「ダンジョンもエリアボスも、そう上手く見つからないな」
「それでも、初日にメダル三枚は幸先良いと言えるけどね。【黒雷】」
矢を連続で放っているコーヒーの呟きに、カナデは魔導書に保存された黒い雷撃を放ちながら言葉を返す。
あの後、メイプル達の方はダンジョンを見つけて攻略し、メダルを一枚手に入れた。その後にコーヒー達の方もダンジョンを発見し、ボスらしき忍者モドキを倒して二枚目のメダルを手に入れたのである。
……その二枚目のダンジョンは、イズのアイテム攻撃で攻略したと言っても過言ではなかったが。
「強化モンスターが出てくる時間がそろそろ迫ってるし、ここらでダンジョンの探索は一度切り上げて拠点を探した方がいいな」
「ああ。今の内に拠点に向いている場所を探して、迎え撃つ態勢を整えた方がいいだろう」
クロムとカスミも時間的に夜に現れる強いモンスターを警戒し、落ち着ける場所を探すべきという提案に残りのメンバーも反対することなく頷き、防衛に向いていそうな場所を探していく。
「どの辺りを拠点にする?」
「中央付近が良いのではないか?予選の時、マップの外はあくまで侵入不可だった以上、隅の方は避けるべきだと俺は思うが」
「確かに」
「例の強化モンスターはその隅からやって来る可能性が高いってことか。安全を考えればそれが無難だな」
アロックの意見から拠点はマップの中央を中心にして探すことに決めた一同は、襲いかかるモンスターを撃退しながら拠点に相応しい場所を探していく。
「お、此処なんか良いんじゃないか?空間もいくつもあるし、防衛拠点としては相応しいんじゃないか?」
「そうね。位置もマップの中央に近いし、此処を拠点にしましょうか」
少しして見つけた洞窟が丁度良い感じの作りだった為、コーヒー達は此処を拠点とすることを決める。メイプル達にもメッセージで拠点を確保したと伝え、メイプル達も今からそこに向かうとメッセージを返す。
「それじゃ、さっそく色々作るわね。こんな見た目じゃ落ち着けないしね」
「なら、俺は手持ちの食材を使って料理を用意しよう。【野外調理】」
すっかりライフライン担当となっているイズは洞窟の奥で快適に過ごす為のアイテムの作成を始めていき、アロックも英気を養う為の料理を作る為に簡素な調理器具で調理を開始していく。
「外で調理できるなんて意外ね」
「あくまで簡素な料理程度だ。具体的にはキャンプで作ることができる料理程度。パイやピザ等はカマドがなければ作れはしない」
「カマドくらいならすぐに作れるわよ?」
「……頼めるか?」
「代わりに美味しいスイーツをよろしくね♪」
イズの見返りにアロックはコクリと頷き、調理を続けていく。
「厨房ができると本格的に美味しい料理が出てきそうだな」
「別にいいんじゃないかな。美味しい料理は僕も歓迎だし」
ゲームの中だから飲み食いしなくても大丈夫とはいえ、美味しい料理を食べるだけでも気持ちはだいぶ落ち着くものだ。今回クロムとイズがアロックを誘ったのはある意味大正解であった。
「ちなみに今は何を作っているんだ?」
「今作っているのは牛の香草焼きだ。鉄板料理なら【野外調理】でも十分に美味しく作れるからな。カマドができれば、アップルパイとマルゲリータピザを作るつもりだ。何かリクエストはあるか?」
「饅頭は作れるか?」
「餅があるから大丈夫だ。羊羮やアイスはさすがに作れないがな」
カスミのリクエストにアロックはそう返しながら調理を続けていく。少しして洞窟の入口で待機していたクロムがメイプル達を連れて入ってきた。
「おおー!美味しそうな匂いがするよ!」
「これで全員揃ったな。今の内に罠とか張って防衛態勢を整えようか」
「そうね。防衛機構を完成させてゆっくりしましょ」
【楓の木】+αのメンバーが全員揃ったことで、一同は洞窟内の改造を始めていく。
イズとミキから貰ったアイテムを随所に設置したり、設置系のスキルでアイテムとは別の罠を設置したり通路を狭めたりと殺傷能力の高い洞窟へと改造していく。
「アイテム【吊り天井】は此処に設置するか?」
「そうね……真下に【底なし毒沼】も設置して毒沼の中に押し込むようにしたらいいんじゃない?」
「【針地獄穴】はどうする?」
「部屋の壁際がいいんじゃない?中央には【溶岩沼】を設置して粗か様に危なくすればいいし」
「その分、対空に弱くなりそうだよな」
「イズさんの新作爆弾を設置してみる?」
「プロペラ付きの爆弾はイズさん曰く、製造コストが高いからなぁ……」
今回のイベントに合わせてギルドホームが十数件も建てられる程のゴールドをイズは用意したと言っていたが、無駄な出費は可能な限り抑えるべきだとコーヒーは思っている。サリーも同様のことを考えているのか、難しそうな表情で思案している。
「本当に難しいわね……下手に削って防衛能力も落としたくないし……」
「ただ吹き飛ぶだけのジョークグッズもあるからなぁ……」
そのコーヒーの呟きに、サリーがピクリと反応した。
「……そのジョークグッズは具体的にはどんな効果なの?」
「ん?使用者以外の誰かが触れたら吹き飛ばされるだけの、実害が何もないジョークアイテムだ。ミキが釣り上げたアイテムなんだが……」
「それ、使えるかも」
サリーはそう言うと、そのジョークグッズを他のアイテムを使って天井からぶら下げる形で幾つも設置する。さらにサリーは壁や天井に【スタンシート】を設置する。
「なあサリー、まさか……」
「吹き飛ばして罠に突っ込ませれば、空を飛ぶ相手にも有効でしょ?朧、【影分身】」
サリーはコーヒーにそう返すと、【影分身】を使って有効かどうかを確かめていく。分身サリー達がそのジョークグッズに触れると、ボンッ!という音と煙と共に分身サリー達は別々の方向に飛んでいき、最終的に罠に放り込まれて消えていった。
「おおう……朧の【影分身】にそんな使い方が……」
「どこかの誰かさん達のおかげでね。それじゃ、使えそうなジョークグッズも使って罠を設置していくわよ」
ジョークグッズの意外な使い道が判明しつつ、コーヒーとサリーは協力して迎撃能力が高い罠を設置していく。
「入口には、この看板を立てないとね」
「『【楓の木】本拠地 危険物多数 命の保証なし』……か。確かに他のプレイヤーが入っても命の保証はできないからな」
プレイヤーならこの看板を見たら、絶対に入ろうとは思わないだろう。これを見て入ってこようとするプレイヤーは間違いなく馬鹿でしかないだろう。
他のプレイヤーへの注意喚起を促す看板を洞窟の入口に立てた二人は、奥地に戻りながら道を塞ぐように罠を設置していく。
二人が奥地に戻ると、奥地はプライベート空間も確保された最適空間へと様変わりしていた。
「おおう。あの無骨な空間がここまで様変わりするとは」
「テーブルにはパイにピザ、スープまであるし……本当に前とは大違いね」
見事なまでの快適空間となった洞窟の奥地に、作り上げた張本人であるイズが話しかける。
「あ、おかえりなさい。罠の設置は終わったかしら?」
「はい。溶岩、毒沼、針穴、吊り天井……殺傷能力の高い罠だらけにしました」
「私とCFが設置した場所には対空対策も施したよ。ミキ、吹き飛ばすだけのジョークアイテムはまだある?」
「?まだあるけどー?」
ミキはそう言いながら、例のジョークアイテムをクーラーボックスから幾つも取り出して渡していく。そうしている内に極振り四人衆が戻ってくる。
「メイプルちゃん達もおかえりー。そっちも罠の設置は終わったかしら?」
「「「はい!バッチリです!」」」
攻撃担当の極振り三人が元気よく答えたことで、イズは迎撃スペースに爆弾を発射できる砲台を設置して触ったら無事では済まなさそうなバリケードも設置して迎え撃てる態勢を整える。
「あ!他のプレイヤーが巻き込まれたら大変だよ!」
「それは大丈夫。入口に看板を立てているから」
「『【楓の木】本拠地 危険物多数 命の保証なし』と書かれているからな。プレイヤーはまず踏み込もうとすら思わないだろ」
「……確かに」
「間違っては……いないな。うん」
そんな殺人トラップだらけの疑似ダンジョンが完成し、一同はアロックが用意した料理の数々を堪能していく。
「う~ん!美味しいよ、サリー!」
「そうね。イベント中に美味しいものを食べられるとは思わなかったけど、悪くないわね」
「ああ……至福だ……」
スイーツだけでなく、料理もプロ級だったアロックの料理を味わいながら、今日の出来事の詳細な部分も含めて共有し始めていく。
「本選でも予選で見た金色のモンスターを見つけたけど、逃げ足が早かったのが一番の特徴だったわね」
「俺達の方じゃ見かけなかったな。他に特徴は?」
「毒とかの状態異常にならないくらいかな?少なくとも近づいて狩るのは相当難易度が高そうね」
「じゃあー、試しに釣ってみるー?」
ミキのその提案にコーヒーとサリー、大人組は難しそうな表情をする。ミキの釣りはアイテムだけでなくモンスターも釣り上げる。第四回イベントはモンスターがいないエリアだったこともあってアイテムしか釣れなかったが、今回のイベントはモンスターもいるエリアだ。
さすがにウロボロスのようなエリアボスは釣れないだろうが、引き次第では強力なモンスターが釣れる可能性も否定できなかった。
「例の強化モンスターが現れる時間まで残り三十分……その間に確かめるのがベストだな」
「それが良いかな?ミキの釣りに助けられる場面もあったし」
多少悩みながらも、強化モンスターが現れる時間まではミキの釣りを試すことにした一同は、武器を構えた状態でミキの釣りを見守っていく。
……二十五分後。
「釣れたモンスターは全員で袋叩きにすることで問題なく倒せているが……」
「金色のモンスターは一体も釣れていないな。アイテムの方も素材ばかりだし」
思ったよりも成果が出ていない現状に、クロムとコーヒーは揃って溜め息を吐く。イズはレア度の高い素材を回収できてニコニコであるが、目的の金色のモンスターは釣れていなかった。
「またきたよー」
竿がしなり、馴染んだ動作でミキは再び何かを釣り上げる。地面から顔を覗かせたのは……金色に輝く牛の顔だった。
「!金ぴかモンスターだよ!」
「「【ダブルストライク】!!」」
待ちに待った金色モンスターを前に、マイとユイが速攻で四つの大槌で金の牛の顔を叩き潰す。
STR極振りのマイとユイの攻撃を受けた金の牛のHPは……少ししか減っていなかった。
「「嘘!?」」
「VITがクソ高いのか!?」
マイとユイの攻撃があまり効いていない事に驚きつつも、コーヒーはすぐさま矢を連続で放つ。矢は金の牛の顔に全部刺さったが、HPは減ったようには見えなかった。
「VITじゃなくてHPがクソ高いのかよ!?」
「それならダメージ量を増やせば良いだけね。フェイ、【アイテム強化】!」
イズは強化された【激痛薬】を、逃げ出そうと出入口に走っている金の牛に向かって投げ飛ばす。
「逃がさないよー」
金の牛を釣り上げたミキも絶対に逃がすまいと、竿をしならせながらもその場に踏ん張って逃走を妨げていく。
「「【
「モルフォ、【約束の光】【光の舞】!輝け、【シャイニング】!【連続起動】!」
そんな金の牛に極振り三人衆が相棒達と協力して超火力攻撃を怒濤の勢いで叩き込んでいく。ダメージが倍加したことでHPをどんどん削られた金の牛は、どこかで憐れまれながら光となって消えていった。
「やった!またメダルが一枚手に入ったよ!」
「金色のモンスターもメダルを落とすのね。金なのに銀なのは微妙なところだけど」
メダル獲得の通知が届いたことにメイプルは素直に喜び、金色のモンスターの逃げ足が早かったのはメダルを落とすからだと知ったサリーは苦笑いする。
「金色のモンスターは逃げるだけで攻撃してはこないが、逃げ足の速さと体力の多さを考えれば結構面倒なモンスターかもしれん」
「そうだね。強化モンスターの存在もあるから、下手に追いかけていたら別のモンスターの餌食になっていたかもしれないね」
予選の時は撃破数の追加で、本選ではメダルを落とす。逃げるだけで攻撃してこないモンスターは格好の獲物なので、大抵の人物はまず追いかける。本当に人の欲を刺激してくるモンスターである。
「金のモンスターは何処に逃げるんだろ?」
「もしかしたら強力なモンスター達が蔓延っている巣窟かも」
「その線はあり得そうだな」
「「「ハハハハハ」」」
一方その頃……
「無事に全員戻れたっすよ!」
「元凶が勝利宣言しない!」
「うん……金のモンスターを深追いしたせいで、強力なモンスターハウスに閉じ込められたから……」
「だ、だって……金のモンスターはメダルを落としたから……」
「深追いした結果、素材もメダルも何もない、骨折り損のくたびれ儲けになったでしょ!新装備のおかげで【雷公爵の離宮】が強力なスキルに昇華されて弱点が緩和されたとはいえ、ベルは落差が激しいのには変わらないんだから!!」
欲によって全滅しかけた事に、とある少女の説教が飛ぶこととなった。
『予選の時に見たボーナスエネミー追いかけたら、酷いモンスターハウスに招待された』
『俺も』
『俺も』
『私も』
『全員欲に溺れすぎてて草』
とあるスレの一部抜擢。
現在の【楓の木】が獲得したメダル・四枚。