後は任せたぞアルバート・ロデオン!!!な事に成ってました。
リベラ―ティ
リベラーティ、それはアンタルヤ商業連合の各地に於いて事実上の“王”として君臨している十氏族の一つ。旧暦に於いてエジプトと呼ばれた一帯を治めるかの一門は海運業に力を入れ、長年に渡ってカンタベリー聖教皇国と親密な関係を築き上げてきた。だが、そんな聖教国の“親しき友人”であるリベラーティには内に秘めたある大望が存在したのだった……
「ラグナ、ミサキ。ダインスレイフが討たれたわ」
リベラーティの現当主ブリアック・リベラーティの孫娘の一人であるセシル・リベラーティは開口一番にそんな事を友人二人へと告げた。
「それも完敗というしかない負けっぷりね。本人は討たれて団自体もほぼ壊滅。一方のアドラーは相応に被害は出たものの主だった将官や佐官への被害はほぼ皆無。誰が見ても今回の戦いは帝国の完勝だって評すでしょうね」
「……そうか。まあ満足だったんじゃないか。何せ敬愛する英雄閣下の後継者である現総統直々の出陣だったんだから」
口惜しそうにされどどこか満足気に息絶えた師匠分の姿を想い浮かべてラグナは苦笑しながら告げる。
「しかし、そうか……ダインスレイフでも
「私たちにとってみればダインスレイフが現総統を討ち取る事に成功でもしていた方が困った事になっていたんだけどね。ただ貴方としてはやっぱり複雑かしら?」
リベラーティの一族の本懐、それを想えば軍事帝国アドラーとの戦争が続く事など百害あって一利なし。イタリア半島の辺りを制圧されてついにリベラーティの本土にまでその刃が届き得る状態にまでなってしまった以上尚の事。ならばこそ修行の為にダインスレイフの下へと出していた大切な大切な切り札にして将来の
しかし、そうした理と利だけでは割り切れないのが人の情と縁というもの。事あるごとにダインスレイフへの憎まれ口を叩いているものの、それでもラグナ・ニーズホッグにとってファヴニル・ダインスレイフが色々と世話になった人物であることもまた事実。だからこそのどこか浮かない表情なのかとセシルは問いかけてみるが……
「いやあの男がやられた事、それ自体に思うところはないさ。いくら元は帝国の側が仕掛けてきた戦争だとしてもあの男はあの男で大概な事をやって来たんだ。そりゃ本気になった帝国に殺されもするだろうさ」
いっぱい殺してきたのだ、そりゃ殺されもするだろうとすっかり傭兵業へと馴染んできた事を示すドライな死生観を覗かせながらラグナは続ける
「ただ、それでもダインスレイフは俺がこれまで見てきた中で一番桁外れの男だった事も確かだ。単純な戦闘力だけじゃない、一大組織を作り上げる手腕にしても、
ダインスレイフと別れた後もいくつもの死線をくぐり抜け、数多の強敵達とやり合った*1事で、単純な戦闘力だけならばラグナもまたダインスレイフと張り合えるだけの力を身に着けたという自負がある。
だがそれ以外に関していえば自分がからっきしな男だという事も自覚している。現在の後援者であるリベラーティと巡り合えたのはまさしく天運という他ない幸運によるもの、組織に関しては作り上げた事はもちろん、人を率いるような立場になった事もない。総合力で競った時十氏族にさえも比肩しうる影響力を持つにまで至った反帝国のカリスマにして商国の英雄、強欲竜団団長ファヴニル・ダインスレイフとリベラーティに雇われる一介の傭兵に過ぎないラグナ・ニーズホッグとではどちらに軍配が上がるかは火を見るよりも明らかというものだろう。
「そんな男でさえも帝国という
実際にはダインスレイフは破格と言えるほどに惜しいところまで行っていた。審判者がその慧眼を以て駆けつけていなければ、ほぼ確実に帝国最強の
だが、結果を見れば先ほどセシルが述べた通り。完勝した帝国がわざわざ怨敵は惜しいところまで自分たちを追い詰めたーーー等と伝えてやる義理も義務も道理もなく、当然の如く帝国はファヴニル・ダインスレイフの死を帝国打倒に固執した愚か者の末路として派手に喧伝している。
そしてその事実にダインスレイフの心はともかく、有していた力を認めざるを得ないラグナとしては少々身につまされるものがあるのだ。
ーーー「俺は真実本気で駆け抜けて此処まで来た。そんな俺の本気でさえ未だに
かつて告げられたダインスレイフの言葉がラグナの脳裏で否応なしに蘇る。そうファヴニル・ダインスレイフは軍事帝国アドラー打倒のために真実手段を選んでいなかった。そんな様に嫌悪を抱いたからこそ、ラグナはダインスレイフに一定の敬意を抱きながらも隔意を抱き師と呼ぶ事を厭うた。その上で自分は必ずや怨敵を討ち滅ぼすのだと心は猛り続けている。無理無茶不可能、そうした道理を総てねじ伏せて必ずや成し遂げてみせると誓っている。
だが同時に猛る心とは別に頭は冷静に告げてもいる。真実手段を選ばず文字通り己が総てを捧げるが如く帝国を打倒しようとしていたダインスレイフでさえも敗れ去ったのだ。にも拘わらずそんなダインスレイフに総合力で劣っている自分が果たして本当に手段をえり好んでいる余裕があるのかーーーと。
そうラグナ・ニーズホッグはきっと心のどこかで期待していたのだ。意志の力は不可能は可能にするのだと。大国に比すればちっぽけな存在である個人でも本気に成ればそんな大国の支配を揺るがすことが出来るのだとファヴニル・ダインスレイフが証明してのける事をーーー今まで出会ってきた人間の中で最も破格の男だと心の奥底で認めていたが故に。
しかしそんなラグナの期待がかなえられる事はなく、突きつけられたのはどこまでも
ーーー関係あるか。あの男と俺たちでは挑む相手も条件も何かもが違う。俺たちは必ず勝つ。
だがそんな冷静な思考を燃え盛る心がすぐさま塗りつぶす。
ーーー挑んだところできっと碌な末路にはならない、だから復讐など止めよう
ーーー良いじゃないか、兎にも角にも自分と幼馴染だけでも生き残ったのだから
という
必ず勝つ。必ず勝つ。この人ならば必ずや成し遂げるーーーそんな信頼を抱いたまま制止すべき時に制止が為されずに破滅した集団など古今東西枚挙に暇がない。今回アドラーに挑み敗北して壊滅した強欲竜団もその一つと言えよう。
故にそうした末路を目の当たりにして、それを自らの身に置き換えて教訓とする冷静さを宿しながらも、止めるという選択肢だけは決して浮かばない
「そうね、正直なところ私もダインスレイフがここまで一方的に敗北するとは思ってなかったわ。彼の後援の筆頭だったミツバなんて特に大慌てでしょうね。個人的にはざまあみろと思わないでもないけど、このままの勢いでアドラーがまた侵攻をかけてきたらうちとしても困った事になる以上、他人の不幸でのんきに蜜を啜ってもいられないもの」
喉元に刃を突きつけられた形になったとはいえリベラーティの治める地へと侵攻をかけるには軍事帝国アドラーは地中海を越えねばならない。陸に於いては最強を誇る帝国も海に於いては陸ほどではない以上、現時点では侵攻のリスクはまだ低めと言える。しかしそうした道理をねじ伏せてきたのが
「帝国との和平についてはどうなんだ?確か向こうの総統から一度はこっちにその話が持ちかけられていたんだろう?」
「ええ、そちらは幸いな事に大方纏まりそうよ。向こうの総統も完勝したからもっと条件吊り上げるみたいな欲をかかずに以前と同じものをそのまま提示してきたから。反帝国の急先鋒であったダインスレイフが見事なまでに完敗した事で流石にもう帝国とやり合おうだなんて主張する奴はほぼほぼ消えたわ。軍を動かして他国、まして常勝でこそなくなったものの未だに最強と名高い帝国と真正面からやり合うーーーなんてのは元々うちの流儀じゃないしね」
アンタルヤ商業連合という国、及びその中枢に位置する十氏族たちは当然のように武力を保有している。武力という後ろ盾を無くした権力者や利権がこの新西暦に於いて如何に脆いものなのかを良く理解しているが故に。だが軍隊などというものはいつの時代も金食い虫。動かすだけで金はかかり、命を落とす事になる兵士も半導体技術が使い物にならなくなり旧暦のような機械による大量生産が出来なくなった新西暦に於いては貴重な人的資源。出来るだけ浪費するのを避けたいというのは
停戦と引き換えにいくつかの利権を手放し、帝国にはこれまで商国が牛耳っていた経済圏に食い込まれることとなったがそれもまた致し方なし。セントローマを治めていたグランセニックが実質的に帝国に吸収される形となり、さらにミツバも壊滅的な損害を受けて、このままやり合い続ければ明日は我が身と成りかねない以上、自分達が同じ目に遭う事になる前に
「そう、帝国は間違いなく今の時代に於いて最強の国だわ。商国に於いて最強と謳われたダインスレイフをも粉砕する程に。だからこそ、そんな国を味方に出来たら最高に頼もしいと思わないかしら?」
獰猛なる肉食獣を想起させるような笑顔を浮かべながら告げられたセシルの言葉にラグナは虚を突かれる。
「出来るのか?門外漢の俺でも以前までならともかく今の総統の方針がそっちの方に向いていないという事はわかるぞ」
現総統タツヤ・奏・アマツの方針は明らかに親カンタベリーと言うべきものだ。長年の係争地であったプラーガの領有がカンタベリーに帰する事を認め、今回商国との和平を為す際も聖教国へと仲介を求めるという聖教国の顔をある種立てる真似をし、トドメとばかりに当人は由緒正しきアマツの当主。巷では英雄の落日は聖教国と組んだ現総統が起こしたものだなどという風説も飛び交っている程だ。とても神祖滅殺の同志と成ってくれるとは思えない存在であった。
仮に現総統ではなく帝国内にいる反聖教国の有力者へと接触しても意味がない。その場合その有力者と現総統の間で方針を巡り対立が生じて、そしておそらく現総統が勝つだろう。プロイシア攻めに失敗した直後ならともかく一連の勝利と終戦を以て現総統の声望が増す事は政に疎いラグナにとて理解できる。商国の首脳部を出し抜いて見せた現在帝国の頂点に君臨している傑物にそんなものまで加わって太刀打ち出来るものがいるとも思えない。
「表立って方針を変えて貰ったり帝国の全面的な協力を得るなんてのはまず不可能でしょうね。でもそこはまあ表に出せない暗部を抱えているのが国というもの。要は向こうの投資に対して補って余りある利益を私たちが示せば良いのよ」
ここにリベラーティは動き出す。神祖滅殺という千年に及ぶ一族の悲願を果たすために。
当作は基本主人公が統治者視点なのでそういう視点で以て話が紡がれていきます。
つまり当作における神祖滅殺とは大国同士の暗闘であり、悪党と悪党の喰らい合いです。巻き込まれた犠牲者であるリチャード・ザンブレイブにはどちらも非難する権利がありますが、タツヤ・奏・アマツに神祖を非難する資格は全くありません。彼もまた軍事帝国の総統が務まるような立派な大悪党であり畜生です。
高潔で立派な英雄の戦友であり後継者としての側面にスポットが当たったのが前章までで今章ではそんな彼の持つ冷酷さにスポットが当たっていく予定です。
次回は歴史に残るスメラギ教皇、奏総統、そして商国のドンであるマドロックと帝国との和平を積極的に推進したリベラ―ティ当主がプラーガの地に集って為される歴史的な調印式典をお送りする予定です。戦争が終わり平和な時代が幕を開けますよ!