涼月のいる元泊地に独り取り残された俺は、気まずさと虚しさと心細さを抱え、半分ほど焼け焦げたテーブルに両肘をついて組んだ両手で口元を隠すようにしている。ちなみに椅子はなく、床に胡坐をかいている。椅子は全部壊れていたため、テーブルの脚を涼月がカットして座卓風に仕上げたらしい。
涼月は大人しそうな見た目に反し、DIYは結構いける感じのようだ。
焼け残った執務棟の残骸を彼女(と
その涼月だが、俺の乗ってきた
俺が持ち込んだ
同じく持ち込んだ携行糧食を見て「牛缶やサンマ缶……! 噂には聞いていましたが、本当にあったんですね……」と缶詰類に手を合わせたり。
「あの……
日が落ち切る前に済ませないと……という涼月の言葉に従い、俺と彼女はそれぞれ両手に抱え、レンとソウは器用に
暗い。
俺の先行きではなく、今現在この場所が物理的に。
日が落ち切り、夜空には手を伸ばせば届きそうなほど星が輝いているが、電灯のない部屋はとにかく暗いのだ。
暗いと不平を言うのなら、進んで電気を点けましょう。ポータブルサイズとはいえせっかく
「……明るくし過ぎると……敵に発見される可能性が……高まり、ます」
突然こんな状況に陥った俺の身の上に対してか、戦場にいる自覚が未だ足りない俺自身に対してか、悲しそうな目で涼月が差し出してきたのは……欠けたり溶けて変形したガラスの容器に入った
「今日は奮発、しました! カボチャの煮っころがしと干した海藻を戻したお味噌汁、あとお芋の炒め物です! 召し上がってください!」
涼月がいそいそとテーブルに食事を並べ、俺に向かい合わせで座る。柔らく、淡い光を放ついくつものキャンドルが光の輪を描く薄暗い室内は陰影が濃く、向かい合う涼月をほんのりオレンジ色に染め、同時に輪郭を暗い部屋に溶かしている。
そして彼女は肩をすくめ俺の方をチラッと見ては慌てて顔を伏せる……を繰り返している。俺が箸をつけるのを待ってるのかな? 全て植物性なのはいいとして……奮発してこれって、普段何を食べてるのさ?
「いただきます。……ズズッ……あ、おいしい……」
まずは味噌汁から口を付ける。正直、期待していなかったが、マジでおいしい。海藻の出汁が効いた少し薄味の味噌汁が、疲れた体に染み入る。カボチャと芋に順に手を付けてゆくが、どれも美味しい。うんうんと頷きながらぱくぱく食べ進める俺の姿を見て、涼月は嬉しそうに頬を弛ませると、私も……と食事に手を合わせて食べ始めた。
「煮っころがし、お口に合いましたか。よかった。お醤油とお砂糖の塩梅、後、落とし蓋の扱いがポイントなんです。本当は、お酒と味醂もあるといいのですが」
焼け残った物資をかき集め大切に節約し、野菜類は菜園を作って今日まで暮らしてきたという涼月。落し蓋になりそうな破片はいくらでもそこら中にあるとしても、自家製の魚醤や自生するサトウキビから作った未精製の黒糖、海水を蒸発させ作った塩まであるという。流石に醸造設備が必要な酒や味醂までは作れなかったね、との俺の指摘にはテヘッと小さく舌を出し『作ってみたい、とは思います……』と言ってのける。
意外な程涼月はよく喋り、微笑む。泊地としては放棄され補給も来ないこの島で、どうやって今まで過ごしてきたのか……聞いてるこちらが驚くほど家庭的で開拓的な彼女の一面。色々話をするうちに俺も釣られて笑い合っていた。
「本当にしばらくぶりに……この島に、私以外の人が……。私……少しはしゃいでいる、みたいで……。安曇特務少佐は……その……大変な状況なのに、申し訳ありません……」
ああ、そういうことか。ようやく涼月の明るさに納得がいった。レンとソウ以外に話し相手のいない、孤独な戦いと生活をどれほどの間続けてきたのか……涼月は自分以外の誰かに飢えていたのだ。そして話の流れが俺を現実に引き戻す。
強行突入などと掛け声だけを用意して実行は現場責任にする艦隊本部、敵の散発的な攻撃を受けただけで這う這うの態で逃げ出す母艦……誰も彼も戦場を舐めているとしか思えない。一応指揮官候補者に数えられる俺だって、この地に来て涼月に会ってようやく理解した。
本気で戦っている
だからこそ――――特務だからではなく、涼月にこんな場所で朽ちてほしくないと、俺は本気で思い始めた。
だが――――どうして涼月はこの泊地を離れようとしない?
おそらくその解を得ない限り、俺は彼女を納得させる言葉を見つけられず、彼女を帰還させる事はできない。
俺は無意識に考え込み、部屋に沈黙が流れる。ふと前髪越しに涼月が視線を送っているのに気が付いた。
「どうした?」
「あ、あのっ!」
同じタイミングで声を上げ、お互い固まってしまった。俺は無言で涼月に手を向け、話をするよう促す。お先にお願いします、と渋っていた涼月だが、意を決したように姿勢を正す。そして俺の心の奥底まで覗こうとする、嘘は許さないと言わんばかりの強い視線で、目を逸らすことなく話を始めた。
「……ならお言葉に甘えさせて、いただきます。あの……この泊地の、私の司令長官の事を……ご存じないでしょうか? 私は……涼月は……今度こそ大切なものを、守りきります……」
ここの
思い詰めた涼月の視線に気圧されつつ、どうしてこの司令長官室だけが可能な限り修繕を尽くしてあるのか、涼月が何を待って、何と戦い、何を守ろうとしてここにいるのか、核心に近づいたように思える。
涼月は『私の司令長官』、そう言った。それはきっとそういう意味なのだろう。彼女は
ただ涼月は気付いていないようだ。偶然ここにやって来た俺に縋るほど、彼女の心は孤独に悲鳴を上げそうになっている事に----。