森の方へと向かったコーヒー達は、【超巨大化】したハクに乗って移動している。当然、道中でモンスターが襲ってくるも……
「【凍える風】【鈍化の歌】【重力の檻】」
「弾けろ、【スパークスフィア】」
カナデが魔導書と紫のカードから速度低下のデバフが撒かれ、そこにコーヒーの雷魔法と連続で放たれた矢が襲いかかり、【遺跡の匣】の追加攻撃の光線がさらに撃ち抜いていく。コーヒーの攻撃でボロボロとなった上に満足に動けないところでイズが爆弾を投げ、アロックの相棒のクローネと機械人形が矢を放って止めを刺すのが一連の流れとなっていた。
「暇だな」
「ああ、暇だな」
そんな中で、遠距離攻撃手段が乏しいクロムとカスミが暇そうに呟く。一応攻撃を潜り抜けた時に備えて何時でも戦えるように身構えているが、今のところは問題なく撃退されている。
「サリーから目ぼしい場所の写真が送られてたから、そこをメインに調べていけばいいが……」
「本当にサリーは抜かりないな」
サリーの抜け目のなさに感心半分、呆れ半分になっている一同の前に新たなモンスターが姿を現す。それは背中に羽を生やし、頭に王冠を乗せた銀の鱗を持った巨大な蛇であった。
「お、蛇か。見た感じ、ハクより手強そうだ」
「私のハクの方が強いぞ」
そんな張り合いに構わず、銀の大蛇は口から炎を火炎放射の如く吐き出していく。
「ブレス持ちかよ!?ネクロ、【幽鎧・堅牢】!」
「クローネ、【塔盾展開】!」
「【火炎の体】!【神の息吹】!」
いきなりのブレス攻撃に驚きつつもネクロに指示を出したクロムの隣に、アロックの指示で両腕を大盾に変えたクローネが一緒になって炎のブレスを受け止める。さらにカナデが魔導書の火属性への耐性付与スキルと、紫のカードのダメージカットと持続回復効果のあるスキルを使ってブレスによるダメージを抑えていく。
「ソウ、【擬態】。続けて【ミラージュロイド】【溶解液】【ミラージュロイド】【腐蝕の腕】!」
「【血刀】!【武者の腕】!【四ノ太刀・旋風】!」
「砕け、【崩雷】!閃け、【雷輪十字剣】!荒め、【レイジングボルト】!」
「フェイ、【森の怒り】【アイテム強化】!」
カナデに擬態したソウが【ミラージュロイド】で分身してVIT減少スキルと全耐性低下スキルを使って銀の大蛇の防御力をガクンと下げる。そこにカスミとコーヒーが攻撃を叩き込み、イズも強化された爆弾を投げつけていく。
血の刀と両脇に存在する腕が持つ刀に連撃、槌の如き雷と十字の雷剣、地面から迸る雷撃に追加攻撃の光線と星、威力が大きく上がった爆弾を大蛇はマトモに受ける。しかし、それだけの猛攻を受けたにも関わらず大蛇のHPは二割ほどしか減っていなかった。
「あの蛇、HPがかなり高いな。防御力が落ちているにも関わらず、思ったより減っていないからな」
「【激痛薬】はあるけど……メイプルちゃんがいないから使うのは危険ね」
【激痛薬】は被ダメージが二倍にできるアイテムだが敵味方問わずなので、メイプルがいない今使うのはハイリスクなのである。
「なら、【グロリアスセイバー】で吹き飛ばすか?」
「それも悪くないが……ここは私に任せてくれないか?ちょうど光が三つ……【顕明連】が発動しているからな」
時間をかけるのは得策でないと提案したコーヒーに対してカスミはそう告げると、刀を大蛇に向かって構える。カスミの言葉を聞いた一同はステータスを上昇させるアイテムやスキルをカスミに使っていく。いくつものバフを受けたカスミは【磁場領域】の効果で雷を靡かせながら、一気に大蛇との距離を詰めていって目前でスキルを発動させる。
「見果てぬ三つの千世界 その智慧と神力を以て現世に顕れよ―――【三千大千世界】!」
スキルを発動させた瞬間、カスミの背の後ろに現れた朧気に揺らめく無数の刀が隊列の如く並んでいく。
【顕明連】発動時に使えるスキル【三千大千世界】。その効果は
【三千大千世界】に反動や代償はないが、発動確率は5%と低い上に使用回数は一日1回と制限がある。その限定的な切り札を、カスミはここで切った。
「終の刃は天寿を斬り裂かん―――【終ワリノ太刀・朧月】!身を喰らいし妖刀 我が肉体を対価に真の力を発揮せん―――【紫幻刀】!」
二つの最高火力スキルを発動させたカスミは両脇に従えた武者の腕と共に怒涛の連撃を大蛇に叩き込んでいく。【三千大千世界】と【口上強化】によって威力と効果が上昇した二つのスキルによる火力は、攻撃が決まる度にダメージが増えていくのもあり、八割近くあった大蛇のHPを大きく削っていく。
当然、大蛇も黙って殺られるわけはなく、紫色の魔法陣を周囲に展開していく。
「そうはいくか!【挑発】!」
「【
それに対してクロムが大蛇の注意を自身に向けさせる。カナデもモンスターの攻撃を引き付け、プレイヤー判定されるスキル【
「迸れ、【リベリオンチェーン】!」
「【機械の演舞】!」
コーヒーも援護の為に大蛇を雷の鎖で縛り上げ、アロックもスキルによる機械人形を召喚してゴツい武装―――パイルバンカーを装備した右腕を大蛇の顔面に叩き込む。
「パイルバンカーまであるのかよ!?」
「あくまでスキル専用の装備だ。俺はもちろん、プレイヤーに装備することはできない」
クロムのツッコミにアロックが律儀に説明する間もカスミは攻撃を続け、フィニッシュの体勢に入る。
「はぁっ!」
「サンダー!」
カスミは刀を投げ飛ばして両手を叩き、周囲に幾本もの刀を出現させて刺し貫かせる。更に倍の刀が自身に向かって収束して刺し貫かれ、コーヒーの追撃の雷撃も受けた大蛇のHPはレッドゾーンに突入する。
「よし、これで……」
【紫幻刀】の代償で幼児化したカスミは減少を続けている大蛇のHPを見て勝利を確信するも、大蛇のHPバーが不自然に止まったことで吹き飛ばされた。
「そんな……あれを耐えたのか!?」
「いや、今の止まり方は【不屈の守護者】のような耐えスキルの感じだった!」
「だったらすぐに追撃を……!」
コーヒーがすぐさまクロスボウを構えるも、大蛇はコーヒーが矢を射つよりも早く自身の尻尾に喰らいついた。その動作にコーヒーは嫌な予感を覚えて矢を矢継ぎ早に放っていくが、時既に遅し。
大蛇は自身の尻尾を明確に喰らっていき、自身のHPを一気に回復させた。
「ウロボロスかよ!」
羽と自身の尻尾を喰らう姿から、コーヒーは目の前のモンスターはウロボロスがモチーフになっていると気づいて声を荒げる。
「さすがにあれはマズイぞ。HPの最大値が減ったとはいえ、あれを何度も繰り返されるとこっちがじり貧になる」
苦々しい表情となったクロムが指摘した通り、ウロボロスのHPは元のHPから制限を受けたように減っている。しかし、カスミの超火力と化した連続剣でなんとか削れそうだった程のHPを持っているのだから、多少減った程度では意味がなかった。
「尻尾が幾ばくか短くなってるわね。あれを見る限り、何度も回復はできないと思うけど……」
「どこで打ち止めか分からない以上、長期戦はこっちが不利だ。序盤で大幅に消耗すると後が厳しくなる」
「尻尾を食べるという行動を起こす辺りからして、食べる前に一撃を与えられたら倒せる可能性はありそうだけど……」
カナデはそう考察するも、カスミはスキルの反動で弱体化してしまっている。髪飾りでデメリット時間は半減しているとはいえ、もう一度あの火力を出すのは不可能だ。
「なら、俺の強化した【グロリアスセイバー】で奴のHPを一気に削る。そのすぐ後に回復前に攻撃を叩き込むのはどうだ?」
「長期戦は避けたい以上、それしか手がないのは確かだが……あれは軽く吹き飛ぶだろ。下手したら無駄撃ちに終わりかねないぞ?」
「大丈夫だ。手はある」
コーヒーのその言葉に、一同は信用してウロボロスの足止めに集中していく。カスミは幼児化の影響で戦線離脱ではあるが。
「深淵に潜む光 輝きは次代に継がれ 此処に顕現す―――【聖刻の継承者】!羽織る衣は雷の化身 我は雷神に認められし者なり―――【雷神陣羽織】!無限の魔力を作る機関 その魔力で限界を超えて動かん―――【ジェネレータ】!!」
コーヒーは確実にウロボロスのHPを限界まで削るべく、【口上強化】した【聖刻の継承者】に【雷神陣羽織】、使用リスクが高い【ジェネレータ】を発動させる。
「【ボルティックスラッシュ】!唸るは雷鳴 昂るは信念の灯火 雷鐘響かせ威厳を示さん―――【ヴォルテックチャージ】!!」
コーヒーはそこで【グロリアスセイバー】を発動させず、【ボルティックスラッシュ】を発動させてから【ヴォルテックチャージ】を発動させる。何故【ボルティックスラッシュ】を発動したのか。それはメイプルのとある呟きからだった。
『そういえば、雷の剣を出した状態で【グロリアスセイバー】を使ったらどうなるのかな?』
この時メイプルが言っていたのは【雷翼の剣】のことであったが、コーヒーは【グロリアスセイバー】が修正されたこともあって検証することにしたのだ。
結果から言えば、【雷翼の剣】からの【グロリアスセイバー】は変化なし。物の試しで翌日に【ボルティックスラッシュ】から【グロリアスセイバー】を使った結果、射出ではなく剣を振るう形に変わったのである。
どうやら【ボルティックスラッシュ】中はカテゴリー状は『剣』に分類されるようで、『剣』を媒介とした【グロリアスセイバー】は二刀流と同じく振るう運用になったが、威力は1.5倍となり二刀流とは違って攻撃が成立するまで解除されなかったのだ。その為【グロリアスセイバー】の新たな攻撃方法が生まれたのである。
そんな新しい運用でコーヒーは必殺の詠唱を始めていく。
「掲げるは森羅万象を貫く威信 我が得物に宿るは天に座す鳴神の宝剣 夜天に響く雷音は空を切り裂き 無明の闇に煌めく雷光は
コーヒーは長い詠唱を終え、雷刃が宿ったクロスボウを掲げる。そして、最後の一声を上げる。
「限界を超えし蒼き雷霆よ集え!【グロリアスセイバー】!!」
コーヒーが最強火力の雷魔法を発動させると、コーヒーの手に普段より小ぶりではあるが長大な雷の宝剣が姿を現す。それを手にコーヒーはウロボロスへと目掛けて走っていく。
ウロボロスは当然、尻尾を振りかぶって迎撃しようとするも邪魔する者がいる。
「【カバー】!【ヘビーボディ】!」
「【拘束結界】!」
クロムがウロボロスの尻尾をしっかりと受け止め、カナデがカードにコピーされたスキルを使ってウロボロスの動きを止める。そんなウロボロスに向かってコーヒーが【グロリアスセイバー】を振り下ろす。
派手な爆発もなく、ただの剣閃による一撃。だが、威力は桁外れとなっている雷の宝剣による一撃はウロボロスを切り裂き、切り裂かれたウロボロスはHPを一気に削られていく。ウロボロスのHPバーは一気にレッドゾーンに突入するも、カスミの時と同様に再び確定で耐えられてしまう。
コーヒーの【グロリアスセイバー】を耐えたウロボロスは、またしても自身の尻尾を喰らって回復しようとする。
「させるか!【シールドアタック】!」
ウロボロスの回復行動が成立する前に、足止めしていたクロムが大盾を叩きつけてトドメを刺す。クロムの攻撃で最後のHPを削られたウロボロスはそのまま倒れて光となって消えていった。
「まさかフィールドにあんなモンスターがいるなんてな……」
「確定耐えに加え、最大値が減るとはいえHPが上限まで回復したからな」
「コーヒーの強化された【グロリアスセイバー】を確実に耐えるモンスターだったからな。普通に考えればエリアボス―――」
そのタイミングで通知音が鳴り響き、全員に銀のメダルが一枚配られたことが伝えられる。
「お、噂をすればさっそく……?」
通知欄を確認したクロムは困惑したように首を傾げる。そんなクロムの様子に一同は疑問を感じて理由を問いかける。
「いや、実はな……」
クロムは歯切れが悪そうにしつつ、自身のインベントリを操作して一つの破片を皆の眼前の前に晒す。そのアイテムらしき破片の説明文を見た一同は興味深げな視線へと変わった。
「【身喰らう王冠の破片】……説明文を見る限り、ユニーク装備が作れる素材みたいだな」
「私達には銀のメダルだけということは……最後に倒した者への特別報酬なのか?」
「その線はあり得るわね。全員に配布したらゲームバランスが崩れそうだし」
運営が通知で知らせた強力なモンスターとは別枠のモンスターだろうが、強化モンスターがいる中で先のウロボロスのようなモンスターが襲ってきたら唯で済まないことは明白だ。
「それでどうする?さすがに引け目を感じるんだが……」
「クロムが持ってていいんじゃない?」
「そうだね。最後に止めを刺したのはクロムだし」
「俺も同意見だ」
「私も異存はない」
「それに得られそうなスキルが回復か食いしばりのどっちかの気がするしな」
満場一致で今回得られたユニーク素材の所有権はクロムのままとなり、一同は再びハクに乗って森の中を探索し続けるのであった。
「しかし、仕方なかったとはいえコーヒーが一時間も戦線離脱か」
「反動が消えるまでは爆弾で援護するさ」
――――――
「サリー!さっそくメダルが手に入ったよ!」
「エリアボスでもメダルは落とすみたいね。その強さは結構曲者みたいだけど」
「私達も負けていられません!」
「そうだねー。そろそろー、サリーが目印した場所に着くよー」
さっそく一枚メダルが手に入ったことにメイプル達も俄然やる気が上がり、その意気込みのまま最初の目的地である花が咲いた小島へと降り立つのであった。
「初日からウロボロスが倒されたぞ」
「ああ……また【楓の木】なのか……」
「あれで作られる装備のスキルは固定だけどさぁ……」
「【デッド・オア・アライブ】に近いけど、多少の回復と上限低下が追加されてるからな。発動する度に弱体化だ」
「ますます死にづらくなるけどな」
「「「アハハハハ」」」
乾いた笑い声が上がる運営の図。