【完結】シルヴァリオサーガRPG実況プレイ   作:ライアン

65 / 69
当作は今話にて最終話となります。
終盤辺りはSee-Sawの君は僕に似ているでも流しながら読んでいただけると幸いです。


新西暦に花よ咲け

 

「……というわけでまあ何とかカンタベリー聖教皇国との関係の修復には成功した次第です。とはいえそれはあくまで表向きの話、教皇暗殺の主犯が我が国の脱走兵という事で当然ながらも遺恨と疑惑は盛大に燻ぶっている状態ですので総統閣下に置かれましてはくれぐれもご留意の程を」

「そうか、苦労をかけたな外務大臣」

()()()()()()。今後は我々の労苦に少しでも想いを馳せて出来る限り穏健的な対外政策を取って頂ければ幸いです。それでは失礼いたします」

 

 去り際に告げられた外務大臣からの余りにも当然の()()に苦笑をしながらタツヤは提出された報告書へと目を通す。

 神祖滅殺(ラグナロク)は完遂された、四柱の神祖総ての討滅というこの上ない形で。

 万を超える魔星の軍勢を前に覚悟を定めたアドラー上層部だったが、待てども待てども魔星が帝都へと到達する事はなく。訝しむ上層部へとやがて齎されたのはヴィレンシュタインからの健在を示す報告。

 当然のようにわけがわからず混乱状態に陥ったが兎にも角にも情報収集をせねばならないと方々を駆けずり回ってみれば、盟友であるリベラーティから齎されたのは四柱の神祖総ての討滅に無事成功したという報告。

 それはまさに帝国が救われた事を意味する吉報に他ならず僥倖と呼ぶ他ないものではあったが、そこでめでたしめでたしのハッピーエンドとはいかないのが現実というもの。

 状況証拠から考えて教皇スメラギ、総代騎士グレンファルト、大和秘跡省長官オウカ・鳳・アマツ、第一騎士団団長ウィリアム・ベルグシュラインといった聖教国の名だたる要人を誰が殺したのかは余りにも明白というもの。

 フルメタルギガースの首魁は帝国の脱走兵だったのだから今回の一件は帝国が裏で糸を引いていたのだーーーという見事なまでに真実を捉えた憶測が市井の間では流布し当然のように世論は沸騰。帝国への疑心を抱く聖教国側とあくまで帝国とは既に関わり合いがない脱走兵の犯行でありこちらからの救援を拒否したのは聖教国側である以上責められる謂れはないと主張する帝国とで、当然のように両国の関係は急速に悪化。下手をすればこのままあわや開戦という状況に陥ったが、此処で帝国の最高指導者であるタツヤ・奏・アマツは亡き友の弔問のために聖教国を訪問したい旨を堂々と表明。皇都クルセイダルにて亡き教皇スメラギを涙を流しながら悼む演説を行い、居合わせた民衆たちに向けて頭さえ下げてのける行為を敢行。尊き貴種(アマツ)の血脈がそこまでしてのける様は極東黄金教を奉じる聖教国であればこそ確かな効果を発揮。冷静になれば未だ新西暦に於いて最強と呼べる軍を保持し有能極まりない最高指導者の下で団結している状態の帝国を軍・政・文の最高責任者を失ったばかりで体制が動揺している状態の聖教国が正面から激突して勝てるはずもなく、帝国側がかつてのような強硬的な態度を取らずあくまで和解をこそ求めている状態では周辺諸国の支持を獲得するのも難しく。結果当然のように聖教国の世論は分裂し、最終的にはフルメタルギガースが聖教国に与えた損害を帝国がいくらか補填する形*1で決着を見たのであった。

 

「……心苦しいものだなアル、国家に対する最大の功労者を表向きは大罪人として扱わねばならぬというのは」

 

 ジェイス・ザ・オーバードライブは教皇スメラギを筆頭とした聖教国の要人を暗殺した最悪の破壊魔(テロリスト)としてその名を歴史に刻む事になった。聖教国だけではないアドラーでも彼は大罪人として歴史にその名を刻まざるを得ない。

 故クリストファー・ヴァルゼライド大総統が何故英雄足り得たのか、そのもっとも大事な部分を履き違えた愚か者として。本当は彼こそが帝国を救ったというのに。そんな想いを傍らにいる親友へと吐き出さずにはいられなかった。

 

「そう……だな。正当化するための理屈はいくらでもあるし、結果的に見れば正しかったとそう言えるはずだ。ジェイスの奴抜きで神祖共が倒せたとはとてもじゃねぇと思えねぇからな。けど……それでも、いやだからこそ堪えるよな。名誉というせめてもの報いさえアイツとアイツの家族に与えてやれねぇってのは」

 

 本来国の為に戦い死んだ者には無数の栄誉と名誉で以て報われる事となる。当人が死んでいるのに報いも何もないではないかーーーという見方も当然存在するかもしれないが、それでも遺族にとってみれば自らの家族が死後も罵倒されるのと立派な人だったと讃えられるのとどちらがまだ心が軽くなるのかという話である。ジェイス・ザ・オーバードライブと彼の家族にはそれを与えてやる事が出来なかった。彼は強欲竜の討伐によって余りにも有名になり過ぎてしまったが故に。フルメタルギガースの首魁という立場を演じるに際してその経歴を偽装するのは余りにもアドラーにとって危険だと判断したが故に。文字通りアドラーという国に彼は総てを捧げた、いや捧げさせたのだタツヤ・奏・アマツが。

 

「こんな事を数百年もの間ずっとやってきたわけか神祖は。まともな神経など失って当然だろうな。神天地というゴールで以て終わりにもしたくなるだろうさ」

 

 リベラーティという盟友を通して齎された神祖が為そうとしていた神天地という目的。それを知った時にタツヤが神祖へと抱いた感情、それは憐憫だった。

 

「誰でも必ず運命へと巡り合って極晃へと至れる世界……か」

「総ての人類を救おうと思えば確かにそれ位しか手はないだろうと思える手段だよ。誰もが幸せになれる程にこの世界は優しくない。今この瞬間も泣いている誰かはいる。それは今の時代だけじゃない、今よりも物質的にははるかに豊かであったエネルギー資源枯渇に悩まされる前の旧暦であっても同じだったはずだ」

「……そうだな。もしも俺がクリスの奴に出会う事が出来ずに、ずっとスラムにいたままだったらって思えば奴らのやろうとしていた事を全否定する事は出来ねぇよ。ただだとしてもやっぱり俺はそんなすんなりとは受け容れられねぇよ。

 だって誰でも運命に会える世界と言えばそりゃ聞こえはいいが、逆を言えば運命の相手と二人っきりで引きこもるだけの世界って事だろ?俺にとって運命の出会いと言ったらクリスになるんだろうが、アイツにとっての運命はきっと俺じゃなかった。最終的にはカグツチの野郎と俺たちの手の届かねぇところまで逝っちまいやがったわけだしな。だからといってアイツにとって俺は無価値な存在だったのか?いいやそんなはずはねぇ。俺は結局アイツと真の意味で対等にはなれなかったのかもしれねぇ。それでも確かに俺とアイツはダチだったんだ。それがお互いの運命の相手になれなかったから無意味や無価値なものだったなんて言われたって俺はとてもじゃねぇが()()出来ねぇよ。

 正直に言えばテメェは一体何様のつもりだと言ってやりたい気分だね」

 

 温厚と言って何ら差し支えのない人格の持ち主であるアルバート・ロデオンは憤懣やるかたない様子ではっきりと告げる。そんな親友の珍しい様子にタツヤはそっと苦笑を零して

 

「そうだな。俺も同感だよアル。おそらく(シズル)(ナギサ)も俺にとっては共に極晃へ至る存在ではない。未だ極晃の何たるかを完全に理解したわけではないがその実感が俺にはある。俺の見ている景色と彼女たちが見ている景色は根本の部分で違うからだ」

 

 自分とその周囲だけではない、国という大きなものをより良き未来に進ませる為にはどうしたら良いのかという事を真剣に考えそれを実現させるべく努力するような人種であればこそタツヤ・奏・アマツはギルベルト・ハーヴェスやクリストファー・ヴァルゼライドの友足り得た。

 ではタツヤの愛する家族がそうしたタツヤと同じタイプであるかを考えれば答えは明確に否だ。シズル・潮・アマツもナギサ・奏・アマツも根本的な部分では家族や身近な人をこそ大切に想うただ名家に生まれただけの愛情深い普通の女性なのだから。一般的に見て夫や兄が「正しい」とされるような事を為している、為そうとしているという事を理解しそんな夫と兄を誇りに思う事こそ出来ても根本的な部分で共感出来ているとは言い難い。極晃へ至らしめる己が人生の答えをタツヤと共有するには至らないだろう。

 

「だがそれでも俺は妻を愛している。妹を愛している。俺に愛を注ぎ育ててくれた両親を愛している。子ども達を愛している。たとえ俺と見ている景色が根本の部分では違っていたのだとしても共に過ごしてきた時間に嘘はなかったとそう信じている。極晃に至れぬ間柄だと言ってそれが無意味等と断じて思いたくない」

 

 そう私人としてタツヤが第一に抱いた想いはまずそれだ。アルバートと同様の極晃に至れる関係性ではなくとも無数の大事な繋がりが自分にはあり、それらがあったからこそ今の自分があるのだという想い。ならばこそ神天地を認め難いのだという私人としての感情だ。

 

「故にどうしても此処から語る内容はそうした俺の認め難いという感情が先行した後付けの理由となってしまうが、やはり極晃等というとんでもないものを無数に生み出して本当に大丈夫なのか?というのが統治者としての忌憚ない意見だな」

 

 かつての自分達に対するブーメランとなって返ってくるであろう点。それを重々承知の上で逆にその経験があればこそ見えてくるものもあるとタツヤ・奏・アマツという私人としてではない軍事帝国アドラー総統として神天地への論評を行い始める。

 

「世界そのものを高次元化させる事であらゆる法則を共存させるから問題ないと言ってもまるでピンと来ないというのが本音だ。

 無論神祖は旧暦と新西暦双方合わせて最高峰の研究者達、当然理論面での手抜かりはないのだろうが実証段階において理論を裏切るような事が往々にして起こる事こそが科学だという事は門外漢である俺でさえも知っている事だ。

 いざ実行してみたら神祖の想定外が起こらないという保証も、その想定外が発生した際のリカバリーが神祖達に可能な範囲である保証もどこにもない。神祖が無謬でも全知でも全能でもない事はこうして討伐された事で示されたわけだしな。

 ……まあこの辺りはかつての俺達自身にもブーメランとなって返ってきてしまうところではあるんだがな」

「総てアイツに背負わせた丁半博打、そんなものを善しとしてどうするのかーーーいや全く今思い返すと本当にぐうの音の出ない指摘だったな。流石は裁剣女神(アストレア)と言う他ねぇ」

 

 そう神天地の欠陥としてそこを突くのであれば必然的に第二太陽の掌握を最終目的とした聖戦、かつてクリストファー・ヴァルゼライドと共に為そうとしたそれもまた同様の世界を賭けのチップに載せた博打だったではないかと言われればタツヤ達には返す言葉もない。

 理論上は完璧であったそれも第二太陽という今の世界の命綱に干渉するという大博打である事には変わりなかったのだから。

 

「こういう言い方は不謹慎極まりないんだろうが……アル、俺は楽しかったよ。第二太陽の掌握という国を変えるに留まらない世界の未来そのものを拓くという大業に邁進しているあの時間が。アイツとならばそれが為せると心の底から信じていた。勝利が、栄光が、齎す結果がーーー過程(犠牲)を正当化するのだとそう信じていた。

 ならばこそゼファー・コールレインという()()()によってアイツが討たれた時俺は正直まるで納得出来なかったよ。国の為に未来の為に民の為に誰かの為に、自らが傷つく事を厭わず一度たりとも責務を投げ出す事無くその身に背負い続けた男が、何故そうした責務から逃げ出した男に敗れねばならぬのだとこの世の不条理さを呪いさえした。それこそが世界であり、俺達が他者に対して強いてきたことだと頭では理解できても心が納得していなかった」

 

 積み重ねた勝利という業からは誰も逃れられない?バカな、ならば何故十氏族等という悪党共が商国でのさばり君臨し続けている。この世界に本当にそのような法則があるのならばどう考えてもそうした報いを先に受けねばならぬ悪党は無数に居るだろう。

 そもそも英雄を打倒したゼファー・コールレイン本人とて多くの罪を重ねている罪人だ。なのに何故そうした不条理をこそ是正せんと歩み続けた英雄だけがその業を糾弾されねばならぬのかーーーと英雄と共に歩み続けた朋友であればこそタツヤは納得し難い思いを抱いた。

 そうした納得し難い終わりをこそが真に罪に対する報いと呼ばれるものなのだろうと頭では理解していても心が納得出来なかったのだ。タツヤ・奏・アマツにとってクリストファー・ヴァルゼライドは誇るべき盟友にして()()であったが故に。

 タツヤ・奏・アマツは生まれながらに出来る側の人間であり、大事のためであれば小事を()()()()()()()()()()()であったが故に。英雄譚を否定する闇側の主張を理解する事は出来ても共感する事も納得する事も出来なかったのだ。

 

「ギルの奴を否定出来ようはずもない、アイツの語っていた事は俺の心の中にあった想いそのものだったのだから」

 

 親友であるギルベルトだけではない。取るに足らぬ妄言と切って捨てていたダインスレイフの言葉にもきっとタツヤの心はどこか惹かれていた。クリストファー・ヴァルゼライドを滅ぼした側の主張を負け犬の戯言と切って捨てて封殺してしまいたい想いがどこかに存在した。理想以外の総てを大事の前の小事と切り捨てて理想成就の薪にしてしまいたい想いがあったのだ。

 

「お前の前ではさも自分等さして特別な存在じゃないようなポーズを取りこそしたが根っこの部分で自分は特別な存在だという想いが俺の中には確かにあったよ。

 クリストファー・ヴァルゼライドという英雄の跡を継ぎ総統として手腕を振るう程にその想いは強くなっていた。聖教国との同盟という手を以て商国の十氏族共を出し抜く事に成功した際には自分こそがこの世界の主役であるかのような錯覚さえ抱いた」

 

 強固な理性が常にそうした傲慢さを律していた。だがタツヤ・奏・アマツの中には常にそうした己が特別な存在である事の自負があった。それは一概に悪い事でもないのだろう。客観的に見ればタツヤ・奏・アマツは傑物と称されるに足る存在であり、その自覚が良い方向に働いていたからこそ今日のタツヤとアドラーがあるのだから。

 

「だが今回の一件でようやく俺は痛感したよ。それは真の意味での敗北を味わった事がない強者の傲慢ーーー思い上がりだったのだとな」

 

 自嘲とも自虐とも異なるどこか吹っ切れたような笑みをタツヤは浮かべていた。

 

「俺は無謬にも全知にも全能も程遠いただの人間に過ぎない。それを真の意味でようやく実感する事が出来たよ。国をあわや滅亡の寸前に追いやっておきながら自らのあずかり知らぬところでこんな望外な結果を齎されては、流石に悟らざるを得ない」

「神祖四柱の討滅の完全成功……それに地中からの星辰体(アストラル)の結晶体である紅星晶鋼(アキシオン)の大量産出……確かにまさかこんな結末になるとは予想だにしてなかったな」

「ああ、まさか神天地という悲願達成の為に動きながらもそれが打倒された場合の()()()()まで用意していたとは恐れいったよ。このような置き土産を残してくれるとはな。四柱の神祖には心からの感謝と敬意を抱かざるを得ない」

 

 余りにも……直接神祖とぶつかり合った者達であればこぞって神祖(やつら)はそんな殊勝な連中では断じてないと否定するであろう()()()な事をタツヤ・奏・アマツは口にする。

 だがそれも無理からぬことだろう、当人自身が自覚したようにタツヤは全知でも全能でも無謬でもない。表向きの仮面を被った状態の神祖としか接していない彼は神祖の奥底にある真の姿、疲れ果てて擦り切れ果てた老人としての側面を知らない。

 そしてジェイス・ザ・オーバードライブという信頼する部下が戦死した事で彼が入手した神殺しに纏わる情報はリベラーティ経由となった。で、あればこそ神祖に対する評価に対してある種の私情というバイアスがかかっているものと認識して話半分に聞くのはある種当然の事。

 神祖の討滅に至れた理由としておそらく自身の存在消滅と引き換えに怨敵を消滅させる類の極晃に至った者が神殺しの中に居た*2ーーーという点にまではその明敏な頭脳を以て至れたとしてもよもやその存在が他ならぬグレンファルトの分御霊である世界最高峰の頭脳を持つ研究者で世界から消える直前の置き土産として紅星晶鋼(アキシオン)を齎した張本人等という()()に思い至れるはずもない。

 

「確かにな、神天地を散々貶しておいてなんだがこればかりは感服するしかねぇ。

 必ず勝つ。アイツなら必ず勝つ。アイツが負けるわけがねぇーーーそんな信頼と言えば聞こえはいい()()()()で以てたった独りに委ねた丁半博打を善しとして、負けた場合の()()()()なんてものをまるで用意していなかった身としてはな」

 

 タツヤ・奏・アマツとアルバート・ロデオン、傑物と称されるに足る要職に就く両者が余りにも()()()()な敬意を神祖に抱き賞賛するその様は真実を知る者、例えば祖国にその身命を捧げたジェイス・ザ・オーバードライブ辺りが見れば確実になんとも言い難い想いを抱く事となる光景だろう。

 だが同時にそれこそが彼らが人間である事の証左でもあるだろう。人は全知でも全能でも無謬でもないのだから。三人寄れば文殊の知恵と言っても三人の賢者が話し合って導き出した結論が必ず正しいとは限らない。仮にギルベルト・ハーヴェスという帝国軍最高峰の頭脳を持つ者がこの話し合いに加わったとしても導き出される結論は変わらなかっただろう。

 何せ四柱の神祖は大量の翠星晶鋼(アキシオン)を作り出し旧暦文明の再興を為すためにこそ非道な人体実験さえも重ね続けてきた旧暦最高峰の研究者という状況証拠から推察すればそれこそが極めて順当な結論になる故に。

 そして同時にそれこそがやはり神天地の持つ欠陥をそのまま如実に示しているだろう。グレンファルト・フォン・ヴェラチュールは絶対神を自称していても決して無謬なる神ではない。千年もの間歩み続けたただの人間に過ぎないのだ。全人類が極晃へと至る神天地で彼の慮外の出来事が起きる可能性などいくらでも考えられる。そして世界総てが高次元化する等というもはや人間の認知を越えた領域に於いて彼の三次元という低次元下で積み重ねた千年の経験値などもはや何の意味も為さないのだから。

 失敗するかもしれないが大丈夫だ。もしも失敗したとしてもその犠牲を無駄にはせずに()()上手くやって見せるからーーー等という精神性で以て世界そのものを賭けのチップにしようとしている男を総てを統べる()()()()()()()()()世界等理性ある者からの異論と反論が噴出して当然とさえいえる。

 だが、それでも……

 

「……刻みこまねばならんな。祖国の為にその命を捧げた者達同様に俺たちが砕いてきた数多の祈りを」

「……ああ」

 

 そうそれでも、今の世界にもはや希望など持てない程に絶望した者達にとって神天地が救い足り得た可能性もまた否定できない事実だろう。

 世界はいつだとて無情で理不尽で残酷なのだから。軍事帝国アドラーの繁栄と引き換えに轢殺された多くの嘆きが確実に存在するのだから。勝者がいれば敗者が生まれるのがこの世界なのだから。

 

「正直に言えば今尚逆襲劇とやらが掲げるものには納得し難い想いがある。犠牲は出る。必ず出る。犠牲が生まれなかった事などこの世界にはない。それを真に何とかしようとするのであればそれこそ神天地を肯定するしかなくなるだろう。

 そしてだからこそ勝者には背負わなければならない責務があると俺は信じている。そうでなければ容易く社会を秩序を失い混沌の世へと堕する事が目に見えているからだ。その勝者の責務を背負おうとせずに投げ出した者に自らの罪業と向き合えなどと言われても納得し難い想いが俺の中には確かにある」

 

 そうどれだけ物分かりの良い優しい総統閣下をミリアルテ・ブランシェの前で演じていてもそれがまごう事なきタツヤの本音だった。理性はそれを是としていても心の中に耐えず納得し難い想いが燻ぶり続けていた。

 

「だがそれでもその納得し難い想いを切り捨てる事無く受け止める事こそがままならぬ他人が満ち溢れたこの世界を生きるという事なのだろう。指導者として真に民を導いていくために傾けねばならぬ声なのだろう。自らを肯定する心地よい世界だけを望むならばそれこそ気の合う相手とだけで引き籠っていろーーーという話でありそれを為さんとした世界こそが神天地なのだからな」

 

 だが今タツヤはそんな己の中にあった真の本音を自覚してそれをこうして友人に対して吐露する事が出来た。そしてその考えが如何に傲慢であるかを神祖というその傲慢さを矯正する事無く歩み続けた自らの果てを通して真の意味で知ることが出来た。

 そうタツヤ・奏・アマツはようやくクリストファー・ヴァルゼライドの敗北を真の意味で受け容れる事が出来たのだ。理性によって傲慢さに歯止めをかけるのではなく真の意味で自らを省みる事が出来たのだ。

 

「だからアル、これからもどうかよろしく頼む。俺はこれからもきっと多くの間違いを犯す。俺は無謬でも全知でも全能でもない、ただ常人より少々優れたところがあるだけの不出来の人間に過ぎないのだから。俺にはお前達の支えが必要なんだ親友」

「ーーーああ、任せておけよ親友。もしもお前がバカをしでかしそうになったら今度こそしっかり止めてやるさ」

 

 交錯しあう互いの手を通して互いの運命足り得ない両者は確かな友誼を交わし合い、そして肩を並べて歩み始める。

 たった一度の敗北で粉々に砕ける終わりではなく、友から託された祖国を任せるに足る次代へと託すその日を目指して……

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 完全な同時刻に一人の青年と少女がカンタベリー聖教国の異なる地にそれぞれ降り立った。それは本来あり得ざる事だろう。人は突如としてこの世界に出現するわけではない。母親とされる女性の子宮内にて命が芽生え、しかる後にこの世に生まれてくるのだから。どのような英傑であろうと人間である以上そこに例外はないーーーはずだ。

 だからこそ自分達の名前しか覚えていない二人は各々自分は所謂記憶喪失なのだろうという推論を行う。何かショックを受けるような出来事が原因で諸々の記憶を失ってしまったのだろうと。忘れてはいけない大切な誰かが居たような焦燥が心を掻き立てながらも。

 さてこれから一体どうしたものか、どのみちいつまでもこんなところにいたら飢え死にしてしまう。近隣の村を探すなりしないといけないぞと奇しくもほぼ同時刻に空を見上げてみれば

 

「綺麗……」

「なんて……美しいんだろう」

 

 澄み渡るような青空を前にそう感嘆の言葉を漏らす。状況は何一つとして改善などされていないというのに不思議なものでそれだけ二人の心は軽くなる。

 ーーーまあきっと何とかなるだろう。兎にも角にも人がいるところを目指してみようとラグナ・スカイフィールドとミサキ・クジョウ、自身の名前だけを憶えていた二人はそれぞれの道を歩み出す。

 この世界に必ず運命の比翼連理となり得る存在と出会えるよう取り計らってくれる神はいない。故に別たれた二人が必ず巡り会う事が出来る保証は当然ない。

 されど二人は胸を張りながら生きていくのだろう。何故ならば人は生まれながらに運命の番を持ってこの世に生まれるのではない。この世に生まれてきて偶然にも巡り会い、大切だと思えるようになった存在との出会いを後に運命の出会いとそう称すのだから。

 たとえそれが極晃へと到達する事は出来ないものであったとしても、巡り会うその優しさに、重ねた想いにきっと嘘はないのだから……

*1
当然帝国はこの補填に用いるための費用をリベラーティへと請求している

*2
リベラーティ側がそうした切り札になり得るカードを所有していなければ余りにも神祖滅殺の計画がアドラー頼りのものである点とそうした存在がいなければ神祖四柱の討滅までに至れたとは思えない状況証拠からの推察




これにて持てる者の究極にして出来る奴の筆頭、それゆえに強者の傲慢さと冷酷さが同居していた第38代総統タツヤ・奏・アマツが真の意味でその宿痾に向き合い改善する事が出来た特異点のケラウノスも笑顔に見えなくもない穏やかな顔を浮かべているであろうルートの話は終わりとなります。途中作品形式が変わったり長い中断が挟まったりしましたが最後までお読み頂きどうもありがとうございました。
界奏と烈奏という世界全体のためを思えば間違いなく誕生していた方が良いであろう二つのスフィアが誕生していないのでそういう意味では原作以上に綱渡りが予想される世界のわけですが、まあなんとかなるでしょうきっと。
ラグミサが記憶喪失状態での帰還になったのはまあその辺(界奏と裂奏が産まれていねぇので人奏作り出すときのサンプルが原作に比べて足りてねぇ)のバタフライエフェクトの結果と思って頂ければ幸いです。

後は今話の余韻諸々が吹き飛ぶであろう特異点のケラウノスの滅茶苦茶苦い顔しているであろう糞眼鏡とホモニティしてしまうIFルートの構想をのっけって当作は完全に終わりになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。