それぞれが相棒となるモンスターのレベルを上げる日々を過ごしているうちに、いよいよ本選開始の日がやってきた。
本選にはもちろん全員で最高難易度に参加。三日間生き延びれば、五枚の銀のメダルが獲得できる。もちろん、ただ生き残るだけで終わらせるつもりはない。
「銀のメダルはフィールドのモンスターを狩ることでも得られるからな。最低でも五枚集められれば上出来かな」
「メダル以外にも、希少なアイテムを落とすみたいだから本当に判断が難しくなるわね」
「希少なアイテムか……メイプルやコーヒー、サリーやカスミのような強力な装備を作れる素材かもしれないな」
クロムの言う強力な装備とは、ユニーク同然のスキル持ちの装備だ。製作には最低でも一千万ゴールドが必要で、装備した瞬間に本人にしか使うことが出来なくなる。サリーの装飾品枠である《刃竜のグローブ》も同様だ。
「装飾品でもユニーク同然の装備が作れるのは本当に便利だよな。その素材自体が手に入りづらいけどな」
「最後まで全員で一緒にいるか、リスクを承知で別々に行動してモンスターを倒すか……どちらかを選ぶことになるわね」
今回得られるメダルはパーティーメンバー全員に配布される。例を上げるなら、八人パーティーを二組に分散して片方がメダルを手に入れれば、もう片方も同じようにメダルを得ることができるといった具合だ。
「ところで……」
サリーは言葉を切ってチラリと視線をとある人物に向ける。その人物は……ギルド無所属の生産職プレイヤー、アロックだった。
「何でアロックさんが此処にいるの?」
「私とクロムが誘ったのよ」
「それなりに親交があったし、本人も本選の最高難易度に参加できるからな。今回のイベントはプレイヤー同士の戦闘もないしな」
「本来はギルドに加入していない者同士で挑む予定だったが、その前に二人に誘われてな。ギルドマスターも快く了承したことで、こちらも快諾した」
「……メイプル?」
全く話に聞いていなかったサリーは、ジト目でメイプルに視線を送る。対するメイプルは両手を合わせてペコペコしていた。
「ご、ゴメンねサリー!伝えておくのを忘れちゃってて!」
「まあ、別にいいんだけど。ところでアロックさんの相棒ってどんな感じなの?」
「そうだな。共に戦う以上、ある程度は共有すべきだろう。クローネ【覚醒】」
アロックがスキル名を唱えると、アロックの隣に宙に浮く一つの光る小さな歯車が現れる。第一印象はイズがテイムしたフェイの金属版といった感じだ。
「それがお前の相棒の本体か。あの機械人形の姿はやっぱりスキルの効果だったか」
「その通りだ。さすがに子細は隠し味の如く伏せるが」
今回のイベントで協力するとはいえ、アロックは【楓の木】のメンバーではない。サリーもその辺りは当然と考えてあっさりと受け入れる。
十二人のメンバーでは実質パーティーを組めるのは六人だ。本来なら片方はメイプルの【身捧ぐ慈愛】の恩恵を得られなくなってしまうところであるが、今回のイベントの仕様がそれを解決していた。
「今回のイベントはパーティー同士のリンクが可能みたいだからな。四パーティーが限界とはいえリンクすれば、別パーティーの恩恵も受けられるようになる」
「お互いの承認が必要だったり、等分で三名以下になると解除されるという規約はあるけど、実質八人以上のパーティーが組めるのは大きいと思うよ。それだけ今回のイベントは厳しくなるという、運営のメッセージかもしれないけど」
このリンク機能のおかげで、【楓の木】のメンバー全員+αは【身捧ぐ慈愛】の恩恵から外れる心配がなくなったのである。場合によっては別ギルドのパーティーとも臨時で組める、共闘しやすくなる機能でもある。
「もしかしたらペインさんやミィとも一緒に戦えるかも」
「状況次第ではそうなるかもね。基本はライバル同士だけど」
メイプルのその呟きにサリーはそう返すが、実際には難しいと考えている。
共闘するということは、自身の情報を相手に知られ易いというリスクを負うことになる。今回のPvEのイベントではPvPイベントが開催された際に不利に働く可能性もある。つまり、実質同じギルドのメンバー同士のパーティーでしかリンクできそうにないのである。
それを加味しても、共闘できる可能性はないと言い切れないのには理由がある。
「通知には強力なモンスターが出てくる時間があると書かれているからな。不測の事態で一時的に手を組むというのも悪い線じゃない」
「場合によってはー、協力し合ってメダルを稼ぐのもいいかもねー」
基本的には同じギルドの者同士で頑張れれば一番良いのだろうが、イベントの状況次第ではそうもいかない可能性もある。
情報の秘匿かメダルの大量入手か……さじ加減が難しいところである。
「よそ者の俺が言うのも何だが、今いるメンバーで組分けするべきではないか?組めるかどうかも分からない相手に、あれこれ期待するのもどうかと思うのだが」
「それもそうだな」
「十二人いるから三つに分けることもできるけど、能力とかを考えたら半分に分けた方が無難かしらね」
イズの意見に全員が賛同したことで、チーム分けはメイプル、サリー、マイ、ユイ、シアン、ミキの六人とクロム、カスミ、イズ、コーヒー、カナデ、アロックの六人となった。
極端かもしれないが、一撃でも受けたら終わりの四人がいるのに加え、様々なアイテムを大量に持っているミキがいれば生存率が大きく上げられるからだ。なのでチーム分けは一分以内で決まってしまった。
……多くの者はコーヒーとサリーを一緒のチームにすべきかと悩んだが、さすがに真面目にすべきと自重したのは秘密である。
「本選も頑張ります!」
「俺も最善を尽くそう」
「よーしっ!最後まで生き残ろうっ!!」
メイプルのその号令と共に、その他にいた全員はイベント専用フィールドへと転送されるのであった。
――――――
一同が降り立った場所は砂と岩場しかない、砂漠とも荒野とも呼べる場所であった。
「見通しがよくてよかった。周りにプレイヤーはいない、か……」
「ああ、だが早速のお出ましだぞ!」
カスミのその警告と同時に、周りの砂が大きく波打つ。そこから全員を呑み込めそうな巨大な口を持つワームが次々と姿を現していく。
「【身捧ぐ慈愛】!」
その内の一体がメイプル達を呑み込もうと迫るも、メイプルが直ぐ様【身捧ぐ慈愛】を発動したことで事なきを得る。メイプルによって攻撃が無力化されたことで、全員がそれぞれのテイムモンスターを呼び出していく。
「クローネ、【部品接続】【弩弓展開】」
アロックの指示により、クローネの周りに機械的な部品がガチャガチャと集まって一つになると、ずんぐりとした機械人形の姿となる。戦闘モードとなったクローネは金棒のような太い両腕をクロスボウに変形させると、ワーム達に攻撃を仕掛けていく。
「フェイ【アイテム強化】」
「ジベェ、【高潮】ー、【荒波】ー」
その間にイズがフェイによって強化された攻撃力アップアイテムを地面に叩き付け、赤い光が全員を包み込んで攻撃力を大きく上げる。ジベェもワーム達の周りに水を呼び寄せて、続けて荒れる水面で動きを制限していく。
「「【パワーシェア】!【ブライトスター】!」」
そこにマイとユイがツキミとユキミに指示を出し、STRが共有された状態で範囲攻撃を放つ。STR極振りの二人の攻撃力を得た相棒達の凶悪となった範囲攻撃により、ワーム達は大きなダメージを与えられる。
「迸れ、
ツキミとユキミの攻撃で怯んだワーム達をコーヒーが威力の上がった雷の鎖で縛り上げ、物理的に動きを封じつつダメージを与えていく。
「【血刀】!ハク、【超巨大化】!」
「朧、【渡火】!」
「ネクロ、【死の炎】!」
「モルフォ、【輪廻の花】!溢れよ、【フラッシュティア】!【連続起動】!」
ワーム達が縛られたことでカスミ、サリー、クロムの三人がここぞとばかりにダメージを与えていく。
カスミの液状の刀と突然現れて突き刺さる刀にハクの締め上げ、サリーの攻撃に合わせてモンスターへと連鎖していく炎、【
「おおー!すっごい!皆のモンスター強いね!」
「メイプルさんが守ってくれていたので、今回は戦いやすかったです!」
「皆さんのモンスターも強かったですしね!シアンちゃんもいつもより魔法を多く放てるようになってたし!」
ユイがそう言ってシアンに顔も向けると、当のシアンは首を傾げていた。
「あの……さっきモルフォに指示したのは攻撃スキルだったんだけど……」
「え?」
「だとしたら少しおかしいな。光の範囲魔法が二つ同時に見えたのもあったしな」
「ふふふ……ソウ!こっちこっち」
シアンの返答で不思議そうに首を傾げた面々を見たカナデは可笑しそうに笑うと、自身の相棒のソウを呼ぶ。カナデ呼び掛けに答えてハクの陰から現れたのは、もう一人のシアンだった。
「えっ!?私!?」
「そうだよ。ちょっと借りさせてもらったよ。スキルも能力もコピーできるから、一緒に魔法を放ってもらったのさ」
カナデのその説明で、一同は今回のカラクリに気づいて納得した。
ソウは見た目だけでなく、能力もそっくりになるのだ。それでシアンに擬態し、共に火力のおかしい魔法を連続で放ったのである。
「おー。カナデのテイムモンスターも強いね」
「単純に考えても手数が二倍になったからな。強いプレイヤーをコピーしたら、相手からしたら堪ったものじゃないし」
「ふふふ」
コーヒーの感想にカナデが悪戯っぽく笑みを浮かべていると、ソウの姿が元の透明なスライムの姿に戻る。どうやら擬態していられる時間はそう長くないようである。
「あ!サリー、メダル落ちてたりするのかな?」
「んー、ちょっと探してみるね」
サリーはそう言って、ワームを倒した付近を調べていく。しかし、メダルらしきものは一枚も落ちていなかったようで、頭を振ってメダルの有無を伝える。
普通のフィールドではボスモンスターと評してもおかしくない強さではあったが、今回のイベントではこの程度は雑魚モンスター扱いだったようだ。
「気を抜くとすぐに死んでしまいそうだな」
「しぶといクロムがそれを言ってもねー」
「例の公式動画で確認したが、分量を間違えた砂糖菓子の如きしつこさだったぞ」
生産職二名から散々の言われようのクロムではあるが、三つも生き残りスキルを取得しており、身代わりアイテムも持っているから当然の反応とも言える。
「しつこい甘さね……確かに甘さが口の中に残り続けるのはうんざりするかも」
「甘さも苦さも、程よくしなければ不快になるからな。些細でもその差は如実に出る」
「どちらにせよ、これが最高難易度ということなのだろう。よし、まずは少し落ち着けるところを探そう。皆ハクの上に乗ってくれ」
全員、カスミ以外が一旦テイムモンスターを指輪に戻すとハクの背中に乗ってズルズルと砂漠を抜ける為に進んでいく。
コーヒー達がいた砂漠は森や湿地とも繋がっており、少しして森と湿地が見え始めたところでモンスターもいなかったこともあり、此処から二手に分かれることにした。
「マップには互いの位置が表示されているから、ここで分かれて強いモンスターが現れる時間の少し前に集まる感じでいこう」
「そうだな。こっちは森の方で、サリー達の方が湿原でいいか?」
「それしかないでしょ。湿原ならミキのジベェですんなり探索できるし」
サリーの呆れ気味の返しに、それもそうかとコーヒーは苦笑する。
此処から一時的に別行動ということでメイプル、サリー、マイ、ユイ、シアン、ミキがハクの背中から降り、大きくなったジベェの背中に乗っていく。
「CF、指輪の【遺跡の匣】を【ワイルドハント】に変えておいて。今回は追加攻撃より手札の多い方がいいから」
「分かった」
サリーの要望に答え、コーヒーは《信頼の指輪》に登録されているスキルを変更する。今回の生き残りがメインであれば、発動の為のお金さえ払えば攻撃に足場、即席の盾代わりにも使えるスキルの方がずっと有用だからである。
「そうだ。お前達にこれを渡しておこう」
アロックはそう言ってメイプル達にいくつかのドリンクを渡していく。
「これは?」
「俺が作った特殊なドリンクだ。飲めばステータスアップのバフや、持続回復の効果等を得ることができる」
「凄いな。これを売ればお前の店はもっと人気になるんじゃないか?」
「ふざけたことを抜かすな、クロム。俺は味で勝負しているのだ。恩恵を売りにするつもりは欠片もない」
「スマン。今のは俺が悪かった」
そんなやり取りがありつつ。
こうして予定通りに二手に分かれた一同は、メダルを探す為にそれぞれ探索するエリアへと向かうのであった。
「このパーティー同士のリンク機能は本当に必要だったのですか?私個人としては不要に感じますが」
「全体的に難易度が高いですし。特に最終日は協力し合わないと生き残れない仕様にしましたし」
「メダルを落とすフィールドモンスターや軽減エリア……どれだけプレイヤー同士が手を取り合えるかも重要だからな」
「さすがに無制限だと寄生プレイの危険もあるので、上限は設けたましたけど」
「そうですか。そこまで考えておられるのなら、文句は言えませんね」
運営達のやり取りの図。