てな訳でどうぞ。
運営は現在、七層の実装に合わせて大量のモンスターやイベントを用意した反動でぐったりとしていた。
「レアモンスターはどれくらい仲間になった?」
「二割以下ですね。エリア自体も広いですし、レアモンスター以外のモンスターも強いですからね」
新人として入ってきた如何にも仕事女のような雰囲気を発している女性がデータ片手にそう告げる。
今回の実装に合わせて用意されたモンスターは十人十色な性能であり、レアモンスターほどピーキーな性能となっている為、仮に出会っても噛み合っていない等の理由から無視されることもあったからだ。
「その中で、バフをかけるモンスターが人気ですね。逆に魔法使いはタンクとなるモンスターをテイムしている傾向が強いですね」
「主要ギルドは?」
「一部を除き、示し合わせたようにレアまみれですね」
「マジか」
「いや、相性を考えると自然とそうなるのか?レアモンスターのイベントもそれなりに癖が強いし」
「あ」
そんな中、気分転換にプレイ場面を見ていた運営の一人が何かに気づいたように声を上げる。
「どうした?何か問題でも起きたか?」
「……メイプル達が進化イベントをたった今クリアしました」
その言葉に、運営の一同は食いつくようにその映像を確認していく。確認し終えた運営は、疲れたように深い溜め息を吐いた。
「マジか~……こうも早く進化イベントに行き着くなんてな」
「メイプルとCFの体はレアイベに反応する磁石か何かなのか?」
先行して仲間にしていた利点を活かされはしたが、条件を見たさなければフラグ自体が立たないから、情報そのものはまだ出回っていない筈だ。にも関わらず、想定より早い進化に一同は苦笑いするしかない。
「またメイプルですか……!おのれメイプルぅ……!」
その中で、新人だけは怨嗟の如く声を上げる。この新人はゲームバランスを予想の斜め上で傾けまくるメイプルに対抗心を燃やしているのか、メイプル対策をあれこれ考えているのだ。
そのほとんどが露骨すぎるので却下されているが。
「やはりメイプル対策は徹底的にするべきです。この前も【水底の誘い】を取られてしまいましたし」
「それ、君の意見で実装したスキルだよな?」
「【スキルスロット】への付与で強力な使い方が生まれたからと言って、八つ当たりのように対策するのはダメだろ」
「ぐふぅ!?」
その返しに新人は崩れ落ちる。そう、【水底の誘い】は対メイプルスキルとして実装されたスキルだったのだ。狙いとしては触手で動きを封じたところに貫通攻撃をぶつけるという使い方が想定されていたが、それを本人に取られた挙げ句、バーストダメージ用スキルに昇華されてしまったのである。
「幸い【悪食】は回数制限がある上に自動発動するから、【グロリアスセイバー】や【黄金劇場】のように修正する必要はないだろ」
「そうですね。使い終わったら元の効果しかない触手ですから、ゲームバランスを大きく傾けるスキルじゃないですし」
「しかも【遺跡の匣】も対CFスキルだったよな。それもフラグを無視して入手してたし」
「加えて【無防の撃】ですべての攻撃が常時貫通攻撃ですし。元々の効果と合わさって、凶悪な追加攻撃へ変化しちゃいましたね」
「あががががが」
【遺跡の匣】もコーヒーの【クラスタービット】対策で実装されたスキルだ。にも関わらず対策スキルを本人に取られている上に、更に強力になっているのだから逆効果にしかなっていなかった。
「新人がまた壊れたな」
「対策が対策として働いていないですからね。ショックは人一倍大きいのでしょう」
撃沈した新人の姿に、既に悟りを開いている二人は優しげな視線を向ける。
この一件で学ぶべきことは、露骨な対策は逆効果で終わる結果にしかならないことだろう。
「それはそれとしてあのエリア、三層でフラグを立てないと無理ゲーのトラップエリアの筈なんだけどなぁ……」
「取得条件が匣の全破壊だったからな。それ自体はフラグの立っていないトラップエリアでも可能だしな」
「フラグと言えば……【人形の行き着く先】は大丈夫なのか?」
「あのストーリー系のクエストか?四層、六層、七層、三層を舞台にした、分岐によって得られる報酬が変わるレアクエストのことか」
「それも所持スキルで変化しますからね。ちゃんとフラグを回収しないと、報酬のランクは下がりますから大丈夫でしょう」
「……メイプルとCFがクリアする可能性は?」
その言葉に、一同は遠い目となる。
「仮にベストルートで進行したら……メイプルは【機械神】に【機械の双獣】が追加されますね」
「CFは……【フェザー】【雷翼の剣】【孔雀明王】が進化するな」
「「「「う~~ん……」」」」
メイプルとコーヒーの更なるパワーアップの可能性に、撃沈している新人以外は唸り声を上げる。
「もう実装しちゃってるしいいんじゃないか?」
「だな。それに別の誰かが受けているみたいだし」
「現時点で得られる報酬は……【雷命絶交】に補助装備枠の《導雷の円盤》だな」
「全ステータス半減付与の範囲攻撃スキルと全スキルに【系統:雷】を付与するスキル持ちの装備か。強力だけど妥当だよな」
【雷命絶交】はHPを大きく消費する攻撃スキルで、《導雷の円盤》の系統付与効果は自動発動なので一長一短の性能だ。それ以外の報酬も似たり寄ったりである。
「次のイベントのモンスターはどうする?」
「プレイヤー側も化物じみてきてますから、こちらも化物クラスのエネミーを用意しないといけませんね」
「後、体内エリアを今回は排除してみるか。それなら内側からの蹂躙はなくなる筈だからな」
「また意表を突かれなきゃいいけどな」
次のイベントに向け、運営は色々議論しながら仕事を続けるのであった。
――――――
少し時間が経って頭が回り始めたコーヒー達は、それぞれの相棒達の変化をしげしげと眺めていた。
「シロップちょっとオシャレになったね!」
「そっかー、尻尾が増えるのかー」
「針が刃みたいになったなー」
「ジベェもー、模様が変わったねー」
全員が相棒と戯れていると、システムからメッセージが届く。四人は当然そのメッセージに目を通していると、同じポイントでピタリと止まる。
「進化……なるほど。新しいスキルが獲得できるようになったみたいだよ」
「おおー!」
「第二回イベント以降、ずっと一緒に戦っていたからな。何か、感慨深いな」
「そうだねー。まだまだ進化するのかなー?」
「その可能性は高いわね。メッセージにも一回だけとは書かれてないし」
サリーはミキに対してそう答えると、二尾となった朧をじっと見つめる。
「最後は九尾になるかもね」
「ジベェはー、どんな見た目になるのかなー?」
「ブリッツは……刃のような針が増えるか更に立派な針になるのか?」
「夢が広がるね!そうだ、皆にも教えようよ!」
「賛成だよー」
「俺も別にいいんだが……ネクロの件がなぁ」
コーヒーがそう呟いた瞬間、サリーがビクッ!と硬直させる。メイプルもミキもああ~、と納得したような微妙な表情となる。
クロムの相棒のネクロはゴースト系のモンスター。今の見た目は浮いているだけの鎧だが、進化して青白い炎とかでたら一発でアウトになってしまう。
「サリー?」
「だ、大丈夫大丈夫。あれはただの鎧で、進化後は鎧の形状が厳つくなるだけだから」
「全然大丈夫に見えないんだが」
コーヒーがそう呟いた瞬間、サリーの回し蹴りがコーヒーの背中に炸裂した。
「痛てぇ!?急に蹴り飛ばすなよ!?」
「うっさいCF!あんたのせいで最悪の想像をしちゃったんだから、大人しく蹴られなさい!!」
サリーはそのまま、ゲシゲシとコーヒーの背中を蹴りまくっていく。そんな八つ当たりされるコーヒーを傍観者二名は相棒と戯れながら見守るだけと、ある意味酷い対応を敢行している。
その後、一同はなんやかんやでギルドホームに戻って今回得たイベントの情報を伝えるも……
「俺はその岩が浮かぶ場所にいったが、巨人はいなかったぞ?」
「巨大樹の上でそんな戦闘があるなんて話は、聞いたことがないわね」
「ああ。私もその泉には一度立ち寄ったが、白い宝石はどこにもなかったぞ」
最年長のクロムとイズ、カスミの三人がイベントそのものが発生していないと伝えたことで、今回のイベントは全員が受けられるものではないと判明してしまったのだ。
「ううーん、どうしてなんだろう……?」
「あの……たぶん、レベルとかなつき具合が関係してるんじゃないでしょうか?」
「メイプルさん達は、ずっと前から一緒でしたから……」
「私たちは最近仲間にしたばかりですし……」
首を傾げていたメイプルに極振り三人衆がそう答える。三人のその推察は、決して間違いではないだろう。
「言われてみれば確かに……ある育成ゲームでもなつき具合や特定のアイテムで進化するパターンがあったし」
「それ、絶対に有名なあのゲームでしょ」
ちなみにサリーは一度、そのゲームに手を出して挫折しかけた過去がある。理由は……言わずもがなであろう。
「僕が読んだ本ももっと上手く力を引き出すって方向だったしね。その線は十分にありえるよ」
「ずっと一緒にいたからかぁ……えへへ」
メイプルは嬉しそうにシロップの頭を撫でる。これからも共にフィールドを共に飛び回って戦う相棒なのだ。その相棒が進化したのだから、喜びもひとしおである。
「メイプルちゃん達のモンスターもまた強くなったみたいだし、次のイベントが楽しみね」
「俺達の戦い方も変わるだろうが……変わらない奴もいるよな」
クロムはそう言ってメイプルとミキにチラリと視線を向ける。メイプルは圧倒的なVITで攻撃を弾いてドキモを抜くスキルで大暴れするスタイル。ミキは空から爆弾や津波で絨毯攻撃するスタイル。どっちも巻き込まれたら一堪りもない戦闘スタイルである。
「もはやエリアボスだな」
「エリアボスならCFはもちろん、ミィとペインも入るんじゃない?」
此処にいないギルドマスター二名も含めてエリアボス認定され、一名は凄そうとはしゃぎ、一名は不思議そうに首を傾げ、一名は顔を逸らす。反応だけで誰なのか分かるのがある意味悲しいところであった。
――――――
新しく相棒を得たメンバーも進化して新たな可能性が出てきたメンバーも、お披露目はイベントで行うと全員で約束して、各自で相棒のレベル上げに勤しんでいた。
「《イチイの弓》のマイナス補正も、場合によってはプラスだな」
コーヒーは普段使っているクロスボウから、ステータス補正がマイナスの《イチイの弓》を装備した状態でモンスターを狩っている。《イチイの弓》と【無防の撃】による火力低下で矢そのものの威力は大幅に落ちているが、【遺跡の匣】の追加攻撃でHPを削る分には問題ない。むしろ、【雷帝麒麟】の麻痺とスタンの付与効果でブリッツへの餌が簡単に用意できていた。
「ブリッツ【電磁砲】!」
ある程度纏まったところでブリッツが麻痺とスタンで動けなくなっているモンスター達に止めを刺し、経験値を大量に得ていく。
「これのお陰で、モンスターを追いかける必要がないからな」
コーヒーはインベントリから発煙筒を取り出すと、赤い煙を立ち上らせてく。缶詰めの方は呼び寄せる量が尋常ではないので、缶詰めと比べて控えめな発煙筒でモンスターを呼び寄せていく。
赤い煙に引き寄せられるように集まったモンスター達は、コーヒーによってHPを削られ、ブリッツに止めを刺される。そのワンセットが見事に出来上がっていた。
それを繰り返しているので、ブリッツのレベルはどんどん上がり新しいスキルも獲得していく。
「スキルも結構増えたな。進化の恩恵が早速出てるな」
コーヒーはそう呟きながら、ブリッツの新しいスキルを確認していく。
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【界雷】
発動中、自身と対象の《絆の架け橋》装備者の雷属性の与ダメージ20%上昇。それ以外の与ダメージは40%減少する。
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「これは便利なスキルだな」
確認したスキルの内容にコーヒーはブリッツの頭を撫でる。【界雷】は普通であればデメリットの方が大きいスキルだが、【フェザー】ですべての攻撃が雷属性になっているコーヒーには全く問題がない。
それ以外のスキルも確認して笑みを浮かべていくコーヒーに、茂みから二人のプレイヤーが出てくる。コーヒーもそれに気づいて顔を向けると、そこにいたのはペインとレイドだった。
「ペインにレイドか。二人も相棒のレベル上げか?」
「すでに相棒がいる前提か……時間もそれなり経ってるし間違ってはいないが」
「そのレベル上げでモンスターが一ヵ所に向かうように進んでいる光景を見てね。何かのイベントかと思ったんだが……」
「それ、俺が使ったアイテムの効果だな」
コーヒーのその返しにペインとレイドは苦笑する。同時に姿が少し変化しているブリッツに気がつく。
「ブリッツの見た目が少し変化しているな」
「あー……理由は企業秘密ってことで」
「構わないさ。それはメイプル共々、後の楽しみとしておくさ」
ペインは情報を隠されていることに不快感を露にせず、逆に楽しみだと笑みを浮かべている。
「それに見た目が変わっているのはブリッツだけではなく、シロップ達もだろう?」
「君たち四人は俺たちより先に相棒を得ていたからね。なら、そう考えるのは必然というものさ」
レイドとペインの大正解な予測に、コーヒーは誤魔化すように頭を掻くしかない。少しの情報でここまで言い当てるのだから、流石はトッププレイヤーである。
「とはいえ、このままでは少し不公平かな?その浮いている匣も新しいスキルのようだし」
「では、顔見せするとしよう」
ペインとレイドは【覚醒】を使い、銀の鱗を持った子供の竜と白い毛並みの虎をその隣に携えた。
「ドラゴンに白虎……一目でレアモンスターと分かるな。系統的には光と雷か?」
「そこは想像にお任せするよ」
「さすがにそこまでは教えられないからな。では、次のイベントで会おう」
ペインとレイドは、互いの相棒を引き連れてその場から立ち去っていった。
「やっぱりトップクラスのギルドは強力そうなモンスターを仲間にしてるか。メイプルとイズさんの話じゃ、ミィは不死鳥を仲間にしているみたいだし」
次のイベントも楽しみだとコーヒーは期待しながら、ブリッツのレベル上げを続けるのであった。
「この缶詰め、凄く便利だね。探さなくてもモンスターが向こうから来てくれるから」
「カメー」
例の缶詰めを使って、シロップの餌をどんどん調達していくメイプルの図。