二日目はパーティーが強制転移によって分断され、フィールドの端から広がっていく闇によって行動範囲が狭まっていく。そんな状況では出会ったプレイヤー同士は生き残りを優先して共闘していく。そして、それは今戦っている二人にも当てはまる。
「クローネ、【破斧展開】!」
「ヴォル、【雷鳴の加護】!輝き唸れ、【雷楼牙】!」
アロックが大盾と短刀を装備した機械人形でゾンビ型のモンスターのの攻撃を受け止め、両腕が大斧となった戦闘モードのクローネと、レイドの普段より迸っている紫電の蛇腹刀より放たれた六つの雷撃によって消し飛ばされていく。
「くっ……このエリアは剣によるダメージが軽減されるのが痛いな」
「デザートのミスマッチな組み合わせの如く、あまりよろしくない状況だな」
蛇腹刀を鞘に収めたレイドは苦々しく呟き、アロックもポーションでHPを回復しながら難しい表情で頷く。そう、今アロックとレイドがいるエリアは剣によるダメージが軽減されてしまっている。レイドは雷属性の攻撃で補っているが、遭遇したモンスター次第では詰みに成りかねない状況であった。
「だが、まさか軽減エリアが昼夜で変わるとはな」
「ああ。こちらはローテを組んで探索を続けていたからな。その際に把握していたエリアの軽減効果が昼間の時と違っていたことで気づいたんだ」
軽減エリアの変更は【集う聖剣】以外の大規模ギルドの者達も気づいている。【楓の木】は少数である上に迎撃に専念していたからこの仕様に気づけなかったのである。
「とにかく、周囲に気をつけながら進むしかない。この状況でエリアボス、もしくはモンスターの集団と遭遇するのは避けたいからな」
「ああ。昨日エリアボスに遭遇したが、倒せはしたが無傷では済まなかった。ボスもダンジョンも、今は避けるべきだ」
現在の戦力からエリアボスもダンジョン攻略も無謀と判断し、二人は周囲を警戒しながら進んでいく。モンスターに遭遇しないように二人は慎重に進んでいると、闇夜の向こうで蠢く何かしらの存在を察知する。
アロックとレイドは互いに無言で頷くと、相棒達を一度指輪に戻すと隠れるように息を潜める。そんな二人の近くを、鋭い鱗で全身を覆った緑色の恐竜が足音を鳴らしながら歩いていく。
……一歩、二歩、三歩。
アロックとレイドの二人は嫌な汗を感じながらも息と気配を殺し、ティラノサウルスに似た恐竜がその場から立ち去るのを辛抱強く待っていく。
一分か十分なのか、またはそれ以上なのかは分からないが、恐竜型のモンスターがいなくなった事を察した二人は大きく息を吐いた。
「素通りして助かった。あれと戦うのは得策ではないからな」
「同感だ。まるで繊細なデコレーションに挑戦しているかのような気分だった」
無事に厄介そうなモンスターをやり過ごせた事に二人が安心していると、近くの茂みがガサガサと揺れる。アロックとレイドは顔を強張らせるも、そこから現れた存在に気が抜けた表情となった。
「……ペインにドレッド。出来れば一声かけてもらいたかったぞ」
「すまないレイド。ドレッドから声は上げない方がいいと警告されていたからな」
「ああ。俺の勘がこのエリアは危険だと警鐘を鳴らしていたからな」
「そうか……今のは私が悪かった。つい先程、エリアボスらしきモンスターが通りかかっていたからな。加えてこのエリアは剣による攻撃は軽減されてしまう」
「そうか。なら、長居は不要だな」
ペインはレイドの報告でこの場に留まるのは危険と判断し、アロックとの会話を後回しにしてその軽減エリアから離脱していく。
ドレッドの勘頼りで軽減エリアから脱したペイン達は、改めてアロックと話し合った。
「まさか貴方もこの難易度に挑んでいるとは思わなかったよ」
「クロムとイズに誘われてな。挑戦権を得ていたこともあり、特に悩むことなく承諾した」
「つまり、今は【楓の木】と一緒に行動しているのか?」
ドレッドの確認にアロックは頷くことで返す。この場で嘘をつく意味もなく、隠す必要性もないからである。
「それなら俺達と一緒に行動しないか?フレデリカからの連絡で、サクヤは今メイプルと一緒にいるみたいだからな」
ペインのその提案に合流を第一としているアロックは迷うことなく頷く。ここで別れても生きて合流できる保証は何処にもなく、むしろトッププレイヤーであるペイン達と行動した方が遥かに生存できる確率が高いからだ。
それにペイン達はどちらにせよメイプルがいる場所に向かう必要があるのだ。どちらも損がない取引である。
そのタイミングで、ペイン達【集う聖剣】の下にある通知が届く。
「……パーティーのリンクが切れた。どうやら半分以上がやられてしまったみたいだ」
「マジで今回のイベントも難易度が高いな。フィールドの隅から面倒なモンスターも来てるし、軽減エリアとエリアボスもいるから相当面倒だぞ」
パーティーのリンクが切断され、予想を上回る難易度の高さにペイン達は難しい表情となる。
「どちらにせよ合流できるメンバーと合流するしかないだろう。ペイン、ドラグの居場所は?」
「それは大丈夫だ。幸い、俺とフレデリカがドラグとパーティーを組んでいたからな」
そうしてペイン達はフレデリカの情報を元に、ドラグと合流すべく歩き始めるのであった。
――――――
「ええいっ!」
「【守護騎士】!ルル、【神の息吹】!」
ユイが黄金の槌を盛大に振り回し、半透明な幽霊やゾンビ達を一撃で倒し続けていく。アンデッド系だけでなくゴーレムや虎等といった大量のモンスターとの集団と戦うユイは当然攻撃を受けているが、ユイには一切ダメージが入らずに後ろにいるカミュラがダメージを受け続けている。
「カミュラさん、大丈夫ですか!?」
「俺のことは気にするな。【従者の献身】が続く限り、お前は目の前の敵を倒すことに集中していればいい。女性を守る……それが非リア充の俺の使命だ」
「?よく分かりませんけど分かりました!」
カミュラのその言葉にユイは首を傾げながらも、少しでも早く戦闘を終わらせる為にモンスターの群れと再び向き合う。今二人がいる場所は洞窟の出入口のすぐそこ。どうして二人が出入口がそこにあるにも関わらず逃げないのか。それは逃げられないからである。
たまたま遭遇したカミュラとユイは、生き残る為に一緒に行動することを選んだのだが、ユキミに乗っての移動中に幽霊の群れと遭遇してしまったのだ。純粋な物理攻撃が効かないモンスターの大群と逃げるには不利な場所で、ユイが咄嗟に近くにあった洞窟に逃げるようユキミに指示したからである。
だが、その洞窟はボーナスエネミーが逃げ込む場所であるモンスターハウス。入った瞬間に見えない光の壁によって出入口を封じられて閉じ込められた二人は、大量のモンスター達との戦闘を余儀無くされてしまったのである。
「ハァ……ハァ……まだ終わらないのですか!?」
「感覚的には半分は倒した筈だ……」
一向に減った様子のないモンスターを倒し続けているユイだが、その多さから肩で息をし始めている。カミュラもポーションやルルに譲渡したスキルを使ってHPを回復しているが、長時間持つのか怪しくなってきている。
何故ユイにダメージが入らずにカミュラにダメージが入っているのか。それはカミュラが使用したスキル【従者の献身】の効果からだ。
【従者の献身】は対象のプレイヤー一人が受ける攻撃を全て肩代わりするスキルだ。それによってユイは前に出て戦えるのだが、スキルの仕様上一人にしか使えない為ユキミは指輪に戻さざぬを得なかったのである。
カミュラはダメージカットやコピーした回復スキルを使って粘ってはいるが、このままでは押されるのは明らかであった。
「ごめんなさいカミュラさん、私のせいで……」
「お前が謝る必要はない。それに……非常に不満な応援が来たようだ」
ユイの謝罪にカミュラがそう返した直後、一方通行である光の壁で塞がれた出入口から一人のプレイヤーが俊敏な動きで入ってくる。
「【パワーアタック】!【凍牙絶衝】!」
その人物―――テンジアは二振りの長剣を振るい強烈な攻撃でゴリラのようなモンスターを叩き斬り、次いで周りにいたモンスター達を氷塊に閉じ込めて粉砕する。
ユイとは別の意味でモンスターを容易く葬ったテンジアは、顔だけユイとカミュラに向けて語りかける。
「正に危機一髪だったな。大丈夫か、カミュラ?」
「……俺の方は全く問題ない。むしろ、ここでカッコよくモンスター達を倒してリア充の仲間入りを果たそうとしたくらいだ」
「それだけ大言壮語に語れるなら、大丈夫だな」
相変わらずのカミュラの発言にテンジアは苦笑しながらモンスター達の大群に向き直り、長剣を構え直す。
「リース、【
テンジアは一体化しているリースに指示を出しつつ、二振りの長剣に長大な氷の刃を纏わせていく。長剣に宿った氷の刃は大剣のごとき大きさとなり、その二振りの氷の大剣を手にモンスターの群れを切り裂いていく。
「【砕氷刃】!【大切断】!【旋空剣】!」
テンジアは十字を描く冷気の斬撃、豪快な叩き割り、大振りな薙ぎ払いを二重に放ち、モンスター達を二、三撃で葬っていく。当然モンスター達も黙って殺られるわけもなくテンジアに攻撃を仕掛けるが、どれも容易く躱されて逆にカウンターで切り裂かれていく。
「彼方の敵を攻撃せん―――【飛撃】!」
当然ユイも黙って見守るわけもなく、衝撃波を放ってモンスターの殲滅に協力していく。STR極振りの強烈な一撃を受けたモンスター達は大ダメージを受け、攻撃を放ったユイに意識を向ける。
「リース、【雹音波】!【飛撃】!」
その隙を突くように、テンジアが音波を放ちつつ衝撃波を放ってモンスター達に止めを差す。
「カミュラ、【フレイムレイン】は使えるか?」
「ああ。問題ない―――ルル、【MPリンク】!焼き尽くせ、【フレイムレイン】!」
カミュラが不承不承という雰囲気で返しながら、スキルでMPを共有した状態でコピーした強力なスキルを放つ。モンスターの上空に魔法陣が展開され、そこから無数の炎の熱閃が降り注いでいく。
「【凍てつく
「ここだ―――【フレアバースト】!」
テンジアがスキルを発動して長剣を振るうと、カミュラの放っていた炎の熱閃全てが氷の柱となって一瞬で凍りつく。そこにカミュラが別の炎を叩き込むと、その氷の柱全てが倍の大きさと威力となった熱閃となって解き放たれた。
「すごい……」
先ほどまでの苦戦が嘘のような戦闘に、ユイはテンジアとカミュラに視線を向ける。二人の炎と氷のコンボによってモンスターは全滅し、出入口を塞いでいた光の壁は役目を終えたように消えていった。
「ふぅ……本当に震天動地だったな。二人とも無事で何よりだ」
「この程度の試練、どうという事はない。リア充の撲滅の為ならな」
「あ、あの!助けて頂いてありがとうございました、テンジアさん!それからカミュラさんも!」
ユイのお礼をテンジアとカミュラは素直に受け止めると、現在の状況について確認していく。
「そうか……パーティー同士のリンクが切れているのか」
「ああ。マルクスのおかげで互いの居場所は一目瞭然だが……ミィの予備を含めて反応は私自身も含めて七つだけだ」
テンジアがそう答えた直後、テンジアとカミュラがよく知るモンスター―――ミィの相棒であるイグニスが降り立つ。イグニスの背にはミィにミザリー、マルクスとシンだけでなく、【楓の木】のクロムとイズ、カスミの姿もあった。
「クロムさん!イズさん!カスミさんも!」
「ユイ!無事だったか!」
「無事に合流できて良かったわ。マイちゃんとミキちゃんもメイプルちゃんの元にいるから、これで残りは四人ね」
「CFにシアン、カナデとアロックの四人か。サリーはフレデリカと共に行動しているから大丈夫ではあるが……」
仲間と合流できた事に【楓の木】の一同は喜び合いつつも、残りの安否不明のメンバーを心配していく。特にシアンはINT極振りな為、一撃でも攻撃を受けたらアウトなのだ。自分達のように、他の誰かと一緒であってほしいと願うのは当然であった。
「これで我々のメンバーは大方揃ったな」
「はい。ですが……」
「僕が用意した【印】はここにいる皆と、ミィがメイプルに渡した分しか残ってないよ。流石に全滅してないと思うけど……これ以上の合流は時間的にも厳しいかな」
「六人も集まれただけ有難いと考えるべきなんだが、拠点探しも含めると厳しいな」
「ああ。俺たちの拠点は例の闇に呑まれてしまったからな」
「四苦八苦な状況だが、割り切るしかないだろう」
同じギルドの者同士とこれ以上の合流が出来ず、半分近くが脱落したであろう状況からこれからの事に対して話し合うミィ達。そんなミィ達に、クロムがおずおずと話しかけた。
「なぁ、一つ提案なんだが……」
クロムはそう前置きし、【炎帝ノ国】の面々にある提案を持ちかける。その提案に対して【炎帝ノ国】の一同は……
「なるほど……それは悪くない提案だ」
「この状況では、確かに悪くない提案ですね」
「お互いに利益があるから、僕は賛成だよ」
「満場一致。私も反対する理由はないな」
「それに上手くいけば、効率良くメダルも集められるかもしれないしな」
「ギルドマスターの決定なら、俺は従うだけだ。リア充と仲良くするつもりはないが」
クロムの提案を快く受け入れ、一同は【楓の木】の合流地点へと向かって飛び立つのであった。
「メダルがどんどん集まってるなぁ。これで七枚目だぞ」
「うわぁ……この二日で七枚も集めたの?」
「すごいっすんん、すごいですね」
「フレデリカ達の方はどうなのよ?」
「こっちはさっきのも合わせて三枚。中々ダンジョンが見つからなくてね」
「私の方は二枚……ですね。目ぼしい場所は見つけていますが……」
「以外ね。大規模ギルドだからもっと稼いでいるかと思ったんだけど」
「エリアボスや軽減エリアの存在がね。下手したら倒れるから、慎重になってたんだよ」
「私の方はちょっと……トラブルがあ、りまして……」
「「「?」」」
合流を目指すチーム好敵手の図。
「うーん……ヒナタの方は全く動いてないね。ベルの方はゆっくり動いているから……ベルの方に向かおうかな」