シアンが石碑巡りをしている頃、カナデは相棒となるモンスターを手に入れて悪戯を思いついたような笑みを浮かべていた。
「フフ、これでもっと面白い攻撃ができるようになったよ」
カナデがクスクス笑うと、対面にいるカナデと全く同じ姿をした人物が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
このもう一人のカナデと呼べる人物こそが、カナデがテイムした【ミラースライム】という透明なスライム型のモンスターだ。
スライム―――ソウには【擬態】というスキルがあり、擬態するとスキルの威力は半分となるが、擬態した人物と同じスキルが使えるようになるという、カナデが求めていた性能を持つモンスターだ。
こうしてカナデの目的は果たせたわけだが、カナデは唐突に思い出したような表情となった。
「そういえば、鏡のような洞窟には鏡の欠片を宿した装備が隠されていると、町の図書館の本に書かれていたね」
カナデはそう呟くと、改めて鏡のような結晶だらけの空間を見渡す。
カナデは【魔導書庫】に保存しているスキル【夢の鏡】関連のスキルが通常でも取得可能かどうか、町の図書館で調べていた時期がある。【夢の鏡】は使い勝手が本当に良く、数々の便利なスキルが内包されていたので取得できれば常に面白いことが出来ると思ったからである。
これまでは存在そのものは臭わせても具体的な場所や入手方法はなく空振りで終わっていた。だが、第七層が実装されてからの図書館の本の一つに、【夢の鏡】に関わっていそうな本を見つけたのだ。
その本の内容は、不思議な力を持った一枚の鏡は粉々に砕けて無数の欠片となり、その欠片を使って作られた作品の一つが鏡のような洞窟の秘密の場所に眠っていると。
「本当はCFが手に入れた【幻想鏡の欠片】か【夢の鏡】そのものが良かったけど……そこは仕方ないかな」
記憶力がずば抜けているカナデは、第四回イベント以降出ていない【夢の鏡】に内包されているスキルの名称は全部覚えている。【夢の鏡】には【魔導書庫】に保存された魔法だけでなく、【夢幻鏡】のような技能系スキルに【ミラートリガー】のような自動発動する装備に対しての専用スキルも内包されていたのだ。
「ま、どっちにせよこの洞窟を調べてみないとね。最短ルートで来ちゃったから、行ってない場所もあるからね」
カナデはソウを指輪に戻すと、ミラーハウスのような洞窟の探索を改めて行う。
常人であれば迷子になる洞窟であるが、その記憶力で洞窟の内部を大分把握していたカナデはあっさりと怪しい場所へと辿り着く。
「この水晶、何も写そうとしてないね。行き止まりと周りの水晶が合わさって、普通じゃ見落としてしまうね」
一見行き止まりのように見える通路の右側にある壁に埋まっているような水晶。この水晶はカナデが口にした通り、透き通るように光っているにも関わらず、何も写そうとしない。
「これは第七回イベントの第二層にあった鏡と同じだね」
カナデはその水晶の正体をあっさりと見抜き、魔導書を展開した状態でその水晶の表面に触れる。
途端、カナデは吸い込まれるようにその水晶へと沈んでいき、先程の洞窟とは異なる空間へと足を踏み入れた。
「これは……まるで立体迷路だね」
まるで異次元の中のような場所の光景を前にカナデは周りを見渡していく。
カナデが足を着けている場所は白い光の通路としか表現しようがない足場で、それは途中で三つに枝分かれしている。突き当たりには鏡のような水晶が鎮座している。
それだけなら少し変わった通路と片付けられるが、その枝分かれした通路が法則を無視したようにあちこちに存在しているのだ。
上下反転はもちろん、伸びるように存在しているものもある。正直、感覚が狂わされそうである。
「この通路から外に出られないよう、見えない壁が設置されてるみたいだね」
試しに光の通路の外に出ようとして失敗したカナデは、特にガッカリしたわけでもなく分析していく。
前回のイベントで見たエリア移動に、ショートカット対策。これはかなりの難易度だ。
「これは期待できそうかな?」
モンスターは見た限りいないとはいえ、高確率で迷子になる立体迷路を前にカナデはこの先で手に入るであろう装備に期待を寄せていく。
そんな期待を胸にカナデは立体迷路を進んでいく。目印らしい目印もないので、カナデは些細な違いも見逃さないように注視しながら進んで行く。
「この通路は……さっき通ったね」
周りの景色を記憶しながら進んだことで、カナデは迷子にならずに進んでいく。途中で休憩を挟みつつも、カナデは立体迷路の終点に到着した。
「さて、中には何が入っているかな?」
カナデは内心でワクワクしながら、終点に置かれていた宝箱を開ける。宝箱の中には、軽く光を反射する紫色のデッキケースが入っていた。
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《夢鏡のデッキケース》
【MP+3】
【ミラーカード】【破壊不可】
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【ミラーカード】
魔法、もしくはスキルを発動すると、一部のスキルを除いて50%の確率で《カード》として保存され、ストックされる。
使用されると使用した《カード》は消費される。また、このスキルで発動した魔法並びにスキルは保存の対象外である。
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「フフ、僕の引きの良さはここでも発揮されたね」
おそらく一つしか手に入らないであろう【夢の鏡】関連の装備のスキルに、カナデは満足そうに笑みを浮かべる。
今回手に入れた《夢鏡のデッキケース》の装備枠は装飾枠ではなく補助枠。装備枠を圧迫せずに僅かなMP補正を得られるオマケ付き。
カナデは早速《夢鏡のデッキケース》を装備すると、検証の為に魔法を放つ。
「【ファイアボール】」
初級魔法の火球が放たれてすぐ、紫の光を放つカードが現れて腰にあるデッキケースへと吸い込まれていく。
カナデはその仕舞われたカードを取り出すと、目の前に突き付けるように構える。
「【ファイアボール】」
先程使った魔法名を唱えると、カードから解放されるように再び火球が放たれる。役目を終えたカードはそのまま光となって消える。
「MPは【魔導書庫】の魔導書と同じく消費されてないね」
魔導書のカード版のようなスキルに、カナデは続けて【魔導書庫】による保存を行う。
【ファイアボール】と【ウォーターボール】、【ウィンドカッター】に【ヒール】を選択すると、二枚のカードが生成されてカードデッキへと仕舞われる。
「ストックされたのは【ウォーターボール】と【ヒール】の二つだけかあ。確率だから安定しないけどすぐに作られるから、本来は戦闘中に使うものかな?」
それからカナデは魔導書が出来上がるまで時間を潰し、魔導書を完成させる。四冊の魔導書が出来上がるも、カードは新しく作られる気配はない。
「うーん、やっぱり【魔導書庫】は一部のスキルに含まれているみたいだね。この分だと自動発動するスキルもカードには出来そうにないね」
第四回イベント時、魔導書を作成していた時にしか発動していなかった事を覚えていたカナデは、特に残念がることなく肩を竦める。
【夢の鏡】を引き当てていた時はイベントの最中と有用な魔法の保存を優先していた為、詳しいスキルの検証は行っていなかったのだ。その為、スキルの名前と存在は知れど一日限定だった事もあり、内容の詳細までは把握していないのが現状だった。
だからこそ、カナデは当時では思い浮かばなかった事が思い浮かぶ。
「そういえば技能系のスキルはどうなるのかな?【超加速】」
カナデは今日の【神界書庫】で引き当てた【超加速】を発動させると、カードが生成される。そのカードは今までのカード同様にカードデッキへと仕舞われる。
「おお。このスキルは技能系のスキルも保存できるんだね。これは本当に便利だよ」
テイムモンスターとカードデッキ、この二つで出来ることがさらに増えたことにカナデは本当に面白そうに笑みを浮かべるのであった。
――――――
コーヒーは現在、密林エリアで狩りを行っていた。
「ブリッツ【冊雷】【散雷弾】」
コーヒーはブリッツに指示を出しながらクロスボウの射撃と匣の光線でゴリラ型のモンスターのHPを削り、ブリッツから放たれた冊のように展開されて迫る雷撃と散弾のような雷球でゴリラはトドメを刺される。
ゴリラが消えた事を確認したコーヒーは自身のメニュー画面を開き、【遺跡の匣】のレベルを確認した。
「お、熟練度が貯まって二になったな。解禁されたのは……」
コーヒーは周囲を警戒しながら【遺跡の匣】の詳細を確認していく。
「攻撃モーションはクリティカルが入りやすい近距離斬撃……追加された効果は低確率の防御貫通と光属性付与の二つ、か」
今回解禁されたモーションと効果にコーヒーは微妙な表情となる。
斬撃は確かに光線に負けない性能ではあるが、遠距離攻撃が主体のコーヒーでは満足に活かしきる事ができない。
追加効果の方は最大で五つまでセットできるが、常時貫通スキル持ちのコーヒーには確率の貫通攻撃は無意味なので役立ちそうなのは属性付与の方だけだ。
コーヒーは設定の為にスキルを一旦解除して属性付与の効果をセットする。
「【遺跡の匣】」
コーヒーは【口上強化】を行わずに【遺跡の匣】を発動させる。【口上強化】すれば威力は上がるが、今回はスキルの熟練度上げがメインなので上昇を控えているのである。
「効果が追加されると見た目が変わるのか?ちょっと面白いな」
今までの黄土色から綺麗な白になった匣に、コーヒーは少しワクワクしてしまう。コーヒーも厨二扱いされるのは嫌とはいえ男の子。こういったカスタム要素には少なからず興奮してしまうのである。
「ブリッツ【砂金外装】」
コーヒーはブリッツを大きくさせると、その背中へと跨がる。そのまま探索を続けていると、顔見知りの人物に出会う。
「お、テンジア。しばらくぶりだな」
「CFか。五層の時以来だから、確かにしばらくぶりだな。
【炎帝ノ国】の双剣士であるテンジアはコーヒーの挨拶に幾ばくか同意するように言葉を返す。そして、コーヒーの隣に浮く白い匣に目を向ける。
「……どうやら新しい装備かスキルを手に入れたみたいだな。さしずめ、
「ま、大体当たってるよ」
四字熟語を交えての質問に、コーヒーは肩を竦めながら返す。次のイベントもあるから積極的に話すつもりはないので、テンジアもその辺りは理解しているので深くは追求しない。
「そっちは相棒のモンスター探しをしている途中か?」
「いや。既に唯一無二の相棒を得ている」
テンジアはそう言って自身の指にある《絆の架け橋》を見せる。《信頼の指輪》も指に嵌められていたが、コーヒーは敢えて無視した。
「そうか。それじゃここのまま別れた方がいいか」
「いや。そこまで気にする必要はない。互いに益もあるし、
テンジアのその言葉にコーヒーは確かにといった表情をする。
テンジアと一緒にレベリングすれば【遺跡の匣】の情報が【炎帝ノ国】に知られる事になるが、こちらはテンジアのテイムモンスターを知ることができる。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうか」
そんな打算込みでコーヒーはテンジアの提案を受け入れる。
「では……【覚醒】」
コーヒーが了承してすぐ、テンジアは自身の相棒を呼び出す。光が収まると、全身が氷で覆われた
「ソイツがお前の相棒なのか。なんと言うか、ピッタリだな」
「
コーヒーの誉め言葉をテンジアは素直に受け取ると、自身が先頭となって密林の中を進んでいく。
周りを警戒しながら進んでいくと、近くの茂みがガサガサと揺れると同時に数匹のムカデが飛び出して来た。
「リーズ【氷依一体】!」
リーズと呼ばれた蝙蝠はテンジアの背中に止まると、まるで同化するようにテンジアの上半身を氷で覆っていく。同時に両手に持つ二振りの長剣も冷気を帯びていく。
「リーズ【
テンジアが一層冷気を増した長剣を十字に振るうと、十字の斬撃を受けたムカデ達はその身体を一瞬で凍らせる。
「穿て、【サンダージャベリン】!ブリッツ【電磁砲】!」
コーヒーも続くように雷の槍を放ち、指示を受けたブリッツも雷の砲撃を放ってムカデ達のHPを削る。そして、コーヒーの追加攻撃で匣から青白い光線が雷槍を受けたムカデに向かって放たれ、射線上にいる別のムカデのHPも削っていく。
「リーズ【
胸の中央から発せられた音波と、地面に突き立てられた剣から広がるように放たれた無数の氷の棘によってムカデ達はHPを全損させて光となって消える。
戦闘が終わると、コーヒーは素材を回収しながらテンジアに話し掛けた。
「テンジアのモンスターは自己強化するタイプなのか」
「ああ。CFのソレも、自身の攻撃に合わせて追撃を放つようだな」
しばらく見ない間に相応のレベルアップを果たしていることに、二人は共に笑みを浮かべる。
「もし次のイベントがPvPであれば、捲土重来の精神で挑ませてもらうとしよう」
「お前と戦うより先に、あの大盾使いが挑んできそうだけどな」
「ハハ、確かにな。カミュラのあれは正に一心不乱だからな」
コーヒーとテンジアはその後も共にモンスターを狩り続け、キリがいいところで別れるのであった。
『モンスター探しを女性プレイヤーと一緒にしたい』
『わかる』
『同じく』
『そういえば、非リア充の大盾使いらしきプレイヤーが小さな女の子と一緒だったような……』
『裏切り者は極刑』
『火炙り』
『ギロチン』
『脈無しだったぞ』
『関係ない』
『裏切り者の同志に嘆きの鉄槌を』
スレ一部抜擢。