STR極振りの双子プレイヤー、マイとユイは森の中にある拓けた場所で二人組と対峙していた。
「今日は【楓の木】の奴らによく会うな」
「悪いが容赦はしないぜ」
岩のゴーレムと黒い毛並みの狼を従えた二人組―――【集う聖剣】の主要メンバーであるドラグとドレッドを前に、マイとユイは緊張した表情で二振りの大槌の柄を握り締める。
マイとユイの攻撃力は確かに脅威ではあるが、攻撃が当たらなければ成立しない。それに加えて広範囲攻撃スキル持ちのドラグと高いAGIを有するドレッドが相手なのだ。特にドレッドには確定耐えスキルもある。戦えばどちらが不利なのかは明白である。
「行くぜ、【地割―――」
ドラグがマイとユイのテイムモンスターのツキミとユキミの動きを封じようと、斧を掲げながらスキルを発動しようとした瞬間、幾条ものレーザーが突如として飛んできた。
「うおっ!?危ねぇっ!?」
ドラグはスキルの発動をキャンセルして咄嗟に躱す。当然、突然のレーザーに四人は揃って飛んできた方向に顔を向けると……十メートルはある巨大なワニが猛然な勢いで迫ってきていた。
「おい!?なんだありゃ!?」
ドラグは驚愕して口からレーザーを放ち続けるワニに顔を向ける。ドラグはもちろん、ドレッドもモンスターを引き寄せるバフを貰っていないから、あんな風に走ってくるワニに意表を付かれてしまったのだ。
「俺が知るか!早く離脱―――」
ドレッドが考察は後回しにして退こうとするも、二人は運悪くワニの進行ルートのど真ん中だったせいで、テイムモンスター共々見事に轢かれてしまう。吹き飛ばされたドラグとドレッドは死にはしなかったが、看過できないダメージを負ってしまう。
「やべっ。俺もアースも、今のでHPをだいぶ持っていかれた」
「シャドウもだ。さすがにこの状態で戦うのはマズイし……一旦逃げるか」
相棒達も深手を負ってしまった以上、今の状態でマイとユイと戦うのは危険と判断した二人は、急いでその場から離脱していく。
対してマイとユイは……
「今のって……」
「間違いなく、メイプルさんですね……」
マップに絶賛移動中で映っているメイプルの位置情報と、ワニの口の奥に見えた白い毛玉から察して苦笑していた。
「次はあっちに行ってみよー!」
――――――
クロムの方も、相棒のネクロのおかげもあって堅実に撃破数を稼いでいた。
「お、誰かがモンスターと戦っているな」
マップに映ったモンスターの位置情報を頼りに移動したクロムだったが、先にモンスターと接触していたプレイヤーの戦闘を見て一度動きを止める。
今戦っているモンスターは金色の狼。撃破数を稼げるボーナスエネミーであり、横取りするには十分すぎる獲物である。だが、クロムは敢えて観察する方向に舵を切った。
「アロックのやつ……戦える人形が二体に増えたのか?」
何故なら、金色の狼と戦っているプレイヤーがクロムもよく知る人物だったからだ。
アロックは【機械の演舞】で戦闘は可能であると知ってはいるが、それが二体ともなれば別だ。特にその内の一体はずんぐりとした機械人形だから、気になるのは当然である。
「クローネ【剛槌展開】」
レンジャー姿のアロックが指示を出すと、クローネと呼ばれた機械人形の大盾を構えていた両腕が巨大な槌に変形する。クローネは大槌を持っていたもう一体の人形共々、金色の狼をその三つの大槌で押し潰して撃破する。
「あれがアロックの相棒か?イズとはまた違った……」
クロムがクローネの能力を考察していると、バキバキと木が倒壊する音が聞こえてくる。クロムは何事かと思って顔をそちらに向けると……巨大なワニが口からレーザーを放ちながら迫って来ていた。
「……は?」
レーザーを放ち続けるワニにクロムは呆けた表情となるも、すぐに我に返って急いでワニの進路の外に出ようとする。しかし、呆けたことが災いして間に合わず、見事に押し潰されてしまった。
ワニに押し潰されたクロムは死にはしなかったが、見事に地面にうつ伏せで埋まってしまう結果となるのであった。
「クロムなのか?一体どういう状況だ?」
「俺に聞かないでくれ……」
――――――
「皆まだやられていないってことは、上手くやっているみたいだね。CFは一定感覚でマップに映ってるし、メイプルはずっとだけど……」
予選の残り時間が少なくなったことで、サリーはグッと背伸びをする。プレイヤーもかなりの数が死に、モンスターも狩りやすくなった以上、このままいけば最高難易度への挑戦権を得られるだろう。
「できれば強いテイムモンスターを持ってる人の戦いを見たかったけど……遭遇することはなかったなぁ」
上位ギルドは【集う聖剣】や【炎帝ノ国】以外にもあり、今回のような生き残りイベントなら二大ギルド以外で警戒すべきプレイヤーが浮上するとサリーは考えていたが、そう上手くはいかないものである。
「CFの話じゃ、ペインは竜をテイムしたみたいだしね。やっぱり竜だからブレスはあるだろうし、ミィのイグニスやシロップのように巨大化する可能性もあるのよね……一目でも見れたら恩の字なんだけど……」
サリーはそう呟きながらマップを確認する。そこで位置情報が公開されているプレイヤーの一人に目を付ける。
「お、ミィがマップに映ってる!残り時間も少ないし……」
サリーはミィとイグニスの戦闘をこの目で観察しようと動こうとするも、何かを感じ取って後ろの方へと視線を向ける。観察するようにじっと視線を向けていたサリーは、確信を持って言葉を発する。
「隠れてないで出てきたらどう?誰かは知らないけどね」
「……あちゃあ、バレちゃったか」
サリーの確信を持った呼び掛けに観念したのか、一人のプレイヤーが木の陰から姿を現す。
白い着物に黄色い袴……角のようにも見えるカチューシャを除けば、カスミの装備より和に近い衣装の装備に身を包んだ短髪の少女。武器は剣のようであり、鞘に収まったそれを左手で持ち続けている。
そんな彼女は、気楽な表情で話しかける。
「いやー、運よく見かけたからこのまま尾行してライバルの情報を得ようと思っていたんだけど、そう上手くいかないものだね」
和装の少女は肩を竦めると、腰を落として抜刀の構えを取る。
「だからさ……ここで一戦交えようか」
その宣戦布告と同時に、和装の少女は突撃していく。
「!?」
いきなりの先制攻撃ではなく、和装の少女の俊敏力にサリーは目を見開く。スキルを発動した様子はなく、単純なステータスとプレイヤースキルにする動きによるものと察したからだ。
そんなサリーに和装の少女は抜刀と同時に斬り裂こうとする。サリーはその一閃を紙一重で躱し、お返しと言わんばかりにダガーを振るう。そのダガーを和装の少女は鞘であっさりと防御してしまう。
「へえ、凄いね。避けるならまだしも、カウンターを仕掛けてくるなんてね」
「それはお互い様でしょ」
サリーと和装の少女は仕切り直すように互いに距離を取る。和装の少女は片刃の剣―――刀を鞘に素早く納めると、スキルを発動させる。
「【剣乱舞踏】【
スキルを発動させた和装の少女は距離があるにも関わらず、再度抜刀と同時に刀を何度も振るう。すると、幾条もの飛ぶ斬撃がサリー目掛けて飛んでくる。
「【一式・流水】!」
最初は躱すことで対処しようと考えたサリーだったが、自身の勘が避けるのはマズイと警鐘を鳴らした為、スキルによる弾きで飛んできた斬撃を全て弾いて明後日の方向へと流す。
その直後、和装の少女はサリーとの距離を詰めており、二人はそのまま互いの得物をぶつけ合う形となる。
「おお。運営の公式動画で魔法を弾いているシーンがあったのは知ってたけど、まさか飛ぶ斬撃まで弾けるなんてね」
和装の少女は余裕があるのか、感心するように呟いている。その余裕綽々な態度にサリーは少しイラッとする。
「随分と余裕ね?」
「そうでもないよ?初見殺しを防がれて、あたしも少し焦ってるよ」
和装の少女はそう告げているが、笑みを崩さずに告げているので本当なのか疑わしい程だ。
「焦っているなら、相棒の手でも借りたら?」
「小手先の探り合いでそう簡単に手の内は明かさないよ?そっちも相棒を温存してるしね」
鍔競り合いを続けながらも互いに挑発しあう二人。どちらも本気でないことは明白だ。
「とは言っても、このままじゃつまらないし……もう少しだけ手札を切ろうかな」
和装の少女はスッと目を細めると、剣呑な雰囲気を発し始めていく。
「【瞬転符】」
和装の少女は再度距離を取って刀を再び鞘に納めると、空いた右手から出現した何枚もの白く光る護符を次々とサリーへと投げ飛ばしていく。対するサリーは自身に迫るその札を体捌きで次々と避けていく。
「やっぱり避けるか。けどね……」
和装の少女はその瞬間、その場から姿を消す。次に現れたのは……サリーのすぐ後ろだった。
「っ!?」
「【抜刀奥義・
その瞬間、抜刀と同時に和装の少女を中心に円上の斬撃が幾つも飛んでいく。その内の一つに胴体を真っ二つに斬り裂かれたサリーは―――霞むように消えていった。
「!?」
「【七式・爆水】!」
驚きに目を見開く和装の少女の頭上で、【蜃気楼】と【黄泉への一歩】で上を取ったサリーは高ノックバックの斬撃を叩き込もうとする。和装の少女は咄嗟に飛び出すことで直撃を避けることはできたが、ノックバックの衝撃で半分吹き飛ばされる形となった。
「……まさかこれも失敗に終わるなんてね。どうやって無傷で逃げたのかな?」
「貴重な手の内を教えると思う?」
溜め息混じりの和装の少女の質問にサリーはそう返しつつも、内心では結構焦っていた。
(あれは完全に判断ミスったわね……【空蝉】がなかったら今ので間違いなく終わってた)
和装の少女が後ろに現れた時点で【蜃気楼】を発動して不意討ちを狙おうとしたサリーだったが、【抜刀奥義・天津風】が範囲攻撃であり、尚且つ距離が近すぎたのもあって避け切れずに貰ってしまったのだ。
(彼女のHPが半分も減ってる……どうやらHPを犠牲に発動するスキルみたいね)
【瞬転符】か【抜刀奥義・天津風】のどちらかは少し判断できないが、十中八九後者だとサリーは当たりを付ける。HPが半減ではなく消費である辺り、カスミの【血刀】よりコーヒーの【魔槍シン】に近いのかもしれない。
【アイアンメイデン】?そんなスキルはサリーの中では存在しない。
「【百鬼夜行】」
「!?」
スキルの考察をしている内に、和装の少女はサリーもよく知るスキルを発動させる。和装の少女の背後に妖怪の大群が出現し、そこから赤鬼と青鬼の二体が姿を現す。
(【百鬼夜行】を取得してるってことは、彼女は間違いなく強い!それにもしかしたら……)
四層の白鬼を倒すことで得られる【百鬼夜行】を前に、サリーは最大限に神経を研ぎ澄ませていく。サリーの予想が正しければ、和装の少女は
「これで三対一だね。鬼二体を相手にどう対処―――」
サリーの情報を少しでも多く引き出そうとする和装の少女であったが、遠くから聞こえる木がへし折れる音に意識が向く。
当然サリーも戦いを中断してそちらに顔を向けると……巨大なワニが口からレーザーを何度も放ちながらこちらへ迫ってくる姿が目に映った。
「……はぁ!?」
「あれって……」
和装の少女はすっ頓狂な声を上げ、サリーは口の奥に見える羊毛から察して苦笑いする。和装の少女は赤鬼の肩を足場にして高い場所に離脱し、サリーも【糸使い】でその場から離れる。
その数秒後、巨大なワニは先ほどまで二人がいた場所を通過し、その場にいた鬼二体を連れていく形で去っていった。
「……あれが君のギルドマスターかぁ。映像では何度か見たけど、実際に目にするとこうも気力が削られるんだね」
どうやら和装の少女も口の奥に見えた羊毛から察したようで、興が削がれた表情で呟いている。
「ま、多少の情報が得られただけ十分かな。釣り合いは取れてなさそうだけどね」
確かに今回得られた情報量であれば、サリーの方が多いだろう。だが、和装の少女の余裕綽々な態度を見る限り、言葉通りなのか疑わしいほどだ。
「勝負はまたの機会ってことで。次に戦う時があったら、あたしが勝たせてもらうよ。サリー」
「……そっちは名乗らないの?人のことを一方的に知っているのに?」
それなりに有名になっていると自覚しているサリーは、そこは追求せずに相手の名前を求める。対して和装の少女は確かにといった表情となる。
「それもそうだね。一方的に知っているのはフェアとは言えないからね」
和装の少女はタハハと笑うと、改めて自己紹介する。
「あたしの名はジェラフ。ギルド【thunder storm】に所属しているプレイヤーだよ」
【thunder storm】と聞いたサリーは、覚えのあるギルド名に目を若干見開く。
ジェラフと名乗った少女の所属しているギルドは第四回イベントで十位圏内に入った、トップクラスの上位ギルドの一つだからだ。
「ギルドマスターじゃないのね。ギルドマスターと名乗っても遜色ない強さなのに」
「強さ
どっちが強いのかは明白にせず、挑発するように告げるジェラフ。対するサリーは強敵に出会えたことに不敵な笑みを浮かべている。
「あ、そうそう。ウチのギルドマスターはCFにお熱で興味津々だから」
「…………は?」
そんなサリーにジェラフはいい笑顔で一番の爆弾を投下する。その爆弾発言を受け、サリーは理解が追いつかずに間抜けな表情を晒してしまう。そんなサリーにジェラフは笑いを堪えながら、悠然と去っていくのであった。
「…………っ!?ちょっと!?お熱で興味津々ってなによ!?一体どういう意味なのか説明しなさいよ!!第一、CFはただのフレンドで―――」
取り残されたサリーはというと、我に返った瞬間、その爆弾発言によって取り乱す結果となり、そのまま予選が終わるのであった。
「あっ!映像!待って待ってー!!」
ちなみに巨大ワニでフィールドを駆け回って知らず知らずの内に蹂躙していたメイプルは、鼻先に取り付けた映像記録結晶を回収できずに帰還したのであった。
「レイ、【聖なる守護】。太陽の剣閃は
「尽きぬ灼熱の業火
ドゴォオオオオオオンッ!
「……本当に凄まじい火力だ。【日輪ノ聖剣】以外で対処していたら、タダでは済まなかったな」
「レイに大技を使わせず、ダメージ軽減と自身の大技で受けきった男に言われてもな」
互いの大技に警戒するギルドマスター二人の図。
※この直後、巨大ワニの登場で勝負はお預けとなりました。