あの後、何とか落ち込んでいたベルベットを復活させて最奥を目指して進んでいると、初期地点のような広い空間へと辿り着いた。
「んー……壁に白い膨らみが幾つもあるね」
「試しに撃ってみる?」
「下手に刺激したら何か出てきそうな気がするっすけど……」
「それはあり得そうだねー。このまま素通りする?」
「いや。どうやらこちらから何もしなくても出てくるようだ」
ミィがそう言って指差す先には、白い膨らみに裂け目が入ってそこから悪魔の腕が覗かせている。それが皮切りとなって壁に幾つもあった
「いくっすよ!【雷神再臨】!!」
その中で、ベルベットが真っ先にスキルを発動させて全身に雷を纏う。量からしてモンスターハウスのような場所だとすぐに判断したからだ。
「【嵐の中心】【稲妻の雨】【スタンスパーク】【振動拳】!!」
ベルベットはお馴染みの雷の雨を降らせると、ガントレット同士を打ち合わせて雷に打たれながらも迫っていたモンスター達を地面へと伏せさせる。そこから範囲攻撃を放ち、更にダメージを与えていく。
「ベルベットナイス!先に尖った武器とか角持ちのモンスターから倒すよ!」
「防御貫通がなければ大丈夫だから!」
「了解っす!【渾身の一撃】!」
「分かった!爆ぜろ、【炎帝】!」
「前に出られるならしっかり狙える狙える!同時に燃えよ、【多重炎弾】!」
サリーとメイプルの指示を受けた三人は、優先的に槍を持った悪魔や鋭い牙や爪を持った悪魔を優先的に倒していく。逆に筋骨隆々な悪魔や固そうな悪魔は後回しにされるが、力ではメイプルの防御力は突破できない。
「爆ぜろ、【炎帝】!イグニス、【連なる炎】!」
「朧、【火童子】【渡火】!」
防御貫通を持っていそうなモンスターを倒しきったところで、サリーとミィは炎でモンスター達を焼いていく。連鎖ダメージはある程度モンスターがいれば真価を発揮する為、部屋を埋め尽くす程に溢れているモンスター群には
「滲む混沌 出でるは猛毒の化身 三首の顎ですべてを穢さん―――【
「【落雷の原野】【雷公爵の離宮】!」
そこにメイプルが三つ首の毒竜による致死性の毒のブレスを放ち、ベルベットが更に落雷を放ってモンスター達を殲滅していく。
「どちらも数に強いな……」
「何気に戦術が被っているよね」
防御とインファイトという違いこそあるが、それを活かす為の強力なスキルを複数有しているメイプルとベルベット。フレデリカの言う通り、確かにそっくりである。どちらも戦術がハマれば圧倒的であるところまで。
そんな消化試合となった一同は、モンスターを殲滅し終えた。
「ふぅ、片付いた」
「お疲れサリー!いっぱいいたけど全然問題なかったね!」
「うん、メイプルのおかげで楽に戦えてる」
「えへへー、そう?」
「あ、奥へ続く通路が現れましたよ」
「おそらくここが折り返し地点だったのだろうな」
「つまり、この先からはあの白い膨らみがそこかしこにあるってこと?だとしたら少し面倒かも」
「大丈夫!我が身体に宿るは悪魔の化身 我が呼び掛け応え この身を依り代にして具現せよ―――【暴虐】!」
メイプルが【暴虐】を発動して化物の姿へと変わる。ダンジョン内なら無駄にはならず、むしろ本格的に戦闘に参加するという証明でもある。
「真メイプルだ!」
「真って何、真って」
「これが真メイプルっすかー……これが先なら確かに真っすね」
「カスミのハクにも感じたが、やはりサイズは正義だな……」
そうして暴虐メイプルが先頭に立ち、ダンジョンの奥を目指して進んでいく。通路は暴虐メイプルが身を低くしないと通れない程狭いため、襲撃するモンスター達は暴虐メイプルによる洗礼をマトモに受ける羽目となる。
暴虐メイプルに食われ、踏み潰されてボロボロになって洗礼に耐えたモンスターは、後ろで待ち構える四人によってトドメを差されるだけ。いくら数で攻めてこようと自殺行為にしかならない。
「あの形態だと雑魚は一方的だね」
「そうだな……普通、プレイヤーには姿形が大きく変わる形態はない筈だが」
「アハハ……」
そんな感じでモンスターを蹂躙しながら進んでいると、五人はあっという間にボス部屋の前へと辿り着いた。
「ギルドが違えば攻略法も変わってくるねー」
「断言するけど、こんな攻略法はメイプルとCFだけだから」
「CFも似たような攻略法をするのか……」
さらっとメイプルと同類扱いされたコーヒーに、ミィが遠い目となる。コーヒーには【暴虐】のような変身スキルはないが、【結晶分身】と【ミラートリガー】による超連射、【ワイルドハント】の大砲や【遺跡の匣】のすり抜け光線でボロボロに削ることは可能である。ちなみにコーヒーはそのタイミングで盛大にくしゃみを吐いていた。
『開けるよー?』
「うん、入っちゃって」
暴虐メイプルが頭で押し開けて中に入ると、部屋には例の白い膨らみが大量にあり、最奥には完全に繭と言っていいような巨大な楕円の白い塊がある。
五人がその繭に警戒しながらボス部屋に入ると、巨大な繭はバクリと裂けて中から紫色の光が溢れ出す。そこから這い出てきたのは、偽メイプルと形容したモンスターに手足を増やし、皮膜の破れた翼を追加した、違法改造したと表現できるモンスターであった。
「真偽メイプルだー!真偽メイプルじゃない?」
「そのネタはもういいっすよ」
「馬鹿言ってないで戦うよ!」
「ああ、全力で行く」
『皆、来るよ!』
繭から完全に抜け出たボスは翼をバサリと羽ばたかせると、鉤爪をぎらつかせながら飛びかかってくる。反動をつけて長く伸びた手足を振るい、ゴムのように伸ばして両サイドからかなりの速度で向かってくる。
「連なり守れ、【多重障壁】!ノーツ、【輪唱】!」
フレデリカはお得意の防御魔法で自身とミィの前に障壁を展開する。サリーは間違いなく避け、ベルベットもスタイルから避けるか弾くと判断し、暴虐メイプルは巨体ゆえに守り切れないからだ。
「っ、つよ……!?」
腕は予想よりも遥かに威力が高く、勢いは殺せても止めるまでには至らなかった。だが、無意味な行動ではなかった。
「炸裂しろ、【フレアアクセル】!」
ミィが一気に加速してフレデリカの元まで駆けつけ、そのままフレデリカを抱えて鉤爪から逃れる。
「ナーイス、ミィ!」
「気を抜くなよ?」
フレデリカの予想通り、サリーとベルベットは回避して鉤爪から逃れるが、暴虐メイプルは巨体ゆえに攻撃を受けダメージを受けてしまう。
『うぅ、これ全部貫通攻撃……』
「まずは空から落とすよ!【氷柱】!」
「イグニス【消えぬ猛火】」
「【雷神再臨】【電磁跳躍】!」
「はいはーい。【多重重圧】!」
ボスは次の攻撃を放とうとするも、フレデリカが魔法を使い動きを鈍らせる。
「【獅子激昂】!」
そこに高く跳躍したベルベットが青白い獅子のオーラを放ちながらボスの顎を殴り飛ばし、大きく仰け反らせる。
「【七式・爆水】!」
「飛ばせ、【爆炎】!【連続起動】!」
そこを頭上を取ったサリーとミィが高ノックバックの攻撃と魔法を叩き込み、ボスを容赦なく地面へと叩き落とす。
『お返しだよ!』
そこを暴虐メイプルが待ってましたとばかりに文字通り食らいついていく。当然ボスも黙ってやられることはなく、鉤爪で切り裂いたり、紫の光線をを口から放って対抗していく。
「「「「…………」」」」
共食いのようなその光景を前に、四人は一瞬呆けてしまう。しかし、すぐに我に返って暴虐メイプルに加勢していく。
「【トリプルスラッシュ】【十式・回水】!」
「【稲妻の雨】【重双撃】!」
「爆ぜろ、【炎帝】!穿て、【炎槍】!」
「幾重に切り裂け、【多重風刃】!」
四人の攻撃を受け、ボスは怯んで動きを止める。そこを暴虐メイプルが六本の足を使って動きを封じると、口から熱線のような炎を放ってダメージを与えていく。【身捧ぐ慈愛】があるので、いくら暴れようと味方の参戦は容易なのである。
しかし、イベント用のボスは流石と言うべきか。暴虐メイプルが捕食しきるより先にボスは暴虐メイプルを引き裂き、【暴虐】を解除へと追い込む。元に戻ったメイプルが宙に投げ出されると、ボスは腹に鋭い針を生成しながらメイプルを押し潰さんと迫っていく。
「あっ、えっと【ピアースガード】!」
明らかに使い慣れていない防御貫通無効スキルを発動させた直後、メイプルはボスに押し潰される。押し潰されたメイプルの姿は四人には見えない。
「メイプル、大丈夫!?」
サリーが呼び掛けるも、メイプルの声は返ってこない。代わりにボスの背中から、大量のダメージエフェクトと共に五本の黒い触手が飛び出てきた。
「あ、これは大丈夫だね」
「大丈夫っすね」
「ああ、大丈夫だな」
「そうね」
一気にメイプルが無事だと分かった四人の前で、触手を器用に動かしてボスの背中の穴からメイプルがノーダメージで出てくる。
「ふぃー、脱出成功!」
メイプルがそう宣言した直後、HPが今ので半分まで減ったボスが鼓膜を破る程の雄叫びを上げる。その衝撃によるものか、ボスの背中にいたメイプルは吹き飛ばされて四人の元へ転がってくる。
「うぅ~……耳がキンキンするよ……」
「まあ、あれ程大きな雄叫びを間近で聞けばね」
クラクラしているメイプルをサリーが介抱する中、ボスの雄叫びに答えるように周りの白い膨らみから新たなモンスターが這い出てくる。胸辺りに独特の模様があり、まるで暴虐メイプルをそのまま小さくしたようなモンスター達は、五人に襲いかからずにボスの周りに集っていく。そしてボスの前で陣取ると、紫色の光を放ってボスをドーム状の光の中へと閉じ込めた。
「ボスを閉じ込めた?何で?」
「……嫌な予感をすごく感じるっすよ」
「その予感は……当たりみたいね」
そう呟いたサリーの視線の先には、後ろにある繭から紫の光を取り込んでいるボスの姿がある。紫色の光がボスの体を満たすと……ボスは魔法陣を展開して紫の炎を次々と放ち始めた。
「あれはヤバいって!【多重加速】!【多重障壁】!」
フレデリカは移動速度を上げ、四人は回避を試みる。メイプルはAGI0なので大盾を構えて受け止める態勢を取るも、【悪食】は回数が尽きていたのもあり、周りに着弾した炎によってHPが削られ始める。
「やっぱり!?【全武装展開】!」
炎が貫通攻撃と分かり、メイプルは兵器をすぐさま展開する。そのまま自爆攻撃によって強引に後ろへと下がって炎から逃れる。
「一気に懐に潜り込むっす!【嵐の中心】【エレキアクセル】!」
ベルベットは加速してボスの懐に潜り込もうとするも、ベルベットの周りで降り続ける落雷は紫のドームに受け止められ、ベルベット本人も紫のドームを突破出来ずに弾かれてしまう。
「何だと!?」
「これってゲームでいうところの無敵状態っすか!?」
「これ、ゲームのラスボスに搭載されてるやつじゃん!さすがに反則なんですけど!?」
「文句言ってないで動く!こういうタイプは、配下のモンスターを倒せば解除される筈!メイプルは回復に専念してて!」
「う、うん!回復が終えたら【鉄鋼液】を使って守るから!」
メイプルが頷いてすぐ、サリーは紫の炎を避けながらあの結界を作り出しているであろう配下のモンスターへと迫っていく。
ボスは変わらず防御貫通の紫の炎を無差別に放ち続けており、タゲを取ろうにも結界のせいで取れない状況。あれでは【黄金劇場】からの【影ノ女神】コンボも無意味だ。
【鉄鋼液】を使えばメイプルのVITなら十分に耐えられるだろうが、ミキから貰ったアイテムにも数に限りがあるので、今後も考えればここで大量に使うのは得策ではない。
「あんまり時間は掛けられないかな……【水神陣羽織】!」
早々に結界を解除すべきと判断したサリーは、ミィ達の前で水神モードとなる。希少な手札ではあったが、出し惜しみしていてはやられてしまう。
「【天ノ恵ミシ雫】【二式・水月】!」
サリーは広範囲に雨を降らせ、波紋を描く斬撃で配下のモンスター達を攻撃していく。
「おおー!サリーもジェラとよく似たスキルを持ってたんすね!」
「やっぱり持ってたのね。大方、【風神陣羽織】という名称だろうけど」
「……あ」
サリーの指摘でベルベットはやってしまったという表情をするも、すぐに頭を振って切り替える。
「ジェラには後で謝るっす!【落雷の原野】【雷公爵の離宮】―――【浄土天雷】!」
ベルベットは雷系統のスキルを発動させた直後、ベルベットの周りに落ちていた雷と自身を覆っていた雷が消える。同時に配下のモンスター達に太い紫の雷が狙い打ちするかのように次々と落ちていく。
「爆ぜろ、【炎帝】!」
「幾重に切り裂け、【多重風刃】!」
ミィとフレデリカもメイプルの傍で魔法を放って援護するも、二人の魔法に反応してか、ボスは口から特大の紫炎の光線をミィ達に向けて放った。
「やばっ!【多じゅ―――」
「不要だ。二人とも、私の傍から離れるな」
ミィはメイプルとフレデリカにそう告げると、自身もサリーと同じ奥の手を発動させる。
「【炎神陣羽織】!【炎神結界】!」
ミィは炎神モードになってすぐ、完全防御の炎の壁を作って紫炎の光線を防いでいく。メイプルとフレデリカもミィの傍にいたことでボスの攻撃から守られる。
「ミィも手に入れていたんだね!」
「ああ。だいぶ苦労することとなったがな―――【紅蓮ノ金棒】!」
ボスの攻撃を防ぎきったミィは紅蓮に燃える巨大な腕と同じく紅蓮に燃える金棒を携えると、サリーとベルベットが飛び上がると同時に横薙ぎに振るって配下のモンスター達を吹き飛ばしていく。
【紅蓮ノ金棒】による大炎上、【天ノ恵ミシ雫】によるダメージ増加、【浄土天雷】による必中の雷撃によって配下のモンスター達は全員倒れる。同時にボスを守っていた結界も消え、体の光も弱まっていく。
「朧、【影分身】!【大海】【古代ノ海】【十式・回水】【四式・交水】!」
「【重双撃】【渾身の一撃】【獅子激昂】!」
「イグニス、【我が身を火に】!燃え上がれ、
「【多重増力】【戦いの歌】!ノーツ、【増幅】!」
「蹂躙せよ、
結界が消えてすぐ、五人は持ちうるスキルを使ってボスに怒涛の勢いで攻めていく。ボスを満たしていた光は弱まりはしたが消えたわけではないので、時間を与えればすぐに元に戻るのは明白だ。
「さらにオマケっす!【雷命絶交】!」
ベルベットは紅くスパークする雷を纏った右拳を地面に叩きつけると、そこから放電するように紅い雷撃が炸裂する。同時にベルベットのHPが半分ほど持っていかれるが、紅い雷撃を受けたボスはダメージと共に大きく弱体化する。
「【炎神燃焼】!」
「【水神蒸発】!」
そこにミィとサリーが炎と水を爆発させ、ボスのHPを一気に刈り取る。五人の攻撃に耐えきれずにHPを全損させたボスは、背後の繭と共に溶け込むように消えるのであった。
「ふぃー、何とか勝てたよ」
「そうだな。正直、このメンバーで挑めて良かったと思っている」
「そうだねー。いつものメンバーだと負けないにしても厳しかったかなー」
「そうっすんん、そうですね。後半のあれは本当に予想外でしたので」
「この情報は共有した方がいいかな。なんというか……嫌な予感がするから」
強化モンスターと関係が深いダンジョンであることと時間も差し迫っていたことから、五人はここで探索を切り上げて拠点へと帰還するためにダンジョンの外へ出るのであった。
「前座のモンスターも、中々に凶悪な仕様になりましたね」
「ああ。本命にも実装した、ギミックを解除しないといけない無敵モードは存在するだけで凶悪だからな」
「悪魔は配下を倒さないと、瓦礫の竜は特定の攻撃で玉を破壊しないと攻撃を通せないからな」
「まさにイベントのラスボスに相応しい仕様だよね!」
イベント前の運営の図。
二日目の【楓の木】のメダルの合計獲得数、15。