欲望丸出しの光景が広げられてから少しして、二日目の強化モンスターが【楓の木】の拠点に侵入してきた。
「来たな。二日目の強化モンスターが」
「見た目は……劣化メイプルだな」
「劣化メイプルだねー」
「あー……うん。もうツッコまないよ」
マルクスのスクリーンに映ったモンスターに対しての評価に、ジェラフは悟ったような表情で受け流す。
今映っているモンスターの姿は【暴虐】を使ったメイプルのオマージュと言っていい程そっくりで、違いは足が四本なのと一つ目があるだけだ。
そんな劣化メイプルと表現されたモンスター以外にも、全く姿形が異なる強化モンスターも侵入している。
「あのモンスター、ガラクタを繋ぎ合わせたような感じだな」
「設置された罠を取り込んでいるな。さすがに落とし穴や毒沼といった地形を変える罠は取り込めないようだが」
「数も多いしここまで来そうだねー。ペイーン!仕事だよー!」
物量と設置物を取り込んでいくモンスターの存在から、奥地への到達は時間の問題と判断したフレデリカが【集う聖剣】の区画へと向かっていく。それに合わせ、【炎帝ノ国】の区画からミィが出ていく。
「私も行こう。後ろに控えていてくれ」
「私も行くっすよ!ギルドマスターとして、負けられなっんん、負けられませんから」
「やる気なところ悪いけど、今回はヒナタに行ってもらうよ。あの数なら、広範囲で足止めできるヒナタが適任だからね」
「がーんっ!?」
ジェラフのその提案に参加を表明したベルベットは撃沈する。ジェラフのその提案が聞こえていたヒナタは【thunder storm】の区画から出てくる。
「また勝手に……別にいいんですけど」
「ゴメンね、ヒナタ。嫌なら無理強いはしないけど……」
「ううん……協力し合ってるから、大丈夫……」
ジェラフの謝罪に対してヒナタはそう返すと、ミィ達がいる場所へと向かっていく。
「あの子は足止めが得意なの?」
「見れば分かるから、ここでは敢えて答えないよ」
サリーの質問にジェラフがそう返す中、フレデリカ、ミザリー、イズ、ミキがペインにミィ、ヒナタの三人にスキルとアイテムを使ってバフをどんどんかけていく。ペインとミィには威力上昇とステータスアップのバフがメインで、ヒナタには時間や範囲延長のバフがメインである。
「では、行こうか」
「今度は出し惜しみは無しだぞ、ペイン」
「あ、足止めなら、任せてください……」
十分なバフを受けたミィとペインはイグニスとレイを呼び出し、ヒナタは自身の武器であるぬいぐるみを抱きしめて迎撃エリアへと赴く。
迎撃エリアでペインとミィが武器を構えた直後、モンスター達が足音を響かせながら通路から飛び出してきた。
「【コキュートス】」
モンスター達の登場に合わせてヒナタがスキルを発動すると、ヒナタから発せられた白い
「これは……すごいな」
「ああ。あれほどの大量のモンスターの動きを一斉に封じるとはな」
バフによって範囲効果と効果時間が延長されたとはいえ、ヒナタの行動阻害スキルの範囲の広さと強力な効果にペインとミィは驚愕しつつも、一撃で葬り去る為に攻撃の準備を始めていく。数の多さから下手に時間を掛けるのは得策ではないと判断したからだ。
「イグニス、【不死鳥の炎】【我が身を火に】。燃え上がれ、
「レイ、【光の奔流】【全魔力解放】。集え、
「【星の鎖】【重力の軋み】【脆き氷像】」
ミィとペインが相棒の力で自己強化していき、ヒナタが更にデバフをばら蒔いてモンスター達の動きを封じていく。
ヒナタによって攻撃の準備を万全に整えられた二人は、最大火力で一気に殲滅せんとスキルを発動させる。
「猛き焔は万象を焼く灼炎 豪気なる大地は殺伐の燐火に呑まれ 熱波と焦土で歯向かう愚者を灰燼に帰さん―――討滅せよ、【
「聖なる竜の加護を受けし光の剣 その権威を我が剣に降ろし 邪なる存在を浄化せしめん―――【聖竜の光剣】!」
ヒナタによって十分な時間を得られた二人は、部屋を覆い尽くさんばかりの赤と白を解き放つ。ミィの生み出した炎は地面全てをダメージフィールドに変えて前方全てを焼き払い、ペインの生み出した光は悪魔型モンスターへの特効性能によって光に包まれたものから順に浄化するように消し飛ばしていく。
その炎と光はそのまま通路を逆走し、通路で渋滞を起こしていたモンスター達はもちろん、途中で残っていたアイテムも全て吹き飛ばしていった。
「す……すごい、です」
「何だ。二日目といえど、思ったほど強くないものだな」
「今回は地形も良く、時間も十分にあったからな。隙が大きい大技でも簡単に対応できる」
ミィとペインが感想を呟く中、コーヒー達も先程の光景に対しての感想を呟いていく。
「すごいな。ペインとミィもそうだが、ヒナタも相当だな」
「そうね。あれは一度でも捕まると本当にまずいね。下手したら一歩も動けずに倒されそう」
「当然っす!ヒナタも強いっすからね!」
コーヒーとサリーの感想にベルベットが自慢気な表情で胸を張っていると、モニターを見ていたフレデリカがペインに駆け寄っていた。
「ちょっとペインー!マルクスのカメラも吹き飛んだんだけどー?」
少し怒っているフレデリカのその指摘通り、マルクスが設置したスクリーンには入口付近の映像以外はノイズが走ったかのように何も映らなくなっている。
「……?バフの中に射程延長のものがあったか……すまない」
「ミィも……僕のあれ再設置に時間かかるんだからね」
「あ、ああ、悪かった」
ペインとミィがそれぞれに謝る中、先程の光景を思い出しながらクロムとカスミ、ジェラフが呟く。
「ギルドマスターというのは、どこもああいったものなのだろうか……」
「トップクラスのギルドマスターならあり得るんじゃない?ベルも似たり寄ったりだし」
「あんな一騎当千はそうはいないだろ。俺達の周りにそういうのが多いだけだ」
互いのギルドマスターの事を思い浮かべながら、三人は罠の再設置へと向かっていく。二人の大技で罠も吹き飛んでしまった為、どちらにせよ再設置は必要であるからだ。
当然、コーヒー達も次の襲撃に備えて罠の再設置へと赴いていく。
「さっきの強化モンスターの特性からして、落とし穴や沼を多めにした方がいいかもね」
「そうだな。罠の無駄使いを避ける意味でも、そうした方が無難か……」
「じゃあ、毒をばら蒔いておくね!【ヴェノムカプセル】!」
コーヒーとサリーの会話を聞いたメイプルはそう言って即死効果が付与された毒をばら蒔いていく。メイプルの毒も例のモンスターに有効だった為、その発想は当然の流れである。
「ミィとペインの火力が凄かったな。ヒナタの足止めも凶悪だったし」
「そうね。全員想像以上かな。特にあの足止めは本当に凶悪ね。あれに二人の範囲攻撃が加わったら結構キツいわね」
ベルベットの広範囲雷撃に近距離のインファイト。ジェラフの風を伴った範囲斬撃に護符による拡張。そこにヒナタの足止めが加われば相手はほぼ一方的に倒されてしまうだろう。
「うんうん。すごかったよねー」
「どこかで戦うだろうから、楽観視もできないけどね」
「そ、そっか。そうだよね」
第四回イベントの時よりも強くなった二人と新たに知り合ったデバフ使いを見て、戦う時がきたら頑張ろうと、メイプルはぎゅっと拳を握りしめる。
「バフが乗っていたとはいえ、僕達もびっくりしたよ。ペインがミィと同じレベルの範囲攻撃もできるとか……あの子の行動阻害もすごかったし、対策無しだと一方的にやられそうだよ」
もちろん【炎帝ノ国】も二つのギルドに注意を向けている。ライバルギルドの力の一端を見ることができたのは、ここに集まった四つのギルドそれぞれにとって大きなことだった。
そして、そこから一歩抜け出るためには今回のイベントでメダルを一枚でも多く集めることが重要になる。【楓の木】は共闘などでメダルを八枚も獲ている為、既に一歩抜け出ている。
それに加え、【炎帝ノ国】と【集う聖剣】のそれぞれのパーティーは現在六人。比較的バランスの良いパーティーになっているとはいえ、メダルを多く集められるかと問われれば否となる状況である。特に【thunder storm】は三人だけだから二つのギルドより相当厳しくなっている。
どうやってメダルを多く集めようかと考えながらマルクスは罠の再設置を終え、コーヒー達と共に洞窟の奥地へと戻っていく。
奥地に戻ってから少しして、共有スペースで四ギルドのギルドマスターが付き添い付でテーブルを囲っていた。
「では、これより『第一回ギルド合同会議』を開催します」
「第一回の意味があるのか?」
「様式美というやつなのだろう」
「そうですね。私もこの流れは嫌いじゃんんっ、嫌いではありませんよ」
メイプルの音頭にギルドマスター三名はそれぞれの感想を呟きながらも、四ギルドの合同会議を始めていく。その内容は、イベントの展開予想とメダル集めに関してである。他のメンバーはモンスターの襲撃に備えつつ、会話に耳を傾けている中で話し合いは進んでいく。
「やはり俺達が今日、強制転移で分断された事を鑑みれば、明日も何か起きる可能性が高いだろうな」
「ああ。三日目は何も起きないというのは、楽観視がすぎるだろう」
「やっぱり、そうですよね……」
「おかげで私達は本来のメンバーと離れ離れになりましたし……ジェラはどう思うっ……思いますか?」
ベルベットに話を振られたジェラフは少し考えてから、自身の考えを口にする。
「分断されて臨時パーティーで来てほしくないのは、凶悪なモンスターの登場だね。臨時パーティーじゃ連携も満足に取れないし、満足に戦えないだろうからね」
ジェラフの決して的外れとは言えない憶測に、一同は十分にあり得ると納得の意を示す。今回の分断は上手く合流して協力し合えなかったら、散々に討たれていたと容易に想像できるからだ。
「その憶測は十分にあり得るねー。もしかしたらエリアボス相当のモンスターが出てくるかも」
「大同小異。凶悪なモンスターは数より質……討伐が困難と一目瞭然で分かるモンスターが出てくるかもしれないな」
それぞれのギルドマスターの横にいるフレデリカとテンジアが数で襲ってくるモンスターでなく、理不尽な暴力で襲いかかるボスクラスのモンスターの可能性を指摘する。
「そのモンスターも貫通攻撃持ちなのかな?」
「間違いなく持っているでしょうね。下手したら全員で挑まないといけない巨大ボスが出てくるかも」
生存が第一の今回のイベントなら、殺意が高いモンスターを用意するのは定石。“勝てない”と認識したモンスターなら、戦うよりも逃げる事を優先するのは当然の流れである。
「けどさー、メイプルちゃんなら簡単に倒せるよね?ほら、あの黒花嫁モードがあるし」
「動画にもあった例のあれね。時間制限ありきとはいえ、一撃で死亡とかぶっ壊れすぎでしょ」
フレデリカの指摘とジェラフの呆れにメイプルは照れたように笑う。確かに【影ノ女神】モードなら、巨大ボスだろうと問答無用で倒すことが出来るだろう。
「それなのですが……運営が何も対策を打っていないとは思えないっすんん、思えないのですが……」
「確かに……問答無用で倒せるスキルに対しての対策がないとは思えないな」
ベルベットとペインのその指摘通り、運営がメイプルの【影ノ女神】に対して対策を打っていないとは考えにくい。ましてや無条件発動を可能とする【黄金劇場】もあるのだ。秒殺されないように手を打っている可能性は十分にある。
「やはり、今日の強化モンスターが対処可能レベルであれば、リスクを承知でメダルを集めるべきだな」
「もしくはミキの釣りでボーナスエネミーを釣り上げるかね。リスクは大きく下げられるけど、どれだけ釣れるかは運次第になるけど」
サリーのその言葉に、半数が微妙な表情となる。理由は……あの醜い現場を目撃したからである。
「釣りでボーナスエネミーが二体も釣れるとか、本当に信じられないんだけど……」
「気持ちは分かるわよ。最初は物の試しだったし、金の牛が釣れるまでは半ば諦めていたし」
「金の牛?」
サリーが口にした金の牛にジェラフが強く反応する。その反応に一同の注目が集まる中、代弁するようにベルベットが話し出した。
「実は……私達が深追いしたボーナスエネミーは金の牛だったのです」
「ベルだけの間違いでしょ。おかげで質の悪いモンスターハウスに入る羽目になったんだから」
「うぐぅ」
ジェラフのその指摘にベルベットはガックリと肩を落とすが、事実である為言い返すことが出来ないでいる。しかし、そのやり取りは重要ではない。
「そのモンスターハウスは何時入ったの?」
「大体……」
サリーとジェラフは互いの出来事の大まかな時間帯を擦り合わせた結果、その金の牛を見失った時間帯と釣り上げた時間帯が大まかに一致していることが分かった。
「偶然……と考えるのは浅慮ね」
「もしかしたら再配置の途中で引っ掛かったかもしれないね。倒した奴が再配置されるとも思えないし」
「言われてみれば確かに……メダルを落とすモンスターが無制限にいるとも思えないしな」
ミキがボーナスエネミーを釣り上げられたカラクリが判明したことで、一同は前者の考えでメダル集めをすべきと考えるようになる。
何せ、ボーナスエネミーを釣り上げる条件は、ボーナスエネミーがモンスターハウスに逃げ込むこと。モンスターの強化時間に入った今では強制転移もあって防衛に専念しているグループが多数なのは確実だ。ボーナスエネミーが釣れる確率が低くなった以上、メダルを多く集めるには探索をして未攻略のダンジョンを見つけるしかない。
こうして大体の方針が決まった一同は、二日目の強化モンスターの強さを測る為に防衛に専念するのであった。
「今度のイベントの目玉となるボスモンスターには、メイプル対策で即死の完全無効を追加すべきかと」
「それだとスキルの意味が無くなるんだよなぁ……」
「スキルの組み合わせで、ある程度自由に使えるようになっただけですしね」
「ボスモンスターを二体にすればいいんじゃね?」
「同じモンスターを二体もですか?」
「いやいや。異なるモンスター同士が対立する形で出させるんだよ。それなら二体同時に倒される心配はないし」
「悪くない案だな。それでも単体での即死対策は必要だけど」
第八回イベントの内容を議論する運営の図。