予選が終わり、運営ルームでは順位の確定作業が行われている。上位メンバーはやはりと言うべきか、よく知った名前が並んでいた。
「結局、大番狂わせはなかったですね」
「強いところは順当に強いテイムモンスターを見つけているからな。そうなれば地力の差が覆らないし当然か」
「強いて言うならば、無所属の生産職プレイヤーが最高難易度の挑戦権を得たくらいですね」
「もう少しPvP要素を強くした方が良かったかもな」
「そうだな。これじゃお約束展開でやる気がなくなりかねないからな」
「そうですね。特定攻撃の軽減エリアにボーナスエネミー……PvEの要素を強めにしすぎましたから、今回の失敗は次に活かしましょう」
今回の反省点を上げつつ、運営達は作業を続けていく。休憩の意味合いも兼ねて予選の映像も確認していく。
「……俺達、エリアボスは配置してないよな?」
「大型のモンスターは用意したけど、明確なボスモンスターは配置してないぞ」
「もう完全にプレイヤーの方がエリアボスになってるぞ。巻き込まれて倒れているプレイヤーも多数だし」
「しかも幾つかは軽減エリアに関係なく攻撃を放ってますね。ほら、アイテム攻撃が軽減されるエリアなんか、更地になってますよ」
コーヒーの雷撃にミキとシアンの絨毯攻撃、ミィの業火にペインの光の奔流、カスミの霧の森にイズの爆破、トドメのメイプルが生み出す地獄絵図。
もう、どっちがボスなのか分からなくなる。
「ルールや地形、スキルがマッチした結果、こうなったんだな」
「メイプルとCF、どちらを先に見ます?」
「……メイプルで」
一番の劇薬であるメイプルが大暴れしているであろう映像を一同は確認していく。
「ああ……あの花の効果を利用されてしまったのか」
「プレイヤーに位置情報がバレても、誰も横取りしようとしてませんからね。完全にモンスターの呼び寄せ装置にされていますね」
「これじゃ、モンスターを呼び寄せるアイテムを使用禁止にした意味がないじゃないか……」
モンスターを誘き寄せるアイテムその物はNPCショップでも購入可能ではあるが、メイプルとコーヒーはもちろん、殲滅力が強いプレイヤーにとっては便利すぎるアイテムとなるので今回のイベントでは使えないように調整していた。
にも関わらず、メイプルが効果を利用して誘き寄せてしまっているので、アイテムを使うのと大差がなくなってしまっていた。
「前のイベントをそのまま流用したのは間違いでしたね。次は何かしらの副次効果を追加するのがよろしいかと」
「手抜きしたつもりはないけど……要反省だな」
今回の失敗を学びつつ、運営は映像を確認していく。そして、メイプルが巨大ワニに襲われている場面が流れ始める。
「メイプルが痛がってますね」
「巨大モンスター限定かつ発動すると威力が減衰するとはいえ、牙を貫通攻撃にしたのは成功でしたね。これまでのパターンから、通用しなければそのまま居座ってしまうので」
新人は得意気な表情でふんぞり返る。今までのメイプルの行動パターンとデータから、有効性のある対策を施せたからだ。しかしそれも、長くは続かなかった。
「【鉄鋼液】を使いましたね」
「あれを作るのにそれなりにレア度が高い素材が要りますし、NPCショップでも一つ十万ゴールドと高額ですからね。そう多くは……」
そう呟く新人の前で、映像に映るメイプルは【鉄鋼液】を躊躇いなく使い続けていく。
「……え?え?」
「なんで惜しみなく使ってるの?それなりに高価なアイテムの筈なのに」
「効果が切れる前に使い続けてますし……十本以上使ってません?」
メイプルの行動に疑問を感じた一同は、運営の権限でメイプルの現在のインベントリを確認する。インベントリを確認した運営は……一斉に頭を抱えた。
「なんで三桁間近まで持ってるんだよ!?」
「たぶん、釣りプレイヤーのミキが大量に釣り上げたんじゃないかと……」
「それをメイプルに渡したのか!?」
「それしかあり得ないだろ!」
まさかの貫通攻撃無効アイテムの大量所持に頭を抱える運営一同。そんな運営の前で、メイプルは巨大ワニを車がわりにしてフィールドの大移動を始めていく。
「ワニが車がわりに……今回もメイプルに意表をつかれた……!」
「発想は面白い……面白いけど……!」
「【鉄鋼液】の譲渡は完全に予想外だった!こうなるなら、所持数に制限を設けるべきだった!」
「とは言っても、もう実装した手前、PvPでは役に立つかは微妙なアイテムだし……」
アイテムである以上、スキルを発動するよりも時間がかかる上、独特な形状で一目で【鉄鋼液】と分かるようにしていたから、要修正とまでには至らなかった。
「またしてもメイプルに……!こうなったら、本選のモンスターは全部貫通攻撃に―――」
「それはアウト」
「それをやったら、プレイヤー全員からブーイングの嵐だよ」
「ぐふぅっ!?」
新人撃沈。個人を狙い打ちした対策は絶対にやってはいけない案件なので。
「また新人が倒れたな。少しそっとしておくか」
「今の内にCFの映像を確認しておくか」
瀕死となった新人を放置して、一同はコーヒーの映像を確認していく。
「あー、こっちもモンスターの引き寄せ効果を利用しているな」
「メイプルと比べたらマシだけど、これはこれで問題だな」
「完全に【無防の撃】のデメリットを消しちゃってますね」
彼らが今回問題にしているのはモンスターの引き寄せ効果ではなく、【無防の撃】と【遺跡の匣】による凶悪な殲滅力の方であった。
「【追刃】は追加ダメージに対し、【遺跡の匣】は追加攻撃だからなぁ。火力が実質倍になっているのが痛いところだな」
「発動も解除も任意ですからね。スキルレベルが上がると、誘導性の高い光弾に変更可能になりますし」
「他にも四つに分散する追加効果があっただろ?その二つが組み合わさると……」
「そちらは大丈夫です。どちらも威力減少のデメリットがありますから、ぶっ壊れにはなりませんよ」
「倍率は……0.5倍と0.2倍か。実質0.1倍になるから大幅な火力低下だな」
「CFがその組み合わせを実行すると思うか?」
「実行するだろ。CFはメダルスキルの【レディアント】を持っているから、MP回復狙いでセットする可能性は濃厚だからな」
【遺跡の匣】と【無防の撃】はもう少し様子見することにした一同は、そのままコーヒーの映像確認を続けていく。
「CFはメイプルと違って、プレイヤーの襲撃を幾ばくか受けてるな」
「約一名以外は、嫉妬から襲っていますがね……」
運営はその後もあーでもない、こーでもないと議論しながら今後の方針や反省点を上げていく。
「上位陣の多くは弱点のカバーではなく、長所を伸ばしていますね」
「中にはテイムモンスター無しで上位入りしているプレイヤーもいますね。あくまで有利になりやすいだけで必須ではないですし」
「本選のモンスターは大丈夫かな……」
「大型モンスターもいますし、たぶん大丈夫でしょう」
「モンスターのポップ数を初期より上げてるし、プレイヤー達の苦戦は必須だろ」
「そうだけどさぁ……」
運営の一人は難しい表情のまま、大型モンスターのデータを眺める。そこには二体の情報が並んでいる。
「最高難易度に登場する暴虐メイプルモドキに許可を貰って作った四足城塞機竜……さすがに倒せない筈なんだが……」
「仮に倒されても……妙な納得感を覚えそうなんだよなぁ……」
「本来はこちらが襲う側なんですけどね……」
なにせ、予選とは違って本選ではパーティーを組んで挑戦できるのだ。戦略の幅も広がるというものである。
「……イベント、難易度別に分けて正解でしたね」
その言葉に一同は深く頷くのであった。
――――――
大方の予想通り、【楓の木】は全員が予選上位に入ることに成功した。メイプルが掲げた全員での最高難易度への挑戦が可能となったのだ。
本選ではパーティーを組むことができる為、これで改めて思う存分、ギルドメンバーのテイムモンスターの力を発揮できるというものである。
「フィールドは予選の時と同じだってさ。良かったねメイプル。今度はメダルもあるし、隅まで探索するよ」
「バトルも好きだけど、探索もやっぱり綺麗な景色が見れて好きなんだよねー」
カナデの運営からの通知を確認した報告に、最後は巨大ワニでフィールドを駆け回っていたらしいメイプルは改めて探索すると意気込みを露にする。
ちなみにクロムを轢いてしまった事実をメイプルは知らない。あれがメイプルによるものだと知ったクロムが優しさから、掲示板にすら書かずに胸の内に留めたからだ。
「でも、本当に良かったです。ちゃんと上位に入れて」
「ツキミが頑張ってくれたからね」
「私のユキミもねー」
極振り三人衆も無事に上位に入れたことに安心したのか、自身の相棒と戯れながら笑顔となる。
「テイムモンスターは本当に強くて戦術の幅も広がるけど……今度はそれに合わせた難易度になるだろうな」
コーヒーのその意見にサリーはもちろん、クロムとカスミも頷く。
「そうね。上位層は相棒がいるのがほとんどだと思うし」
「相棒がいるからといって、楽はさせてくれないと言うことか」
「むしろレベルを上げたりしないとキツくなる可能性もあるな」
「じゃあ、まだまだレベル上げしないとだね!シロップも頑張って強くしなきゃ!」
メイプルのその言葉に全員が頷く。本選まではまだ少し時間があるので、その間に相棒をさらに強くしようと考えるのは当然である。
「あ、そうそう。予選の途中でドレッドとドラグのテイムモンスターを確認したよ」
「私とユイも見ました!」
「ドレッドさんは黒い狼で、ドラグさんは土のゴーレムでした。どんな能力かは分からないですけど」
「じゃあ、実際に戦いを見た僕が説明するよ」
カナデはそう言って、二人のテイムモンスターの能力を説明していく。
ドレッドのテイムモンスター、シャドウは影を操る能力を持っていて、ドラグのテイムモンスターのアースは土や砂を操ることができると。
「うう……【大自然】が無効化されちゃうのは苦手な相手かも」
「影に潜っての攻撃のすり抜けと【影分身】に似たスキルも厄介かもな。もしかしたら影を利用した動きを封じるスキルもありそうだし」
「俺もアロックの相棒を確認したぞ。無骨な機械人形みたいな奴だったが、スキルの効果で見た目が変わっている可能性もある」
今回確認できたテイムモンスターの情報を共有していく中で、サリーは思い出したように告げる。
「そういえば、テイムモンスターじゃないけど強いプレイヤーには会ったよ。どんなモンスターをテイムしているのかは分からなかったけど、間違いなく上級プレイヤーね」
サリーはそう前置きして、今回戦ったジェラフのことを話していく。
「ギルド【thunder storm】所属のプレイヤーか……実際に戦ってどうだった?」
「相当手強い相手ね。戦闘スタイルはカスミに近いと思うけど、攻撃範囲は向こうが上だと思う」
「しかも【百鬼夜行】を取得しているのか……もう一つも取得してそうか?」
【雷神陣羽織】を取得しているコーヒーの疑問に、【水神陣羽織】を取得しているサリーは頷いて肯定する。
「憶測の面が強いけど、取得している可能性は高いと思う。でなきゃ、ああもあっさりと明かさないと思うから」
【百鬼夜行】は回数制限こそないが、発動中は装備以外のスキルを【封印】してしまうスキルだ。そんな使い勝手の悪いスキルを迷わず切ったという事は、それ以上のスキルを有していると考えるのは自然の流れである。
その流れで、コーヒーもジエスのことを話していく。とは言っても、そんなに多くを語ることはできないが。
「空を飛べるプレイヤーか……私達が知らないだけで、強いプレイヤーはそれなりにいるのだな」
「飛行できるのは本当に厄介だからな。上空からの攻撃は、対処が難しいし」
クロムはそう言ってコーヒー、ミキ、メイプルの順番で視線を向ける。コーヒーは顔を逸らし、ミキとメイプルは首を傾げている。
「まあ、今回はPvPではないからな。その二人に対しては次のイベントまでに地道に集めていけばいいだろう」
「そうね。【集う聖剣】も【炎帝ノ国】のみんなも、強いテイムモンスターを仲間にしているからね」
【集う聖剣】の主力メンバーのテイムモンスターは、竜に小鳥、白虎にお化け、今回判明した影の狼に土のゴーレム。
【炎帝ノ国】は不死鳥に蝙蝠、メイプルとシアンの情報から、シンは鷹、ミザリーは子猫、マルクスはカメレオン、カミュラは球体のゴーレムを仲間にしている。
弱点のカバーにしろ、長所を更に伸ばしているにしろ、攻撃パターンが多彩になっているのは明白だ。
「よしっ、次のイベント頑張って、メダルもいっぱい手に入れてもっと強くなろう!」
「次の目標は全員メダル十枚入手か。悪くないな」
「そうね。一人一人強くないとね」
それぞれ決意を新たにしつつ、本選に向けて一同は気持ちを引き締めるのであった。
「二人がそれぞれ所属しているギルドマスターはどんな奴なんだろうな?」
「ジエスの口振りからして、二人一組で行動していそうなんだよな」
「サリーの方はどうだ?」
「…………さあ?強いて言うなら強い程度ね」
「?」
少しの間に首を傾げるコーヒーの図。
一方……
「ジェラだけサリーさんと戦ってズルいっすよ!」
「尾行がバレたから予定変更しただけだよ。バレなかったら観察に徹するつもりだったし」
「……本音は?」
「一戦交えられて満足。やっぱり映像だけじゃ力量を測れないからね」
「ジェラフ……」
「うわぁあああんっ!!私もCFさんと戦いたかったっす!」
「はぁ……」
「今回のイベントの仕様からしてもう無理だね。共闘はあり得そうだけど」
「共闘!それも面白そうっす!」
「ギルドのみんなは、反対しそうだけどね……」
「あくまで状況次第だよ、ベル。最高難易度にはそれなりの人間で挑めるからね」
ギルド【thunder storm】のトップ3の図。