
そうして傷つけられた威信を取り戻すために北部へと赴くと思われていた両部隊はカンタベリーの友邦であるプロイシア王国を強襲。かつてない帝国の大攻勢を前に王国軍は全力で後退。帝国はその戦線を一挙に押し上げ、此処にプロイシア王国の命運は風前の灯火へと陥るのであった。
・・・
祖国の危機に燦然と現れる名将、英雄、そうした
「お初にお目にかかる。私はカンタベリー聖教皇国総代騎士グレンファルト・フォン・ヴェラチュール。
されど何もかもを帝国の思い通りには行かせはしないと立ちはだかるのは聖教国で“武神の生まれ変わり”と讃えられる男。その身に纏う覇気も、隙等欠片も見当たらないその佇まいも、何もかもが風評が只の
「初めましてヴェラチュール卿。私は軍事帝国アドラー総統タツヤ・奏・アマツである」
十全に敷いていたはずの警備網、グレンファルトはそれらをいとも容易く突破してきた。そしてそこまでの事を為しながら息さえ切らしていないという事実を重く受け止め最大の警戒を払いタツヤもまた礼儀に則り名乗り返す。
「まさかこの地で貴方に見える事になるとは思っていなかったよ」
いずれ友邦であるプロイシアを救うべくカンタベリーが援軍を送って来るであろうという事は予想していた。だがこんなにも早く、加えて総代騎士という皇国軍の頂点に立つ人物が腹心であるベルグシュライン卿も連れず単騎でプロイシアに来ている等タツヤにとっては想定外も良いところである。
「それはこちらの台詞だよ、総統殿。この地は我らカンタベリーの友邦であるプロイシアの地、貴方方アドラーの領土ではないはずだ。自国の権益の希求は指導者として当然の事なのかもしれないが、それは他国を侵す形で為してはならぬはずだ。ただちにこの地より退いて貰いたい。これ以上の狼藉は一人の騎士として看過出来ぬ」
「悪いがそれは出来ないな。貴方に総代騎士としての立場があるならば私にもアドラーの総統としての立場と果たさなければならない責任がある」
侵略という悪を為しているのはそちらの側だと告げるグレンファルトの言葉にもタツヤは揺らがない。そんな程度で揺らぐならば最初からこんな事はしていないし、こんな地位にまでタツヤ・奏・アマツは登り詰めてないのだから。
「言葉によって退いて頂けぬというのならやむを得ない。誠に罪深い事だが力によってそうさせて貰うだけの事。帝国の最高指導者である貴殿が此処で斃れれば帝国は侵攻を中断せざるを得ないだろうからな」
国家の最高指導者が最前線へと出てきたが故の弊害、それを絶対神は容赦なく突いて来た。此処でタツヤ・奏・アマツがグレンファルトに討ち取られるような事があればその時点で帝国の威信は地に堕ち、逆に先の北部戦線での勝利と併せてグレンファルトとカンタベリーの名声は不動のものとなるだろう。
「それはこちらの台詞だよ、ヴェラチュール卿。程なくして私の頼もしい部下達が此処に駆けつける。貴方をこの場に釘付けしておくだけで勝利はおのずと我らのものとなる」
エスペラントは脅威の超人兵士だが決して無敵の存在というわけではない。人間である以上如何に強化されていようと体力という限界が存在する。程なくして頼れる副官が増援を引き連れてタツヤの下へと駆けつけるだろう。単騎行等と言う無謀を為した代償を容赦なくグレンファルトに払わせるべく。
そうして形式的な言葉のやり取りを済ませ、両雄は激突を開始した。
「創生せよ、天に描いた星辰をーーー我らは煌めく流れ星」
切り札を使わないままに抱え落ちする程に馬鹿な事は無いと言わんばかりに開戦するや否や即座にタツヤは発動値へと移行。部下達を斬り伏せたその様からグレンファルトが尋常ならざる使い手である事を悟った以上剣術という相手の得意分野で競い合うつもりは毛頭ない。
最新装備であるセイファートによって強化された星の力を以て目前の敵手を打倒しにかかる。
「拡散性最大!」
セイファートによってタツヤの星は飛躍的に強化された。特に拡散性と集束性は目覚ましく向上し、元々あった高い素養も相まってタツヤ・奏・アマツはもはや準人造惑星と称して差し支えない領域へと到達している。そしてその優れた素養に胡坐をかくことなく磨き続けた確かな技量をタツヤは有している。
「火炎生成能力ーーー噂には聞いていたが、それが貴殿の星か。
にも拘わらず攻撃がまるで当たらない。対エスペラント戦の経験等未だ数える程しか経験していないはずのグレンファルトはどういうわけだか、初見のはずのタツヤの攻撃を
「だがそれでも俺は負けんよ。貴殿に譲れぬ理由があるというのならそれもまた同じ事。故に大変野蛮だが武力によってこの場は押し通らせて貰うとしよう」
単純な見切りと回避によって絶対神は猛火をくぐり抜け太陽神へと肉薄。疾風怒濤の斬撃を返礼とばかりに叩きつける。僅かも途切れず孤を描く両刃の煌めきはさながら流体の鞭の如く。しかして振るわれる獲物は巨大な大剣であるが故に一撃一撃に激烈な重さが宿っている。
しかしてタツヤ・奏・アマツとて負けてはいない。ムラサメの剣技と己が星辰光を融合させた新時代の闘法を以て武神と渡り合って見せる。未だ基準値のグレンファルトに対して帝国最高峰のエスペラントであるタツヤが発動値へと移行して星辰光を全力行使してようやく互角という状況。否応なしにタツヤの心に焦燥が芽生え始める。
「……凄まじいな貴殿は。貴殿の腹心である
基準値の状態で発動値の自分とやり合って見せる、そんな存在はタツヤの記憶する限りでは
「いいや、
もしも仮に自分の
「俺からすれば貴殿の方こそ驚嘆に値する。30半ば程度の若さでそれほどの
「私とそう変わらぬ年で総代騎士にまで昇りつめ、“武神の生まれ変わり”とまで称される貴方に言われても褒められた気がしないなヴェラチュール卿。私が傑物だというのならば貴方は何だという?」
「俺など貴殿に比べれば不出来な
驚くべき事にグレンファルトは羨望の念さえ宿しながらタツヤを称賛していた。自分を
「だからこそ場違いだとわかっているが問い質したい事がある。ーーーなあ、こんな事して心は痛まないのか?」
問いかけられたのは煌びやかな光によって覆い隠された闇の部分を露わとするもの。タツヤ・奏・アマツという個人を大切にする者達も、軍事帝国アドラー第38代総統を必要とする者達も触れた事がない部分へと無遠慮に切り込むものであった。
「貴殿の事は当然のように調べさせて貰った、タツヤ・奏・アマツ殿。貴殿は紛れもない傑物だ。堕落した他のアマツに毒される事無く、己を強く律し、自分を磨き続け、より善き国を目指し、多くの戦友達と共に見事腐敗した旧弊を一掃して新たな時代を築き上げた。ああ、全く以て素晴らしい
問いかけながらも振るう剣の速度は欠片たりとも落ちず。変わる事無く両者は音速を超えて剣戟を交わし合う。
「自国で行われている不公正は見過ごせないが、他国の人間に対してならばそうした不公正を強いても構わないというのか?ただ生まれた国が違うだけの
結局は貴殿も身内と認定した範囲が広いだけで、誰かに理不尽を強いて搾取している強者ではないかというその指摘、それは容赦がなく、侵略という行為に、そして軍事帝国の長たるタツヤ・奏・アマツの所業に潜む決して拭えぬ悪性を突きつけるものであった。
「流石は極東黄金教の聖職者、中々どうして痛いところを抉って来る」
容赦のない指摘の数々、それを受けてタツヤが浮かべた表情、それは
「貴殿のいう事に対しては確かに返す言葉もないとも総代騎士殿。私がやっている事は自国の利益の最大化の為に他国を蹂躙する侵略のそれだ。
総統としては決して言えない私人としての本音、それをタツヤはさらけ出す。そうした論法を強弁しても目前の相手は容赦なくその欺瞞をはぎ取って来るだろうと感じたが故に。
「だが、その上で
「それが貴殿の答えか。誠実なように思えるが、同時に結局は奪い続けている事の
「そう言われてしまえばこれまた返す言葉がないな。何せ俺はクリス程に強くない。自らがしている事を正当化しない事には進み続けることなど出来んのだから」
「いや実に結構。貴殿はとても人間らしく、そして極めて社会的な傑物だよ。その事が良くわかった」
鮮烈で雄々しい光とは到底言えないタツヤの回答、それを聞いたグレンファルトは何やら満足気な笑みを浮かべながら後退。
「総統閣下!ご無事ですか!!」
そして次の瞬間現れたのは近衛たるアリエスの精鋭達。発動させた星辰光が次々とグレンファルトを襲う。しかし、当然のようにそれらは総て武神に届く事は無く。
「どうやらこれまでのようだな。好機を逸した以上大人しく逃げさせて貰うとしようーーーどうする?追撃するかね?」
「いいや、止めておこう。藪を突っついた挙句怒れる竜に大切な部下を殺される愚は犯したくないのでね」
そう、何せグレンファルトは未だ切り札である星辰光を発動さえさせていないのだから。余力は十分過ぎる程に残しているのだ。
「それではこれにて失礼させて貰うとしよう。次に見える時は出来る事なら戦場で殺し合うのではなく、平和に酒でも飲み交わせる事を願っているよ」
追撃をかけんとする部下達を制し、此処に太陽神と絶対神の小手調べのまま終わった戦いは呆気なく幕を閉じるのであった。
・・・
「やれやれ世界は全く以て広いな。本当にケレルマンには申し訳ない事をした」
基準値のままのグレンファルト単騎でさえ発動値のタツヤをして渡り合うのがやっとだったのだ。曰くグレンファルト以上だという
「これが最高レベルのエスペラントが敵に居るという事か……」
単騎行、あるいは極一部の精鋭のみで以て敵中を突破して、敵中枢を壊滅させる。それは帝国軍がこれまで散々やって来た事だったが、やられる側になってしみじみとタツヤは思う。
「なんともはや、
常時時速100キロを超える速度で移動するその機動力。更には人間であるが故に険しい山道だろうと容易く踏破して見せる走破性。そしてトドメとばかりに星辰光という超常の異能まで振るうのだから敵にしてみるとこれほど対処に困る兵種はない。
挙句の果てに実現したのが総大将同士の一騎打ちという何時の時代の戦いだとやっていた当人が聞きたくなるものなのだから、もはやこれは一種の喜劇だろう。
「しかし、まんまとしてやられたな。決定的な勝ちを逃した」
帝国軍の苛烈な大攻勢を前にしてプロイシア軍は徹底的に会戦を避けて後退を繰り返した。結果帝国軍は王国の各地の一時的な占領にこそ成功したものの、未だ会戦で決定的な勝利を掴むには至っていない。そんな最中総代騎士の強襲により、あわや総統が戦死に追い込まれるところだったのだ。
この状況でプロイシアへと和睦を提示してもプロイシアを含めた諸国は帝国の寛大さと捉えるよりも総代騎士の功績によるものと捉えるだろう。総代騎士グレンファルトの強襲がそれだけ太陽神の心胆を寒からしめたのだーーーと。
「……それを避ける為にはこのままプロイシアを攻めるべきだ。それこそ王国軍を撃滅するか王都を占領する事で
そうすれば会議の場で提示した最大限譲歩した条件よりもはるかにアドラーにとって優位な条件をプロイシアには突きつけられるだろう。
「だがそれは勝利を手に入れるまであの恐るべき武神の強襲を防ぎ続けないとならないという事でもある……」
十全に敷いたはずの警戒網をグレンファルトは容易く突破して見せた。星辰光という切り札を切る事無くそれを切った状態のタツヤと真っ向から渡り合って見せた。“次に見える時は出来る事なら戦場で殺し合うのではなく、平和に酒でも飲み交わせる事を願っているよ”というあの言葉、アレはすなわちそうなれるようにしろという警告だったのだろう。
「………」
タツヤの中に迷いが生じる。此処で和睦を申し出れば少なからぬ層がタツヤへと不満を抱くだろう。こうした局面で躊躇う事無く突き進み、決定的な勝利をもぎ取って見せたのがクリストファー・ヴァルゼライドという男なのだから。強襲されて命の危機に晒されたという状況も相まって臆病風に吹かれたが故の決断だと思う層は必ず出る。さりとて今度もまたしのぎ切れるかと言えばそれは……
タツヤの脳裏に出立前に“必ず生きて帰ってね”と瞳を潤ませながら告げて来た妻の顔が浮かぶ。抱きしめた我が子の温もりを思い出す。此処で万が一にも死ぬわけにはいかない多くの理由が頭へと浮かんでいく。
「……プロイシアとカンタベリー双方に和睦を申し入れるとしよう」
結果タツヤ・奏・アマツは決断した。いずれこのツケを払う事になるとわかりながらもカンタベリーへと華を持たせる形で和睦する事を。それが公人としての大局的な判断によるものだったのか、それとも私人として命が惜しくなったが故のものだったのか、それはきっと彼自身も判別する事が出来ない多くの想いが入り混じったが故の決断であった……
仲良し神祖の会話はまた次回
神祖は不死性もだけど維持性がマックスだからスタミナ切れがないというのが滅茶苦茶チートだと思う(これのせいで他のエスペラント相手なら有効なそこそこの精鋭を宛てて消耗させる的戦略が全く意味をなさない)
いやまあアイツらのチートじゃないところって逆にどこだよって感じなんですけど!!!
ちなみにケレルマン中将はグレンファルトとは結構良い感じに渡り合っていた(能力が露見するのを避ける為に当然グレンファルトはお兄様戦と同様に基準値のまま)んですが、そこを空気とか欠片も読まない星辰光を発動させた塩野郎が遠距離からズンバラリした感じのやられ方を想定。