「あ!またメダルだよ!」
「これで六枚ですね」
「ああ。一枚でも上出来なのが六枚だからな。おかげで確実に金のメダルを得られるからな」
「そうね。みんな一枚ずつ手に入れてるからね」
「オブジェクトの方は全部外れだったけどねー」
イグニスの背中に乗って探索を続けていたメイプル達は現時点で集まったメダルの数に笑みを浮かべている。本来は一枚獲得するだけでも困難なメダルが六枚も集まったのだ。特に【楓の木】は後一枚手に入れれば合計十五枚となり、生き残り報酬の最高ランクの五枚で二十枚に到達する。
「それでどうする?ボーナスエネミーを探すか、エリアボスを探すか、それとも怪しい地形を探すか決めないと」
「エリアボスの方は正直に言えば厳しいだろうな。どれも相応にクセが強く、強化モンスターと一緒に攻められると返り討ちに合う可能性がある」
「そう………ですね。あのエリアボスは私やCFと相性が最悪でしたし」
「メイプルなら、一回だけなら一瞬で倒せるけどね」
メイプルの【黄金劇場】と【影ノ女神】のスキルコンボはかなり凶悪ではあるが、回数制限関係なく長いクールタイムを施されるため早々に乱発していいものではない。
そもそも防御力が売りの大盾使いが個人で高火力の攻撃を放てるのが【異常】なのだ。カミュラも大盾使いながらそれなり攻撃もこなせるが、それもコピーによって得た攻撃スキルによるものだ。加えて極振りではない為、メイプルと比べて威力を上げやすいのも理由の一つである。
「メイプルと戦う時は、あの理不尽への対策が必須になるんだよね……」
「ジェラの見解では、空に逃げれば安全のようですが……」
「あー、確かに。メイプルの動きはそこまでだし、斬られる前に空に逃げれば大丈夫かも」
そんな中、【水底の誘い】のインパクトから距離が縮まったフレデリカとベルベットは本人の前で対メイプル戦の話をしている。ポンコツと馬鹿正直二人では秘密の内緒話はできないのである。ちなみにこんな風に話し合いができるのも、メイプルの【身捧ぐ慈愛】があるからこそである。
一先ず五人は探索の為に一度地上へと降りると、もはや見慣れた一つ目四足歩行の悪魔が襲いかかってくる。
「あ!偽メイプルだ!」
「えっ、私?」
「まあ、言いたいことは分かるけど」
偽メイプル扱いされたモンスターは、提唱した張本人であるフレデリカに引っ掻き攻撃をするもメイプルの【身捧ぐ慈愛】によってダメージを一ミリも与えられない。
「ホント、外で安心できるって―――」
ノーダメージのフレデリカが上機嫌でモンスターの頭を杖で叩こうとした矢先、そのモンスターはバクリ!とフレデリカを頭から食らいついた。
「ちょっ!食べるのは反則だよ!ヘルプ!ヘルプミー!!」
「爆ぜろ、【炎帝】!」
「【重双撃】!」
バタバタとフレデリカが暴れる中、ミィがお得意の火球を飛ばし、ベルベットも重い二撃をモンスターの腹へと叩き込む。二人のおかげでモンスターの噛みつきから解放されたフレデリカは、HPにダメージこそ入っていないが頭が涎まみれとなったことで精神的なダメージを負ってしまった。
「うええ……あのモンスターの口の中は臭いし涎まみれだし最悪だよ……イベントの軽い悪夢が……」
「……ああ、ミザリーが犠牲となったあれか」
「あれですね……二階の本や四階の蛙の……」
四つん這いとなったフレデリカの呟きに、尊い犠牲を目にしたミィと被害者のベルベットは察して遠い目となる。あれは絵面としてもアウトだった。特に蛙が。
「…………」
同じく蛙(?)の被害者であるサリーは顔を真っ赤にして湯気を出していた。まあ当然の反応である。
「【近接武装展開】!【攻撃開始】!」
そんな一同の前でチェーンソーやプライヤークロー、ドリルにパイルバンカーといったロマン性の高い武器を展開したメイプルが群がってきたモンスターに攻撃を仕掛けていく。
右手のチェーンソーが悪魔の腕を切り落とし、左手のプライヤークローが頭を挟んで潰し、両膝のドリルが腹を穿ち、両肩のパイルバンカーが胸を打ち抜いていく。
「メイプルの兵器、また凶悪になってるね……」
「本人曰く、色々と変えられるみたいだけどね……」
凶悪な近接武装による蹂躙を前に微妙な表情となったフレデリカの呟きに、赤裸々な思い出から立ち直ったサリーが半目で返す。【機械神】の近接武装は射撃武装と比べて威力は高いが、攻撃が当てづらく消耗スピードも射撃と比べて遅いので兵器の回転率も悪い。なので、あまり使うことがないのである。
「チェーンソーやドリルって、見た目からしたら貫通攻撃に見えるっすよね」
「それに色々と変えられるみたいだからな。場合によっては火炎放射器のような兵器もあるかもしれん」
【機械神】の兵器のバリエーションの意外な多さにベルベットとミィが力なく呟く。本来は装備を使い捨てにする扱い難いスキルではあるのだが、【破壊成長】付きの装備のせいでデメリットがデメリットとして働かず逆にメリットとして機能してしまっている。
そこからミィ達も加わると一方的な蹂躙となるのは当然の流れであり、協力し合ってモンスターを倒しながら進んでいく。しばらくそうして進んでいると、ミィがある事に気づく。
「この辺りは悪魔型のモンスターとの遭遇が多いな」
「マップの端の方だからじゃないのー?」
「……その割には瓦礫がくっついたモンスターとの遭遇が極端に少ない気がするわ」
「もしかして、近くにそのモンスターの発生装置があるのかも!」
「もしくはモンスターを召喚するエリアボスかもしれないっ……ですね」
メイプルの言うモンスターの発生装置だろうと、ベルベットの言うモンスターを召喚するエリアボスであろうと、どちらも厄介であることには代わりはない。だが、この多さがどっちかによっては三日目の生存戦に大きな影響を与えかねない。
「メダルは十分に集まっている……なら、この原因を突き止めた方が先の展開に役立つかもしれないわね」
「そうだな。エリアボスなら叩けば弱体化、発生装置なら事前に対策を打ちにいけるからな」
「では、この辺りの探索に注力すんんっ、しましょう」
「賛せーい。時間もそう多く残ってないしね」
「よし!それじゃあ行こう!」
悪魔型モンスターの多さの理由を確かめる為、五人はモンスターの出てくる方向に向かうように進んでいく。幸い、攻撃面はミィ達がいるので特に問題はなく、探索は容易に進んでいく。
当然、何度も悪魔型のモンスターが襲い掛かってくるので、その襲撃の多さにさすがに最初に違和感を感じたミィ以外も同様の疑惑を感じていく。
「明らかに偽メイプルの襲撃が多いねー」
「そうですね。確実に何かある……ありますね」
そうして最もモンスターが多い場所までやって来ると、紫色で渦を巻いている円形の光がゲートのように浮かんでいるのが木々の隙間から見え隠れしていた。
「エリアボスじゃなかったっすねー」
「そうだねー。ダンジョン……と呼ぶには微妙だし」
「侵入可能なゲートなら、飛び込む価値はあると思うけど……」
「だが、あの数のモンスターだ。当然貫通攻撃持ちもいるだろうから、一戦交えるとなると厳しいぞ」
ミィの指摘通り、紫色の光の渦からは様々な悪魔型のモンスターが這いずるように次々と出てきている。普通に近づけば戦闘は必須だ。
「この状態じゃ飛んでいけないし……そうだ!あれで吹き飛ばそう!」
「ああ……あれね。確かにあれなら吹き飛ばせるわね」
サリーが微妙な表情で肯定すると、メイプルは自身のインベントリを操作していく。その動作でミィ達は何か便利なアイテムでもあるのかと注目していると……巨大な樽が目の前に現れた。
「「……え?」」
「ま、待つんだメイプル。まさか……!」
その巨大な樽にフレデリカとベルベットの目が点となる中、伝聞とはいえその存在を知っていたミィは顔を引き攣らせて止めようとする。だが、遅かった。
「蹂躙せよ、
メイプルはノックバックを無効にしてから両肩のパイルバンカーで巨大な樽―――威力が従来の1.5倍となった【樽爆弾ビックバンIII】を打ち抜くと、轟音と共に盛大な閃光と爆炎が立ち上る。それらはメイプル達はもちろん、モンスター達や木々をも呑み込んで広がっていく。
閃光と爆炎が収まると、起爆した張本人のメイプルと耳を塞いで身を屈めて目を閉じていたサリー、咄嗟にサリーと同様に対処したミィ以外の二人は音と光によってフラフラになっていた。もちろんメイプルのおかげでHPへのダメージはゼロである。
「うええ……耳がキンキンして、目がチカチカするよ……」
「せ、せめて説明して欲しかった……す」
「ご、ゴメンね!」
何の対処も出来ずにマトモに受けてしまった二人は、平衡感覚が保てないようにその場に倒れてしまう。そんな二人の姿に、爆発で兵器が壊れて身軽となったメイプルは手を合わせて謝った。
「今のがミザリー達が言っていた悪魔の爆弾か……あれでは使った本人も巻き添えを受けるのではないのか?」
「受けるわよ。これ、威力が凄い代わりに無差別なのよね」
サリーのこの言葉により、メイプルには自爆攻撃は通用しないとミィは確信した。自身の死亡と対価に放つ【自壊】はそれなりに威力はあるが、【樽爆弾ビックバンIII】ほどではない。それをノーダメージで耐えきったメイプルに自爆が通用しないと悟るのは当然であった。
「ま、おかげでモンスターは全滅したし、見通しも良くなったから早く行きましょ」
「……ああ、そうだな」
再び紫色の光の渦からモンスター達が放出される前にサリーはフレデリカを、ミィはベルベットを背負ってメイプルと共にその光の渦へと足を入れる。
紫色の光の渦は見た目通りゲートだったようで、五人は暗い紫色の壁と床が広がる広い空間へと招待された。
「モンスターの集団が待ち構えていないのは幸いだったな」
「そうね。いきなり戦闘は少しキツイしね……ほら、フレデリカ。そろそろ復活してよね」
サリーの言葉を受け、フレデリカは若干ふらつきながらも自身の足でダンジョンへと降り立つ。ベルベットも同様である。
「これ、完全にダンジョンっすよね。もしかして、二日目以降に出現するダンジョンかも!」
「それはあり得るわね。あんな紫のゲートがあったら嫌でも目立つだろうし」
そうして五人はダンジョンの最奥を目指して進んでいく。道中は当然例の悪魔型のモンスター達が群がるように襲い掛かってくるも、それは無謀な突撃にしかならない。
「メイプルのおかげで負ける要素がないな」
「ふつーに経験値が美味しいしねー」
「おかげで比較的温存でき……ます」
「MPポーションはイズさんからもらったのがいっぱいあるから大丈夫だしね!」
「このダンジョンもメイプルと相性が良いからね」
サリーとベルベットが先頭に立ってモンスターを攻撃し、ミィとフレデリカが得意の魔法で追撃し、遠距離武装を展開したメイプルがトドメを差していく。スキルに回数制限の多いメイプルに、燃費の悪いミィとフレデリカ。雷の有無で強さの落差が激しいベルベットではサリーを除いて、持続的な戦闘に難がある面子である。
それもイズ印の高ランクMPポーションの大量所持とメイプルの極端な性能によって、持続的な戦闘の問題を解決しているが。
「こうして違うメンバーと一緒に戦うのも良いっすんんっ!良いですね」
「そうだねー。おかげで色々と分かるしねー」
「しかし《絆の架け橋》の装備を見送るほどのレア装備か……気にはなるが、逆に言えば劇的な変化は起きにくいとも言えるな」
「それは言えてるわね。相棒達はレベルが上がれば新しいスキルを覚えて戦術の幅が広がるのに対し、ベルベットやヒナタはその幅が広がり難いからね」
「うぐぅっ!?」
ミィとサリーのその指摘に、ベルベットが胸を銃で撃たれたような反応をする。七層で実装されたテイムモンスターは成長するにつれてスキルを覚えていく。【休眠】状態では使えないという欠点はあるが、それを補って余りあるスキルの性能と数がある。その視点から言えば、《絆の架け橋》を装備できない二人は戦術の幅が周りより広げづらいのである。
「私だってCFのような相棒は欲しいっすよ。でも、装備のバランスが難しくて……それも長く使っているから外すに外せないですし……」
「あ、いじけた」
「いじけちゃったね」
通路の片隅で膝を抱えて指で床をなぞるベルベットの姿に、フレデリカとメイプルが同じ感想を呟く。装備に元から付いているスキルはクセが強いが、優秀な能力なのがほとんどだ。例を上げれば、クロムとイズのユニークシリーズやサリーの《迅竜のグローブ》が良い例だ。
そんな優秀な装備で完全に固めてしまえば、安易な取り外しが出来ないのは必然だった。
「彼女も彼女なりに悩んでいたのだな……」
「そうね。私も似た立場だったら同じように悩んでいたかも」
明らかに落ち込んだベルベットに対し、指摘したミィとサリーはさすがに罪悪感を感じずにはいられなかった。
「なぜ【破壊成長】等というスキルを……」
「そのスキル持ちのユニークシリーズは入手条件は厳しく設定してたんだよ。倍のステータスとレベル差がないと……」
「毒竜も強化状態の麒麟も、当時のレベルではソロ勝利は不可能な難易度だったんだけどな……」
「それが防御の極振りと常時貫通で突破されちゃったんですよね……特に前者は食べるという行為で……」
「……生産職製のユニーク装備は?」
「そっちは二百回に一回の確率に設定していたんだ。同時にステータス補正は一桁第からのスタートになるようにも」
「実際CFのユニーク装備は【破壊不可】だからなー」
「その装備も【機械神】によって簡単に上げられてるけどな」
「本当にメイプルのリアルラックはどうなっているんでしょうね……」
【破壊成長】に対する運営のやり取りの図。