「幾重に切り裂け、【多重風刃】!ノーツ、【増幅】!」
先陣を切るようにフレデリカが複数の風の刃を放ち、ノーツのスキルによって大きく更に鋭くなった風の刃が巨狼と集ってきた悪魔を切り裂いていく。
「周りの悪魔は任せてほしいっす!【振動拳】!」
身体から雷が消えたベルベットは地面に拳を叩きつけ、そこから放たれた衝撃波によって悪魔達にダメージを与えていく。
フレデリカから攻撃を受けた巨狼は睨み付けるようにフレデリカに鋭い目を向けると、口を大きく開く。そこから魔法陣を展開すると、黒と紫が混じった雷の光線を一直線に放っていく。
「連なり守れ、【多重障壁】!」
フレデリカは咄嗟に防御障壁を何枚も展開するも、巨狼が放った雷の光線はフレデリカが展開した障壁を紙の如く破っていく。
「やばっ……!?」
フレデリカは判断を間違えたと身構えかけるも、最後の障壁が破られる前にサリーが間に割って入る。
「【三式・水鏡】!」
サリーの正面に円上の水の盾が展開され、雷の光線はその盾に吸い込まれるように防がれていく。
「助かったよサリーちゃん!同時照射せよ、【多重光砲】!」
サリーにお礼を言いつつ、フレデリカは巨狼にお返しとばかりに幾つもの光線を浴びせていく。光線を浴びた巨狼は光線を放つのを止めると、その巨体から考えられない程の軽やかさで跳んで仰向けとなって落下していく。
「物理的な圧殺狙いか!瞬け、【ヴォルテックチャージ】!迸れ、【リベリオンチェーン】!!」
コーヒーは直ぐ様強化した【リベリオンチェーン】を木々に縫い合わせるように展開し、落下していた巨狼を網状に広げた雷の鎖で受け止める。雷の鎖は撓みながも背中を打ち付けようとした巨狼を捕らえ、宙吊りのような状態にした。
「チャーンス!幾重に流れよ、【多重水弾】!数多で貫け、【多重影槍】!」
「私も参加するっす!【渾身の一撃】!【重双撃】!」
「朧、【影分身】!【十式・回水】【ダブルスラッシュ】!」
フレデリカは攻撃のチャンスと判断し、直ぐ様幾つもの水弾と影の槍を巨狼に叩き込んでいく。悪魔を倒し終えたベルベットも拳を叩き込み、サリーも分身して連撃を叩き込んでダメージを刻み付けていく。
「ようやく半分削れたっす!このまま……!?」
ベルベットは一気に勝負を決めようと更に攻撃を叩き込もうと構えるも、巨狼はそれよりも早く魔法陣を展開する。
「【八式・静水】!」
サリーが咄嗟に回避スキルを発動した直後、まるでコーヒーの【雷旋華】のようなドーム状の雷撃が巨狼を中心として展開される。そして、その中にいた分身サリーは全員消え、ベルベットにはダメージを刻み込んでいく。
「
「それより早く離脱!このままだと殺られるわよ!」
【八式・静水】によって攻撃がすり抜けているサリーは、ベルベットに警告を飛ばしながらダメージエリアから飛び出る。【八式・静水】の発動中は自身の干渉もすり抜けるので、ベルベットを連れて離脱することが出来ないのである。
ダメージを受けていたベルベットもサリーの言葉で急いで範囲から逃れ、フレデリカが直ぐ様魔法でベルベットを回復させる。
「我が矢は不浄の楔!【鏃の毒】!!我が技量で矢を放ち続けん!【連射】!!」
コーヒーは状況から状態異常、デバフを蒔いた方がいいと判断して《イチイの弓》に装備し直し、【遺跡の匣】も攻撃モーション変更の為に一度解除した状態で矢を連続で放っていく。
巨狼はランダム状態異常とデバフ付与の矢を背中で射たれながらも雷の鎖を破壊。軽やかに着地すると、空に黒い雷球を幾つも形成してそれを落として攻撃していく。
「ちょっ、逃げ場がなくなるのは勘弁!連なり守れ、【多重障壁】!」
黒い雷球が落ちる度に噴き上がるように放たれた黒い雷光の柱を見て、フレデリカは黒い雷球を上空で受け止めるように障壁を展開する。フレデリカの障壁にぶつかった黒い雷球は黒い雷光の柱を噴き上がらせるも、それは障壁の上から放たれて地面への展開を妨げていた。
「まるでボスモンスターの麒麟みたいな狼だな!【遺跡の匣】!【発火柳】!【茂みの煙】!【鈍化の茨】!」
コーヒーは厨二病患者扱いの原点ともなったモンスターを連想させながら、音波攻撃に変えた【遺跡の匣】を発動し次々と状態異常とデバフをばら蒔いていく。巨狼は雷球を落とすのを止めると、今度は前足を振り下ろして六つの雷の斬撃を飛ばしていく。
「【マジックバリィ】!」
「【一式・流水】!」
その六つの斬撃を、ベルベットとサリーがスキルを使って明後日の方向へと弾き飛ばす。雷の斬撃を捌かれた巨狼は雄叫びを再び上げると、今度は幾つもの紫の雷球が旋回する雷の嵐を放つ。
「さすがにあれは防げないって!【多重加速】!」
見るからに当たるとタダでは済まなさそうな雷の嵐を前に、フレデリカが全員のAGIを上げて回避するよう促す。コーヒー達は飛び散るように散開して雷の嵐を避けるが、再び紫の雷剣が降り注いでいく。
「本当に厄介だな!【薄雪草】!【激化種】!」
コーヒーは悪態を付きながらも氷結効果とダメージ増加のスキルを更に付与していく。
「【大海】!【古代ノ海】!【鉄砲水】!【六式・圧水】!【氷結領域】!【氷霜】!朧、【幽炎】!」
サリーは巨狼にデバフの水と、足元から大量の水を吹き上がらせ、水を短剣に纏わせると同時に凍らせる。足元から吹き上がった水が凍ったことで動きを大きく封じられた巨狼に、サリーは氷の短剣で何度も切り裂いていく。
「二人とも!デバフ付与のスキルがあるなら遠慮なく使って!CFに大技使わせるから!」
「第六回の時のあれね!【多重重圧】!ノーツ、【輪唱】!」
フレデリカはサリーの狙いを察して巨狼に動きを鈍らせる魔法を放つ。
「よく分からないっすけど了解っす!【崩鎧拳】!」
ベルベットは首を傾げながらもアッパー攻撃を放ち、巨狼にデバフを与える。
そんな中、ポーションを飲んでMPを全快させたコーヒーはスキル発動の詠唱を始めていく。
「森の恵みは圧政者の毒 我が墓標はこの矢の先 その道は光栄も栄誉もなき荊為り 猛毒と弱体化は爆心 麻痺と石化は必中 火傷と凍傷は癒えぬ傷 呪縛と封印は抹殺 制限と暗闇は不浄の毒 毒傑は深緑より湧き出流り 弔いの樹はその牙を研ぎ澄ます!」
【口上詠唱】で限界まで強化したコーヒーは、クロスボウを両手で構えて黒い稲妻を放とうとしている巨狼に向かって必殺の矢を放つ。
「限界を超えし蒼き雷霆よ解き放て!【大樹の祈り】!」
コーヒーは必殺の矢を巨狼の動きを封じている氷の間近に放つ。矢から太く、強靭な樹の根が地面から伸ると瞬く間に巨狼を締め上げるように閉じ込めていく。巨体な樹の根は大樹となって巨狼を完全に封じ込めると、そのまま盛大な爆発を上げる。
大量のデバフを付与された巨狼は……その場から跡形もなく消え去っていた。
「た……倒したっすか?」
「できれば今ので終わってほしいんだけど……」
ベルベットとフレデリカは緊張した面持ちで警戒していると、メダル獲得の通知が四人に届く。巨狼を倒せたと確信した一同は気が抜けたように息を吐いた。
「はぁ~~、良かったっすぅ~。あれで終わってくれて本当に」
「同かーん。攻撃の規模と範囲がおかしかったし、メダルがなかったら割に合わなかったよ」
まだ気が抜けない状況とはいえ、厳しい状況を脱したことでベルベットとフレデリカは安心したようにその場に座ってしまう。サリーも深く息を吐く辺り、今回の戦闘は地味にキツかったようだ。
そんな中、コーヒーはメダル以外の獲得物に困った表情となっていた。
「……やっぱりボスモンスターに止めを差すとユニーク素材が手に入るのか。妙な罪悪感を感じるなぁ」
コーヒーは銀のメダル以外にも【雷狼皇の宝珠】というユニーク素材が通知により手に入っていた。あれだけ皆が頑張ったのに、特別報酬が一人だけだからどうしても複雑な気分になってしまう。あの時のクロムもこんな気持ちだったのだろうかと、コーヒーは思った。
「ん?ボスモンスターを倒すと凄い素材が手に入るんすか?始めて知ったっす」
「あー、そういえばそうだったねー。ペインが止めを差したエリアボスも、同じように素材を落としたし」
「ちなみにそのボスモンスターは?」
「今回のイベントでは場違いな騎士型。サイズはドラグと同じくらいだけど、攻撃の範囲と威力が凄かったよ」
どうやら【集う聖剣】の方もボスモンスターに遭遇して撃破に成功したようだ。この分だとペインもパワーアップしそうである。
「それで、どうする?」
「CFのものでいいでしょ。ボスモンスターは誰が止めを差すのか考える余裕が微塵もないし」
「私も別にいいよー。それを考えていたら生き残れないしー」
「私もそれでいいっんん、構いませんよ」
結局【雷狼皇の宝珠】の所有権はコーヒーのままと決まり、サリーは一度中断していた話題へと戻っていく。
「それで?CFにお熱で興味津々はどういう意味かな?その辺りをじっくり聞きたいんだけど?」
「い、いや~……確かにお熱で興味津々ですけど、それはライバルとしてですし……」
「……へ?ライバル?」
ベルベットのその言葉にサリーは豆鉄砲を食らったかのような表情となり、そのまま言葉の意味を理解しようと思考に耽っていく。そんなサリーにベルベットは言葉を続けていく。
「そうっ……です。私も雷を操るスキルを持っていますので、同じ雷を操るCFとは戦ってみたいと……」
「…………」
ベルベットのその言葉に、サリーは予選の時の事を思い出しながら彼女の言葉を反芻していく。ちなみに呼び捨てなのは互いに呼び捨てで良いと言ったからである。
暫しの沈黙が流れたが、サリーは結論に至ったのか頭を抱えながら叫んだ。
「あの女ぁ~~っ!!絶対分かっててあんな言い回しをしたわね!?」
最後に見たジェラフの笑みが悪戯に成功したかのような笑みであったことから、最初からからかれていたと気づいたサリーはこの場にいないジェラフに対して恨み節を叫ぶのであった。
――――――
「あ、メダルの獲得通知が来たよ!」
「イエス。こちらにもメダル獲得の通知が来ました」
シロップの背中の上で【身捧ぐ慈愛】を発動しているメイプルは五枚目となるメダルの獲得通知に嬉しそうな声を上げ、隣で同様の通知が来た【集う聖剣】のバフデバフプレイヤーのサクヤも頷く。
何故メイプルとサクヤが一緒なのかと言うと、偶然メイプルの爆発のすぐ近くにサクヤがいたからである。
上空の謎の爆発を確かめようと近寄ったサクヤは、うっすらとではあるがシロップの姿を捉えたので相棒の亡を介してメイプルと接触したのである。
サクヤはバフデバフがメインで個人で長時間生き延びるのは困難な為、他のメンバーが迎えに来るまでメイプルと一時的に協力することにしたのである。
メイプルの方も当然、これを快く承諾し今に至るわけである。
「もしかしたらサリーさんとソナーデリカさんかもしれませんね。メッセでは一緒に行動しているようですし」
「連絡が取り合えるって便利だよね……っと、そろそろ爆発して位置を知らせないと」
「その前に空のクリーニングが必要かと。空を飛べる悪魔が近寄って来てますので」
サクヤは何かしらの方法でモンスターの接近を察知すると、何時でも笛を吹けるように構える。
「亡、【かごめ遊び】【胡蝶】。木霊するは呪詛の挽歌 その怨嗟で不調を強くせん―――【病魔の呪音】」
サクヤが奏で始めた辿々しい音色に合わせて、何人もの小さな人形の幽霊と綺麗ではあるが不気味さを感じる無数の蝶がシロップの周りを舞っていく。少しして、動きが緩慢となった悪魔の姿をメイプル達は捉えた。
「【攻撃開始】!シロップ、【精霊砲】!」
そんな悪魔にメイプルが【機械神】による銃撃とシロップの砲撃を叩き込み、簡単に撃ち落とす。亡のスキルによってステータスが低下し、サクヤによって増幅されて弱体化した悪魔にメイプルの攻撃を耐えられる術はないのである。
「それじゃ改めて―――」
「ストップ。また何か近づいて来ています」
演奏を止めたサクヤの忠告にメイプルは再び暗闇から見える二つの影に目を凝らす。その影の形は……鳥と魚の形をしていた。
「もしかして……!」
メイプルは期待に胸を膨らませながら見守っていると、鳥と魚の影の正体はイグニスとジベェであった。
「ミキにマイ!それにミィも!」
「オウ。【炎帝ノ国】のギルドマスターも一緒とは驚きです」
「それはこちらの台詞でもある。まさか【集う聖剣】の者も一緒だったとはな」
サクヤとミィは互いの存在に驚きつつも、剣呑な雰囲気は全くない。互いにライバル同士ではあるが、この状況で蹴落とそうとは考えていないからだ。
「それはともかく、もう一人いるのは何故でしょう?」
サクヤはそう言ってジベェの背中に乗っている人物に目を向ける。その人物は暗い色合いのドレスに身を包んだ少女だ。それに対して答えたのはミキであった。
「襲いかかるモンスター達からー、逃げてる時に会ったんだよー。彼女のおかげでー、ジベェに乗って逃げれたから一緒に来たんだー」
ミキのその言葉に少女は緊張しているのか、人形を抱き締めたまま無言で頷く。
「そうなんだ。ミキを助けてくれてありがとうね!」
「い、いえ……私も、彼女のおかげで窮地を凌げましたから……あ、名前はヒナタと、言います」
「私もマイを拾って送り届ける途中で合流してな。近かったこともあってそのまま共に向かったという訳だ」
軽く経緯を話したミィはその後、メイプルに【印の札】を渡すと自身のメンバーと合流する為にその場から去っていった。
「これで残り九人だね!連絡ができればパーっと飛んで迎えに行けたんだけど」
「仕方ないよー。それじゃあー、打ち上げの準備をするよー」
無い物ねだりは仕方ないと考え、メイプルとサクヤはシロップの背中から平たい背中のジベェへと乗り換える。そこでメイプルは【身捧ぐ慈愛】と【天王の玉座】を発動させて空中城塞を完成させる。ミキも爆弾を打ち上げられるアイテムを設置し、目印の役割を交代した。そんな中、何かしらの手段で連絡を取っていたサクヤが新たな報告をする。
「メッセデリカさんから連絡が来ました。現在、サリーさんとCFさん、ベルベットさんと名乗った方が一緒だそうです」
「おー!コーヒーくんとサリーが合流できたんだ!」
「……ベルベットさんも一緒なのですか?」
ベルベットの名前にヒナタが問い掛けるように反応する。それに対してサクヤは頷いて肯定する。
「イエス。内容から、どうやら雷と拳で戦うプレイヤーのようです」
「もしかして知り合いなんですか?」
「はい……間違いなく、わ、私達のメンバーです」
マイの言葉に思わぬ形で仲間の安否を知れたヒナタは頷きながら肯定する。
「よーし!それじゃ、みんなと合流する為に頑張ろう!」
メイプルのその宣言と同時に、発射装置から爆弾が打ち上げられ暗い夜空を明るく照らす。
こうして、運営にとっての悪夢が徐々に形成されていくのであった。
「連絡が取り合えるって本当に便利だね」
「レターデリカさんがいなければ出来ない芸当ですがね」
「あの……そのデリカさんの名前がコロコロ変わるのは……?」
「サクヤさんはフレデリカさんの事を変な渾名で読んでいるんですよ」
「本人いわくー、語呂が良いかららしいよー?」
フレデリカの様々な渾名に困惑するヒナタの図。