「このお菓子の味……【カフェ・ピグマリオン】と同じ……?」
「はふぅ。本当に美味なスイーツです」
「まだあるよー」
「あ、また何か来た!」
地上の苦行とは無縁の空でお茶会をしていた一同は、メイプルが【機械神】の武器を構えたことで臨戦態勢となる。
「あれ?あれって……」
しかしよくよく目を凝らして見ると、近づいて来ている三つの影の正体は巨大化したイグニスとレイ、そして空を飛ぶ舟だった。そこには【集う聖剣】と【炎帝ノ国】だけでなく、まだ合流出来ていなかった【楓の木】の面々と【thunder storm】の二人がいた。
「予想より早かったが、また会ったなメイプル」
「ミィ!それにペインさん達も!皆を連れて来てくれてありがとう!」
ミィ達の姿を確認したメイプルは早い再会に驚きつつも、ギルドメンバーを連れて来てくれた事のお礼を告げる。
「まさかタイミングまで同じだったとはな。メイプル達もそうだが、そっちも初めて見る奴がいるな」
「成り行きでね。ちなみに実力は折紙付よ」
コーヒー達の方と同じく【炎帝ノ国】に協力を持ちかけたクロムの言葉に舟に乗っていたサリーがそう返す中、ベルベットとジェラフはヒナタと無事に合流したことに安堵する。
「ヒナター!無事でんん、ご無事で安心しましたよ」
「ベルベットさんもジェラフも……無事で安心しました」
「状況は最悪だけどね。それでね……」
ジェラフはそう前置きして、同盟関係の事を説明していく。説明を聞き終えたヒナタは、どこか呆れたように溜め息を吐いた。
「またジェラフは勝手な事をして……いつもの事ですけど」
「一応ベルには許可を取ってるよ?それに、情報の隠蔽より収集とメダル集めを優先した方が将来のプラスだよ」
「そうですね……ベルベットさんの秘密が結構バレているみたいですから」
「そ、それは仕方ないっすよ!大群とエリアボス相手にそんな余裕はないっすから!」
そんな三人のやり取りを、ジベェの背中に移動した一同は興味深げに見つめていく。
「あれがギルド【thunder storm】のトップスリーなのか……」
「ああ。俺はジェラフの戦闘しか見ていないが、圧巻の一言に尽きる戦いぶりだった」
図らずも互いに協力関係となったミィとペインがそう呟く中、四ギルドの同盟戦を聞き終えたメイプルが力強く宣言する。
「よーし!それじゃ、皆で私達の拠点に戻ろう!このメンバーなら、モンスターにもバンバン勝てるよ!」
「それじゃー、出発ー」
ミキの指示にジベェが軽く仰け反ると、【楓の木】の拠点に向かって飛んでいく。三つのギルドの拠点とは違いマップの中央付近に設営していたので、モンスターもそこまで蔓延っていないからだ。
「んーと、サリー、この辺だったよね?」
「うん、あの山の位置は変わってないしね」
「じゃあー、降ろすよー」
ミキがジベェに指示を出してそのままゆっくりと降下し、着陸する。地上に降りた一同はしばらくその辺りを探すと、【楓の木】の拠点だと証明する看板を発見する。
「『【楓の木】本拠地 危険物多数 命の保証なし』……この上ない証明だね」
「おいおい。どれだけ危ない場所なんだよ?」
「出る時に幾ばくか取り除いたけどな」
フレデリカとドラグの呟きにクロムがそう返しつつ、一同は洞窟の中へと入っていく。合流に予想以上の時間が掛かったこともあり、罠を再設置しながら奥へと進んでいく。
「これは……まさに
「メイプルの【身捧ぐ慈愛】の恩恵がなければ、俺達も無事ではすまないな……」
パーティーを再編成し、リンクを繋げて【身捧ぐ慈愛】の恩恵を受けているテンジアとペインは苦笑いして設置されていく罠を見つめていく。
何せ殺傷力が異様に高い罠が次々と設置されているのだ。メイプルでなければ無事に進めない人工ダンジョンが目の前で作られていけば、何とも言えない気分となるのは必然だった。
「すごいですね……私達のギルドでも、ここまで凶悪な罠を設置できな……できませんよ」
「マルクス、貴方の罠も設置しておいてもいいんじゃないですか?」
「うん……頼み込んで、一本だけ僕達に反応しないトラップのルートを作らせてもらうよ」
個別で外に出ることも視野に入れ、【楓の木】に許可を得てマルクスも罠の設置に携わっていく。ある程度罠を再設置して最奥に到達すると、イズが工房を展開する。
「さ、急いで取り掛かるわよ!もちろん皆も手伝ってね?」
追加で十五人も増えたことでスペースの使い方を変更しつつ、一同は拠点設営の為に動き回るのであった。
――――――
「さてと、そろそろ二日目の強化モンスターの解放ですね」
「二日目の強化モンスターには、周りのオブジェクトを取り込んでいく特殊モンスターもいます。設置物も同様に取り込むこのモンスターで、初日のリベンジを果たします」
「新人の言葉はさておき、強制転移でプレイヤーの数がだいぶ減ったからな。ここで更に追い討ちをかける」
二日目の夜の試練に元々用意していたモンスターをリベンジ扱いする新人を流しつつ、運営一同は最高難易度の進行状況を確認していく。
「プレイヤーもまだ結構散ってますね。臨時でパーティーを組んでいるプレイヤー達もちらほらいますが、それでもかなりの試練に……え?三パーティー以上集まってる……?」
「ん?どこに集まっているんだ?」
「プレイヤーサイドの殺意増しダンジョンにです」
「【楓の木】ですか……もう帰りついた……いえ、少し待って下さい。三パーティー以上ですって?」
明らかに【楓の木】+αを超えている人数に、運営は人工ダンジョンにいるプレイヤー達の情報を確認していく。そこに並んだプレイヤーネームを前に、運営達の目がどんどん曇っていく。
「なんで?なんで?」
「確かに増えてる……増えてるけど」
「【集う聖剣】と【炎帝ノ国】は百歩譲ってまだ分かるけど、なんで【thunder storm】まで?」
「【楓の木】と親交が全然無かったギルドのメンバーが何で一緒なんだ?それもトップスリーがだぞ?マジで分からん」
一体どういう経緯でこうなったのかと、運営は本気で頭を抱える。何せ上位ギルドの精鋭が殺意の高い拠点に集っているのだ。過剰戦力も良いところである。
「それよりこれは酷だぞ……モンスターに」
「トラップに滅法強いモンスターも、これでは無意味に近いですよ。防衛戦力が爆上がりしてますし」
「だが、もう止められないぞ」
二日目の強化モンスターの解放まで残りは数十分なのだ。そこが凶悪な人工ダンジョンだろうと、四つの上位ギルドのトップが蔓延っていようと、モンスターはプレイヤー達がいる場所に迷うことなく向かっていく。
「お願いだから生き残ってくれ……一体だけでも」
「罠を突破して一矢報いてほしい、ですか?」
「いや。あのメンツを倒してほしい、だ」
「さすがに無理だろ。このメンツと人数を前に」
「だよなー」
「「「アハハハハ」」」
モンスター達の逆蹂躙劇を想像し、運営一同は乾いた笑い声を上げるのであった。
「…………」
ちなみに新人は過剰戦力を前に真っ白に燃え尽きていた。
――――――
強化モンスターが現れるようになる少し前に拠点は完成した。迎撃スペースを幾ばくか削ることにはなったが、それを補ってあまりある状態であった。
「あら、スクリーン?何か見るのかしら?」
「ここに、映像が出るようにしておくから……」
イズの疑問にマルクスがそう言葉を返すと、スクリーンに映像が映し出される。そこには
「わー!すごい!」
「み、見えてれば再設置したいトラップの種類もモンスターの強さも分かるから……じゃあね」
目を輝かせるメイプルにマルクスはそう伝えると、【炎帝ノ国】の居住スペースへと戻っていく。
新しく作り直された居住スペースは、中央に広めのくつろげる空間を用意し、そこに接続するように各ギルドの区域が設けられている。マルクスのスクリーンも全員が見られるように中央の区域に張られていた。
ちなみに居住スペースは人数の関係からそれぞれのギルドで広さが違っている。【楓の木】+αは十二人だから一番広めとなっており、三人だけの【thunder storm】は一番狭くなっている。それでも十分な広さに違いはなく、迎撃スペースのすぐ近くに【集う聖剣】と【炎帝ノ国】の居住スペースがあるから十分に配慮されているが。
「暇だねー。ダンジョン探索に出かけるわけにもいかないしー」
「その辺りは今日の強化モンスターの強さ次第だね。少なくともボーナスエネミーとエリアボスは厳しいだろうけど」
「馴染んでるわね、二人とも……」
中央スペースでお茶とお菓子を片手に談笑するフレデリカとジェラフの姿に、サリーは呆れた眼差しを向ける。フレデリカは【楓の木】によく訪れていたからまだしも、初交流のジェラフも普通に馴染んでいる事に微妙な気分となっていた。
「変に畏縮しても気が休まらないでしょ?こういう時は適度に砕けていた方が良いんだよ」
「それもそうだねー。病は気からという言葉もあるからね」
「はぁ……まあ、いいわ。やっぱりそっちの方は難しいと思うのね」
「それはそうだよ。軽減エリアに視界不良、悪辣なモンスターハウスもあるからね」
「例のボーナスエネミーが逃げ込む場所だね。ウチの新人が深追いして、見事にやられたからね。助けに入った人も同じ末路だったし」
「こっちはベルが深追いしてね。あたしとヒナタ、他のメンバーも奮闘して何とか全員生還できたけどね。ちなみに報酬は何もなかったよ」
ジェラフはそう言って深い溜め息を吐く。そして、先程から気になっていることをサリーに問いかける。
「ところで、あの区域は何?」
「ミキの釣り区域。モンスターもアイテムも釣れるから、運が良かったらボーナスエネミーも釣れるわよ?」
「「は?」」
サリーのその言葉にジェラフはもちろん、フレデリカも間抜けな顔となってしまう。
「……いやいや。釣りは普通、川や湖とかでやるものでしょ?」
「それ、マジで?ボーナスエネミーも釣れるの?」
「釣れたわよ。確率は低いけどね」
フレデリカの問いかけにサリーが答えていると、釣り区域がガヤガヤと賑わっていく。
「本当にモンスターが釣れたっす!」
「すぐに倒します!【ダブルスタンプ】!」
「【シールドハウリング】!」
「しっかり働くからボーナスエネミーも釣ってくれよ!【鎧砕き】!」
「私もやるっす!【重双撃】!」
ミキが釣り上げた如何にも固そうな見た目のモンスターを、マイとカミュラ、ドラグとベルベットが袋叩きで攻撃して反撃する間もなく倒していく。
「……ベルも参加してるんだね」
常識がガラガラと音を立てて崩れていく事を自覚しながら、ジェラフはその辺りの思考を放棄した。まだ胃痛で悩みたくないのだから。
ちなみにベルベットは散々ボロを出しているので、お嬢様口調は演技だと皆にバレている。基本は優しいメンバーなので、敢えて見てみぬ振りをしているが。
「ちなみに確率は?」
「三十分やって一体ね。下手したらもっと低いか―――」
「本当にボーナスエネミーが釣れたっす!」
サリーの言葉を遮るようにベルベットが大声を上げる。彼女の声に何名かが釣られて釣り区域に目を向けると、釣り針が口に引っ掛かった金の狐が逃げようと暴れているところであった。
「集中砲火で倒すぞ!【轟隆撃】!」
「【ダブルストライク】!」
「【ロックブラスト】!」
「早くメダルを落とすっすよ!【爆砕拳】!」
そんな金の狐にミキの釣りを見守っていたメンバー達が一斉に攻撃を放っていく。心無しか、約二名の目が血走って見えなくもない。
「私も加勢するよ、【多重炎弾】!!」
「メダル獲得のチャンスを逃すかよ!【崩剣】!!」
そこにフレデリカとシンも加わり、約六名で金の狐を集中的に攻撃していく。
「私達のメダルを落とせ!【多重増力】!ノーツ、【輪唱】!」
「早く倒れろや!【パワーアックス】!」
「早く倒れてください!【ダブルインパクト】!ツキミ、【パワーシェア】【引き裂き】!」
「今度は逃がさないっす!【渾身の一撃】!」
「お前を倒して俺はリア充となる!【シールドタックル】!ルル、【コピーアタック】!」
「ウェン、【風神】!」
ごく一部以外はまるで欲望をぶつけるかの如く、相棒の力を借りつつ六人は金の狐を攻撃していく。その光景に周りは軽く引いているが、当の本人達は気づかない。
そんな醜い攻撃を受け続けた金の狐は力尽きたように倒れ、まるで泣いているように光となって消えるのだった。
「メダルゲットっす!」
「これはマジでいいな!上手くいけばメダルをたんまり稼げるぜ!」
「……あれ、止めさせられない?何か、見たくないものを見せられてる気分なんだけど……」
ドラグとベルベット―――特にベルベットの欲深い姿にジェラフは複雑な顔でサリーに釣りそのものを止められないか聞く。
「別にいいんじゃない?特に困るわけでもないし」
対してサリーはイタズラっぽい笑みを浮かべて言葉を返す。どうやら軽い仕返しのつもりのようだ。
「……ま、いいけど。メダルが手に入ること自体は歓迎だからね」
そんなサリーの態度に、ジェラフは諦めたようにお茶を啜るのであった。
『メダル交換エリアに特殊素材が追加されていたな』
『レアな専用装備が作れる素材って、ゲーマーの心が擽られるよな』
『ラインナップを確認したけど、グレードが設けられていたな』
『グレードが高い程、強力なスキルが付与される確率が高くなるみたい』
『最高ランクのグレード3は、金のメダルが二枚も必要だけどな』
『今回のイベントのエリアボスも落としたぞ。ちなみにグレードは2だった』
『こっちは最高難易度で手に入れたけど、最高グレードの3だったぞ?』
『やっぱり最高難易度だと得られる素材もレアなんだな』
『ちなみに俺だけ』
『競争率が高まりそう』
『もしくは仲間割れ』
スレの一部抜擢。