【完結】シルヴァリオサーガRPG実況プレイ   作:ライアン

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なんということをしてくれたのでしょう


銀に煌めく狼の冬は未だ遠し

「ククク……ハハハアーハハハハハハハハハハハハ」

 

 何が愉快なのか、青年にとっては甚だ不本意な事に現状自身と幼馴染にとってある種の教育係*1と呼べる存在は満身創痍と言って良いだけの傷を負いながらもどこまでも楽し気に笑う。

 

「いやいや参った参った。これがお前たちの()()ってわけか! 審判者(ラダマンテュス)、そして太陽神(アポローン)、我が麗しの英雄の後継者達よ。流石に今度ばかりは()()()()()ところだったぜ!」

 

 どこまでもどこまでも愉快気に強欲竜団の首魁にして反帝国のカリスマたる強欲竜は笑う───今、この瞬間もその身には激痛が走り続けているだろうにそんなものは関係ないと言わんばかりに。

 そしてそれは即ちこの東部戦線に於いてアドラーの最大目標が未達成で終わった事を示していた。

 

「というわけでだ、お前達には感謝するぜ。邪竜(ニーズホッグ)、そして葬想月華(ツクヨミ)よ。今回俺が命を拾う事が出来たのはお前達のおかげだ。いやいや持つべきものは師匠想いの可愛い愛弟子って奴だな! リベラ―ティから預かる事になった時は心底面倒だと思ったものだがやはり未来への投資というのを怠ってはいかんぜ!」

 

 審判者(ラダマンテュス)が今回敷いた包囲網は完璧と称してなんら差し支えのない出来栄えだった。エスペラント技術が既に聖教国で実用化された以上、遅かれ早かれ商国もまた実用化に成功させるだろうと踏み、そして強欲竜団の首魁ファヴニル・ダインスレイフならば未だ安全マージンが確保されていない状態だろうと一切躊躇する事無くエスペラントとなる強化手術へと踏み切るだろうと予測。更に更にダインスレイフならばおそらく包囲網を突破する最中でも成長を続けて見せるだろうとも確信していたが為に一切の手抜かりはない。東部の二大巨頭である審判者本人と猟追地蠍(スコルピオ)隊長ヴァネッサ・ヴィクトリアの両名直々に旗下の精鋭を率いて最期の仕上げを行いにかかるという徹底ぶり。いかなダインスレイフといえど未だエスペラントに成り立ての新米(ルーキー)の状態でこの両名を同時に相手取り勝つ事など不可能。此処に強欲竜の本気は当然のように総合値を以て上回る審判者、否軍事帝国アドラーの()()の前に破れ去り、その断末魔が東部に於いて鳴り響く───はずであった。

 だが、そんな審判者の想定を上回る者が彼の傍にいた。それこそが現在強欲竜が()()()として手塩にかけて鍛え上げている青年ラグナ・ニーズホッグであった。不本意にも強欲竜の愛弟子という立ち位置になってしまった彼だが彼とその相棒であるミサキ・クジョウは決して強欲竜団の一員というわけではない。彼らはあくまでリベラ―ティから貸し出された客将とでもいうべき立ち位置であり、彼らは彼らの目的を果たす為、怨敵を討ち滅ぼす為の力を手に入れる為に現在商国に於いて最強と謳われる男の下に身を寄せたに過ぎない。

 しかしそんな事を知る由もない帝国から見れば彼らは強欲竜が手塩にかけて育て上げている腹心としか思えない。当然の如く今回の強欲竜団掃討作戦に於いて帝国軍から熱烈な歓迎を受ける事となってしまったわけだ。だが皮肉な事にそれこそが強欲竜の命を繋いだ。ヴァネッサ・ヴィクトリアという帝国に於いても有数の実力者との交戦で窮地に立たされたラグナ・ニーズホッグは死力を振り絞り、()()()()の気合の力で以て飛躍的な成長を遂げた。そして半身である葬想月華(ツクヨミ)の援護を受けて終焉兵装(フィンブルヴェトル)を創造し、即座にそれを破壊。その炸裂によって生じた閃光と爆発と共に離脱を果たし、審判者と交戦していたダインスレイフもまた抜け目なくそれに乗じた───というわけだ。

 

「……別にアンタの為にやったわけじゃないさ。俺達は俺達でこんなところで死ぬわけにはいかないから必死だった、それだけだ」

 

 そうラグナ・ニーズホッグは必死だった。ダインスレイフのところへと来る前にも当然リベラ―ティの下で相応の訓練を積んだが、それでも彼にとっても無我夢中だった怨敵との交戦を除けばこれが初の実戦と言って良い。そんな初陣でヴァネッサ・ヴィクトリア程の使い手とやり合う事になったのだ。余裕など全くなく、今日だけで一体どれだけ戦う前の自らの限界を突破したのかなどもはや覚えていない。───ほんの少しでも歯車が狂っていればそれこそラグナもミサキも、そしてダインスレイフも今この場には居なかっただろう。

 

「おいおい駄目だろうがニーズホッグ、そこは嘘でも良いから適当な事言って俺に恩を売っておくところだぜ?」

「……言葉を少し繕った程度で恩に感じるような殊勝な性格なのかよ、アンタは」

「いいや、全然」

「じゃあ繕ったところで意味ないだろうが」

「カーハハハハハ、そりゃそうだ! なんだ俺の事をよくわかっているじゃねぇか!!」

 

 上機嫌に笑うダインスレイフを他所にラグナは少し前の死闘を振り返る。死闘と言ってもそれはあくまでラグナにとってに過ぎない。ヴァネッサ・ヴィクトリアが積み重ねた()()()は単純な戦士としての力量のみに限っても新米(ルーキー)であるラグナのそれをはるかに凌駕していた。当然のように終始圧倒され続けて、今日一日でラグナ・ニーズホッグは幾度も死にかけた。

 

 ───だけど通じた。俺の力はあのゾディアックの隊長にも通じたんだ。

 

 大陸最強と名高き帝国軍。その中でも東部戦線の二大巨頭ギルベルト・ハーヴェスとヴァネッサ・ヴィクトリアの両名の名声は商国にまで伝わっている。そんな相手と完全な劣勢だったとは言えど何とか渡り合えたという事実、そして自分が確かに成長して自らの目的に近づいたという実感───それが自然とラグナを昂揚させる。

 

「どうだ、それこそが本気の力って奴だ。強くなったという実感はたまらんだろう? お前は見所があるぜニーズホッグ、その調子で行けばお前はどこまでも強くなれるはずだ。人間勇気と夢さえあれば大抵の事は何とかなるもんだからなぁ!」

「その体現者こそがこの間亡くなったアドラーの総統閣下───だろう? もう聞き飽きたっての」

 

 軍事帝国アドラー第37代総統クリストファー・ヴァルゼライドの名前はラグナも当然聞き及んでいる。もっとも聖教国に居たところに耳に入るそれは当然悪名の類であったが、とにもかくにも凄まじい人物だった事はラグナとて知っている。

 ───何せ流石に反帝国の旗頭という立場上表立っては言わないものの、ラグナのように帝国への隔意が薄いものに対してはその凄まじさを事あるごとにダインスレイフ自身が吹聴しているのだから。

 

「ミサキ、どうした? さっきの戦闘でどこか負傷でもしたのか?」

 

 いつも溌剌としている大切な幼馴染、それが先ほどから全く会話に混ざろうともしていない事に気づき声をかける。

 

「え、あ、うん大丈夫。その辺は……別に何ともないんだ」

「その辺はって……それ以外に何か心配事でもあるのか?」

「えっと……それは……」

 

 言うべきかどうか迷っているのだろう、ラグナからの問いかけにミサキはらしくもなく俯いた様子を見せる。

 

「言ってくれよ、俺達が目指すのは笑顔の明日へとたどり着く事なんだから。強くなる事ばかりに夢中になって相方の悩みに寄り添ってやることも出来なかった───なんて本末転倒な事はしたくないんだ」

「ラグナ……うん、わかった。それじゃあ言わせて貰うね」

 

 ラグナの真摯な瞳に心を揺り動かされたのだろう、ミサキは感動した表情を浮かべ───ダインスレイフは自分の性に合わない若者たちの青春模様にどこか白けた顔を浮かべている。

 

「あのさラグナ、私たちのやろうとしている事って本当に正しいのかな?」

「───え?」

 

 相棒から告げられた思いがけない言葉、それにラグナは常にない動揺を見せる。

 

「今日私達とやり合っていた帝国の人達、みんな必死だったよね。みんながみんな国の為、戦友の為に、民の為にって必死だった。そしてそんな人達を私たちはこの手で殺した」

「それは……」

「勿論、そうしなければ私たちが殺されていた。だからそれが仕方がない事だっていうのは、わかっているつもりだよ。でもさそれを本当に()()()()()で片付けちゃっていいのかな? 相手だって覚悟していて相手だって殺しているんだからお相子だってそんな簡単に……」

「…………」

 

 民間人と軍人の違いはあれど人の死を、自らの手で確かにその人の事を大切に想うであろう人が居た()()を殺しておいてそんな簡単に片づけてしまうならそれこそ自分達は自分達が憎んで止まない怨敵たちと一緒になってしまうのではないか───と、他ならぬ相棒が告げる哀切さと共に紡がれる言葉、それをラグナは黙って噛み締める。

 

「勿論神祖(アイツら)は許せないし、許しちゃいけないと思う。でもさそれでアイツらだけを仕留められれば何の問題もないけどきっとそうはいかない。だってアイツらはとても狡猾で卑怯だから。自分達を殴ったらそれだけで大勢の人が血を流すようにしている。だから、こんな風に考えちゃうこと自体がきっとアイツらの思う壺だっていうのはわかっている。わかっているけど……それでもそうやって関係ない人を巻き込む事を仕方がないって片付けたらそれこそアイツらと同じなんじゃないか───なんて考えたらもう何が正しいのかわからなくなっちゃってさ……」

「ミサキ……」

 

 

 ミサキの問いかけにラグナは答えられない。神祖は滅ぼさなければならないとラグナもミサキも確信している。それは単純な復讐心だけではなく「それこそが自分達の役目なのだ」と心の底から湧き上がるある種の使命感のようなものが為さしめるものだ。それを果たす為にこそ本来争い事になど関わって来なかった二人は今こうして牙を磨いているのだから。

 だがその為に無関係の人間を巻き込むのは決して正しくなどはないのだ。しかしそうして巻き込む誰かを想い憤激をその身に抑え込めばそれこそ怨敵の思う壺に他ならず───という堂々巡りだ。ラグナ自身未だ答えが見つかっていない問いだからこそ相棒の悩みを晴らしてやることが出来ないのだ。

 

「何が正しいのか? やれやれ、随分とまあ()()()()()()事で悩んでいるんだな。そんなものは()()()()()()んだよ。だからこそどいつもこいつ命張って戦っているんだろうが」

 

 そしてそんな若者達の悩みが強欲竜にとっては心底理解出来ず不思議でならない。何故ならば彼は悩み振り返る事などせずに前進し続ける光に焦がれた亡者、特級の破綻者であるが故に。

 

「良いか、人間いいや生物ってのはこの世に生まれ落ちた瞬間から戦っているんだよ───どういうわけだかこんな当たり前の事を忘れちまった屑がこの世には溢れているけどな」

 

 心底侮蔑して吐き捨てるかのようにダインスレイフは告げた後、どこか真剣な面持ちで以てラグナ達を見据える。

 

「その点お前らは大分見所がある、だからこそらしくもなくマジな忠告をしておく。そんな()()()()()()事に囚われて足を止めるのはやめろ。正しさがどうのなんてのはな()()()()()()()んだよ。

 俺がいい例だろう? 別段俺は商国がどうなろうと知った事じゃない、俺はあの日焦がれた背中に追いつく為にただ本気で走って来ただけだ。だってのにそんな俺が今じゃ商国を守る護国の盾、英雄様と来たもんだ! ───つまり、正しさなんてのは()()()()()のもんなんだよ。

 本気を出せば結果が出る。結果を出せば外野はそれだけで黙る。黙らねぇ奴とはどっちの方が本気なのかぶつかり合って確かめれば良い。それだけの事だろうがよ」

 

 真実ダインスレイフにとってはそれで終わりなのだろう。彼は自らが為してきた悪行や非道への後ろめたさを一切覚えてはいない。

 

「アンタの言っている事は極論だ。自分は結果を出しているんだから正しいなんて済ませたら、それこそ神祖(ヤツラ)と同じじゃないか」

 

 そしてそれこそがラグナ・ニーズホッグがこの男にある程度の敬意を抱きながらも師と認めたくない理由であった。

 そう、ノリは違えど根本的なところで目前の男は自分達が憎む怨敵と同じなのだ。“結果”を錦の御旗にして過程で出した犠牲の事など根本的なところでまるで省みず居直る恥知らず。そんな存在に成ってはいけないとラグナ・ニーズホッグもミサキ・クジョウも強く思う、思うからこそ彼らは惑うのだ。

 

「かもしれねぇなぁ。だが、お前さん達がやろうとしている事はそんな風にうだうだ迷っている暇がある程ちょろい事なのか?」

「……ッ!」

 

 痛いところを突かれたのだろう、ダインスレイフからの問いかけにラグナは押し黙る。

 

「俺は真実本気で駆け抜けて此処まで来た。そんな俺の本気でさえ未だに我が麗しの英雄(ジークフリート)の後継である太陽神(アポローン)の奴には及んでいなかった。その辺踏まえた上で()()になって考えてみろ。お前らがやろうとしている事はそんな()()()()()()()()()()()()()()()がある相手なのかという事を。手段を選ぶっていうのはな、圧倒的強者にだけ許された()()だぜ。挑む側のお前達にそんな余裕があるのかをよくよく考えてみるんだな」

 

 話と小休止はそれで終わりなのだろう、ダインスレイフは再びその場から立ち上がる。

 

「いやはや星辰奏者(エスペラント)ってのは大したもんだな。大分身体が俺の本気に付いてこれるようになった。さてとそれじゃあ帰還するとしようか、なんたって俺達は帝国軍相手に殿を務めて帰還した英雄様だからなぁ! さぞや熱烈な歓迎が待っているだろうぜ!」

 

 ダインスレイフは今回の戦いで手勢の多くを失った。それがトカゲの尻尾に過ぎなかろうとそれでも()()()()()()を取り戻すのには相応の時間を要するだろう。

 

 ───だから一体どうした。やると決めたらやるんだよ

 

 だがそんな程度でファヴニル・ダインスレイフの意志は聊かの蔭りも見せない。焦がれた英雄の背中に追いつく事、それこそが彼にとっての文字通り総てなのだから。

 

「……」

「……」

 

 そんな男へと続きながらダインスレイフ程に簡単に割り切れない二人は己が胸へと問いかける。果たして本当にそれしかないのか───と。

 未だ神の治世へと終わりを告げる鐘の音は遠く、邪竜は惑いながらもその牙を研ぎ澄ませるのであった。

 

*1
師だとかそういう恩義めいたものを感じさせる表現を青年はこの男に用いたくないのでこうした表現をとっている




ラグミサもきっと神祖滅殺に踏み切る前には相応の迷いがあったのでしょう。踏み切ってからは迷っていたらそこを神祖にまず間違いなく突かれるので意図的に考えないようにしていたのでしょう、きっと。
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