「ギル、お前……どうして此処に」
現れた本来ならこの場にはいないはずの親友の姿、それに瞠目してタツヤは問いかける。
「閣下より
自らの星光をも加速に利用して文字通りの全速力で以てこの地まで駆けて来た今のギルベルトは相応に疲労している。如何にエスペラントが超人的な身体能力を持っているとはいえ全力で走り続ければ当然全く消耗しないとはいかない以上それは必然だろう。だがそんな様子をおくびに出す事もなくギルベルトはどこまでも涼しげな表情で参戦の理由を伝える。親友であるタツヤならばこれだけ告げれば理解するはずだと全幅の信頼を抱きながら。
「ーーーいや、よくぞ間に合ってくれたハーヴェス中将。中々どうして苦戦していてな。念のための保険ではあったがどうにもそれが必要な状況だ」
「
そしてそんなギルベルトの期待通りにタツヤ・奏・アマツはすぐさまそんな親友の意を汲んだ返答をする。その献身と配慮に心からの感謝を捧げながら。
「何故ハーヴェス中将が此処に……?中将が受けていた命令は確か……」
「さてな、本当に総統閣下が密命を下していたのか。はたまた奴がまた例によって良かれと思って動いたのか……まあその辺りは今は考えるべき事ではあるまい」
「
そして残る三名もまた訝しがりながらも今はそこを追求しては仕方がないと言わんばかりに兎にも角にも援軍としては全く以て申し分ない男が来たという事を喜び歓迎する。
「ハッハー!なんだなんだお前も来たのかよ
長年東部戦線で戯れ続けていた好敵手の登場、それをダインスレイフは歓迎する。
窮地に駆けつけてくる仲間?結構結構全く以て結構。恋い焦がれた
「それは買い被りというものだな。私など大総統閣下の後継足る奏総統閣下に比すれば二流の凡俗も良いところ。ならばこそ凡俗は凡俗なりのやり方で以て真なる光へと助勢させて貰うとしよう」
瞬間、参戦したギルベルトは全速力で駆けつけながらも周到にその足へ仕込んでおいた衝撃を一挙に解放ーーー爆発的な加速で以て強欲竜に肉薄する。
「驕ったか
「思ってなどいないさ。閣下達4人と単独で渡り合えていた今の君が私をはるかに上回る力を持っている事など百も承知。だが今の私は一人ではないのだよ」
ギルベルトの身体ーーーそれを炎が覆う。太陽神の加護が宿ったそれは己が友の身を焼く事は無く、襲いかかる竜の鱗のみを焼き払い、審判者は竜の懐へと潜り込む事に成功する。
だがそここそがこの竜を相手取るに当たっての最も危険な死地。炎でその身を焼かれる事などまるで厭わず圧倒的速度で竜の爪が審判者のその命を奪わんと繰り出される。
「こうしてお前さんとまた肩を並べて戦う日が来るとはな!感慨深いもんだぜ!」
しかし今のギルベルトは一人ではないのだ。
無論それは人間時代であるならばいざ知らず魔星というエスペラントの上位存在へと至った今の強欲竜に対しては致命打には程遠い。つけられた傷はたちどころに治療ーーー否、その星光によって修復されてしまう。
だが、それでもそれはすなわち修復にダインスレイフの
「行くぞ!総員回転率を上げていけ!」
ギルベルト・ハーヴェスという帝国最高峰のエスペラントの参戦を以てしても今のダインスレイフを相手にすれば稼げるのはたかだか
だがたった一手分の余裕ーーーそれは今この場に於いてはまさしく値千金の価値があるものであった。何故ならば今この場にはタツヤ・奏・アマツとチトセ・朧・アマツという万能型の極みと称すべきアマツの最高傑作が居るのだから。
万能型とは戦場という刻一刻と状況が変わっていく環境に於いても即座に対応してのけるからこその万能型。生じたその余裕を以てその場その場での最適解ーーーもっとも敵への嫌がらせとなる手を選択して打ち続けていく。
無論、それは言う程に容易い事ではない。何せ今のタツヤ達は一人でダインスレイフを相手しているわけではない。5人がかりでダインスレイフの相手をしているのだから。
だがその上でこの連携の中核を誰が担っているかと言えばそれはタツヤ・奏・アマツに他ならない。
亜音速に達するエスペラントの戦闘に於いて逐一指示を出したり指示を見る事は出来ない。だがそれでも5人全員がバラバラに動いていては完璧な連携など出来ようはずもない。
故にこそ必要なのは明確な司令塔。目まぐるしく状況が耐えず流動していく戦場に於いて勝利への道筋を描き、それを全員で共有させる事が出来る者こそが必要なのだ。
驚嘆すべきはギルベルト・ハーヴェスという本来予定になかった者が加わりながらもその連携に一切の乱れが生じていないーーーどころか今この瞬間にも研ぎ澄まされ続けている事だろう。
当然ながらこの連携は一朝一夕で身に着けたものではない。ダインスレイフをこの布陣で仕留めると決めたその時から決戦までの間に入念な訓練を重ねて磨き上げたものだ。
だが当然当初参戦の予定がなく東部に居たギルベルトはその中に含まれていなかった。故にギルベルトという援軍の参戦は下手をすれば総てを崩壊させかねない劇薬でもあったのだ。
しかしその劇薬による副作用は一切なく。「君が私に求めているのはこれだろう」「お前ならば俺の意を汲み理解してくれるはずだ」と両者は全幅の信頼で以て以心伝心の連携を行う。
そしてサヤ、チトセ、ジェイス達の三人の為す事はギルベルトが参戦した後も変わらない。事前の訓練通り最上位者にして司令塔であるタツヤの意を汲み動く事に全霊を注ぐ。
故にその連携に一切の綻びは無し。英雄の後継者達はその力を結集させて邪竜を着実に追い詰めていく。
「クフッ……ククク……」
そして劣勢へと陥ったダインスレイフは尚変わらず。
「クハッ、カヒ、ヒハハ……」
炎で焼かれ、風で切り刻まれ、斬られ、砕かれーーー全身を血みどろにしていきながら、それでも心底楽しそうに。
「ヒャハハハハハハハハハァーーーッ!!」
今自分を窮地へと追いやった者達の中核、それが
英雄の後継者が
いいぞ、いいぞ、ああ、
ならばこそ今自分が相対している者達こそがあの日焦がれた光を受け継いだ正当なる後継者達に他ならない。こういう展開をこそ自分はずっと待っていたのだーーーと。
瞬間、
すなわちまたもや
これだこれこそが自分が追い求めて来た
「最高だ、てめえら!ついに本気になってくれたな!嬉しいぜ!!」
竜は歓喜と共にその目に焼きつけるーーーあの日見た輝きを受け継いだ者達のあの日とは異なる輝きを。
それは決してあの日自分が焦がれた孤高の光に劣るものではないと理解する。
「認めようじゃないか
さあ天頂神の跡を継いだ新たなる最高神よ!見事
吼えながらまるで限界など知らぬように高まっていく力、それを目の当たりにして
「帝国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」
それは決して比喩などではない。
今この場で集った者達がダインスレイフに敗退すれば今の帝国にはもはやダインスレイフを止める事は出来ない。
今のアドラーに
「「「「
雄叫びと共に軍事帝国アドラーの命運を背負った勇者達が邪竜を討ち取るための進撃を開始した。
一手目ーーー
「今度こそ往生しなぁ!」
二手目ーーー雄たけびと共に繰り出されたジェイス・ザ・オーバードライブの渾身の一撃、それが迎撃で繰り出されたダインスレイフの竜爪を破壊する。その反動によりついに許容を越えたジェイスの右手もまた吹き飛ぶ。
「
だが今更片腕が吹き飛んだ程度で不死身の勇者は止まらない。間髪入れずに残った左手を用いて攻撃を繰り出す。
「ああ、知っているとも。お前がそんな程度で怯む男ではないという事位」
しかしダインスレイフも負けてはいない。瞬時に再生させた左腕で以て迎撃。再び先ほどの光景を再現するかのように両者の腕が対消滅を起こす。
「決戦兵装解放ーーー神威招来・
三手目ーーー発動するは今日2回目の女神の持つ切り札。
かつてであればそれは如何にチトセ・朧・アマツであっても一日に一回放つのが限度であった。
しかし
技術の恩恵は大多数の凡人だけではなく極一部の才人にも。1日1回限りの女神の切り札は1日2発限りの切り札へと進化したのであった。
「そいつは
しかし進化を続ける光の怪物に二度同じ手は通用しない。
強欲竜はその星辰光を全開にして作った
「ああ、そうだろうとも。こちらも貴様に二度同じ手が通じるとは端から思っていない」
そしてそんな事は百も承知。
四手目ーーーこれまで後方にて部下達の援護を行っていた太陽神が最高速度で一挙にダインスレイフへと肉薄。その一刀を以てダインスレイフの肉体を両断せんとする。
「ハッハーついに来たな太陽神!さあ邪竜の血を浴びるが良い!浴びれるもんならなぁ!!」
無論英雄の後継者と認めた男をこの竜が忘れているはずもない。ジェイスに砕かれた右腕を修復して迎撃する。
そして太陽神の一刀にかつて英雄が振るった
「決戦機構解放ーーー神威顕現・天叢雲剣ィィ!」
タツヤ・奏・アマツは自分が格上を相手にした時善戦する事は出来てもひっくり返すだけの爆発力がない事を自覚していた。そして今の自分の実力がおおよそ完成形に近く今後さらなる劇的な成長というものを見込めないだろうという事も。
ならばこそタツヤ・奏・アマツは
そうして生まれたのがこの決戦機構であった。それは決戦兵装へと着想を得た瞬間的な発動体とエスペラントの肉体の同調の強化。それによって帝国最高峰のエスペラント、太陽神タツヤ・奏・アマツの集束性を瞬間的に強化する機能を持つ*1。
無論、チトセ・朧・アマツが自身の片目を武器へと置き換えるのと引き換えに得ている力を何のリスクもなしに得る事は出来ない。これを発動させた後発動体はオーバーヒートを起こし、強制的に
そして
故にこれは文字通りたった一発限りの切り札。そんなリスクを背負った切り札に頼らざるを得ない自らの格上を相手にした状態で基準値にまで力が落ち込んでしまえば、それは即ち死以外にあり得ないのだから。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ」
炎の剣、それが邪竜の爪を砕き、そして胴をも両断する。
英雄の後継者はついに独力では決して成し得なかったであろう竜退治を成し遂げたのだ。
「
否、邪竜戦記はこんな程度では終わらない。
ファヴニル・ダインスレイフはタツヤ・奏・アマツをクリストファー・ヴァルゼライドの正当なる後継者だと認めればこそ一切油断はしていない。
何せ邪竜は既に
仮にアレが
その程度の事が出来ないはずがない、むしろ出来ないのであれば興醒めも良いところだーーなどとどこまでも一方的な信頼を抱いていたのだ。
ああ、良いぞそれでこそだーーーと溢れんばかりの喜悦と共に邪竜はあらかじめ発射しておいた剣鱗で以て暴力的に上半身と下半身を縫い留める。
「な、に……?」
そして胴体を縫い留めた次の瞬間、邪竜の頭がゴロリと胴体から落ちる。
初めて邪竜の心に動揺が満ちる。
それもそのはず、審判者、太陽神、裁剣女神、そしてオーバードライブ。
邪竜の命を奪い得る勇者達の総攻撃を邪竜は乗り越えたのだ。
そしてそれらを乗り越えた後でも邪竜に油断はなかった。
この素晴らしき英雄の後継者達ならば更に何かをしてくるだろうと期待さえしていたのだ。
ーーー特に中でも一際素晴らしき輝きを魅せてくれたあの男、ジェイス・ザ・オーバードライブならば更に素晴らしい雄姿を魅せてくれるだろうと。
「取るに足らないと、そう思いましたか?それを油断とは言いませんよ。私がこの場に於いて最弱なのは客観的な事実というものですから」
そしてそれこそが邪竜に対する唯一の突破口に他ならなかった。
ダインスレイフは敵である
自分が焦がれた英雄の後継者を名乗るに相応しい英傑達であり、自分を討ち取り得る勇者なのだと認めて期待していた。
だからこそこの場に於いて認めていない
それは一概に油断、慢心と断ずる事は出来ないだろう。他ならぬサヤ自身が認めている通りサヤ・キリガクレはこの場に於いて最弱の存在だ。
一般の兵士や並のエスペラントにとっては恐怖そのもののその星辰光もダインスレイフに対しては牽制程度にしか働かず、発動値は当然の事技量に於いてもダインスレイフに後塵を拝している。
故にこの戦いに於いて彼女は終始遠距離からの援護に徹し、ダインスレイフが近接戦を仕掛けて来た際は彼女の主君であるチトセ・朧・アマツが彼女の代わりにそれを担ったーーーダインスレイフと真っ向からやり合えば彼女では一たまりもないが故に。
そんな様をダインスレイフは見下し嘲笑した。守るべき主君に守られている、なんとも
だが、そんな自らの不甲斐なさを誰よりも痛感していたのは誰であろうサヤ本人だ。
サヤ・キリガクレはかつて帝都での二体の魔星との決戦の際に主君を援護する事しか出来なかった。
敬愛する主君と肩を並べて二体の魔星を討ち取ったのは帝国の誇る現総統タツヤ・奏・アマツ、その人だった。
それは通常ならば別段思い悩む事ではなかっただろう。何せタツヤ・奏・アマツは帝国最高峰のエスペラントであり、アスクレピオスの虐殺に於いて今は亡き大総統クリストファー・ヴァルゼライドとも肩を並べて戦った本物の英雄なのだ。
多くの人間にとってはもはや比較しようという発想すら思い浮かばない、努力する天才という総合値の怪物。
だが、それでも彼女は我慢がならなかった。あの決戦の最中、主君が
相手は太陽神だから?自分程度は及びもつかない存在だから仕方がない?そんな事でどうして納得する事が出来ようか。
何故ならばサヤ・キリガクレにとってはチトセ・朧・アマツの臣下である事、彼女の片腕である事こそが己が総てなのだから。
敬愛する主君をして勝つことが困難な難敵、強敵、そういうものを相手にした時にこそ役に立てなくて一体どうするのかーーーそう思った彼女の脳裏に過ったのは自分にとって最大の屈辱。これまで自らが築き上げてきた総てを粉砕されるかのような心境と成った直近の敗北の記憶だった。
腹立たしい事に、彼女にとっては心底腹立たしい事に彼女の前任者である男から学ぶ事は多かった。それまでの彼女は凡そ決定的な挫折というものを味わったことがなかった。エスペラントとして優れた素質とキリガクレで受けた英才教育を併せ持つ彼女は秀才の見本とも言うべきエリートで、敬愛する主君の求めを十全にこなしてきた。
だがそんな挫折知らずのエリートであった彼女の鼻っ柱は見事叩き折られた。ゼファー・コールレインというそうした驕った強者の隙を突く事に誰よりも長けた畜生王によって。ならばこそ彼女はそこから学び、もう一度自らを鍛え直した。
今度こそ、今度こそ敬愛するお姉様の窮地の時に真に力に成れるようにと。それは本来の彼女の戦闘スキルとは異なる体系、意識の間隙を突く事に特化した暗殺の技能であった。
戦闘開始から終始遠距離からの援護に徹し続けた事、それによって
無論、いくら意識の間隙を突いたとはいえ彼女一人の力であれば邪竜の首を落とす事などなかった。付属性が低い彼女では斬撃を星辰光で強化する事は出来ず、彼女の出力では邪竜の肉までは裂けてもアダマンタイト製の骨までは断ち切るまではいかないからだ。
しかし彼女は一人ではない。彼女には敬愛する主君、
「ですがそれでもそんな雑魚にも意地があります。故に冥途の土産に刻み付けておきなさい、私こそが帝国最強足る
それでも、かつてのダインスレイフであればこんな風に遅れは取らなかっただろう。何故ならばかつての彼は光に焦がれた特級の破綻者でありながらも非常に狡猾だった。
曲がりなりにも端くれであろうと
だがしかし、今の彼は
何故ならば彼は何の
その身は英雄の後継者という煌びやかな輝き以外、もはや瞳に映りもしない狂える竜。故にこうして取るに足らないと見下した小さな砂粒によって滅びる。
「ーーーまだ「とは言わせんよ」」
それでも狂える竜に諦めの文字はない。
頭一つになっても即死するわけではない以上いざこの窮地をひっくり返して見せるぞと吼えんとしたそこを狙いすまして、審判者の最後の仕込みが発動する。
それは頭部に一発だけ付着させておいた打撃。ダインスレイフが万全の状態、頭がきちんと胴体と繋がっている状態であれば牽制にもならないものであった。だが頭部が支えを失い宙を舞う今の状態でのそれは的確に脳を揺らし、ほんの一瞬邪竜の意識を刈り取る役目を果たした。
「こいつで終わりだぁ!」
その隙を逃さず間髪入れずに放たれるのはジェイス・ザ・オーバードライブの飛び蹴り。
炸裂したその一撃は今度こそオリハルコン諸共邪竜の肉体を結晶化させた。
「は、クク……ああ、まだ届かなかった。まだ足りなかったか。もっと本気で次こそはーーー」
あの輝ける背中に必ず追いついて見せるぞと心底悔し気に、されど自分を打ち果たした勇者達を寿ぐように欲深き暴虐の竜は死の間際まで光を求めながら息絶えるのであった。
光狂いが敗れるケースは主に三つ
・流石に光狂いでもどうしようもない純然たる実力差を前に物理的限界に行き当たる(悪辣な策とかもやったりするけど神祖は基本これ)
・自らが自分よりも立派で尊く素晴らしい光だと認めてしまった相手を何らかの形で利用される事で精神的な隙を突かれる(お兄様戦の糞眼鏡がこれ)
・取るに足らない存在と見なした砂粒の逆襲を喰らう(当然ある程度戦力を拮抗させられる総合値の怪物がその砂粒以外にも居る事が前提。今回の本気おじさんがこれ)
ちなみにお兄様専用決戦機構が開発できたのもチトセネキの決戦兵装の改良が間に合ったのも総てミリィがセイファートを開発した事が前提にあるので今回の戦いの陰のMVPはミリィです。よ、帝国と総統閣下を救った女!