「
致命的な無防備を晒していたのもほんの一瞬。
雄たけびと共に強欲竜はその身体を大きく吹き飛ばされながらも即座に喰らった
ジェイス・ザ・オーバードライブの星光、それは強制脆質結晶化能力。
物体の有機無機に関わらず、接触した対象を極めて脆い結晶構造へと強制変換する星光だ。典型的な“当たれば終わる”類の異能であり、彼の繰り出した拳を受ければそこで最後。問答無用で砕け散り、木端微塵と化す。
その拳がダインスレイフの胸部を穿ったのだ。そのまま行けばつい先日胸に仕込まれたダインスレイフのとっておきをも砕き、完全にダインスレイフを絶命させてのけただろう。
だが恐るべきは光に狂った強欲竜。絶命するその間際ついに正当なる英雄譚の継承者と巡り合ったという歓喜がダインスレイフを覚醒させる。
ーーーまだだ。まだ終わらん。終わってなるものか。ようやく自分の宿願が叶ったというのにこんな程度で終わってたまるか
そんな溢れ出る意志力を基にダインスレイフは即座に数舜前で在れば不可能であっただろう神業と称する他ない反応で以て砕け散っていく己が損傷個所をその星光を以て切除する。
コンマ数秒の差でダインスレイフは自らの宝である胸部に埋め込まれたオリハルコンを砕かれる事を阻止してのけたのであった。
「流石だなダインスレイフ、敵ながら見事だったと敬意を払おう。だが、これで終わりだ」
だがしかし、それが一体何だというのか。
ダインスレイフが相手取っていた敵手はジェイス一人ではなく元々ダインスレイフは圧倒的な劣勢だったのだ。一度でも致命打を受けてそこからの立て直しに己が力を注いでしまえば必然ーーー
「風伯、雷公───天降りて罰と成せ。神威招来・
生じたその隙めがけてかつて帝都にて猛威を振るった二体の魔星をも仕留めた女神の切り札が炸裂。
ファヴニル・ダインスレイフを今度こそ絶命させるのであった。
「天昇せよ、我が守護星──鋼の
「「「「!?」」」」
故にそれは帝国の誰にとっても完全な想定外であった。誓って彼らの中に慢心や油断などなかった。
ファヴニル・ダインスレイフを相手にそんなものをすれば必ずやひっくり返されるーーーそんな危機感と恐怖さえ抱いていたからこそどこまでも徹底的にやったのだ。
そう帝国側は此処で勝負を決めるべくジェイス・ザ・オーバードライブという切り札も、裁剣女神が持つ決戦兵装という切り札も総て投入した。
だからこそ第2ラウンドの開始を告げるその産声はこの戦いの為に用意した手札を
「美しい――見渡す限りの財宝よ。父を殺して奪った宝石、真紅に濡れる金貨の山は、どうして此れほど艶めきながら、心を捉えて離さぬのか」
一方の邪竜はまさしく夢見心地だった。自らの本気を越えた本気で以て人間だった頃の自分を仕留めてのけた敵手。
かつて焦がれた英雄の後継者を名乗るに相応しい傑物、勇者達。その輝きを前にして胸が躍って仕方がない。
「煌びやかな輝き以外、もはや瞳に映りもしない。誰にも渡さぬ、己のものだ。毒の吐息を吹き付けて、狂える竜は悦に浸る」
ああ、そうだ。渡さない渡してなるものか。アレは己のものだ。自分という邪竜を討ち果たすべく現れた
そんな存在をこそ自分は待ち焦がれていたのだから。さあいざ本気をぶつけ合おう。最後まで殺し殺され合おう。邪悪な竜を討ち果たす事こそお前達の役目なのだから。
「その幸福ごと乾きを穿ち、鱗を切り裂く鋼の剣。巣穴に轟く断末魔。邪悪な魔性は露と散り、英雄譚が幕開けた」
決して忘れない。あの光輝く雄姿を。あの時味わった感動を。その背に追いつくために
「恐れを知らぬ不死身の勇者よ。認めよう、貴様は人の至宝であり、我が黄金に他ならぬと。壮麗な威光を前に溢れんばかりの欲望が朽ちた屍肉を蘇らせる」
だからこそそれを受け継ぐ者を前にして
本来であればそれは不可能なはずだった。彼はその肉体を37度に及ぶ改造によって骨格の大半を
しかし、魔星へと生まれ変わるためには後一つ達成しなければならない条件がある。膨大な量の次元間相転移エネルギーの用意だ。そしてそれは旧暦に於いて大破壊を起こす原因ともなった次元炉でもないと不可能なはずだったのだがーーー
「故に必ず喰らうのみ。誰にも渡さぬ。己のものだ。滅びと終わりを告げるべく、その背に魔剣を突き立てよう」
そんな理屈が一体どうしたというのか。
自分の焦がれたあの英雄ならばそんな世の道理は必ずや紙くずも同然にねじ伏せてみせる。
ならばその背に追いつこうとしている自分が
「
故にさあお前達も死力を尽くせ。つまらぬ本気ならばたちどころに自分が喰らってしまうぞと此処に新西暦最新の魔星が誕生した。
「総員散開!固まっていたら纏めて潰されるだけだ!分散する事で少しでも奴の集中を削ぐ!」
「「「
こちらの持っていたリソースを総て吐き出して討ち取った難敵がより強大になって復活する。
そんな
すぐさまそれを静めてのけてタツヤ・奏・アマツはその場の最上位者として部下達に指示を出す。
「さあ見せてくれ。お前たちが真に
未来の為に生きて死のうや、それこそがお前の運命だろうが。宝を寄越せ!総てを寄越せ!!」
魔星と化した事でかつてダインスレイフが抱いていた強固なエゴはより純化している。
故に此処にいるのは文字通りの怪物。衝動の赴くままにその暴威を振るい続ける生きた災厄だった。
此処で仕留めねば間違いなくこの怪物は自らが欲するままにあまねく命を喰らって行くだろう。
誰かの為に未来の為に戦う人の至宝足る英雄よ。貴様が討ち果たすべき邪悪な竜は此処にいる。自分を討ちに来いーーーと。
故に此処で退くわけにはいかない。必ずや勝機を作り出してもぎ取って見せると英雄の後継者達は戦意を滾らせて死闘の第2ラウンドが幕を開けた。
・・・
「ヒハハハハハハハハァッーーーー!!さあもっとだ!俺を心底惚れさせて見せろ!英雄譚の後継者達よ!!」
疾走しながらぶつかり合う超新星。
形を失い、捻じ曲げられ、一時も留まる事無く処刑具の濁流と化していく地面。
もはや地上は完全に邪竜の身体の一部と化しつつあった。
雨あられと射出されていくそれはまさしく邪竜の爪であり牙に他ならない。
戦場を支配する物質再形成の星光は魔星と化した事でもはや先ほどまでとは比べるのもおこがましい規模のものであった。
今のダインスレイフを相手にしてはそれこそ数万もの軍勢を用意したところで勇者の資格無き者はたちどころに無惨な屍を晒して終わる事になるだろう。
この敵手を相手に自らの身を守るには最低限高速で疾走し続けるだけの身体性能が無ければ話にならない。
「出力任せの攻撃ならば如何様にでもしのげるというのに!」
さらに極めて厄介な事にこの竜は狂いながらも人間時代に培った戦闘経験を自らの血肉としていた。
物質を割いて次々と現れ出る竜の爪、牙、尾。それらは断じて力任せに振るわれたものではない。
巧妙かつ着実に獲物を追い立てる巧緻さを有していた。
その苛烈かつ巧妙な猛攻を必死に防ぎながら、かつて相手取った出力任せにその力を振るうだけしか能がなかった
「どうしたどうした!避けてばかりじゃ俺は倒せんぞ!ええ、
だがそれら殺戮の柱廊よりも、最大の脅威はそれを統べる使い手自身だ。
強く早く重い裂爪ーーー尋常のエスペラントならば立ちどころに粉砕されて終わるであろうその出力を前にしてジェイスがかろうじて凌ぐ事が出来たのは偏に培った武技と経験。
そして仲間の援護を受けながら完全に守勢に徹しているからに他ならない。もしも先ほどと同じくダインスレイフを討つべく攻勢に出ればたちどころに絶命して終わる事だろう。
それほどまでに今のダインスレイフは圧倒的過ぎる。
「……本望なんだろうが、哀れだな。お前本当にあの人の背中から一体何を学んだんだ」
だがそんな状況にあってジェイスの心に浮かぶのは憐憫の感情だった。
目前の敵手はジェイスにとって認め難い存在だ。国が違い仰ぐ旗が違うという点を抜きにしても帝国に損害を与える為なら一切の手段を選ばないその様はジェイスにとって吐き気を催すやり口と言う他ない。
それでももしもダインスレイフが真実大切な誰かを失った哀しみと怒りと憎悪の感情からそんな風に成り果ててしまった存在ならばジェイスはそれを真摯に受け止めただろう。
何せ先に殴ったのは自分達アドラーの側なのだから。誰かの笑顔を守る為に振るうと誓った自らの拳で誰かの笑顔を奪い轢殺している事をジェイス・ザ・オーバードライブは自覚している。
自覚していればこそ、その想いを決して無くしてはいけないと強く信じるが故に。
だがダインスレイフは違う。断じてそうした哀しみや怒りから帝国打倒を掲げたわけではない事はこれまでのやりとりでわかる。
何せ彼が発しているのはジェイスが今もなお尊敬している英雄への崇敬への感情なのだから。
だからこそジェイスは問わずにはいられなかった。
「何を学んだかって!?そんなもの決まっている!不撓不屈の意志を以てすれば人間に不可能はないという余りにも単純で凄まじい真実さ!
だからこそ目を覚まさせて貰った者として示さねばならんだろう!必死で生きるという事が如何に強くて素晴らしい事かを!この命を以て世界に刻み込んでやるのさ!!
ちんけなトカゲも本気になればこの通り!いくらでも脱皮して竜へと成れるという事をな!!
やれ悪魔だの魔人だの殺戮者だのとアイツを罵倒して必死に否定している奴らだって根っこの部分じゃ同じだ。
本音じゃ憧れているのに常識だの良識だのそんな
誰だって心の底じゃみんな
そんなジェイスからの問いかけにダインスレイフは致命的にズレたままにされど嘘偽りのない彼の抱く英雄への崇敬を吐き出す。
「これはまたなんとも……」
「奴を崇敬している者自体はうちでは珍しくないが、それでも他国の人間にまでこうも極まった奴がいるとはな。奴には何かと苦労させられた身だがそれでも流石に同情してしまうよ」
そしてそんな行き着くところまで行きついてしまった極まった男に対してこの場に於いて英雄に敬意を抱けども拝してはいないチトセとサヤの二人はあからさまに引いた様子を見せる。
「そうだな、憧れない奴はおかしいとまでいうつもりはないが、それでもあの人に憧れてその背に続きたいと思う気持ちそれ自体はわかるぜ。他ならぬ俺自身がそうだからな」
そしてそんな二人とは異なり今もなおヴァルゼライドを心から尊敬している男はダインスレイフの抱いた
「そうだろうとも!男なら誰だって憧れる!そして憧れた以上はその背に続きたいと思う!だからこそ俺はお前が理解できないんだよ
そこで突如としてダインスレイフの哄笑が途切れる。そして吐き出されるのはクリストファー・ヴァルゼライドに跡を託された後継者への苛立ちと怒りの言葉だった。
それはヴァルゼライドの後継者としてタツヤが相応しくないと思うが故のものではない、むしろ後継者に相応しい傑物だと認めているからこそのものだ。
「お前は
自分以外のあらゆる国を這いつくばらせて、自分の国の為だけに生きる格下の奴隷国家として従えたいはずじゃねえのか?世界の盟主になりたかろう?そのチャンスをどうしてわざわざ自分から封じるような真似をしているんだよお前は!!」
そこが皆目わからないのだと、英雄から必死に生きる事の素晴らしさを学びながらも英雄が一体何故そんなにも必死だったかを真の意味では理解していない怪物は英雄が一切の憂いなく祖国を託した朋友へとその怒りをぶつける。
「これ以上やれば敵も死に物狂いになって泥沼になるから程々のところで善しとする?オイオイオイ、お前程の男が何故そんなにもつまらん未来で善しと出来るんだよ!お前は我が麗しの英雄の盟友にして後継者、一切の容赦なく敵対者を焼き尽くす
お前が真実本気に成ればやれねぇはずはねぇだろう!せっかく生まれながらに持っている権威を利用してどうして邪魔な連中を懐柔しようとしない!どうしてその容赦のなさをもっと本気で発揮しない!三十年、二十年?いいやお前程の男が本気でアドラーという国の力を総てそこに注ぎ込めば十年もあればやれるだろう!真剣に考えて考えて努力して……鋼の決意で実行すればやってやれないはずはないのに!何故お前程の男が本音を殺して、不本意を甘受して、求めた未来へ必死にならずにわざわざ我慢し続けるような道を選んでんだよ!おかしいだろうが!
ダインスレイフはとんでもない馬鹿だが決して無知な男ではない。国という大きなものを担う存在がそういうリスクを避けて次善で良しとする事も共感はまるで出来ないまでも相応に理解はしていた―――彼が強欲竜団の長という仮にも大組織の長を務める人間だった頃は。
しかし今のダインスレイフはもはや人ではない人造機龍。かつて猛り狂っていたその衝動は魔星と成った事でより純化された。もはや今の彼にはそうしたリスクを避けて次善で善しとするような行為は怠惰と柔弱さの表れとしか映らない。
「もったいねえ。
ああ、ああ、ああ、ああ……なんだその様は、まるで生きちゃいねえぞオイ!人の可能性を、人生の価値を、どこまで馬鹿にしてやがる……ッ」
一概に英雄を理解していない妄言だと断じる事は出来ないだろう。何故ならばかつてクリストファー・ヴァルゼライドが為そうとしていた聖戦とは結局はそういう事だったのだから。
帝都で魔星の長であるカグツチと死闘を繰り広げる事、万が一ヴァルゼライドが敗北した場合帝国はどうなるのか、敗北せずともただ痛手を負うだけになったらどうするのかーーー等と帝国の指導者として見れば博打と言わざるを得ないそれをヴァルゼライドは為すと決めた。
最終的にタツヤとアルバートの両名もそれに助力する事を選んだわけなのだが仮に両名が折れなかったとしてもヴァルゼライドは己が意志を曲げなかっただろう。
それこそが帝国にとって最善の未来を拓くと強く信じていたが故に。
無論、ダインスレイフはその事を知らない。だが知らないからこそ逆にダインスレイフという男は真実を知らないままにヴァルゼライドという男の中にある本質を見抜いたとも言えるのだ。
どれほど他者の為と嘯いていようとも結局は己が為したい事を為している究極のエゴイストーーーそんなクリストファー・ヴァルゼライドという男の煌びやかな輝きの中にある本質を。
「だから
指導者としての責任だのとつまらねぇものに囚われて自分の器を決めつけちまってよぉ!どうしてそんな程度で満足できる!どうして本気で未来を目指さない!もっと必死になって叫んでみろ!生の証を示せ!!!」
ヴァルゼライドを至高の光と仰ぐ狂える竜にしてみればタツヤの放つ陽光は余りにも生温いものとしか思えない。
現存する人類の中でもまず間違いなく有数の傑物と言えるタツヤでさえもそれなのだから魔星となったダインスレイフの感覚はもはや完全に破綻していた。
「そうさ、俺は此処にいる――此処にいるんだ。来い
ならばこそ邪竜は狂おしい程の情念を以て光の後継者へと熱い期待をするのだ。
そしてそんな一方的な期待を寄せられたジェイス・ザ・オーバードライブは静かに嘆息して
「だから、テメェは
吐き出されたのは熱き気概。英雄の背中に焦がれながらも一番大事なところを学んでなかった男にそれを教えてやらねばならないと強く思うからこそ不死身の勇者は圧倒的な暴威を前にしても一切怯む事無く、頼れる仲間からの援護を受けながらも邪竜と渡り合う。
「指導者としての責任を果たす為に
ダインスレイフの言う通り確かにアドラーという国の総力を総てそこに注ぎ込めば、タツヤ・奏・アマツという稀代の天才が責任も倫理も放り捨てて己が真実総てを注ぎ込めば確かにそれは為せるかもしれない。
だが、それはすなわち国を掛け金として用いた盛大な博打だ。仮にタツヤが己とアドラーという国の総てを注ぎ込んでダインスレイフが言うように世界征服を成し遂げたとしよう。
物語であればそこで終わりかもしれないが現実は違う。世界は続くし、国も続く。覇業を成し遂げた覇者にはその後の統治を行う義務が発生する。
軍事帝国アドラーとタツヤ・奏・アマツの真実総てを注ぎ込めば世界征服を為す事は出来るかもしれない、だがその後は?
大切な物を踏みにじられようとしている時人は決して諦めない。どれほど相手が強大だろうと大切な友を、恋人を、家族を、そしてそんな大切な人達がいる自らの国を
そして踏みにじられた者は決して恨みと怒りを忘れない。軍事帝国アドラーを憎む復讐者もまた無数に出現するだろう。
世界征服等と言う夢想に焦がれてそれを為した後に待つのはそんな余りにも厄介で困難な
それでもクリストファー・ヴァルゼライドという破格の男が第二太陽の掌握という形でそれを為し、タツヤ・奏・アマツという稀代の傑物がその後の統治を担うという形で在ればそれは夢想でありながらも勝算があると言えるものでもあっただろう。
だがその結果が“英雄の落日”だ。ヴァルゼライドは共に雌雄を決すると誓った宿敵ではなく、彼がその大業を為すためにすり潰してきた砂粒の逆襲によって敗北した。
“聖戦”で得たものは何もなく、帝国は指導者であったヴァルゼライドを筆頭に多くの人材を失い、タツヤ・奏・アマツを筆頭としたアドラーの首脳部はその後始末に奔走する事となった。
成功していればアドラーに多くの恩恵を齎して絶賛されたであろうその大業も失敗してしまった以上は不世出の英傑にして指導者であった軍事帝国アドラー第37代総統にして大総統ヴァルゼライドのその治世における瑕瑾と言わざるを得ない。
故に
ーーータツヤ・奏・アマツはクリストファー・ヴァルゼライドではないのだから。
「あの人は確かに自分の目指す未来に全力だったさ!だがなそれでもあの人の目指す未来には
それを不本意を甘受している?本気で未来を目指していない?侮辱すんのも大概にしやがれ!誰かの為に己を律する事ーーーどうしてお前はそれを尊く素晴らしい事だと思えないんだ!!」
そしてクリストファー・ヴァルゼライドはそう出来ない己を嫌悪していた。止まる事も退く事も出来ない自分は破綻者だと自覚していながらも突き進む事しか出来ない己自身を。
だからこそそれが出来る盟友を心から尊敬した。だがダインスレイフはそれを弱さだと断じて否定した。
だからそれが英雄と邪竜の決定的な違いだった。たとえそれが歪であろうとも誰かの笑顔を願いその為にこそ駆け抜けた英雄と真実己が我欲しかない邪竜との。
「お前ともあろうものが陳腐な言葉だなぁ、
俺を見ろ!あの輝かしく素晴らしい決して失ってはならない人類の至宝、
結局奴らの中にあるのは自分の利益に成るかどうかとただそれだけさ!そんな奴らの為に己の本音を殺して不本意な未来に甘んじる事がどうして素晴らしい事なのだとお前は思えるんだよ!」
ダインスレイフの脳裏に過ったものそれは彼が侮蔑して止まぬ落伍者達の姿。
簡単な事も出来ず、やれるようになろうともせず、他者を羨み妬む事ばかりをして自らがそう成ろうとはしないかつての己自身だ。
結局のところそうした手合いが求めているのは
だからこそ
そしてその手の手合いはいざ自分達に被害が及ぶと決まってこう叫ぶのだ「貴方は俺達アンタルヤの
別段ダインスレイフがやっている事は普段と何も変わって等いないというのに。
そんなどうしようもない腐臭を放つ屑共へと配慮して自らを枷に繋ぐ事こそが尊く素晴らしい?ダインスレイフからすれば全く以て理解不能な事だ。
「ま……今更テメェがその辺を理解してくれるとは思っちゃいねぇさ」
瞬間、ジェイス・ザ・オーバードライブの心に過ったもの、それは怒りではなく憐憫であり同情だった。
ーーーああ、目の前の男はあり得たかもしれない自分だ。あの小さな笑顔と出会う事無く、何のためにその拳を握るのかに気づく事無く、ただただあの人の背中の
そんな想いをジェイスは抱いていた。
そしてならばこそジェイス・ザ・オーバードライブの心は強く猛るのだ。
決して負けられない、負けるわけにはいかない。此処で自分達が負けてしまえばそれは目前の男の選択こそが勝つ為には正しいのだと認めてしまう事になるのだから。他者への想いなど自らを縛る枷に過ぎず、勝利から己を遠ざけるものでしかないのだとーーーそんな事はあの笑顔に救われて人間に成れた者として断じて認められるものではなかった。
「だからこそ
発せられた気合の雄たけび、それにジェイスの肉体が呼応して限界を突破していく。
「ハッハー良いぞ!それでこそ
そしてそんな待ち焦がれていた光景を前に邪竜もまたその出力を上げる。邪竜にとってジェイスが覚醒した理由が理解出来ないものである事はどうでも良い。
ただジェイス・ザ・オーバードライブという男が想いの力で以て自らの壁をまた一つ乗り越えた、その英雄の後継者を名乗るに相応しい存在である事の証明こそが総てだった。
そうしてジェイスの覚醒によって傾きかけた天秤は負けじと覚醒し返したダインスレイフの本気によって再び拮抗する。
ーーーまずいな
熱き気概を叫ぶジェイスとは対照的にタツヤ・奏・アマツの思考はどこまでも冷めていた。
何せ今戦っている相手は軍事帝国アドラーの怨敵強欲竜団の首魁ファヴニル・ダインスレイフなのだ。相互理解の果てに踏み止まって貰う為にこそ戦った親友であるギルベルト・ハーヴェスとは違い、今回の戦いの目的それはあくまでファヴニル・ダインスレイフの討伐にこそある。
それでもダインスレイフという男が吐き出した想いが軍事帝国アドラーとその指導者であるタツヤ・奏・アマツに対する
しかし、ダインスレイフが叫び出したのはクリストファー・ヴァルゼライドという男に対する
ならばこそ反論するのは部下へと任せてタツヤはその帝国、否、新西暦最高峰の頭脳をフル稼働させて一体どうすれば現有戦力で以て打倒できるかを考え続けていた。
そしてその結論は極めて厳しいと言わざるを得ないものだった。何せ目前の敵は今や単騎で以て完全にタツヤ達4人と拮抗している。そして相手が魔星というエスペラントの上位存在であり精神の怪物である以上先に限界が訪れるのは間違いなくこちらなのだから。
ジェイス・ザ・オーバードライブの覚醒によって光明が見えたのもほんの一瞬、負けじと押し返してきたダインスレイフの姿に尚の事長期戦は危険だと判断せざるを得なかった。
何せジェイス・ザ・オーバードライブの腹には今も大きな風穴が空いたままなのだから。エスペラントとしての強靭な再生機能で出血こそ止まっているものの、本来ならばエスペラントと言えど身動き出来なくなっていて当然の重傷で今も動く事が出来ているのは偏にジェイスの強い心によるものだ。
それはタツヤにとっては頼もしく誇らしいものではあるのだが、厄介な事にそんなジェイスの奮闘は敵手であるダインスレイフも喜ばせてしまっている始末。個人的な好悪と感情は別として目前の敵手が今は亡きタツヤが誇る盟友にさえともすればその牙を届かせるかもしれないと思わせる破格の怪物である事は認めざるを得ない。
故にジェイス・ザ・オーバードライブの英雄的奮戦では目前の敵に対する決定打にはなり得ないし、それはタツヤとチトセも同様だろう。
目前の敵は暴走していながらも狡猾だ。自らを一度屠った女神への警戒を怠っていないし、それはタツヤに対しても同様だ。
天下の
故に目前の敵手に刃を届かせるには文字通り今この場にいる
だが迷っている余裕はない。このままいけば勝つ為の博打にさえ打って出られなくなってしまうのだから。
「サヤ、チトセ、ジェイス」
故にタツヤ・奏・アマツは覚悟を決めてこの場にいる
「すまない。君達の命を
たとえ
「「「
上官への敬意、戦友への友誼、軍人としての覚悟それら総てを短い言葉に込めて万感の想いと共に返答。
命を賭けよう。だが死なせてなるものか、死んでなるものかーーーと矛盾するようで軍人が共存させなければならない想いを抱き、その戦意を滾らせて邪悪なる竜を討つべく決死行を挑まんとする。
ーーーすまんなアル。もしも俺が死んだ時は後の事は頼むぞ
誓って負けるつもりはなかったしそれは今でも同様だ。それでも戦場に絶対はない以上当然万が一はあり得る。
故にタツヤ・奏・アマツは自分にもしもの事があればアルバート・ロデオン大将を次の総統にするとしていた。
理由は決して身贔屓によるものではない、今の帝国の上層部の中でアルバートこそが最も適任だと判断して評価すればこそだ。
高い調停力、
懸念としてはあの頭が良い癖にどうしようもなく馬鹿だった
「そうだ、来い!俺は此処に居る!此処に居るぞ
その鮮烈で眩しい宝を前にかつて見た人類の至宝を幻視して狂える竜は悦に浸りながら咆哮。
どちらも勝利をその手に掴み取る為にその戦意を滾らせて英雄の後継者達が決死の覚悟で挑まんとしたその瞬間
「ーーーふむ、どうやら間に合ったようだな。総統閣下、遅参した身だがどうか貴方と轡を並べて戦う栄誉をこの私にもお与え頂きたい」
英雄から警戒されてその暴走に危惧を抱かれながらもその悪魔的なまでのリターンの巨大さからついに処断されるまでには至らなかった男が不敵な笑みを浮かべながら現れたのであった。
本気おじさんの覚醒を前に大ピンチ!
決死の覚悟を以て挑まんとするお兄様!
そんなお兄様のピンチに駆けつけたのはこの男!そうだ僕らの糞眼鏡!味方にしたら得られるリターンが悪魔的と評されるのは伊達じゃないぜ!!
糞眼鏡君の参戦はお兄様の用意した手札ではありません。
事前にお兄様が用意していた手札ならばお兄様は勝負を焦らずその援軍を待ちますので。