イメージとしては総統が頂点に君臨しており、その下に並立する形で軍部と行政府が存在しているんだと思います。で、英雄の落日で総統が急逝した事で軍部を束ねているゾディアック隊長の合議制が事実上の総統代行になったと。この辺から考えるにアドラーにおける総統は軍部の代表という側面が強いんでしょうね。
アンタルヤは各十氏族が実質的には各々独立した国に近くて軍事協定を強固に結んでいる版EUみたいなのをイメージしています。
今回の話ですが気が付いたら過去最長になってしまいました。
その日アドラーでは行政を担う各省庁の長たる8人の大臣*1、そして軍中枢を担う6人の大将*2が総統によって招集される帝国最高会議が開催されていた*3。
まさしく政軍の双方におけるアドラーの中枢と言える14人が招集されるこの会議では当然のように
何せ集まった者達は皆有能でその大半が祖国を愛し、国を良くしようという志を抱いた者たちなのだ。方針が一致すれば何も問題ないが、3人集まればその時点で派閥が出来るという言葉が示すように人間というのは数が増えれば増えるほど意見を統一させることが難しくなるものである以上、十人以上も集まれば意見の食い違いや方針を巡った対立が発生するのは半ば必然というもの。まして各省庁を束ねる大臣達は多くの部下を抱える組織の長とも言えるのだから、これで意見の対立が生じない方が組織としてはよほど不健全というもの。
かくしてこの会議が開かれたという時点でアドラーのトップである総統は各々の分野においては自分を上回る識見を持つ部下たち*4の意見に耳を傾け、その中で国家にとっての最善と思われる判断を降し、それを部下達に理解させ納得させるという心が弱いものであれば心労で倒れるような難行*5が約束されたわけなのだが……それにしても今回開かれた会議の荒れようはここ数年の中でもダントツと言えた。
「不滅の不死者神祖……俄かには信じ難い話ですが……」
新たな友邦と成ったリベラーティから齎された衝撃の真実。曰くカンタベリー聖教国はかつて星辰研究の第一人者でありながら第二太陽に取り込まれる事無く地上に取り残された不滅の神祖が実験場なのだという情報とリベラーティはその滅殺を望んでおり、そのためにアドラーの協力を求めるという依頼は当然のようにアドラー上層部へと大きな衝撃を齎した。
「確かにな。だが状況証拠で言えば確かに揃ってはいる。諸君らも一度は疑念を抱いた事があるだろう、カンタベリー聖教国は何故ああも安定しているのか……と」
そうカンタベリーという国は安定している。余りにも安定しすぎているのだ。時折名の知れた貴族が反乱を起こす事こそ起こったもののそうした反乱は忠勇なる騎士団によってあっさり鎮圧されて終わるのが常。国体そのものを揺らがすような大規模な反乱など建国の功臣エドワード・ヘイルウッドが突如として起こしたものなど、建国初期の多くに集中し、それ以降は数える程度しか起こらず、新西暦でもっとも安定した平和な国、それがカンタベリー聖教国なのだ。
「新体制を構築するために何かの参考になるかと思い調べてみても、血統派時代の我が国の違いといえば政の長が教皇、軍部の長が総代騎士と明確に別たれている程度のもの。我が国よりもさらに厳格な身分制が敷かれており、そこから教皇と総代騎士が輩出されているという点ではシステムそれ自体にそう大差はない。極東黄金教の教義が貴族階級の腐敗を抑制しているといっても本当にそれだけで国が安定するというのであれば我が国の血統派のお歴々もあのような事になりはしなかったのだからな」
カンタベリーに生きる者であればそれこそが大和の加護なのだと素朴に信じる内容も、この場に集いし必要とあらば平然と
祖国をより良き国にするためにと学び努力し続ける事を厭わぬ勤勉な者達であればこそ、新西暦でもっとも平和で安定していると評判のカンタベリー聖教国の
そして学べばこそ気づくのだ、アマツを頂点とした身分制が敷かれている諸国とカンタベリーに然したる大きな違いなどないという事に。一体何故カンタベリーのみがこれほどまでに安定し、貴族階級の腐敗が抑制しているかに対する答えが
無論違和は所詮違和、疑惑とさえ呼べない心の引っ掛かり程度のもので終わるのが関の山だが、神祖の存在を知った途端にそれら抱いていた違和は急速に解消されどこか腑に落ちる想いを抱いたのも事実。この場に集いし者達が余りにも荒唐無稽な内容故に未だ半信半疑ながらも半分は信じているのはそれが大きな要因ではあった。
「そして我らの新しき友人となったリベラーティはその悪逆なる神祖を討ち果たすために我らアドラーの助力を求めてきた。無論ただというわけではない相応の見返りを彼らは提示してきた。それこそ軍より選りすぐった精鋭部隊を一つ彼らに貸し与えても十分と思える程のな。だがその上でこれが重大な懸案を孕むものである事もまた事実。故に諸君の意見を聞くべくこの会議を開いた。積極的な討議に期待する」
配布された資料、そこに記載されているのはリベラーティが今回の計画に協力した場合の報酬。大国であるアドラーをして莫大と思えるだけの見返りがそこには用意されていた。そしてリベラーティ側が掴んでいる神祖とその配下である使徒の情報と彼らが望外の幸運によって巡り合った
「まず基本的な部分から確認させて頂きたいのですがそもそも何故リベラーティは神祖滅殺等と大それたことを目論んでいるのですか?一族に利益を齎すのであれば悪魔や親の仇相手だろうと平気で握手をして見せる存在、それが商国の十氏族と小官は認識しておりました。神祖という不滅の存在が聖教国には君臨しており、彼らは非道なる人体実験を行っている。そしてその神祖に反旗を翻した最初の使徒こそがかのエドワード・ヘイルウッドであり、リベラーティの始祖その人である。たったそれだけの理由で滅殺を目論む程に彼らが義侠心に溢れている等とはとてもではないが思えません」
リサルディ大将の発言はリベラーティとの会談の際にその場に居合わせなかった者達の代弁であっただろう。アンタルヤ商業連合という国がどういう国なのか、そこで君臨し続ける十氏族が如何なる存在なのか、彼らはいやというほどに知っているのだから。
「無論リベラーティが神祖を滅ぼさんとするのはそのような綺麗な理由ではない。彼ら自身にも仔細はわからないとの事だが彼らリベラ―ティはどういうわけだか生まれた時から神祖を殺したくて殺したくてたまらないらしい。遠い昔に死んだはずの先祖の最期の瞬間とその時に抱いた憎悪と殺意。それが生まれながらに頭の中で繰り返され続けるのだとーーーそうブリアック殿は仰っていたよ。「この呪いから解放されるというのならそれこそ全財産をつぎ込んだとしても全く惜しくはない、それが我が一族の総意なのだ」と、数多の戦場を駆けた私でさえも気圧される程の迫力でな」
今回の計画を実行するに際してリベラーティは一族が抱える情報総てを打ち明けた。出し惜しみなど一切なし。何せこれは千年待ち続けた末にようやく訪れた好機なのだから。下手に隠してアドラーに疑念を抱かれてそのチャンスをフイにしてしまっては悔やんでも悔やみきれぬというもの。だからこそリベラーティは本来ならばあり得ないような破格の対価をアドラーに提示し、包み隠さず総て打ち明けたのだ。生まれた時から蝕み続けてきた呪いと決別できるその時が来るのを夢見て。
「そこにいる漣大将がそうであるように人の意識と意識を繋げる
「承知いたしました。では総統閣下のおっしゃられた事を前提としたうえで発言させて頂きます。小官といたしましては今回のリベラーティの提案は断固として断るべきだと考えます」
どこまでも堂々とした態度でフリッツ・リサルディは告げる。その瞳には胸を張り正道を歩んできた者が宿す情熱の炎とそれを律する理性が宿っていた。
「結局のところ彼らリベラーティが言っているのは誇りある帝国軍に金を払うから彼らの狗に成れと、つまりはそういう事でしょう。窮地にある友邦を救うための援軍ならばいざ知らず、よりにもよって聖教国の教皇や総代騎士を始めとする要人の暗殺などと……そのような畜生働きに部下を送り出す事は断固として認められませんな」
「小官もリサルディ大将に賛同致します。彼らの提案に乗るという事はつまり我ら軍事帝国アドラーは教皇暗殺の片棒を担ぐという事。当然そのような事実を表に出すわけにはいかない以上、兵士達を我ら帝国とは一切関係のない商国の傭兵として送り出す事になるでしょう。それはつまり兵達を帰還するすべのない片道切符だけ渡して「国のために死んで来い」と言うも同然。私も軍人です、それが我が国の存亡がかかっている危急の事態であれば許容もしましょう。しかし金と引き換えに部下達への責任を放棄するが如き行為は流石に看過致しかねますな」
両大将の語る内容は正論であった。帝国兵として送り出すのであればそれは対外的にもれっきとした帝国軍人。状況が絶望的になれば降伏をする事とて出来るし、捕虜に関する待遇については条約によって保証されている。つまり帝国の上層部は兵士を保護する務めを果たしていると言える状態だ。
しかし今回リベラーティの提案に乗り兵士をリベラーティに貸し出すとなればその兵士達は帝国となんら関わり合いのない反極東黄金教を掲げるテロリストとして扱われる事になるのだ。当然捕らえた兵士達をどう遇するかは完全にカンタベリーの自由となる。もしも捕らえられた兵士達を実験に用いるような非人道的な扱いをされたとしても帝国側としては抗議のしようがない。つまり実質兵士達の身と名誉を保証する責務を帝国の上層部は放棄するという事なのだ。
両大将はアドラーにおける反極東黄金教の最右翼ともいうべき立ち位置ではあるが同時に大将まで昇りつめた人間としては異色と呼べる程に兵士想いの好漢だ。如何にカンタベリーに打撃を与える結果になろうとそのような将としての兵士に対する責務を放棄するが如き行為は彼らの矜持が許さないーーーという事だろう。
「私も両大将の仰る事に賛同致しますな。そのような事余りにも信義に悖る行いだ。露見すれば我が国は周辺諸国の信用を失う事疑いありません。本当にカンタベリーに神祖なる不死者が君臨し、悪逆を為しているというのなら然るべき正当な方法で告発すべきが筋道というものでしょう」
そしてそんな両大将に賛同の意を示したのはエックハルト法務大臣であった。そんな彼に列席者たちは半ば予期していたかのように苦笑めいた表情を浮かべる。基より彼はヴァルゼライドが総統を務めていた時代においてもその拡大方針に真っ向から異を唱えていた筋金入りの硬骨漢。「秩序とは正当なる手続きによってこそ維持されるもの。齎した結果は用いた手段を決して正当化しない」という信条の下、血統派から強く疎まれて改革派に属する身でありながらヴァルゼライドの為そうとしていたクーデターによる政権奪取にさえ反対した生粋の頑固者だ。要人の暗殺などという手段に賛意を示さぬ事は当然のように予想されていた事である。
「で、それを一体誰が信じるのかね?片や自国の領土拡大のためにエスペラントを独占して用いた
そう堅物の正論に対して肩を竦めながら応じたのは諸外国との交渉を取り仕切る漣外務大臣*6であった。自国を
「むしろ私としてはこれらの情報をカンタベリー側に提供する事を提案したいね。そうすれば我らアドラーは名実共にカンタベリーの盟友だ。教皇暗殺未遂を目論んで国際的に孤立したリベラーティからの
「……神祖の行う人体実験を見過ごすと?」
「人体実験などそれこそ商国だってやっている事だろう?
「…………」
悔し気にエックハルトは黙り込む。法の遵守を第一に置く彼はこれまでも幾度となくこうした狡猾な悪党こそむしろルールを悪用する術に長けて断罪をする事は出来ないというジレンマに直面してきた。そしてその度に自らの無力さを実感して悪党の餌食となる無辜の民草を想い悲憤するのだ。
「少々よろしいかな、どうにもリベラーティの提案を跳ね除ける方向で進んでいるようだが財務大臣としてはそれに異を唱えたい。今回リベラーティ側はこちらが支払う事となるコストを十分に上回るだけの利を提示している。外務大臣と法務大臣の仰る露見した場合の国際的孤立は確かに無視し得ぬリスクではあるだろうが、それに対してもリベラーティは十二分な配慮と譲歩を示している。我ら帝国はあくまで選抜した精鋭部隊を貸し与えるだけで良く、それ以上を求めてはいない。そして貸し与えた部隊は我ら帝国とはなんら関係を持たぬ反極東黄金教のテロリストとして処理される。まあ当然聖教国も裏で我らが糸を引いていた事は察するだろうが、決定的な証拠さえ掴まなければその辺りはどうとでもなるはず。友邦としてここまでの誠意を見せたリベラーティを裏切るような真似など、それこそ
淡々としたどこか無機質さを覚えるその声色と鉄面皮そのものな冷たい表情は語られた
「財務大臣殿、その兵士達をテロリストとして送り出すという行為そのものを我らは問題にしているのだ。それは軍としては兵士達への責任を放棄するが如き外道の行い。兵達への責任を持つ身としてそれは到底看過し得ぬ事だ」
「これは異なことを仰る。これまでも我が帝国は国益のために兵士達を死地へと送ってきたではないか。そしてその中には当然最悪の場合は自ら命を絶てと命じる汚れ仕事とてあったーーーそうではないかな朧大将」
「否定はせんよ。我らが行ってきたことの中には決して表沙汰には出来んような国家の暗部に属する行いも含まれていた。当然部下を命と引き換えにしてでもこの任務を遂行せよと送り出す事とてあった」
「そうだろうとも。そして我ら帝国は残された遺族に対して確かな補償という形で功労者の奮励とその命と引き換えにした国家への忠節へと報いてきた。ならば問題あるまいよ。此度の事もそれと同様だ。両大将が気に病むような事ではあるまい」
暗にこれまでも散々やってきた事だろうに何を今更善人ぶっているのかという皮肉が込められたその言葉にクリンガーとリサルディは忌々しそうな表情を浮かべるがその憤激を心の中で抑え込む。怒りに振り回されないだけの強固な理性が両大将には備わっているが故に。
「それはあくまで戦時中の話だ。今は違う、戦争が終わり大陸には平和が訪れた。それを徒に乱すような真似をすればせっかく取り戻しかけている諸国からの信用がまた地に落ちる事をこそ私は問題にしているのだよ」
「片手で握手しながらもう片方の手で短剣を隠し持っておくのは国同士の関係の常。そこを上手くやるのが貴方の仕事というものではないかな漣外務大臣」
私はこなしてきたぞそうした無茶振りとしか言いようがない難行をなと暗に聞こえてくる実績を背景にした無茶振りに漣外務大臣は流石に閉口させられる。
「何も神祖が人体実験を行ってきた事を告発し、それを諸国に納得させろなどと言う無理難題を言っているわけではない。ただ単に我ら帝国とは何ら関わり合いがないテロリスト共が教皇暗殺、あるいは暗殺未遂という凶行を為した際に事実無根の疑いをかけられたのならばそれを上手く躱して欲しいとそう言っているだけだ。それさえ出来ればリベラーティの提案に乗る事へのリスクは実質0に等しくなる、違うかね?」
「作戦が神祖を全員殺す完全成功を収めるか、あるいはそもそも完全に失敗して終わるのならばそれでいいだろうさ。前者ならばカンタベリーは統制を取る者を失い相応の混乱が生じてこちらへの報復どころではなくなるだろうし、後者ならばそれこそ表ではしらを切り、裏で相応の詫びを行えばそれで済む事なのだからね。
だが、もしも教皇スメラギの暗殺にだけ成功したなどという中途半端な成功を収めてしまったらどうするのかね?神祖が千年を生きた不死者で人間離れした冷酷さを持った存在というのは理解したが、それもあくまで彼らにとってはいくらでも代わりの効く駒を失った場合の話だろう。千年もの間苦楽を共にした同胞を失った彼らが激情に駆られて報復行動を取らぬ保証はどこにもない」
そうアドラーの上層部は結局のところ神祖の事を伝聞でしか知らないのだ。ならば当然それを考慮に入れないわけにはいかない。もしも仲間を失った神祖が激情に駆られてこれまで行ってきた影に潜み密かに計画を進める手法をかなぐり捨てて堂々と表舞台に姿を現す手段を用いたら?その上でアドラーへの報復行動を取り出したら?第一世代型魔星を越える程の性能と不滅の肉体を持った神祖の進撃をアドラーには止める手段がない。なにせ総代騎士グレンファルトはかつてたった一人でかすり傷一つ負わずに
「何その場合は私が責任を取りこの首を差し出すとも。不遜にも神に弓を引いた愚者としてな。彼らとて統治者なのだ。ある程度の落とし前をこちらが用意すればそれで矛を収めるだろうさ」
そしてそんな懸念を払拭するべくギルベルト・ハーヴェスはまたもや喜んで泥を被ろうとする。それこそが今の自らに課せられた責務に他ならないとどこまでも保身とは無縁の献身を示すのであった。
「逆に言えば漣外務大臣の仰った懸念、それこそがそのまま彼らが存在する事に対する最大の問題なのだよ。そう我が帝国は現状彼ら神祖が野心を露わにした時それを止める術がない。そして彼らには自国の国民を実験台にしてまでも成し遂げたい大望が存在する。それを座視して放置するのは余りにも危険というもの。だが漣大臣の仰る懸念も無論理解している。我が国が表立って神祖滅殺を行えば諸国の信用を失い、最悪の場合アドラーは完全に孤立した状態でカンタベリーとの戦争状態へと突入しかねない。
だからこそ我らはリベラーティを
不敵に笑いながら朗々と告げられるギルベルトの言葉に我が意を得たりとばかりリヒテンシュタインは微笑を浮かべ、クリンガーとリサルディは思案するような表情を浮かべ、漣外務大臣とエックハルト司法大臣は渋面を浮かべる。
「リベラーティから齎された情報により神祖滅殺のために何が必要となるかも粗方推測は出来ている。そしてそれをなし得る存在と技術についても粗方見当がついている。後はその推論が本当に正しいのかを実証するのみ。そうして実証が済めば後続を用意する事も十分に可能となるだろう。どうかな?神祖が何を為そうとしているかは今以て不明ではあるが、十分な
不明とは言ったが実のところギルベルトとタツヤには神祖がやろうとしている事は粗方予想がついている。かつて世界を救おうとした高名な
「加えて長年君臨し続けた神祖の中から欠員が出たとなれば当然相応の綻びが生じるでしょう。その綻びに乗じて彼らの研究成果なりを奪取する事が出来れば我が国の研究もより発展する可能性は高いかと」
ギルベルトの発言にアオイ・漣・アマツも続く。正義を為すためではなくどこまでもアドラーの国益という観点に基いて。
「しかし総ての国民が等しく人としての権利を有する事こそが前総統閣下の御意志であり、我が帝国の拠って立つ基盤でもある。それを如何に国益に沿うからとはいえ容易く投げ捨てるようではそれこそ国民を実験台にしている神祖と変わらないのではないかね」
理屈はわかる。しかし人として譲ってはいけない一線があるのではないかとラウディッツ民政大臣が渋面を作りながら発言する。基より彼は絶対権力を握ったヴァルゼライドが国民の権利の擁護と向上に尽力したその姿勢に誰よりも心服し、同時に彼が影で聖戦を推し進めていた事に誰よりもショックを受けた男。国のためという公人として正しき理屈は時として偉大な英雄にさえも道を踏み外させる悪魔のささやきにもなり得るものだと考えるが故に反論を投げかける。
「志願者を募ります。包み隠さず本作戦の意義と意味、そして誇りある帝国軍人ではなく反極東黄金教のテロリストとして命を落とす事になるという事を総て。迂遠な搦め手含めて事実上選択肢がなく頷くしかないーーー等という強制染みた真似は一切致しません。その上で民政大臣殿にもわかって頂きたい、我々軍人には死に場所を求めている者もいるという事を。祖国のために残された命を使い切って死にたいと願う愛国者は確かにいるのですよ」
「そうした者達が安心して社会に復帰して生きられるようにするのが我々の役目ではないかね」
ギルベルトの言葉になおもラウディッツは食い下がる。しかしギルベルトの言葉はラウディッツに向けたものでありながらもその狙いはラウディッツにはなかった。彼の発言の狙い、それはリサルディとクリンガーの両名にあった。それが証拠に思い当たる節があるのだろう、両名の作戦に対する反発はもはや会議が始まった当初程ではなくなっていた。戦場を駆け抜け多くの部下を持った彼らにはわかるのだ。そうした想いを抱く者達の事が。
「民政大臣殿の仰る事もわかります。しかしながらーーー」
「だからといってーーー」
応酬される正論の嵐。ギルベルトとラウディッツだけではない、会議に参加した者達は各々の観点から意見を発し続ける。それらの中にリベラーティに買収された、神祖の息がかかっているーーー等という
「ーーーどうにも平行線ですな。どうでしょう、もう各々粗方意見は出し尽くしたと思いますがどうにも全会一致というわけにはいかない様子。こうなった以上は総統閣下の御決断を伺う以外にないと思いますが」
朧国務大臣の言葉に一同頷く。そうこれこそがトップの存在意義。人間の意見というのは早々完全な一致などみない以上最終的な決断を降す個人か、あるいはシステムが必要とされるのだ。そして軍事帝国アドラーは未だ改革の途上。最終的な決断と責任は総て頂点に立つ総統に委ねられる。
「皆の意見聞かせて貰った。漣、エックハルト、ラウディッツ、貴殿らの懸念は十分に理解した。国際的な孤立、国益の為という正しき理屈に基く権力の濫用と暴走。小事と切って捨てるなど決して出来ぬ重大な懸念だとも。だがその上で私はリベラーティの求めに応じたいと考える」
エックハルトとラウディッツの両名が渋面を作り、漣外務大臣は半ば予期していたように肩を竦める。
「千年を生きた神祖、これをこのまま座視し放置するのは余りにも危険。気がついた時にはカンタベリー国民だけではなく我らアドラーもまた彼ら神祖に生殺与奪を握られた状況に成り下がる危険がある。かといって我ら単独でそれを為さんとするのもまた危険。ならば友邦であるリベラーティがそれを為さんとしている今はハーヴェス大将が述べた通りに千載一遇の好機。いつまでその手を握り続けるかは情勢次第だが、少なくとも今は固い握手を交わすべき時と判断した。異論のある者は?」
最後の言葉は問いかけを装った事実上の命令であった。余程耄碌したり狂ったとしか思えない決断を降すようであれば諫めなければならないが相応の道理に沿った判断をトップが降し、それに異を唱えるようではいつまで経っても話が纏まる事などありはしないのだから。
「ではこれにて本会議を終了とする。各々の引き続きの祖国に対する尽力に期待する」
その言葉と共に一同は起立して最高責任者へと敬礼。かくてアドラーはリベラーティの友邦として神祖滅殺のために突き進む事が決まるのであった。
本編中でも解説を入れたけど以下当作のオリキャラであるアドラー首脳部の紹介。
長い(全部で2300字位に成った)ので興味がない人は読み飛ばして頂いて結構です。
☆タクマ・朧・アマツ国務大臣
チトセネキのパッパ。父親(チトセネキにとってはお爺様にあたる先代天秤隊長)及び娘とは違い荒事方面の才能はからっきしだったため政治方面で国家に貢献しようと文官になって気がついたら改革派の中核の一人(娘であるチトセネキが閣下と手を組んだためそのまま自動的にそうなった)となりあれよあれよという間に新体制でも当然のように要職を務めて個性豊かな大臣共の調停役をする羽目になっていた文官におけるアルバートのおっちゃんポジ。図抜けた才は持たない(化け物みたいな天才の群れになっているこの時代のアドラー上層部比)が誠実な人柄の持ち主。多分原作でも軍部との調整やらで死ぬほど苦労している胃痛役ポジの想定。何やらお互い通じ合うものがあったのかアルバートのおっちゃんとは個人的な親交が出来つつある模様。チトセネキとアオイちゃんは従姉妹らしいので多分このパッパの嫁さんがアオイちゃんの叔母とかそんなん。
☆レイ・漣・アマツ外務大臣
アオイちゃんの伯父。姪とは正反対の享楽主義者。真面目な秀才タイプが多い漣の異端にして放蕩児。若い頃は諸外国を留学という名目で遊び歩き、その時に作った上流階級の遊び友達があちこちにいてそいつらが重要なコネクションの一つに成っている。女好きであちこちに愛人がいる。ただ権力で強引にモノにするみたいなのは面倒な事になりやすいし女が泣いてばかりで「楽しくない」事になりがちなのでそういうのはしないと一線は弁えている。スラム出身者が総統になり、各国の上流階級と縁戚関係にあった血統派の面子を粛清して、国際的に孤立していたアドラーの諸外国に対するパイプ役を一身に担っていたやり手。ヴァルゼライド閣下に協力したのは別段改革の志を共にしたからではなく時代の流れがそちらにあると感じて漣の一族が閣下に協力する事に成ったからであって、血統派時代は血統派時代で「別に俺は嫌な思いしてないし」の精神で構わなかった男。地の文で有能の部分はみんなが対象だったのに「祖国を愛し、国を良くしようという志を抱いた者」については大半という形容になったのは大体こいつのせい。国を良くしようという志はあんまりないが国を愛する心がないわけではない(自分が良い暮らしが出来るのはアドラーという国があるからだという自覚があるので)
☆エックハルト法務大臣
堅物という言葉の体現者みたいな真面目オブ真面目な口を開けば正論しか言わない男。ルールが服きて喋っているみたいな奴(漣外務大臣談)。ヴァルゼライド閣下が総統を務めていた時も真っ向から閣下の拡大方針に異を唱えてヴァルゼライド批判を行っていた硬骨漢。そのため閣下を崇敬する者達からの怒りと憎悪を買ったが、当の閣下本人はむしろそんなエックハルトを極めて高く評価し尊敬の念さえ抱いていた。エックハルト自身もそんな自らへの批判を容れる度量を持った閣下を公人として尊敬していた。でもそれはそれとして批判の手はまるで緩めない。それこそが公人としての礼儀であり自分の責務だと思っていた。
法の番人の鏡と言うべき人物だが政治家としてはいささか潔癖過ぎるので閣下みたいなそういう正論屋を高く評価してくれるタイプがトップじゃないとあっさり粛清されるか失脚するタイプで実際に血統派時代には危うく濡れ衣着せられて殺さされるところだったのを閣下やチトセネキやお兄様に助けられた。聖教国に生まれていたらほぼ確実に粛清される(その有能さゆえに神祖の存在に勘付いて当然のように告発しようとするので)。お兄様も高く評価しているが同時にその潔癖さに対して(そんな正論ばかりで国が回るなら苦労はしないんだよ)といささかうっとおしく想い始めている。妻や子供を持てば私情が混じってしまうという考えから独身を貫いている。生活は極めて質素で手にした財の大半は寄付しているという公僕の鏡みたいな奴だが部下に対してそれを押し付けるつもりはなく、部下が結婚記念日とか子どもの誕生日だとかの時には出来る限りその部下が休めるように、あるいは早めに帰れるように取り計らう配慮を見せる。国の事も民の事も心から愛しており、愛国心でいえば多分閣下にさえ引けを取らない。独裁権力の暴走に歯止めをかける議会開設と憲法の導入を強烈に推進している。
☆リヒテンシュタイン財務大臣
大臣の中の紅一点。女は情緒的のような雑にくくった言説がただの偏見に過ぎない事を示す生きた反例。改革派に身を投じた理由は曰く血統派時代の経済体制は余りにも無駄が多くて「美しくない」からというもの。他者との情緒的な結びつきにまるで価値を見出さずにただただより効率的で美しい経済体制の構築に生涯を捧げている実務家。多分カンタベリーに生まれても神祖への反発は特に見せずに淡々と神祖から与えられた仕事をこなしてその生涯を終えていたタイプ。
☆ラウディッツ民政大臣
ヴァルゼライド閣下の総統就任に伴い新設された民政省のトップを務める事に成った初代大臣。国民の権利の擁護と向上に努め、民と国に総てを捧ぐ勢いで働いていた滅私奉公の体現者であるヴァルゼライド閣下の姿勢に心服し国民の権利の向上に精力的に務めている男。エックハルト法務大臣とは公私を越えた長年の盟友で共に議会開設と憲法の導入を推し進めている。ただしエックハルト程に滅私に徹する事は出来ず愛妻家でも知られている。この人は糞眼鏡の事が嫌いだが糞眼鏡はこの人の事が好き。
他3人は現状未定。