第七回イベントの三階のオマージュと呼ぶべきダンジョンを、五人は警戒しながら進んでいた。
「高低差があるとー、飛び移るのも大変だねー」
「はい……届くか届かないか、微妙なところが余計に……」
飛び上がってギリギリ足を届かせながら足場へと着地するミキに、背負われているヒナタが同意する。あれから進んだダンジョンの足場は同じ高さではなく、高低差が徐々に目立ち始め、移動にそれなりに苦労し始めていたのだ。
「ああ、加えて……」
「【スプラッシャー】」
レイドがそう呟いてすぐカミュラがスキルを放ち、溶岩でできたアーチから出てきた魚モドキを水柱へと呑み込ませる。
「【シャドウスピア】」
そこへ空を飛んでいるシアンが影の槍を放ち、一撃で葬る。このように襲撃そのものは問題なく対処できていたが、モンスターが現れるのは本当に突然で、溶岩のアーチだけでなく溶岩の海や滝からも飛び出してくる。その為、不意討ちに注意しながらなので結構な神経を使っていた。
「こういう時、フレデリカやドレッドが居れば楽だったが……」
「仕方がない……【千の
カミュラはそう呟くとスキルを発動させる。するとカミュラを中心に蒼い光が放たれ、その場にいた全員の身体を包み込んでいく。
「これは……範囲防御、ですか?」
「いや、大幅なダメージカットだ。シアン以外なら十分に耐えられる筈だ」
ヒナタの言葉にカミュラ無愛想な態度でそう返す。メイプルのような範囲防御ではないが、範囲内のダメージカットも十分に強力なスキルだ。
カミュラが新たなスキルを発動した状態で少し進むと、溶岩の海からウツボのようなモンスターが次々と飛び出て来た。
「ジベェ、【覚醒】ー。【海底領域】ー、【高潮】ー」
ミキがジベェを呼び出すと、ジベェは身体から大量の水を放出してウツボ達が纏う溶岩を一気に凝固させていく。それに合わせ、大量の蒸気が視界を覆っていく。
「蒸気がすごいですね……」
「これ……少し変、です。道中のモンスターも、ここまで蒸気を出さなかったから……」
「なら、時間は掛けられないな。ヴォル、【覚醒】」
レイドはすぐに白虎のヴォルを呼び出すと、自身の得物を腰だめに構える。
「ヴォル、【雷童子】【雷鳴の加護】【伝雷】。雷光の龍刃は無明を切り裂かん―――【天雷蛇龍閃】」
レイドの声に合わせて、腰だめに構えた蛇腹刀に水色の雷が迸っていく。【口上強化】を発したタイミングで全員が頭を下げると、レイドは蛇腹となった刀を円を描くような横薙ぎを放ち、囲うように溶岩の海から顔を出していたウツボ達を一刀で切り裂く。
リーチが伸びて威力も上がり、モンスターからモンスターへと伝う雷撃も合わさってウツボ達はレイドの一撃によってすべて葬られる。切り裂かれたウツボ達は膨張したように膨れて破裂し、溶岩の飛沫を辺りに散らしていく。
溶岩の飛沫は範囲も広く数も多い為、五人とも避けることも出来ずに幾つか受けてしまった。
「くっ……最後に破裂してダメージを与えるとは」
「ダメージカットされてもー、結構痛かったねー」
「私はカミュラさんのおかげでダメージは0ですが……」
「問題ない。女性を守るのが非リア充の務めだからな」
「カミュラさんの【千の護手】がなければ……あれで死んでたかもしれないですね」
カミュラのおかげでウツボの最後の攻撃を耐えられた一同は、ポーションでHPを回復してから気を引き締め直して奥へと進んでいく。あのウツボの集団が山場だったのか、その後は大きな変化もなく順調に進んでいく。
そして、そのまま五人はボス部屋の前へと到着した。
「では、開けるぞ」
レイドが先頭に立って中に入ると、ボス部屋は半分以上が溶岩の海となっており、その溶岩の海からボスモンスターらしき存在がゆっくりと姿を現す。溶岩の海から五人のいる岩場へと上がったボスモンスターの姿は、煌々と紅く光る溶岩を全身に纏い、体長は十五メートル近くある巨大なカバであった。
カバの頭上にHPバーが表示されてすぐ、カバは自身の口を大きく開く。その口の中から、まるで大砲の如く溶岩の塊を連続で吐き出した。
「【氷壁】」
それを見たヒナタが前方に氷の壁を作り出し、カバが放った溶岩の砲弾を受け止めていく。ヒナタが作り出した氷の壁は溶岩にぶつかったにも関わらず、一向に溶けなかった。
「氷が溶けないとは……中々に強力な氷だな」
レイドが感心する中、カバは地ならしするかのようにその場で足踏みを始めていく。それに合わせて、周りの溶岩が次々と噴き出していく。
「わわっ!?」
「頭上からも溶岩が来るか……頭上にも注意しろ!」
噴き出しによって飛び散る溶岩を避けながら、レイドは全員に警告を飛ばす。それと同時にカバの背中からいくつもの溶岩の塊が上空へと放たれ、それが隕石の如く降り注いでいく。
「ルル、【ラーニング】!【大規模魔法障壁】!」
カミュラはルルに指示を出すと同時に頭上に大盾を掲げる。その大盾から障壁が展開されて降り注ぐ溶岩の塊を受け止めて無力化していく。
その間に溶岩の光が弱々しくなったカバは溶岩の海の中へと戻っていく。
「あ、逃げた……」
「逃がさないよー」
ミキはそう言って釣り針をカバが潜っていった溶岩の海の中へと投げ込む。少しして竿がしなり、ミキは持っていかれないように絶妙な加減で踏み留まっていく。
「それー」
そして、期を見抜いて釣竿を引っ張り上げると、釣り針が口に引っ掛かったカバが地面へと打ち上げられる。背中を打ち付けられたカバは足をバタつかせ、すぐには起き上がれそうにない。
「【凍てつく大地】【星の鎖】【災厄伝播】【脆き氷像】」
カバが仰向けに打ち上げられたタイミングで、ヒナタは次々とスキルを発動してデバフをばら蒔いていき、カバの動きを封じていく。
ヒナタの真骨頂はデバフによる弱体化と足止め。個人で倒しきることはできないが、強力な火力を持つ味方がいることでその脅威は格段に上がるのである。実際、二日目の強制転移で孤立した時もデバフをばら蒔いてとにかく時間を稼いで生き残っていたのだから。
「ヴォル、【雷鳴の加護】【招雷】。高鳴れ、
「モルフォ、【ウィークエレメント】【約束の光】。唄え、
「ルル、【MPリンク】」
その間にレイドとシアンは相棒達の力で自身を強化していき、カミュラもルルとMPを繋げて大技の準備をしていく。これも足止めが得意なヒナタがいるこそ可能となる芸当。彼女以外でこの戦法が可能なのは驚異的なVITを持つメイプルだけである。
「【重力の軋み】【死の足音】【錆び付く鎧】」
「ジベェ、【水縄】ー」
その間にヒナタは人形から溢れる黒い霞を放ち、その黒い霞がカバを覆って防御力を落としていく。ミキもジベェに水の縄でカバを拘束してもらいつつ、ダメージ倍加の【激痛薬】やクリティカル確定となる【会心の書】等のアイテムをクーラーボックスから次々と取り出して使っていく。
大量のバフとデバフがばら蒔かれ、準備を終えた三人は一気に攻撃を仕掛けていった。
「天より
「【クロスディザスター】!!」
シアンが空から巨大な光の柱を放ってカバの身体を呑み込み、カミュラも虚空から発せられた白と黒の光をカバに交錯するように放つ。シアンとカミュラによってカバは纏っていた溶岩が凝固して固まり、HPも大きく削られている。そこにレイドが強く迸っている水色の雷光を纏わせた蛇腹刀を手に肉薄する。
「閃くは雷帝の剣閃 迸るは雷皇の稲光 此処に交錯し我が仇敵を滅さん―――【雷覇十文字斬り】!!」
【口上強化】と共に放たれた水色と紫の雷が混ざった十字の剣閃。バフによって強化されたレイドの必殺の剣技を受けたカバはデバフの影響もあって、耐えきれずに光となって消えた。
「す、すごいです……今の、ベルベットさんにも負けてないですね……」
「いや。今回は相棒の力とお前達の援護があったおかげだ。むしろ、個人で今の火力に迫れる彼女の方が凄いと思うぞ」
戦闘が終わり、全員にメダルが一枚ずつ配られる。その直後に新たに二枚のメダル獲得の通知が届く。
「いきなり三枚か……他のメンバーも順調のようだなー」
「そうだねー。ボク達も負けていられないねー」
「ああ。リア充共に遅れを取るわけにはいかないからな」
相変わらずのリア充憎しのカミュラの台詞に、ミキ以外の他のメンバーは苦笑いするのであった。
――――――
―――ミキ達がメダルを手に入れる数分前。
「ここも外れか」
「もしくは誰かが攻略した後かもねー?」
「どちらにせよ、メダルが手に入らなかっ……入りませんでしたね」
北に向かったメイプル、サリー、ミィ、フレデリカ、ベルベットはダミーダンジョンであった事に肩を少し落としていた。
「まあ、仕方ないかな。全員必死でメダルを集めているんだし」
サリーは空振りであった事を素直に受け止めつつ、次の探索ポイントを確認していく。時間も限られている為、効率良く回る必要があるからだ。
「次はここかな?今いる場所から近いからね」
「ああ、そこでいいだろう」
「私もそれでいいよー」
「私もそれで構いませんよ」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
メイプルの意気揚々の号令で、全員が巨大化したイグニスの背中に乗って次のポイントへと向かっていく。移動手段なら暴虐メイプルもあったが、速度や精神衛生上の問題を鑑みてイグニスに乗って移動することが決まったのである。
当然、空を飛んでいてもモンスターに襲われるが、ミィとフレデリカが魔法を放って撃ち落としているのでメイプルの【身捧ぐ慈愛】も相まって全く問題となっていなかった。
「範囲防御って本当に便利だね。おかげで外でも安心できるよ」
「ああ。メイプルがいれば、私も気にすることなく詠唱に時間が使えるからな」
「そうっ……ですね。味方だと、ここまで頼もしいものはないっすんん、ないですね」
こうして談笑しながら移動できるくらいには。
そうやって次の目的地へと向かっている中、フレデリカが視界の隅で光る何かを捉えた。
「ん?あれって……」
フレデリカは何かと思って目を凝らすと……光る何かの正体は金に輝く鶴であった。
「あ!彼処にボーナスエネミーがいるよ!」
「マジっすか!?」
ボーナスエネミー発見の報告にボロが出たベルベットが食らいつくように辺りを見渡していく。そしてフレデリカが視線を向けている方向にいる金の鶴の存在に気がついた。
「本当にいたっす!あれを倒せば、メダルが手に入るっすよ!」
「確かにそうだが……今のメンバーで仕留めきれる自信はないぞ」
「そうね。せめて動きが封じられれば……あ」
サリーはそこまで呟くと何かに気づいたように声を上げる。そんなサリーの反応に一同は詰め寄っていく。
「サリー。何か思い付いたの?」
「……うん。思い付いたことは思い付いたんだけど……」
サリーはそう言うと、メイプルに聞こえるようにだけ耳打ちする。その対応に三人は首を傾げるも、話を聞き終えたメイプルは笑顔で頷いた。
「よし、それで行こう!ミィ、あの金の鶴さんの近くまで飛んでって!そしたら私が捕まえるから!」
「……ああ。あれか」
メイプルのその言葉でミィはその方法を察したようで複雑な表情となる。フレデリカとベルベットは取り残されているが、どうせすぐに分かるからと敢えて説明せず、イグニスに指示を出して金の鶴の元へと飛んでいく。
「海域に潜みし海の怪物 その黒き触手を以て住処へと引き摺り込まん!【水底の誘い】!!」
メイプルがスキルを発動させると、大盾を持った左腕が五本の黒い触手となる。その禍々しい触手を見たフレデリカとベルベットは唖然とした表情となった。
「え……?え……?」
「う、腕が触手に……?」
困惑から抜け出せないフレデリカとベルベットの前で、メイプルは触手が届く範囲となった金の鶴を五本の触手を上手く使って捕まえる。捕まえると同時に【悪食】が五回同時に発動し、金の鶴のHPは大きく削られる。
「「…………」」
「爆ぜろ、【炎帝】!【連続起動】!」
初めて見る触手の凶悪さにフレデリカとベルベットが固まる中、ミィが【炎帝】を連続で放って止めを差す。それと同時に届くメダル獲得の通知。その内容は合計三枚の獲得だった。
「メダルが三枚だよ!」
「どうやら他のメンバーも上手く手に入れたみたいね」
「ああ。この調子でメダルを手に入れていこう」
使用した本人と目撃して耐性を得ていた二人がそう話し合う中、触手の衝撃から抜け出した金髪二人組は互いに顔を寄せて話し合った。
「あの触手、何なんすか?触れただけでダメージが入っていたっすよ」
「たぶんだけど……あの黒い盾のスキルが反映されているんだと思うよ。消え方がまんまあの盾に触れた時のものだったし」
「あの何でも食べる盾の力がっすか?それにしては凄い減りだった気が……」
「減り方からして、何回か同時発動したんじゃないかな?あれ、回数制限があるからね」
「触手の数で発動したとしたら……五回も食べられたって事っすよね?」
「そうだね。捕まったら最後、食べられて終わりだね」
メダルの獲得よりも触手のインパクトが強かった為、二人の触手に対する考察は次の目的地に到着するまで続くのであった。
スキル紹介。
【ラーニング】
ルルの専用スキル。1日一回のみ使用可能。
直前のモンスターの攻撃、ないしはスキルによるアクションをコピーして習得する。