むしろその真逆でギルベルトは自身が考える最善と思われる方策はお兄様にガンガン提案してきます。
その提案をするかどうかを決めるのが最高指導者であるお兄様の責任なので。その上でお兄様の降した決定には絶対服従して文句ある奴にカーッぺする理解のある都合の良い彼君がギルベルト・ハーヴェスという男です。
カンタベリーの表敬訪問は滞りなく完了した。自らの家族を引き連れて帝国の最高指導者であるタツヤ直々の訪問は、新生アドラーを自分達の立場を脅かす脅威と認識していたカンタベリー貴族達の態度の軟化を確実に促した。子ども達もお膳立てをした大人達の期待通りにその親交を深め、友人同士となり、いざアドラーへと帰還する際には常にない駄々をこねて親を困らせた。
「ちゃんと良い子にしていたらまた連れてきてあげるから、ね?」
そう言いながら困ったような笑みを浮かべる母の様子に最終的には渋々といった様子で折れ、互いに手紙を書く事を約束する形で最終的には折れたのであった。
「如何されましたかな総統閣下?」
「……いや、何でもない。公事とは関係のない埒もない感傷に少し浸っていただけだ。報告を続けてくれハーヴェス大将」
そう埒もない感傷だ。果たしてこうして水面下で
今ここにいる自分はミチカツ・奏・アマツとヨリイチ・奏・アマツの父タツヤ・奏・アマツではなく軍事帝国アドラー第38代総統である以上優先順位の最上位に置くべきは帝国の安寧と繁栄に他ならない。そこを混同して私情を以て公事を歪めるような事があれば、それこそ何のために
軍事帝国アドラーの最高指導者である総統が優先しなければならないのはあくまで
「では続きを。ジェイス・ザ・オーバードライブ大佐を第2世代魔星とする計画は滞りなく完了。基準値、発動値、その双方において顕著な上昇が確認され、また躯体そのものの強度と頑強さも想定通りの上昇を確認。
予定通りにリベラーティからの支援を受けながら商国の地にて誕生した反極東黄金教を掲げる人工進化論提唱団体
またこのフルメタルギガースへと現総統の方針を兼ねてよりよく思っていなかった者達が軍を出奔して合流。その中にはかつて第九北部征圧部隊
どれだけ入念に偽装をしようがバレる時にはバレる。増して今回の計画の要となるジェイス・ザ・オーバードライブは北部の撤退劇とファヴニル打倒で名を馳せた男。下手に隠し立てをしてしまってバレた時にこそ、それはより重大な帝国の信用問題へと繋がる事になる。
上手い嘘のつき方は真実の中に嘘を混ぜる事。故にフルメタルギガースの首魁となるジェイス・ザ・オーバードライブが帝国軍に所属していた男である事は速やかに公表してしまう。その上で故大総統を信奉し過ぎた余り現総統へと不満を抱くようになり激発した結果の行動として表向きはもはや公的には帝国とは関わり合いのない脱走兵として処理してしまう。そうして先に自国の脱走兵が被害を与えている事への陳謝を行ってしまえば、逆に聖教国側もそれ以上の責任を追及し辛くなるというわけだ。
「そうしてジェイス・ザ・オーバードライブという象徴たり得るリーダーを手に入れた事でフルメタルギガースはそこらの木端団体をものともしない一大勢力へと成長。
帝国と聖教国の蜜月関係を良く思わない十氏族からの支援も相まってついには皇都を強襲するまでに至るーーーというわけだな」
「はい。第二世代の魔星となったオーバードライブ大佐には帝国の技術の粋が投じられており、当然技術流出の懸念がありますがこちらはある程度はやむ得ないかと。手土産の一つ程度なければ聖教国としても納得しがたいでしょうから」
「こちらでもオーバードライブ元大佐抹殺と捕縛の為に天秤を派遣する用意があるがその場合はオーバードライブ元大佐の身柄をこちらへと引き渡して貰う旨を了承してもらうーーーとそんなところだろうな。
そうすれば帝国の最新技術欲しさも相まって自分達の方で処理すると聖教国の側から申し出る可能性が高まるーーーもっともそれを抜きにしてもこちら側の兵士をみすみす懐へと招き入れる可能性は低いだろうがな」
ある程度のリスクと代償、それは今回の計画に於いてどうしたとて呑みこまなければならない部分だ。何の代償も支払わずに大事を為し遂げられる程この世界は甘くないのだから。故に最高指導者として考えるべきは如何にすればその代償を国家が許容できる範囲で収める事が出来るかだ。
ジェイス・ザ・オーバードライブという勇将の命、帝国の国際的信用の低下、最新技術の流出、それだけのコストを支払って首尾よく行って神祖一人を仕留められるかどうかなど本来であれば採算が見合っていないにも程があるが、今回に限ればリベラーティという出資者にしていざという時のスケープゴートがいる関係上太陽神の誇る、人を駒とみなす命の計算式を搭載した、その冷徹なる頭脳は
「……オーバードライブ大佐を筆頭に本計画にて帝国の為にその命を捧げる勇者たちの遺族にはくれぐれも不自由をさせないよう手厚く報いるように」
どこか淡々としていた様子とは打って変わって目を伏せながら紡がれたその言葉には隠そうとしているがされど隠しきれない確かな後ろめたさが宿っていた。
当人たちの同意は得た、そこに誘導や強制を決して挟まぬように留意した、それは確かだ。だがそれでも結局国益のために正規戦とは異なる畜生働きで使い捨てるという罪は消えないのだ。
「御意」
「それとこの計画が実行に移されればオーバードライブ大佐は公的には脱走兵となる。奥方一人にはせめて真相を伝えておいた方が良かろう。当人が望むようであれば保護プログラムの適用対象とする用意がある事も伝えておくように」
「本計画は国家の暗部にあたるものです。真相を知る者は最小限に留めた方が良いと愚考しますが」
「オーバードライブ大佐の細君もかつては軍に属する身だったと聞く。帝国と軍の名誉を貶めるが事を濫りに吹聴したりはすまい。むしろ真相を秘めたままの方が逆に不信を買う危険性の方が高かろう」
「御意。であればそのように取り計らいます」
その後も両者の間で計画の進捗状況の確認が行われ、それらが済んだところで不意にギルベルトはある献策を行いだす。
「総統閣下、本計画自体は順調に進んでおりますが最大の問題はやはりオーバードライブ大佐を失った後我が帝国は神祖を打倒し得る切り札を喪失するという点にあります。
神祖滅殺をなし得るという試算が
ここはやはりそれ以上の力の獲得を視野に入れて動き出すべきかと」
「
「はい無論存じております。しかし、あの時と今とでは状況が大きく変わりました。いえ正確を期するならば状況は何も変わっていません。ただ我々が余りにも無知だった事が白日となったという表現になるでしょうか。
閣下が勧めんとしている議会制の導入、それは国家の長期的な存続という観点では確かに寄与するかもしれませんが、同時に千年を生きた不滅の不死者等という存在を相手にする事を考えれば自分で自分の手足を縛りつけるようなもの。
一度導入してしまえば様々な手練手管を以てこの国を骨抜きにかかる事でしょうーーーかつて血統派を相手にそうしたように」
ギルベルトの指摘は正しい。このアマツが貴種として君臨する新西暦に於いてカンタベリー聖教皇国が持つ影響力は余りにも絶大だ。平治へと移行するという事はすなわちそれだけ軍部の発言力は低下していくという事である。
帝国が保有しているエスペラント運用のアドバンテージもやがては消滅していく事を考えれば仮に不滅の神祖なる存在がカンタベリーにいる事を指導者層に伝えて行ってもその討滅の為に軍を動かすなどという事はまず出来なくなるだろう。
今でさえ、リベラーティの存在があってようやく黒字の見込みが出たというありさまなのだから。
「ならば私の地位を血統によって我が子らに継承するか?それこそ論評にも値しない。一体我らは何の為に戦ったのだと誰も納得等すまい。
かといって総統制等という超人が君臨し続ける事を前提としたシステムがいつまでも上手く行くはずもない。議会制の導入とそれに伴う権力の分散、これこそがアドラーの長期的繁栄にとってはベターな選択だろう。
神祖には確かに警戒を払う必要がある。だが神祖に気を取られ過ぎて国体を揺るがす方こそ本末転倒というものだろう。我らが第一に置くべきは国家の繁栄と安寧にこそある」
「閣下の方針は理解しているつもりです。されど神祖を軽視する事もまた危険かと。凡そ最高と言って良い権力をその手に収め、その気になれば自国を覇権国家とする事も可能であっただろう不死者達が自国民を実験体にしてまで目的とするものが何かなど自ずと明らかなのですから」
すなわちかつて自分達も行おうとしていた第二太陽の掌握。世界法則すらも書き換える事が出来るであろう新西暦の王冠をその手にする事に他ならずそれを座視して良いのかと。
「そんな事はわかっている。だからこそオーバードライブ大佐という勇将を本作戦に投じる事にしたのだろう。
第二世代魔星となったオーバードライブ大佐の力は今や私や貴官、そして帝国最強と名高い朧大将すらもともすればしのぎ得るものとなった。
加えてリベラーティ側が用意した切り札もある。必ずや相応の戦果を齎してくれる事だろう」
常ならず語気の強さで以てタツヤが応じる。それは目前の親友が語る事が的外れだからではない。むしろその逆タツヤも思い至った事実だからに他ならない。
「私もオーバードライブ大佐の力は存じております。彼ならば必ずや相応の戦果を齎してくれると期待し確信しておりますが同時に最悪の場合も想定しなければなりますまい。すなわち彼の力をしても神祖を一柱も討ち取れなかった場合の事を」
「……その場合もカンタベリーがこれまでの外交方針を突如として変更して帝国との全面戦争を臨む可能性は薄い。そう判断できればこその今回の計画だ」
「はい、ですがそうならぬ保証はどこにもありません。無論その場合はこの国を守るため喜んで私がこの首を差し出す所存ですが、最大の問題は彼らがそうして変心した時に打倒する術が今の帝国にはないという点にこそあります。
オーバードライブ大佐のような逸材が偶発的に生まれる事を期待する等というのは余りにも運任せというものでしょう。であるのならば、今こそ
「極晃の研究自体はあの変事以降アクエリアスで続けられている。そこに割く予算を増やせという事か?」
「それもありますがこの際倫理的な制約は一時的に取り払うべきかと。スフィアの獲得に神の金属である神星鉄が必要となる事自体は明らかなのですから。後はそのサンプルを増やしていけば自ずと解明に近づいて行く事。逆に言えば倫理的な枷が設けられた状態では埒が明かぬというものでしょう。無論総ての責任は私が取る所存です。エックハルト殿らからの糾弾は甘んじて受け容れましょう」
保身とはどこまでも無縁の様子でギルベルト・ハーヴェスは己が上位者と仰ぐ人物へと提案し、決断を促す。総ての泥は自分が被る、貴方はただ許可を出してくれるだけで良いのだと。
「……ハーヴェス大将、貴官の言にも確かに一理ある。貴官のその忠節も嬉しく思う。だがそのやり方で私たちは既に一度失敗した。やるにしても本作戦が失敗したその後改めて最高会議にてその是非を問う形とする」
「閣下、そのやり方ではエックハルト法務大臣を筆頭に強硬的に反対する者が出るでしょう。敵との戦いに於いては巧遅よりも拙速こそが往々にして勝る事、他ならぬ閣下であればご存知でしょう」
「理解しているとも。その上で拙速を以て決める事は余りにも危険だという第38代総統としての判断だ」
捧げられる無私の忠誠、それに臆する事無く堂々とタツヤは返す。それはかつてギルベルトが心より敬愛した人物とは大きく異なる判断であったが
「仰せのままに総統閣下。閣下がそう御決断されたのであれば小官としても異論は御座いません。小官如きの愚考に閣下の貴重なお時間を頂いた事、大変申し訳なく思っております」
あっさりとギルベルトはそれを受け容れる。私情を以て公事を歪めたのであればギルベルトとしても強く食い下がり諫めるところであったが、タツヤの降した判断が第38代総統という公人としてのものである事が確認できた以上ギルベルトとしても異論はない。いや異論を差し挟む事などあってはならないのだ彼の奉じる信念に従えば。
「いや貴官の言にも考慮すべき理は多数あった。今後も臆する事無く献策を行って欲しい。その上でどうするかを決めるのが私の役目だからな」
それを理解しているからこそ太陽神もまた審判者を信頼している。独断による暴走さえなければこれほど頼もしい臣下はまずいないと強く確信しているが故に。
「勿体なきお言葉。それでは失礼いたします」
そうして一礼を施したギルベルトが退室するその間際に
「
投げかけたのはタツヤの心の中にある迷いが浮き出たそんな問い。
そうタツヤ・奏・アマツは第38代総統として神祖を放置する事が危険と判断した。
それは自国民さえも生贄にする冷酷なる不死者にこの世界の覇権を握らせる事を座視するのが余りにも危険と判断したが故だが、果たしてそれがこの世界の未来を拓くための行いだったらどうするのだろうか?
今の世界は閉塞している。第二太陽は世界を存続させたが同時に自民族を贔屓した事でアマツは圧倒的に優位な地位を確立した。そして自分達が自国の為にと世に出したエスペラント技術はそれをより一層に加速させてしまうだろう。
何せ第二太陽の恩恵を受けた者と受けてない者の差がわかりやすすぎる程に瞭然なのだから。それを打破するためには世界の法則そのものを一度書き換える他ない以上、タツヤ・奏・アマツは神祖のやり方こそ否定すれどもやろうとしている事そのものが本当に否定出来るものなのか判別がついてない。
いややり方とて否定する資格などないだろう、何せかつて聖戦の成就の為に行っていた第一世代魔星の開発、アレとて死体を用いていたにしても人体実験には変わらず無辜の民草の命を奪うこととて数えきれぬ程にやったのだからーーーただそれが帝国の為になる判断したが故に。
「君の言わんとしている事は理解しているつもりだ、友よ。腐敗した血統派のお歴々、そして各国のアマツと比較すればカンタベリー聖教国は代々概ね善政と言って良い統治が敷かれてきた。それはすなわち神祖は決して暴虐なだけの統治者ではないという事。
より良き未来を作らんと邁進し続ける彼らの姿勢には正直私は好感と共に敬意さえ抱いているよ。手段こそ非人道的であれど彼らが一体どのような未来を作り上げんとしているか、機会があれば一度聞いてみたいものだ」
ギルベルト・ハーヴェスにとっての侮蔑の対象、それは自らが出来ないまま出来るようになろうと努力さえしないままにただ徒に相手の誤りばかりを指摘する卑劣な弱者に他ならない。
故に長年カンタベリーという国に君臨し、犠牲にしてきた以上のものを国へと齎し続けて、さらにより良き未来を作らんと邁進し続けている神祖は当然のように敬意を払うに値する存在となる。
「私がカンタベリーに生を受けていればそうしただろう。彼らの目指す未来、それを傾聴しその上で我が全霊を捧ぐに足ると判断すれば喜んでこの身を捧げた事だろう。
だが私は軍事帝国アドラーで生を受け、君や閣下と出会い、総統である君からの信認を受け大将という高位をいやしくも頂いている身だ。ならばこそまずは挑んでみる他あるまい。
その結果彼らの作ろうとしていたものが正しき未来であったにも関わらず我らがそれを閉ざす結果になったというのであれば、その罪業を胸へと刻み込み、より良き未来を我らの手で作る事で報いるのみ、そうだろう?」
そんな当たり前の事を今更一体問いかけるなんてどうしたんだらしくもないーーーとでも言いた気にギルベルト・ハーヴェスは爛々とその瞳を輝かせながら彼にとって疑う余地など一切ない正しき理屈を堂々と語る。
「……そうだなお前の言う通りだよギル。犠牲が生じてでも為すと決めた以上、それに報いる術などただ一つ。“勝利”をこの手に掴む事。それのみだ」
内に燻ぶっていたであろう迷いを断ち切ったのだろう、発せられた宣誓はどこまでも雄々しく。その両眼に出会った頃から変わらぬ情熱の炎が燃え盛っている事を確認し、ギルベルトは微笑を零す。
ああ、そうだ。それでこそあの方の後継だ誇るべき我が友タツヤよーーーと。国家の要職にある者の、
「そう、世を動かし得るだけの器や力を持った傑物達程皮肉なことにその宿痾へと陥る。いやそれを以て彼らを責めるのも酷というものだろう。何せこれは人が人である限り逃れられぬ宿痾であり、それを超克したものをこそ人は聖者と讃えるのだから」
すなわち自分の大切なもののためであればどうでも良い他人は殺してしまえる事、こればかりは人という種が有史以来共にしてきた人類の持つ業そのものなのだからーーーと。
「ならばこそ作らねばならぬだろう。誰もが幸福になれる世界、第二太陽の頸木を越えた
他者がいるからこそわかり合う喜びがあり、同時に殺し合いが発生する。そして後者を誰も望んでいないのだから皆己が運命の相手と巡り合い、その運命の相手と一緒の二人ぼっちの世界に引きこもってしまえばその業から解放されるはずだーーーと。
痛みを伴う出会いの中にも確かに存在した喜びや学び、自身の運命の相手たる半身との間にも多くのすれ違いや痛みがあった事を忘れたまま、あるいは忘れたふりをしながら
神祖滅殺の詳細な内容についてはラグナロクと基本的にほぼ変わらないので端折ります。明確に違う点というとジェイスさんが原作とは異なり閃奏の眷属でない点ですが、その辺はまあ自らの命と魂を燃やす事で絶対剣士を必死に食い止めた、ただしそれと引き換えに人奏による治癒も間に合わず一足先に散っていた部下達の後を追ったと思って頂ければ幸いです。
というわけでいよいよ次話にて神天地が開闢した時のアドラーの様子を描いて、その後にエピローグで当作は完結の予定となります。