「やっぱり全員バラバラになっているんだな」
「そうなんすよ!ジェラが保険を用意してくれたっすから、しばらくしたら来てくれると思うんすけど……」
状況が状況なのもあって、コーヒーはベルベットと共に薄暗くなったフィールドを進んでいる。現在地が分からずプレイヤー同士の戦闘もない以上、一緒に行動した方が安全だと互いに判断したからだ。その為、合流のしやすさからメイプルがいる場所へと歩みを進めている。
「やっぱそういうスキルは便利だな。こっちは目指すしかできないからな……っと」
ジェラと呼ばれる人物のスキルの利便性に関心しつつ、コーヒーは二丁クロスボウで襲いかかってくる悪魔を射抜いて倒していく。【遺跡の匣】の光線と【彗星の加護】の星、ブリッツの【渦雷】による追加電撃で悪魔は容易く倒される。
「そっちも十分に凄いっすよ。クロスボウなのに銃のように使えるじゃないっすか」
襲いかかってきた真っ黒なカブトムシを殴り飛ばしながら、ベルベットは呆れたかのように言葉を返す。すっかりコレが【普通】となってしまったが、引き金を引くだけで矢を射てるのは【異常】なのだ。
「【
「ふふーん!私はもちろん、ジェラもすごく強いっすよ!ヒナタも揃った三人なら無敵っす!」
ベルベットはドヤ顔で仲間の凄さをアピールしているが、仲間自慢を聞いているコーヒーはどこか呆れた表情である。
「そんなにべらべら喋って大丈夫なのか?一時的に手を組んでいるとはいえ、基本はライバル同士なんだが」
「だ、大丈夫っすよ。凄いアピールだけっすから。きっと、たぶん……」
コーヒーの指摘にベルベットは大丈夫と告げるも、徐々に弱気になっていく。どうやらこういった事は日常茶飯事のようである。
そんなベルベットに、コーヒーは疑問に思っていることを問い質す。
「さっきから気になっているんだが……お前の相棒は何処にいるんだ?この状況じゃ、出し惜しみしている余裕はないと思うんだが」
「……あ、あー!仮にもライバルっすからね!貴重な手の内はそう簡単に明かさないっすよ!」
コーヒーの質問にベルベットは少々上擦った声で秘密だと返すも、コーヒーの疑いの目は消えない。ベルベットの言い分も間違いとは言い切れないが、今の状況で姿形まで隠す意味があるとは思えない。仮にマルクスの相棒のようなスキルの効果で見えないにしても、ベルベットの装備とスキルから違和感を感じる。
加えて、最初の邂逅時も苦戦しているにも関わらずテイムしている筈のモンスターと共に戦っていなかった。そうなれば、答えは一つしかない。
「もしかして……相棒がいないのか?」
「……ソンナコトナイッスヨー?」
ベルベットはコーヒーの言葉を否定するも、目が泳いでいる上に片言だ。それはもう正解だと言っているようなものである。普通のフィールドであればそこまでには至らなかっただろうが、今回のイベント仕様のせいでその発想に行き着いてしまったのである。
「いや、この状況で嘘をつかれても困るんだが。下手に当てにして死にたくないし」
「そうっすよねー……ああ、また二人に呆れられるっす……」
完全にバレたことでベルベットは気落ちして肩を落とすも、コーヒーは逆にベルベットの凄さに内心で驚いていた。
テイムモンスターが入れば有利となる今回のイベントで、ベルベットは相棒なしで最高難易度への挑戦権を手に入れたのだ。つまり、それだけ現在の装備が取り替えできない程に強力だという証明でもある。
「どっちにしろ頼りにさせてもらうぞ。こっちもメダルは欲しいし」
「もちろんっすよ!」
ベルベットが景気よく言葉を返すと、近くの茂みがガサガサと揺れる。二人は警戒してその茂みに視線を向けるも、茂みは音を鳴らして揺れるだけで何かが出てくる気配がない。
「出てこないっすね」
「まさか……」
何も出てこないことにベルベットは訝しげな表情をし、コーヒーはまさかと思って茂みの周りに注意深く視線を向ける。
するとうっすらとではあるが、景色に溶け込んでいる巨大な漆黒の黒い獣がそこにいた。
「大きな黒いモンスターがそこにいるぞ!」
「マジっすか!【雷神再臨】!!」
コーヒーの警告にベルベットは一気に意識を戦闘のものに変え、スキルを発動させて全身に雷を纏う。
ベルベットの身体から発せられる雷光によって露となったのは一対の角を有し、脚も太く厳つい体躯を有した巨大な狼の姿だった。
「【嵐の中心】!【稲妻の雨】!【落雷の原野】!」
そんな巨大な漆黒の狼を前にベルベットは次々とスキルを発動させ、目が眩む程の落雷を自身の周囲に展開する。
「【重双撃】!【連鎖雷撃】!」
「迸れ、
ベルベットはその状態のまま距離を詰め、巨狼の腹に重い二撃を放ち電撃も弾けさせる。コーヒーも雷の槍と連続で矢を放って援護するも、巨狼のHPは思ったよりも減っていない。
「嘘!?思ったより減ってないっす!」
予想より減りが悪かったことにベルベットは驚きに目を見開いていると、巨狼は雷撃を受ける度に黒い雷を帯電し始めていく。それを見たコーヒーの行動は早かった。
「【アンカーアロー】!」
「へっ?うわっ!?」
コーヒーは【アンカーアロー】をベルベットの背中に当ててすぐに強引に引っ張る。無理矢理巨狼との距離を取らされたベルベットの前で、巨狼は雄叫びと同時に放電していく。
「た、助かったっす!」
「どういたしまして!それより目の前に集中!明らかにパワーアップしているからな!」
黒い稲妻を放った巨狼は全身に血管のように
「どうやらあの狼、雷属性に耐性があるだけじゃなく、受けるとパワーアップする仕様みたいだな」
「私達の天敵じゃないっすか!しかも音に釣られてモンスターも集まって来てるっす!」
ベルベットのその言葉通り、戦闘音に引き付けられたのか悪魔型のモンスターが取り囲むように集まってきている。
「ベルベット!【雷炎】は取ってるか!?」
「取ってないっす!こうなるなら取得するべきだったっす!」
「だったらベルベットは周りの悪魔を頼む!【雷炎】!ブリッツ【針千本】!迸れ、【リベリオンチェーン】!荒め、【レイジングボルト】!!」
「了解っす!【エレキアクセル】!」
火属性に変わった雷の鎖と地面で踊る電撃をパワーアップした巨狼にダメージを与えていくコーヒーの要望にベルベットは頷き、加速して雷の雨を連れながら悪魔の群れへと突っ込んでいく。
「【聖刻の継承者】!【聖槍ファギネウス】!」
コーヒーは出し惜しみしている場合ではないと考え、強力なスキルを二つも切って動きを封じている巨狼に攻撃を叩き込む。【遺跡の匣】の光線と【彗星の加護】の星が巨狼に更にダメージを与えていくも、思うようにHPを削れないことに顔を顰めていく。
「やっぱり基本的な火力不足が痛いか……!」
コーヒーが苦虫を噛み潰したような表情をする前で、巨狼は雄叫びを上げて周囲に黒い稲妻を落とし始めていく。黒い稲妻は周りが薄暗いことも合わさって非常に見えづらくなっている。その為、コーヒーは展開中だった【クラスタービット】を頭上に傘として展開して防いでいく。
「閃け、【雷輪十字剣】!」
コーヒーは大きな雷の手裏剣も放ち、巨狼に攻撃を続けていく。攻撃を受け続けている巨狼はダメージを負いながらも雷の鎖を引き千切り、悪魔の群れを殲滅しているベルベットへと突撃していく。
「ベルベット!」
「へ?―――うわぁ!?」
コーヒーの警告が飛ぶも、背中を向けていた形だったベルベットの反応は一瞬遅れる。巨狼はそのまま振り上げた前足をベルベットに叩き込もうとするも、間に割って入った【クラスタービット】によって防がれる。
ベルベットへの攻撃を防がれ、ベルベットの周りに降り続ける雷に打たれ続ける巨狼はまるで取り込んでいるかの如く更に黒い雷を帯電させていく。
「やばっ……!【超加速】!」
ベルベットは【超加速】を使って急いで巨狼から距離を取った直後、巨狼は再び雄叫びを上げると黒と紫の雷を放出するように放つ。放電が終わると、巨狼の背中から妖精の羽を連想させる紫に光る十字の羽が展開され、身体に浮かび上がっていた赫のラインは羽と同様に紫に変わっている。
「またパワーアップしたっすよ!?」
「完全にエリアボスじゃねぇか!」
ある意味一番遭遇したくなかったモンスターにぶち当たってしまった事にコーヒーは頭を抱えたくなるも、更なるパワーアップを果たした巨狼は空から無数の紫の雷剣を雨のように次々と落としていく。
「攻撃パターンが変わったっす!」
「パワーアップの規模がおかしいだろ!【ワイルドハント】!【召喚:護衛舟】!」
コーヒーはゴールドを払って【ワイルドハント】を発動し、頑丈そうな舟を召喚して即席の盾として【クラスタービット】と合わせて紫の雷剣を受け止めていく。
「本当に何でもありっすね!」
「どっちなのかはツッコまないぞ!それよりどうする!?」
「悔しいけど撤退するっす!さすがにあれとこのまま戦うのは厳しいっすから!そろそろスキルの効果も切れそうっす!」
ベルベットのその言葉通り、ベルベットを覆っていた雷は最初の時よりだいぶ弱まっている。どうやらベルベットの雷は継続的に放てるものではないようだ。
「同時に燃えよ、【多重炎弾】!」
どうやって逃げようかと考えたそのタイミングで、無数の炎弾が巨狼の顔に叩き込まれる。炎弾をマトモに受けて頭を振った巨狼に、両手に短剣を携えた水色の服装の少女が肉薄していく。
「【七式・爆水】!」
その少女―――サリーが高ノックバックの攻撃を叩き込み、巨狼を軽く吹き飛ばして地面を転がせていく。
「サリーに……フレデリカ!?」
コーヒーは颯爽とこの場に現れたサリーと、茂みを掻き分けながら出てきたフレデリカに対して驚きの声を上げる。それに対してフレデリカは笑みを浮かべて返す。
「やっほーCF。こんなヤバそうなモンスターとぶち当たるなんて、運がないねー」
「ほっとけ。それよりどうやってここが?」
「あれだけ派手に戦っていたら嫌でも気づくでしょ。ま、具体的な場所はフレデリカが見つけたんだけどね」
サリーはそう言ってベルベットに視線を向けてから改めてコーヒーに目を向ける。その時のサリーは、何故か笑顔であった。
「で、CF?何で知らないプレイヤーと一緒なのかな?」
「へ?いや、この状況だし一時的に手を組んだだけだぞ?」
「ふーん……」
何処か疑わしげな視線をコーヒーに向けるサリーだったが、態度から嘘を付いてないと判断してコーヒーから顔を逸らすと改めてベルベットと向き合う。
「CFがお世話になったわね。私はサリー。CFの仲間よ」
「ベルベットと言います。サリーさんのお話は、ジェラから多少窺ってい……おります」
お嬢様口調で自己紹介したベルベットだが、サリーはジェラという名前に眉毛をピクリと動かす。
「ジェラ……もしかしてジェラフの事かな?和装の刀使いの」
「あ、はい。ジェラは愛称っ……です。彼女も私のことをベルと呼んでるっす……んん、呼んでいますので」
ベルベットのその発言で、彼女がジェラフが所属しているギルド【thunder storm】の関係者だと分かったコーヒーは目を見開いて驚きを露にする。フレデリカは話に着いていけずに首を傾げているが、サリーは更にその先まで気づいていた。
「ひょっとしてだけど……貴女が【thunder storm】のギルドマスターかな?」
「あ、はい。確かに私がギルドマスターですが……」
その瞬間、サリーは非常に良い笑顔でベルベットの手を握り締めた。
「一応話は彼女から聞いているわよ?CFにお熱で、興味津々だってね」
「あ、あの……笑顔が怖いのですが……?それに手が痛いのですけど……」
ギリギリギリと、手を握り潰さんと言わんばかりにベルベットの手を握り締めるサリーに、ベルベットは軽い恐怖を覚えていく。ジェラフが笑顔で伝えたベルベットの『お熱で興味津々』は、同じ雷属性を使うライバルとしてなのだが、ベルベットの見た目がお嬢様なのも相まって勘違いが加速したのである。
「え?え?」
「にゅふふ~。サリーちゃんも乙女だね~」
突然の展開にコーヒーは理解が追い付かずに目が点となる。フレデリカは最初はベルベットが上位ギルドのギルドマスターである事に驚いていたが、サリーの態度と言葉から察してニヤニヤ顔で見守っている。
そんな勘違いの現場をぶち壊すように、地面を転がっていた巨狼が怒号を上げるかのように雄叫びを上げる。
「そうだ。まだ戦闘中だった!」
「面白い光景からつい忘れてたよー。お二人さーん、お話は後にして今は目の前に集中しようね」
コーヒーはクロスボウを、フレデリカは杖を構えて臨戦態勢となる。巨狼の雄叫びにまた釣られたのか、複数の悪魔達も集まって来ている。
「……そうね。今はこの場を切り抜けることに専念しようか。ベルベットもいいよね?」
「は、はいっす!」
サリーの謎の圧にベルベットは素に戻りつつも、拳を構えて巨狼と悪魔の集団と対峙する。
こうして、一時的な共闘関係のパーティー、名付けるなら【チーム好敵手】は巨狼との戦いに投じるのであった。
『強制転移による分断は殺意高すぎ』
『俺もそれにやられた』
『俺は運よく別のプレイヤーと合流できたけど、エリアボス相当のモンスターに出会ってやられた』
『どんなエリアボスだった?ちなみに俺は木々を操る黒いライオンだった』
『俺はヤシガニみたいなモンスターだった。あの巨大な鋏で下半身が……』
『ひえっ』
『ひえっ』
『下ネタやめい』
『下ネタじゃない。本当に潰されたんだって。おかげでしばらく悶絶する羽目になった』
『ネタじゃなくてガチだった』
イベントスレの一部抜擢。