最初の石碑から数日。シアンは森の中にある最後の石碑の前にいた。
「これで最後ですね……」
ようやく終わりが見えてきた事に、シアンは内心でドキドキしながら今までと同じように石碑の前で祈りを捧げる。
石碑は他の五ヵ所同様に光を放たれると、シアンの目の前に一冊の薄い本が現れる。シアンがそれを手にすると同時にクエストが発生する。
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【
クエストクリア条件。【妖精の物語】を発音して読み終える。
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「これがクエスト?条件だけ見ればすごく簡単そうだけど……」
シアンはクエストの内容に首を傾げながらもクエストを受ける。すると、シアンの持っていた本が独りでに開かれる。
「全部普通に読めますが……これもINTが高くないと読めないものなのでしょうか……?“昔々、あるところに―――」
童話のような内容の文面にシアンは首を傾げながらも、内容を口に出しながら本を読んでいく。
シアンの予想通り、この本も高いINTがないと内容が分からない仕様になっている。しかし、INT極振りのステータスに加え、【
「―――こうして、妖精は大切なお友達と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。”」
難しい漢字もなく、三分程でシアンは本を読み終えると本は光を放ち始めて形を変えていく。光が収まると、シアンの手には《絆の架け橋》が乗っていた。
「モンスターさんが見えません……」
近くにモンスターがいないことに少し悄気つつも、シアンは《絆の架け橋》を装備する。すると、シアンがあの時出会った妖精がシアンの周りを飛ぶように現れた。
「あ!あの時の妖精さん!あなたが私の仲間になってくれるんですか!?」
シアンの興奮気味の問い掛けに、小さな妖精はニッコリと笑みを浮かべる。それは肯定の笑顔と分かり、シアンの顔が綻んでいく。
「そうだ。名前もちゃんと決めないと。何がいいかな?」
ここがフィールドであることも忘れ、シアンはニコニコしながら相棒となった妖精の名前を考えるのであった。
――――――
この日、【楓の木】のメンバー全員がギルドホームに集合していた。
「お。シアンちゃんとカナデも仲間を見つけたのか」
一番最後に来たクロムの視線の先には、透明なスライムをグニグニと弄り、蝶のような羽を生やした小さな妖精を追いかけているギルドメンバーの姿があった。
「うん。街中じゃスキルは使えないけど、ソウは本当に面白いんだよ」
「私のモルフォも、本当に可愛いんですよ!」
クロムにそう伝えるカナデとシアンの後ろでは、スライムのソウはメイプルとミキに触られ、妖精のモルフォはマイとユイとおいかけっこをしている。
「本当に賑やかになってきたな」
「そういうクロムも《絆の架け橋》を装備してるだろ?どんなモンスターを仲間にしたんだ?」
サリーとカスミと会話していたコーヒーがクロムの指にある指輪を見てそう指摘すると、クロムは何とも言えない表情でガシガシと頭を掻いた。
「確かに俺も仲間にしたんだが……サリー、先に言っておくぞ」
「え?な、何をですか……?」
前触れもなくクロムに声を掛けられたサリーは一瞬理解できなかったが、嫌な予感を感じてか身構えるようにして問いかける。
そして、その嫌な予感は的中することとなる。
「俺の相棒は、中身がない動く鎧だ」
クロムのその言葉でサリーは背中に電流が
サリーは大のお化け嫌い。怖がれば戦力激減は待ったなしなのはクロムも良く理解している筈。その上で選んだのであれば、相応の理由があるとコーヒーは思った。
「そ、そうなんですか……もしかして、デュラハンのような見た目ですか……?」
明らかにビビっているサリーの様子に、クロムは正直に仲間にしたモンスターの見た目を伝える。
「いや。ヘルメットもあるし、青白い焔とかもないから本当に見た目は浮いているだけの鎧だ」
「そ、それなら大丈夫かな……?」
クロムが伝えた見た目から、ギリギリ許容できそうだと呟くサリー。そんなサリーの前で、クロムは仲間にしたモンスターを呼び出す。
「ネクロ、出てこい!」
クロムの言葉に応じるように出てきたモンスターは、確かに浮いているだけの鎧。怪しい光もなく、うっすらと見える体の輪郭もない。足も床に着いているので、本当に見た目は浮いているだけの鎧と盾と剣である。
「こいつがクロムの相棒か。共に戦う姿を想像すると、少しシュールだな」
「お前が想像してるのとはたぶん違うぞ。ネクロは俺と一つとなって戦う仲間だぞ」
コーヒーの感想に、クロムはネクロの能力を明かすようにして返す。
クロムの予想通り、コーヒーはクロムがネクロを守りながら戦う姿を想像していた。ネクロの大きさはクロムと本当に大差がなかったので、補助系とは思わなかったからだ。
「一つになるだと?それは憑依のようなものなのか?」
「どちらかと言うと融合だな。俺の装備を一際強く強化してくれるんだ。それに合わせて装備の見た目も若干厳つくなるしな」
カスミの疑問に対するクロムの返答に、コーヒーはテンジアのリーズと似たタイプなのかと納得する。
確かにそれならサリーも怖がらずに済むかもしれない。見た目は鎧だから防御系統のスキルを覚える可能性も高い為、クロムはネクロを仲間にしたのであろう。
その肝心のサリーはと言うと……
「あれは鎧。あれは鎧。あれは鎧。あれは鎧。あれは鎧……」
ネクロを姿を見てすぐに俯き、念仏のようにぶつぶつと自己暗示を繰り返していた。
「サリー、大丈夫か?」
「……よし!これで大丈夫―――」
コーヒーの質問に答えず、サリーは若干震える脚で大丈夫と告げるも、ネクロが音を立てて動いたことで若干ビクッ!と硬直させる。
「……本当に大丈夫なのか?」
「う、うん……あれなら頑張れば大丈夫だから……たぶん」
ネクロから僅かに目を逸らしながら、サリーはコーヒーにそう答える。
サクヤがゴースト系のモンスター、
もしフレデリカもサクヤと似たモンスターを仲間にしていたとしたら……イズから貰ったお祓いアイテムである塩を蒔きまくって塩デリカにしようと変な思考に陥るサリーであった。
――――――
イズも生産職向けのクエストで、フェイと名付けた精霊型のモンスターを仲間にしてから数日が経過した頃。
「【ワイルドハント】のレーザー砲まで後五百万……ドレイク号は十億だから本当に金を食うスキルだよ……」
【遺跡の匣】のレベル上げと換金アイテムの回収目的でダンジョンに潜っていたコーヒーは自身のスキルとにらめっこしていた。
【ワイルドハント】は本当に金食いスキルだが、コーヒーは幸い、ユニークシリーズのおかげで装備の整備が不要なので出費は抑えられている。
それでも総額で数千億レベルの資金要求は痛いが。
そのタイミングで、運営からイベント通知が届く。
『ガオー!みんな、今日も楽しくプレイしているドラ?そんなみんなに、今日は第八回イベントの内容を説明するドラ!』
NWOのマスコットキャラであるヘンテコドラゴンによるイベント内容の説明に、コーヒーはいつも通りと思いながら続きを閲覧していく。
『今回のイベントは予選と本選に分かれてるドラ。予選は生き残り時間とモンスターの討伐数でスコアの順位を競うドラよ。本選は順位ごとにエリアが指定されてるドラから、上位に行くほど難易度が高く、その分報酬も良くなるドラ。それと、予選は個人戦でプレイヤー同士でパーティーは組めないから、仲間のモンスターが一緒なら上位に入れる可能性が高くなるドラ!メインはモンスター退治だけど、プレイヤーを妨害するのももちろんアリドラ!それじゃ、イベント当日までみんな頑張るドラ!またね、ガオー!!』
「次のイベントはプレイヤー対エネミー……PvEの要素が強いのか。しかも個人戦だから、確かにテイムモンスターがいた方が有利になるな」
次のイベントがPvEがメインのイベントとなる事に、コーヒーは納得するように呟く。
ギルドメンバーで協力しあうこと自体は不可能ではないが、コーヒーやミィのような範囲攻撃では味方を巻き込みかねないし、サクヤのような範囲支援は無意味になってしまう。特にサクヤの演奏スキルは基本的に複数同時発動できないので、仲間がいなければ苦しいものとなる。
「そういえば、サクヤの相棒はお化けだったな。ホラーというよりマスコットの類だったけど」
コーヒーは思い出したようにそう呟く。
先日、メイプルが観光感覚でフィールドを探索していた際、ゴーストを仲間にしていたサクヤにばったり会ったそうだ。
サクヤの相棒―――亡は怖い幽霊ではなく可愛い幽霊だったので、メイプルはサクヤの許可を貰って亡に抱きついて頬擦りしたとのこと。本人曰く、マシュマロみたいな感触だったそうだ。
写真にも撮っていたので、亡の姿を見たサリー以外のギルドメンバーは可愛いとはしゃいでいた。
ちなみに―――
『本当に可愛いわね。まるでマスコットね』
『!そうだ、あれはマスコット。あれはマスコット。あれはマスコット。あれはマスコット。あれはマスコット……』
イズのマスコット発言で、サリーはネクロの時と同じように念仏の如くぶつぶつ呟いていたのは軽く引いたが。
「取り敢えず、次のイベントに向けてしっかりレベル上げしないとな」
コーヒーはメニュー画面を閉じると、接近していたゴブリン型のモンスターの群れと向き合う。
「廻るは雷刃 円舞を刻むは四天の
コーヒーは左手を掲げると、巨大な手裏剣のような雷の刃を作り上げる。その雷の刃―――【雷帝麒麟】の上位魔法【雷輪十字剣】をゴブリンの群れに向かって投げ込むように腕を振るうと、十字の雷刃は回転しながらゴブリンの群れへと目掛けて飛んでいく。
十字の雷刃はゴブリン達を斬り裂きながら突き進み、コーヒーの隣で浮いていた匣も追加攻撃の光線を放っていく。
「多段攻撃の魔法……匣もそれに合わせて光線を放つから、射程が短いのを除けば悪くないな」
投げ飛ばすというモーションがある以上、攻撃に移行するまで少し間があるが申し分のない範囲だ。
ゴブリン達をあっさりと片付けたコーヒーは落ちているアイテムを回収すると、ふと思い出したようにメニュー画面を操作する。
「そういえばミキから渡されたモンスターの引き寄せアイテム……まだ一度も使ってないな」
少し前に効率の良いレベリング方法をギルドメンバーに相談した際、ミキが例のクーラーボックスから缶の形をしたアイテムを渡したのだ。
『この缶詰めならー、モンスターが沢山寄って来るみたいだからー、丁度いいと思うよー?』
『みたいって……一度も試していないのかよ』
毎回便利だが癖が強いほど説明がアバウトになるアイテムを釣りで手に入れるミキには呆れるしかないが、便利であることには代わりないので物は試しと場所を変えて使うことにした。
「ここなら後ろは気にする必要はないし、迎え撃つだけでいいからな」
一本通路の行き止まりに場所を移したコーヒーは、早速その黄色い缶を放り投げる。地面に転がった黄色い缶からは同じ色の煙が立ち上り、すぐに溶けるように消えていく。
それから少しして、ゴブリンや
「ちょっ!?さすがに数が多すぎだろ!?
予想を軽く越えるモンスターの大群に、ステータスを強化したコーヒーは二丁クロスボウを乱雑に射って対処していく。
弾幕の如く放たれる矢と、それに合わせて匣から連続で放たれる光線。矢と光線に撃ち抜かれたモンスター達は次々と光に還っていくも、一ヵ所に集うように絶え間なく現れ続けていく。
「ブリッツ【冊雷】!
コーヒーは雷撃の冊と地面で迸るように荒れ狂う電撃で突撃してくるモンスター達の動きを封じつつ、十字の雷刃で斬り飛ばしながら矢を放つ。
それから約十五分もの間、コーヒーは文句の一つどころか一息つく間もなく戦い続ける羽目となるのであった。
一方、その頃……
「やっほー、サリーちゃん!ようやく見つけ―――」
「!!」
「ちょっ!?何でいきなり塩の塊を投げつけてくるの!?」
ギルドホームで計画を練っていたサリーは、ついに出会ってしまったフレデリカにお祓いアイテムの塩を持っている分だけ投げつけていた。
その後、小鳥型モンスターをテイムしていたと知ったサリーは、少し申し訳なさげに塩まみれとなったフレデリカに謝るのであった。
「ところで自分の相棒を見せちゃっていいの?イベントの通知も来てるんだし」
「だいじょーぶだいじょーぶ。その辺りの裁量は任せられて……ん?」
「?」
「ムキー!うっかデリカで手の内晒すってなにさ!サクヤちゃんは真っ先にサリーちゃんに相棒を御披露目したくせにー!!」
(うっかデリカ……本当に変な呼称を思いつくわね)
「ん~、イグニスの触り心地は本当にいいなぁ~。それにほんのりと暖かいし~」
「ピィ!ピィ!」
一人と一羽きりの個室で、だらしない表情で相棒に抱きついて頬擦りする炎帝様の図。
コンコンコン
「!」
ササッ!シュバ!
「ミィ、入るよ……」
ガチャ
「マルクスか。何か問題でも起きたか?」
「…………」
あまりの変わり身の早さに机の上で固まる相棒の図。