水面下で動き出した神祖滅殺の計画。それと同時にタツヤ・奏・アマツは以前にも増して聖教国との友好に努めだした。何せ神祖滅殺と銘打っているもののやろうとしている事は今代の教皇と総代騎士を含めた聖教国の要人の暗殺計画なのだ。当然明るみに出てしまえばようやく改善の兆しが出てきたアドラーの国際的な信用というものは地に堕ちる。確実に生じるであろう疑惑をその時に根も葉もない風評に過ぎないと断じるためにも自らと教皇スメラギの蜜月を演じておかなければならなかった。
「子どもというのは良いものですな、奏殿。我ら大人が囚われてしまう多くのしがらみから自由で、いとも簡単に友人になれてしまう。時折羨ましく感じる事さえあります」
そう事はアドラーという国の大事、ならばこそ国を守るためとあらば時として大事な家族とてそのために利用しなければならない時がある。聖教国との友好の演出、そのためにタツヤ・奏・アマツは自らの家族を連れてのカンタベリーへの表敬訪問を行っていた。ただの表敬訪問であれば自分一人あるいは妻であるシズルを連れた二人で事足りるところを未だ10歳になったばかりの子どもまで連れてきたのには無論理由がある。
「いや全くです。ああして無邪気に笑う我が子を見るとどうにも自分が歳を取った事を実感すると共に子どもの頃には確かに抱いていたはずの大事なものをどこかで落としてしまったような気になります。はてさて一体どこで落としてしまったのやら」
すなわち古来より家と家、ひいては国と国をも結びつける常套手段である政略結婚を行うための下準備のために他ならなかった。前回の調印式典で交流を深め、酒を飲み交わし、友人同士となった総代騎士グレンファルト・フォン・ヴェラチュールと表向きは和やかな談笑を行う今や汚れた大人の筆頭というべき立ち位置になってしまったタツヤにとってみれば、この晩餐会を主催する欅家の子ども達と打算などなく純粋に交流を深める我が子らの姿は余りにも眩しく映るものであった。
「何を仰いますか、奏殿はまだまだお若い。それに幼き頃に抱いていたものを今も大事に持っていらっしゃる。そうでなくばこうして我らがこの場で談笑する事はなかったのですから」
「そう言って頂けるとこちらとしても有難い。多くのすれ違いから始まった悲劇こそありましたが、今後は貴国とも善き友人同士で在りたいと私も思っています。そして次代を担う事になるあの子たちがその架け橋となってくれるのであれば、父としてこれ以上の喜びはありません」
「全く以て仰る通りです。私も、そして教皇猊下も遺恨を引きずる事無く子ども達には平和をこそ残してやりたい。そして叶う事ならばその平和がずっと続いて欲しい。国を越えて結ばれた友誼や愛情こそがその要となるはずです。こうしてかつて殺し合った我らが、今は友として笑い合えるようになったのですから」
「ええ全くです。平和は何よりも尊い、スメラギ教皇猊下が仰っていた事をああして無邪気に笑い合う子ども達の姿を見ると実感します。そしてあの子達の笑顔を守っていくのが指導者である自分の役目なのだとも」
すらすらと語る言葉に嘘はない。如何に千年の経験を持つ怪物相手でも心を読めるわけではない以上見破れる余地はないはずだーーーとそう認識しながらも心のどこかが常にない緊張をしている事をタツヤは感じていた。千年生き続けた存在と言えど全知全能には程遠い、それは聖教国内部に潜む内通者の存在やリベラーティの真意を見抜けていない事からも明らかだったが、それでも油断等出来ようはずもない。
成人後何もかもが掌の上だと言わんばかりに弄ばれた経験などタツヤ・奏・アマツにとっては目前の男を相手にした時が唯一。自らの意識してなかった何気ない所作からこちら側が水面下で進めている計画を見破ってくる恐れがある以上リラックス等出来ようはずもなかった。
(とはいえ同時に過度の緊張もまた逆に要らぬ警戒を買い、そこから勘付かれる恐れもある。あくまで自然体を装わねばな)
そう問題はない。自らの真意を隠して表向きの友好を装う等かつて血統派を装っていた際に散々にやった事。血統派の面々と目前の男を比較した場合役者が違うにも程があるが、副総統時代にも部下達に隠しながら水面下で聖戦を推し進めるという事もやっていたのだ。この手の腹芸は数少ない
そうして再び我が子らの方に視線を向けると
「おや、先ほどからご子息がこちらを見ておりますな。どうやら御父上に話をしたい事がある様子。行ってあげた方がよろしいかと。私は後回しにして頂いて一向にかまいませんので」
「ありがとうございますヴェラチュール卿。それではお言葉に甘えさせて頂きます」
一礼を施し赴いた先、そこには緊張と期待に胸を膨らませた我が子らがいた。
「あ、あの父上。トウカちゃ……欅の子が屋敷を案内してくれると言っていてその……」
「すまなかったな、ミチカツ、ヨリイチ。すっかり大人同士での話し合いに夢中になってしまっていた。こういう場所はまだお前達にとっては退屈なだけだろう。
優しく微笑みながら告げられた父からの許しにその場にいた子ども達は一様にその顔を輝かせ、会場を飛び出していく。
そんな子ども達の様子を一様に優しく微笑みながら見送る会場内の人間の中で唯一複雑そうな表情を浮かべている妻へとタツヤは苦笑を浮かべながら声をかける。
「微笑ましい友情じゃないか。そんな複雑な表情を浮かべるようなものではあるまいに」
「わかってはいるんだけどね……でもあんなに小さかったあの子達がもうそんな年頃なのかって思うとやっぱり複雑なのよ。貴方だって息子じゃなくて娘なら私の気持ちがわかったんじゃないかしら?」
「父親は娘の、母親は息子の結婚に往々にして複雑な心境になるとよく言われているからな。だがその割には俺と君の結婚の時の母上はさして複雑そうな様子もなく乗り気だったように思えたが?」
「それはそれだけ私が頑張ったのよ。お義母様にもちゃんと祝福して貰えるようにね。あなただってアシュレイ君とナギサちゃんの結婚を認めたのはアシュレイ君がちゃんと頑張りを見せたからでしょう?」
「なるほど、つまり認めるかどうかは相手の頑張り次第というわけか」
「ええ、そういうこと。もっとも、当人たちが本気になっちゃったら親がどれだけ反対したところで焼け石に水なのが私たちアマツだけどね」
アマツの者は愛情が重く深い、これは新西暦におけるある種の常識だ。
しかし同時にアマツが貴種として君臨する以上家の都合に基いた縁談ーーー政略結婚もまた当然のように存在する。
そして政略結婚とは当人達の意志よりも家の都合が優先されるからこそ政略結婚と呼ばれるものなのだが、火のついたアマツにそれを押しつけた結果駆け落ちした等という事例もまた枚挙に暇がない。
これに頭を悩ませたアマツの当主達が解決のために用いたのが、幼少期から互いの結婚候補となる子ども達を巡り合わせて自然と交流を持つように誘導するという手法だ。
いくら教育を受けているとはいえ十やそこらの年齢など当然まだ子どもと言って良い。そんな子どもが堅苦しい晩餐会等というものに出席しあいさつ回りをするような行為を楽しめるかと言えば当然否だ。
そんな最中に同年代の子どもと巡り合い、堅苦しい晩餐会を抜け出して一緒に遊ぼうと誘われれば、それはこの上なく魅力的に映る。
かくして晩餐会が終わる頃には余程当人たちの相性が悪くない限りは子ども達は自然と一緒に遊んだ友達となり、屋敷を離れる事に名残惜しさを見せるようになる。
そうなればお膳立てをした大人達にとっては理想的な流れと言って良く、屋敷の当主はしばしの滞在を勧めて、出席側の当主もその言葉へと甘え、子ども達は自然な形で同じ時間を共有した事で親交が芽生え、いざ正式な縁談が持ち上がった時も反発が薄くなるというのが新西暦の貴種の政略結婚に於いてのある種のマニュアルだ。
だが当然マニュアルはマニュアル。人の心は理屈ではない以上計算通りに行かない事など当然五万とある。だがそれでも
「そうだな、あの子達が聖教国との友好の架け橋になってくれればいいと俺は願っているがそれはあくまで俺の願い。最終的に決めるのはあの子達自身だ。俺の方から強制をするつもりはない。あの子達が法により俺の跡を継ぐ事を義務付けられているのであればそうも言ってられないところではあったがな」
「正直ね、昔の私は貴方がどうしてそこまで必死に国を変えようとしているのかわからないところがあったの。立派な事をしているというのは理解できても、なんでそこまでするんだろうと思っていた。でも子ども達の成長を見守る様になってわかったわ、貴方はあの子達がそうやってできるだけ自由で生きられる国にしたかったんだろうって」
果たして自分はいつまでこうやって理解のある優しい夫、父として振舞えるだろうかーーー妻と談笑しながらタツヤの心に過ぎったのはそんな想いだ。
千年を生きた神祖、それはタツヤ・奏・アマツをして格上と評さざるを得ない難敵だ。今回の計画で四柱の神祖、その総てを打倒出来るとはタツヤは思ってない。
基準値状態のグレンファルト・フォン・ヴェラチュールに発動値に移行した帝国最高峰のエスペラントである自らが軽くあしらわれた経験はタツヤの記憶に深く刻み込まれている。
総代騎士という地位にある事からもグレンファルトが神祖の中でも特に武芸に秀でた立場なのは確かだろうが、他の三柱、そして第一軍団団長ウィリアム・ベルグシュラインもまたそれに匹敵するだけの力を有していると見ていいだろう。
そして皇都クルセイダイルは神祖の完全なお膝元である以上、向こう側は旗下の騎士団はいくらでも動員する事が出来る。
これほどに不利な状況では如何に帝国の誇る勇者ジェイス・ザ・オーバードライブと言えど首尾よく運んで一柱仕留めるのがやっとーーーそれがタツヤを始めとする帝国軍上層部の予測であった。
そう、神祖との戦いが今回のみで決着がつくとはタツヤを始めとする帝国上層部は全く思ってない。
むしろ今回の戦いはあくまで長きに渡る戦いの前哨戦、軍事帝国アドラーは貴様らの存在を知り同時に貴様らへと届き得る刃を手に入れたのだと神祖側に知らしめる
リベラーティという
そのような状況で政治・外交という場でタツヤ・奏・アマツは神祖と渡り合っていかなければならないのだ。果たしてそのような状況で家族への配慮などという
ーーー神祖という難敵の存在を知ったあの日から、どこか高揚している自らの心を自覚するが故に。
仕留められて一柱という予測はジェイス・ザ・オーバードライブの実力を正当に評価すればこそです。
これがジェイスじゃなければまあ使徒の誰かを仕留めて終わりちゃうか?位の予測になります。何せ皇都クルセイダイルは神祖の完全なお膝元ですから。
リベラーティ君のお金で神祖滅殺をやって、神祖四柱の内一柱を仕留める事でうちにはその気になればテメェら殺せる力があるんだからな?と圧をかけるのがアドラーの基本プランです。
四人がかりで国をずっと束ねてきていた中で一人欠ければその支配に多少は綻びが生じていくはずだという見込みもあります。