あちこちで色々な戦闘が起こっている中、メイプル達はジベェの背中で平和にお茶会をしていた。
「あ、またメダルだよ!これで七枚だね!」
「本当ですね……一人で攻略しているのでしょうか……?」
「ノウ。その可能性は低いですね。メダルをゲットしているということは、誰かと一緒に行動していると思います」
「そうだねー。ボク達みたいにー、別の人と一緒かもー」
「あの……今、イベント中ですよね……?」
あまりに平和過ぎる状況に、ヒナタは困惑を隠せずにいる。【楓の木】の【普通】は周りから見たら【異常】なので、耐性が全くないヒナタが困惑するのは当然の流れである。
こんな状況でお茶会など普通であれば不可能であるが、メイプルの【身捧ぐ慈愛】と【天王の玉座】のおかげで安全地帯が確保され、ジベェとシロップ、STR極振りのマイがモンスターを遠距離攻撃で打ち落としているのでこの平和空間を実現できているのだ。
そんな平和空間に、空を飛べるモンスターが近づいてくる。
「あ、また来たよ!」
「【痺れる調律】」
「【災厄伝播】」
「どうぞー」
「えいっ!」
翼をはためかせて近寄ってくる悪魔に、サクヤとヒナタが麻痺とデバフを与え、マイがミキが渡した刺々しい鉄球を投げて悪魔を一撃で打ち落とす。仮に生き残ってもジベェの【水鉄砲】とシロップの【精霊砲】で止めを差されるので一切問題はなかった。
「みんな、まだ来ないね。結構遠い場所に飛ばされたのかな?」
「パシリデリカさんのメッセでは、カナデさんとシアンさんがドラグさんと一緒のようですが……」
「私の方も……パーティーのリンクが切れているから、少し心配……」
「ユイは大丈夫かな……?」
「位置が分かればー、こっちから迎えに行けるんだけどねー」
五人は仲間達の心配をしつつも、地上の地獄絵図など別世界のお茶会を続けるのであった。
――――――
メイプル達のいる空が比較的安全なのに比べ、地上は文字通り地獄と呼ぶに相応しい状況であった。強いモンスターがあちこちで徘徊し、モンスターハウスやエリアボスも存在する地上はダンジョンの中の方が安全と言っていいくらいだ。
その状況で、運よく【楓の木】同士で合流できたカナデとシアンはモンスターから隠れながら進み、現在は木のうろに身体を隠していた。
「ふー、助かったよ。僕達だけじゃあ生き残れなかったかもしれないし」
「よく言うぜ。まあこっちもちょっとばかし困ってたからな」
カナデのその言葉に、木のうろの前に立ってモンスターの群れと対峙しているドラグは呆れ混じりに言葉を返す。ドラグはフレデリカとの立ち回りを基本としている為、支援無しでは真価を発揮できないのだ。その為、魔法使いのカエデとシアンに出会えたのはドラグにとってはラッキーとも言える。
「支援はするけど期待しないでね。この辺り、魔法攻撃が軽減されるみたいだからさ」
「攻撃が軽減されるだけなら大丈夫だ。だから、きっちり支援してくれよ?」
ドラグの言葉にカナデは頷くと魔導書を開き、カードを構える。
「【ホーリーアーマー】【ホーリーエンチャント】【鼓舞】【強き反動】」
カナデは強化スキルを使い、ドラグにダメージカットとステータスアップ、さらにノックバック効果を上昇させるスキルを付与していく。
「ダメージカットのスキルもソウに使わせるから、遠慮なく言ってね」
「じゃあ、遠慮なく頼りにさせてもらうぜ。アース、【地震】!」
ドラグの隣にいたアースが両腕を地面に叩きつけると、そこを中心として激しい揺れが発生する。空を飛んでいるモンスターには影響はないが、地面にいたモンスターはその動きを止められる。
「叩き割れ、
ドラグが斧で地面を叩くと波打ち、大きく盛り上がってモンスター達を大きく押し返していく。
「お、普段よりモンスターを押し返せれているな。お前のスキルの効果か?」
「そうだよ。代わりに硬直時間がちょっと延びるけどね」
ドラグのスキル構成がノックバックがメインだと把握していたカナデは、ドラグの確認に対してそう返す。ドラグの攻撃によってモンスター達は距離を強引に取らされるも、魔法等で遠距離攻撃ができるモンスターは距離に関係なく攻撃をドラグに放っていく。
「【フォースアーマー】【弾速減衰】」
「癒せ、【ヒール】」
カナデがダメージカットスキルでドラグのダメージを抑えると、シアンがすぐにドラグの減ったHPを上限いっぱいまで回復させる。魔法攻撃が軽減されているとはいえバフや防御には支障はなく、シアンのINTで放たれる回復魔法は【ヒール】でも上級クラスに匹敵する回復量である。
「フレデリカの回復よりすげぇな。これなら多少の無茶ができるぜ、【サンドウェイブ】!」
ドラグは少しの溜めの後で斧を振り抜くと、今度は砂の波を放ってモンスター達を一気に押し返していく。砂の波を受けてAGIが減少したモンスター達は、緩慢な動きでドラグ達に近づこうとしている。
「ノックバックだけじゃなく、ステータス低下もあるなんて便利なスキルだね」
「そりゃ仮にもトップを張っているからな。【バーンアックス】!」
カナデの素直な感想に、ドラグはスキルを放ちながら不敵な笑みを浮かべて返す。そんなドラグにゴーストから青い火の玉が放たれる。
「おっと、【防護結界】」
「ナイスガード!フレデリカにも負けてないぜ!」
「……そんなこと言うなら、もう助けてあげないよー?」
ドラグがカエデの援護に対してそう告げたタイミングで、フレデリカが茂みの中から姿を現した。
「おっ!?もう来たのか。いやー助かったぜ!」
「本当に調子がいいんだからー……連なり守れ、【多重障壁】!」
ドラグの言葉に呆れながらも、フレデリカはドラグの援護に回っていく。そんな二人の後ろで、サリーを背中に背負ったコーヒーがカナデとシアンに近づいていく。
「二人が一緒だったとはな。とにかく合流できて良かったよ」
「そうだね。ちなみにサリーは……」
「……察してくれ」
コーヒーのその言葉にカナデとシアンは苦笑したような微妙な表情となる。ほぼまちがいなく、ゴースト系のモンスターに遭遇して戦力外となってしまったのだろう。
「うう……なんでまた幽霊が出てくるのよ……」
「意外っ……ですね。まさかこうもお化けの類いが苦手とは」
すっかり涙目となっているサリーにベルベットが意外そうに呟く。サリーの第一印象が少し強烈であったベルベットからしたら、こうも弱気なサリーは想像すら出来なかったからである。
そんなベルベットにカナデが話しかける。
「君がベルベット?サリーとCFがお世話になったそうだね」
「いえ。私の方も二人のんんっ、お二人のお世話になりましたから」
「あっ!私達も加勢しないと!」
「それなら大丈夫だぞ。来たのは俺達だけじゃないから」
シアンの慌てた言葉にコーヒーがそう返した直後、三つの人影が現れる。
「【残光ノ聖剣】!」
「【旋風連斬】!」
「【飛雷斬】!」
その人影―――ペインにレイド、ドレッドの三人は光線のごとき光の斬撃と呑み込むように地を這う雷の斬撃、範囲内にいたモンスターへの連続攻撃でその場にいたモンスター達を容易く一掃してしまう。
モンスター達を相棒の力も借りずに殲滅した三人を尻目に、コーヒーは少し遅れて合流したアロックに顔を向ける。
「そっちも上手く協力できたんだな」
「ああ。彼らと会えたのは行幸だった」
【楓の木】の方も無事に合流できた事に安堵している中、【集う聖剣】一同はこれからのことで話し合っていく。
「そうか……俺達のパーティーメンバーはやられてしまったのか」
「私とドレッド、サクヤのパーティーも同じか……まさか半数がやられるとは……」
「残念だけどそーみたい。たぶん転移先が最悪だったんだと思うよ」
「その線は有り得るな。軽減エリアも昼と夜で変わっていたし」
「拠点の方はどうなっているんだ?」
「そっちもダメ。マップの端だったから、モンスターの巣窟になってるよ」
予想以上の悪い展開に【集う聖剣】一同は難しい表情となる。自分たちとパーティーを組んでいたメンバーはやられ、拠点も失ってしまったのだ。今回のイベントの厳しさを前に、ペイン達は気を取り直すように頭を振るう。
「ここで落ち込んでも仕方ない。サクヤと合流したら、拠点となる場所を探さないとな」
「あー、それなんだけどー……」
フレデリカがペインに何かを伝えようとしたその時、周りの木々が独りでにザワザワと揺れる。突然の事態にその場にいた全員が身構えていると、周りの木々が小さくなっていく。その木々から手足が伸び、何体ものトレントモドキとなった。
「なっ!?」
「周りの木がモンスターになった!?さすがに予想外だよ!」
「まさか、人数に反応するモンスターか!?」
まさに囲まれる形となった一同は、緊張した面持ちでトレント達を見やる。
「ど、どうしましょう!?このエリアは魔法攻撃は軽減されますし!」
「それマジで!?ゴースト系も出てきてるのに!?」
シアンの言葉にフレデリカは若干焦ったように声を上げる。実態のない幽霊系は属性攻撃で倒すのが基本だが、その基本の多くは魔法攻撃なのだ。その魔法攻撃のダメージが軽減されるのは、魔法をメインとしているフレデリカとしても痛いところであった。
「ひぃいいいい……!」
「ぐえっ!?く、首絞まってる!絞まってるから!!」
そしてそれは、サリーの戦力外通知であるも同然である。ゾンビであれば自己暗示でまだセーフだった可能性もあるが、半透明な骸骨の幽霊は完全にアウトであった。
「こうなったら、【らい―――」
「必要ないよ。【共鳴符】」
ベルベットが派手にスキルを使おうとした矢先、そんな声と共に頭上から何枚もの護符がコーヒー達を取り囲むモンスター達に投げ込まれていく。
突然の加勢にベルベット以外が困惑する中、鞘に収まった刀を腰だめに構えた和装の少女が降り立つ。
「【
その少女はスキルを発動せ、抜刀と同時に目の前にいるモンスター達を切り裂く。ばら蒔かれた護符からも同様の斬撃が飛び、黒い斬撃に切り裂かれたモンスター達は硬直したように動きが止まる。そこに更に少女が駆け抜けながら刀を振るって攻撃を叩き込み、その場にいたモンスター全てに全身からダメージエフェクトを弾けさせる。
「【七ノ風・
その少女―――ジェラフは納刀すると取り囲んでいたモンスター達から再びダメージエフェクトが弾け飛び、モンスター達は力尽きたように光となって消えていった。
「ふぅ……やっと合流できたよ。結構な大所帯みたいだけどさ」
「ジェラ!本当にナイスタイミングっすよ!」
モンスター達を一人で殲滅したジェラフにベルベットが飛び付き、受け止めたジェラフも困ったように苦笑している。そして、ジェラフはコーヒー達に向き合う。
「ベルが世話になったね。何か迷惑をかけなかったかな?」
「いや。こっちも彼女に助けられたから大丈夫だ」
苦笑しながらコーヒーはジェラフにそう返すも、コーヒーの背中にいるサリーは睨み付けるようにジェラフを見ている。そんなサリーにもジェラフは話しかける。
「おや?どうしたのかな、サリー?そんなにあたしを睨んでさ?」
「あんた、絶対に分かってて言ってるでしょ」
「何のことかな?あたしは別に嘘は言ってないよ?」
「やっぱり分かってるじゃない!!」
サリーは顔を真っ赤にしてジェラフに噛みつくが、当の本人はどこ吹く風。一向に気にしていない。
「ま、おふざけはここまでかな。ベル、状況は分かってるよね?」
「もちろんです。ですが、ベルが入れば残りのメンバーと無事に合流でき……ますから大丈夫っ……です」
散々ボロを出しまくっているが、変わらずお嬢様口調を貫こうとするベルベットにコーヒーは思わず苦笑してしまう。対するジェラフは、ジトッとした目をベルベットに向けていた。
「……ベル?」
「ジェ、ジェラ?どうしてそんな目で睨むっすか……?」
「……パーティーのリンク機能を確認してみて」
ジェラフの呆れたような指示に、ベルベットは首を傾げながらも自身のメニュー画面を開いてリンク機能を確認する。確認したベルベットは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情となった。
「……え?リンクが切れてるっす」
「そ。半数以上がやられてパーティーのリンクが切れてるんだよ。しかも、パーティーメンバーはあたしとベル、ヒナタの三人しか残ってないよ」
ジェラフのその報告を受け、自分たちもマズイ状況に陥っていると悟ったベルベットは焦ったようにジェラフに詰め寄った。
「どどど、どうするっすか!?これじゃ一気にメダル集めが難しくなったっすよ!?」
「ちなみに拠点の方も潰れてるから最悪の状況だよ?」
「うわぁああああああっ!」
リンク切断、パーティー分断、拠点壊滅の三連コンボを見事に受けたベルベットは頭を抱えてその場に蹲る。そんなベルベットの姿にコーヒー達は思わず同情してしまう。
ちなみにベルベットがリンク切断の通知に気づかなかったのは、あのエリアボスとの戦闘の最中だったからである。
「落ち込むのは後回しだよ、ベル。早くヒナタと合流してこれからの事を話し合わないといけないから。ヒナタの位置は動いてないけど、どうなるか分からないからね」
「あ、それなら大丈夫っす。ヒナタは今、彼処にいるっすから」
ベルベットがそう言って指差す先には、定期的に空に上がる花火モドキが空を照らしている。
「あの花火のような爆発が上がっている場所に?近くにいるとかじゃなくて?」
「ちなみにその場にいる皆でお茶してるっす」
「え?ちょっと待って。この状況でお茶?モンスターが襲い掛かってくる危険地帯でお茶?周りが大変な時に、呑気にお茶会を開いているの?」
ベルベットからもたらされたヒナタの現在の状況に、ジェラフは疑問を露に手で顔を覆って問いかけている。
その後詳しく話を聞き、少しして状況を整理して落ち着いたのか、ジェラフは疲れたように溜め息を吐いた。
「本当に【楓の木】は色々な意味で予想を上回るね……でも、これはある意味チャンスかな」
「チャンス?」
「そ。それでベル、提案なんだけど……」
ジェラフはそう前置きすると、ベルベットにコソコソと何かを伝えていく。それを聞き終えたベルベットは笑みを浮かべた。
「それ、ナイスアイディアっす!」
「じゃ、決まりだね。ヒナタには事後承諾で悪いけどね」
ジェラフはそう言って、改めてコーヒー達に向き合って先程思い付いたことを伝える。
「良かったらさ、ここは互いに手を組んで協力し合わない?今は少しでも戦力が多い方がいいでしょ?」
ジェラフのその申し出にコーヒー達はもちろん、ペイン達も目を見開いて驚きを露にする。そんな中、サリーが真意を問いかける為に話しかける。
「ほぼ初対面の相手に対して随分思い切った事を言うわね。何が狙いなの?」
「拠点の確保と防衛戦力、後はメダル探しの為かな。残りのメンバーと合流できるか怪しいし、情報を擦り合わせれれば効率良くメダルも集められるかもしれないしね」
「そっちの情報が洩れるリスクを負ってでも?」
「それこそ今更でしょ?たぶん、ベルの弱点―――最大のデメリットはもうバレてるでしょ?」
ジェラフのその言葉にサリーは感心したような笑みを浮かべる。確かにサリーはもちろん、フレデリカにもベルベットには相棒がいないことはバレている。それをこの数分で見抜いたジェラフの頭の回転の良さに、サリーは素直に凄いと感じた。
「本当に勘が鋭いわね」
「これでも勘と読みは良い方だからね。先の展開も考えれば、決して悪くない提案だと思うよ?」
「……そうね。この機会に、貴女達の情報を吸いとらせてもらうわ」
「それはお互い様にね」
サリーとジェラフはそう言って互いに握手し合う。そんな二人を見て、フレデリカが声を上げる。
「ちょっとー?私達を置いてきぼりにしないでよー。そもそもその話はさー、サリーちゃんも持ちかけた話だよねー?」
「フレデリカも既に話し合っていたのか?」
「そうだよー。最終的にはペインが決めることだから、話を通すだけに留まってたけどねー」
「いや、その提案は願ったり叶ったりだ」
こうして【集う聖剣】組も共闘関係となり、一同は巨大化したレイとコーヒーが召喚した舟によってメイプル達がいる場所へと目指すのであった。
「そういえば、どうしてサリーはCFに背負われていたのかな?」
「…………」
「ま、別にいいけど。女の子らしいと思いはしたけどね」
「やっぱりそう思うー?戦闘ではヤバいけど、可愛いところもあるんだよねー」
「可愛いところならジェラもある……ありますよ。猫なで声で可愛い子と戯れたりとか」
「へー、人を食ったような性格のわりに可愛いじゃない」
「あちゃあ。藪蛇だったかな」
見事に自分に返ってきた者の図。