拠点である洞窟の放棄を決定した一同の行動は早く、大急ぎで居住スペースを構築していたアイテムを回収していた。
「メイプルの近くでしか回収できないのが地味に面倒だな」
「仕方ありませんよ、シン。壁の向こうから来る光線は予兆を掴めませんし、実際……」
ミザリーがそう呟いた瞬間、すり抜ける光線がミザリーの身体を貫く。ダメージはメイプルの【身捧ぐ慈愛】のおかげでゼロである。
「範囲防御がなければ、一方的にやられるだけですから」
「本当にこの光線は防御貫通より厄介だよ……ダメージ無効じゃないと防げないんだから……」
マルクスは深い溜め息を吐きながらもアイテムを回収していく。アイテムを回収する間もモンスターが襲撃してくるが……
「【凍てつく大地】【重力の軋み】【星の鎖】」
「【幻ノ武器・斧】【魔力補強】【範囲拡大】【地割り】」
「弾けろ、【スパークスフィア】!砕け、【崩雷】!」
「同時照射せよ、【多重光砲】!」
「引き摺り込め、【ダークホール】!」
「飛ばせ、【爆炎】!爆ぜろ、【炎帝】!」
ヒナタがデバフをばら蒔いてモンスターの動きを封じ、そこに魔導書を展開し紫のカードを掲げたカナデが宙に浮く不気味な斧を作り出すと、ドラグと同じスキルを放ってモンスターの動きをさらに阻害していく。
そんな動きを封じられたモンスターに、コーヒーとフレデリカ、シアンとミィの四人が魔法を放って駆逐していく。この状況では遠距離攻撃でなければならず、近接には持っていけないのである。
「俺のスキルまで使えるのかよ。だが、強化しないと十分な性能を発揮できないみたいだな」
「まぁね」
【地割り】を持っているドラグの言葉に対し、カナデは肩を竦めて返す。【幻ノ武器】はMPを消費することで使い捨ての武器を作り出せるスキルだが、対応するスキルの威力と効果、範囲が減少してしまうスキルである。それでも特定の武器でないと使えないスキルも使うことができるようになるスキルなので、強力であることに違いないが。
「あの光線が防御貫通でないことが救いだな。防御貫通まであれば、本当に打つ手がないに等しいからな」
「そうね。まあ、その悪夢をできる人物がいるけどねー?」
イズはそう言ってコーヒーに視線を向ける。匣を携えているコーヒーはその視線を無視するように顔を明後日の方向へと向けている。
「あれ、装備のスキルかな?あれが取得可能なスキルとは考えにくいんだけど……」
「あの匣が光線から音波に変わった時、CFは自身のパネルを操作してたっすけど……」
「前言撤回。あれは装備のスキルじゃないね。装備のスキルなら、そんな手間無しで変えられる筈だし」
装備のスキルに対してそれなりに認識が深いベルベットとジェラフは、【遺跡の匣】が所持系統のスキルの可能性の方が高いと判断する。そんな会話をしながらも、アイテム回収の手は緩めていないが。
「またモンスター……うえっ。虹色の玉が見える瓦礫モンスターだ」
「虹色は確か魔法に耐性があるモンスターだったな」
「しかも飛行タイプか……アロック、頼んだ!」
「了解した」
クロムの呼び掛けに機械人形と共にアイテムを回収していたアロックは右腕が砲身になっている機械人形を操って瓦礫モンスターを爆撃で撃ち落とす。コーヒーも二丁クロスボウで次々と矢を放ち、四条のすり抜け光線を放てるようになった匣と共にダメージを与えていく。
「援護するよ、【闇の監獄】【
「【鎧の亀裂】【脆き氷像】」
「【病魔の呪音】」
そこにカナデが行動を阻害するスキルでモンスターの動きを封じ、ヒナタがデバフをばら蒔いて防御力を落とし、サクヤが増幅してさらに防御力を落とす。モンスターの中にはバフをかけてくる悪魔もいるが、ヒナタとサクヤによるデバフの前には意味をなさない。
「私からのプレゼント、よっ!」
イズも爆弾を投げてモンスターを吹き飛ばし、コーヒー達と共にモンスターを迎撃していく。
「何とかモンスターの襲撃を捌けているが……」
「行動範囲が限られている中で対処するのは、かなり面倒だよな」
「暗中模索でないだけマシだろう。おかげ精神的な余裕があるからな」
そうして次の襲撃が来る前にアイテムの回収を終えると、一同は脱出の為の迎撃態勢を整える。
マルクスの入口付近の映像を映し出すスクリーンで襲撃を察知し、事前に態勢を整えていたので特に苦戦することもなく容易く殲滅する。
「今だね!」
「急いで脱出するよ!」
サリーのその言葉で、一同はコーヒーが【ワイルドハント】で召喚した舟の上へと乗っていく。四、五人くらいしか乗れない大きさではあるが、六隻用意したので全員が舟の上へと乗り込める。
全員が舟の上へと乗り込んだことを確認すると、コーヒーはメイプルが乗っている舟を列の中央にして外へと向かっていく。脱出中も例のすり抜ける光線が飛んでくるも、プレイヤーを狙っているおかげで舟には当たらず、【身捧ぐ慈愛】によってダメージも入らない。
無事に洞窟の外へと脱出すると、舟から巨大化したジベェに乗り換えて山頂へと向かっていく。空を飛べるモンスターがジベェに群がるも、遠距離攻撃を放てるメンバーが逐一撃ち落としていく。
「やっぱり山頂にもモンスターが蔓延っているか」
「ジベェ、【津波】ー」
目的の山頂にも特殊モンスター達が徘徊していたが、ジベェの【津波】によって一気に流されていき安全地帯が確保される。そこにジベェが着陸し、乗っていた者達は一斉に降りていく。
「ここなら一先ず大丈夫だよね!」
「うん。異変が起きてもすぐに気づけるからね」
薄暗くはあるが、開けた場所とあって周りの様子が把握できる。何か異様なものが見えれば、すぐに反応することもできるだろう。
「私とマルクス、ミキの三人で少しだけ罠を設置してくるわ。無抵抗でそばまで近寄らせるわけにはいかないからね」
「うん……クリアがいればある程度は安全だから……」
「なら、俺もついてくぜ。いざと言う時に逃げられるからな」
ドレッドが護衛となり、イズとミキ、マルクスの三人は迎撃の為の罠の設置に向かっていく。マルクスの相棒のクリアは対象を透明にするスキルを使え、ドレッドの相棒のシャドウは影を利用した安全圏からの離脱が可能だ。なので何かあればすぐに戻ってくるだろう。
「……やっぱり赤い点が増えていってるな。対して青い点は徐々に減ってるし、紫の点は変わらずだな」
「そうね。やっぱり逃げ回っているプレイヤーが多いね。二ヵ所ほど、青い点が固まって迎撃しているみたいだけど、それ以外は動きが激しい」
マップを確認したコーヒーとサリーの言葉通り、東と西で青い点が纏まっている場所がある。おそらく、強力なプレイヤー同士が徒党を組んでいるのだろう。
「できれば特殊モンスターを狩りに行きたいけど……相手次第じゃ詰みになりかねないのよね」
「赤い点だけじゃ種類まで判別できないからね。瓦礫の特殊モンスターは避けるのが前提になるし」
「それに昨日予想した巨大モンスターの存在もある。今は我慢して温存しておくべきだろう」
「大丈夫!どんなモンスターが来てもしっかり守るから!」
メイプルはそう言ってグッと大盾を掲げる。そんな頼もしいメイプルの姿に、その場にいた一同は笑みを浮かべるのであった。
――――――
イベントフィールドの西エリアにて。
「【ビルドアップ】!【竜王脚】!」
「【紆余曲折】!照射せよ、【レイ】!【連続起動】!」
比較的見通しの良い場所で胴着に身を包んだ筋骨隆々の男性が空中からの地面への飛び蹴りで瓦礫モンスターを吹き飛ばし、青いローブに身を包んだ背が低い男の娘が光線をビームのように幾つも放って悪魔モンスターを薙ぎ払っていく。周りのプレイヤー達もそれぞれの持ちうるスキルを駆使して襲いかかるモンスターを倒していく。
「ししょー!襲撃してくるモンスターの数が多すぎるよ!」
「むぅ。これほど多いとタイマン勝負ができん。だが、この逆境を乗り越えてこそ、真の
胴着の男はそう高らかに宣言すると、裏拳の要領で衝撃波を放ってモンスター達を吹き飛ばす。見事な脳筋発言であるが、それが通用しているから余計に質が悪い。残念なことに間違いとも言えないが。
「やはり篭れる洞窟を探した方が……」
「それはあの瓦礫モンスターの放つ光線で危険だって分かってるよね!?下手したら嬲り殺しだよ!【クロックアップ】!【魔導の門】!【霊力還元】!放て、【フレアレーザー】!」
炎の熱線でモンスター達を薙ぎ払った男の娘の言葉通り、あのオブジェクトをすり抜ける光線の危険性を警戒して外で迎撃することを選んでいる。洞窟内ではモンスターの物量次第では逃げ切れず、外からの光線で討たれる可能性が濃厚だからだ。
無論、意見したプレイヤーもそれは理解している。だが、洞窟内への避難を考えてしまうほど戦闘が激しかった。
「ししょー!一度場所を変えようよ!【マジックタワー】!【増設】!」
「何を言う!今逃げるのは愚の骨頂!判断はモンスターの強化時間が来てからだ!【我が花道】!【範囲拡大】【大地の憤怒】!」
二人は話し合いをしながらも手を緩めることなく、モンスターを撃退していく。結局はその場に留まり続けてモンスターの群れを迎撃していく。
そしてついに、最後のモンスター強化時間を迎える。
「……ウソだよね?」
「中々に巨大なモンスターだな。どちらも戦い甲斐がありそうだ!」
「イヤイヤししょー!?あれはさすがに無理だよ!遠くから見ても明らかに無敵オーラを放っているから!」
男の娘の言葉通り、北と南の両方に現れた姿形の異なる巨大モンスターは、どちらも出現して早々に守りのようなものを展開している。挑もうにも勝負になるかすら怪しい相手だ。
北の巨大モンスターはいくつもの手足と翼を持った顔のない悪魔で、紫の炎を体の所々で纏っている。南の巨大モンスターは瓦礫が四足の翼のない竜の形を取っており、身体の随所に砲身を覗かせている。
多くのプレイヤー達が明らかに普通でない二体の巨大モンスターに恐れ戦く中、北の巨大モンスターは紫の炎を、南の巨大モンスターは白い光を互いに向かって放つ。
紫の炎と白い光がぶつかり合い、爆発と閃光を放つ。光が収まると、空から巨大な紫の火球と極太の白い光の柱が降り注いだ。
「む!?奴らの攻撃がこちらに飛んできたぞ!【活力強化】!【地脈の恵み】!」
「見れば分かるって!【星城の防壁】!【重複】!」
「「「「【大規模魔法障壁】!」」」」
何重にも展開された障壁が紫の火球と白い光の柱を受け止めようとするも、紫の火球は障壁を紙のように突き破っていき、白い光の柱は障壁など存在しないと言わんばかりにすり抜け、その場にいたプレイヤー達を吹き飛ばしていく。
大地が燃える炎に包まれる中、生き残ったのは活躍していた二人を含めた数人だけであった。
「凄まじい飛び火だったな。モンスターながら見事!」
「誉めてる場合じゃないよししょー!このままじゃ一時間ももたないよ!」
―――イベントフィールドの東エリアにて。
「何とか逃れられたね。でも……」
「ええ。今のが何度も来られると、最後まで生き残れるか怪しいですね」
「全くだね。巨大モンスターが二体とか……運営の悪意を感じるよ」
弓を背中に背負った狩人の男性とメイド服の女性の言葉に対し、位高い服装のプレイヤー―――ジエスが呆れたように呟く。彼ら以外にも生き残ったプレイヤーはいるが、それも数える程度でしかない。
「一番確実なのはあれらを倒すことだけど……どうする?」
「あの結界と七色のオーラに嫌な予感を感じますが……このままというわけにもいかないでしょう。ウィル、狙えますか?」
「北のモンスターならギリギリかな?リリィ」
ウィルと呼ばれた男性はリリィと呼んだ女性にそう返すと、リリィは頷いて返す。それを見たウィルは矢と弓を構えた。
「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】【賢王の指揮】」
「【助言】【朱の光明】【王の威光】」
「研ぎ澄ませ、
リリィとジエスはウィルにバフをかけると、ウィル自身もスキルで強化してから矢を放つ。放たれた矢は真っ直ぐに北の巨大モンスターに飛んでいったが、巨大モンスターを覆っていた結界によって弾かれてしまった。
「やはりダメージが与えられませんか」
「あの結界がある限り、勝負にすらならないね」
「それに加え……」
リリィがそう呟いて視線を向けた先には、悪魔のモンスター達が群がるように迫ってくる。反対側からは瓦礫のモンスター達が迫っているので、まさに挟み撃ちである。
「「【クイックチェンジ】!」」
「【霊装・紅弓】!」
ウィルは執事服に、リリィは髪色まで変わった鎧姿へと変わり、ジエスは紅の弓を作り出して同じく紅の矢を四本つがえる。
「君臨せよ、
「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】」
「世界を照らせ、
リリィはガラクタで作られた椅子の上に座ると、大量の機械人形と結晶人形を召喚して悪魔の群れを迎え撃ち、ジエスは無数の炎の鳥と共に倍となった矢を閃光の如く放って瓦礫の軍団を撃ち抜いていく。
「瓦礫モンスターの方は頼みますよ、ジエス」
「オーケー、リリィ。アイツらは君との相性が最悪だからね。ウィルバードもサポートを頼むよ」
「ああ。普段はリリィだけだが、しっかりサポートするよ」
最後まで生き残る為、三人を筆頭に他のプレイヤーも奮起して特殊モンスターの迎撃に立ち上がっていく。
そんな中、巨大モンスターに挑む者達が近寄っていくのであった。
オリキャラ紹介。
レイド/河村レイカ
【集う聖剣】所属の蛇腹刀使い。大人。
普段から鬼のような仮面で顔の上半分を隠しており、堂々した佇まいをしているが、本来はかなりの恥ずかしがり屋。元々は人見知りを直す為にVRゲームを始めたのだが、仮面で顔を隠している時点で無意味となっている。
ちなみに金髪はハーフなので地毛。体のスタイルは標準。