魔法陣からコーヒーの姿が現れる。
コーヒーは疲れきった頭を働かせて周囲を確認していく。
「ここは……森の中なのか……」
周りは光を通さない程に鬱蒼とした森で、辺りはとても薄暗く藪も多い。
どう見ても、モンスターの奇襲に向いた地形である。
「よりによって面倒な場所に転移かよ……今日はもう休みたい……」
デカイ銀飛蝗の戦闘で精神的にもかなり疲弊しているコーヒーは、少しでも安全地帯を確保して休みたい一心だった。
コーヒーは重い足取りで森の中を進み始めていく。
道中はオカルト系のモンスターが襲撃してきたが、【スパークスフィア】でブッパした。
そして30分後、コーヒーはボロボロの廃屋を見つけた。
「ボロボロの建物か……今日はここで休むか……」
コーヒーは一応は警戒しながら、ボロボロの廃屋の中に入っていく。
ボロボロのテーブルと、同じくボロボロの椅子。
テーブルの下に敷かれた薄汚れた絨毯に、古びた箪笥。
古びた箪笥の中は空っぽ。殆ど何もない部屋だ。
「ここなら、潜伏場所としては丁度いいな……」
さっさと休みたいコーヒーは箪笥をちょっと動かし、箪笥の陰に隠れられるようにする。
「一応、手に入れた巻物を確認しておくか……」
コーヒーはインベントリから例の巻物を取り出し、確認する為に巻物を開く。
ピロリン♪
『スキル【クラスタービット】を取得しました』
「……あ」
間違って取得してしまい、巻物は役目を終えたように光の粒子となって消えていく。
本当に頭が働いていないとコーヒーは痛感しつつも、誤って取得したスキルの詳細を改めて確認することにする。
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【クラスタービット】
MPを500消費して、宙に浮く光の結晶を形成する。光の結晶の形状は自在に変更可能。
ステータスは【HP100 MP0 STR50 VIT1200 AGI0 DEX0 INT0】。
内包スキルは【メタルコート】【ブレイクウェイブ】【オートカバー】【孤軍奮闘】【スピードシェア】。
上記のスキルそのものは、このスキルの所有者に反映されない。
形成された光の結晶は所有者を中心とした半径25メートル内で任意に動かせる。
HPが0になると光の結晶は全て消失する。
使用回数は一日2回。
口上:群れなすは光の結晶 暁を照らす光は我が従者 此処に顕現し我が守手となれ
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「これは……《黒雷のカーゴパンツ》のスキルスロットに付与だな」
流石にMP500消費はキツすぎる。第一、圧倒的に不足している。
それなら、スキルスロットの効果を利用して使うしか道がない。
そう結論付けたコーヒーは、続いて【クラスタービット】に内包されているスキルを確認していく。
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【メタルコート】
即死・防御貫通・状態異常攻撃を無効にする。
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【ブレイクウェイブ】
STRが90%減少する代わりに装備品への与ダメージが10倍となる。
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【オートカバー】
常に【カバー】が発動する。
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【孤軍奮闘】
被ダメージが40%減少。
パーティーメンバーの支援を受けられず、パーティーメンバーにも攻撃が通るようになる。
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【スピードシェア】
互いのAGIを共有し、高い方のAGIを互いのステータスに反映させる。
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「……おおう。なんつう凶悪なスキルだ」
【クラスタービット】は装備品ではなく、どちらかと言うとモンスター扱いなのだろう。ステータスを見る限り、VITが滅茶苦茶高い。
そして、【メタルコート】で即死、貫通、状態異常が一切効かないときた。盾としては凶悪過ぎる機能だ。
その分、HPが低めだが、それを補って余りある性能だ。
しかも【オートカバー】により、防御は基本自動で行ってくれる。
攻撃は主に装備破壊を主軸に置いているようだ。
【孤軍奮闘】は、はっきり言ってデメリットが大きいスキルだ。こちらに反映されないだけマシかもしれないが、このスキルでの攻撃は、味方を巻き込んでしまう危険性がある。早い話、フレンドリーファイヤを起こしてしまいかねない。
【スピードシェア】は、所有者の速度に着いていけるようにするためのものだろう。所有者に置いていかれるようでは意味がないと判断したのかもしれない。
「先ずはスキルスロットに付与して……【クラスタービット】」
《黒雷のカーゴパンツ》のスキルスロットに付与して早々に、コーヒーは【クラスタービット】を発動する。
途端、コーヒーの目の前に大盾4つ分のサイズはある蒼銀に輝く光の結晶が現れた。
「これが【クラスタービット】の基本状態か……?形が自由自在に変えられると記載されてはいたが……取り敢えずイメージすればいいのか?」
コーヒーは一先ず、蒼銀の光の結晶に両刃の片手剣のイメージを向ける。すると、蒼銀の結晶は一度光の粒子になると、コーヒーがイメージした通りの形状の剣に形を変えた。
「おお!結構面白いな、これ!」
コーヒーは疲れが吹き飛んだように、光の結晶を斧、槍、机や椅子等、様々な形に次から次へと変えていく。
「基本的に形状はイメージしたもので固定されるのか……それなら」
コーヒーは妙案を思い付いたのか、寝袋を出して箪笥の陰に隠れる。
そこから【クラスタービット】を棺桶のイメージを投射して、自身の周りへと形成させる。
「思った通りだ。これを使えば安心して休むことが出来る。通気口もあるから窒息する心配もない……じゃ、お休み」
周囲の警戒をする必要がなくなったコーヒーは、そのままぐっすりと眠っていくのであった。
…………
……………………
……カン、カン、カン
「……んむぅ……煩い……」
硬質な音が前触れなく響き、眠りを妨げられる。
「モンスターか……?なら、追い払う……」
例の銀飛蝗の津波をイメージしてモンスターに攻撃。再び棺桶をイメージして元通り。
これでモンスターは逃げただろうな……zzz……
―――――――――――――――
「これ、何だろうね?サリー」
「うーん……HPバーがあるから破壊可能だとは思うんだけど……防御貫通スキルを使ってもまったく減ってないわね」
廃屋に訪れたメイプルとサリーは、箪笥の陰にあった蒼銀の光を放つ硬質な棺桶に揃って首を傾げていた。
「【悪食】で破壊できるかな?」
「……そうね。正直もったいない気もするけど、それ以外にこの異質な棺桶を破壊する手段がないものね」
メイプルの提案に、サリーは仕方ないといった感じで頷き、メイプルが黒い大盾を装備した直後。
「―――ッ!?メイプル!」
「へ?うわわ!?」
突如、その棺桶からまるで突き破るように蒼銀の飛蝗が大量に飛び出てきた。
サリーは咄嗟に飛び下がって難を逃れたが、メイプルは見事に蒼銀の飛蝗の津波に呑み込まれる。
それでも、メイプルの防御力と【悪食】なら大丈夫……サリーはそう思っていたがその予想は裏切られることになる。
「……え?」
蒼銀の飛蝗が棺桶に戻り、津波が消えた先にいたメイプルは装備がボロボロ。HPバーも半分以上減少していたのだ。
その事実にサリーは一瞬呆けるも、すぐに我に返ってメイプルに急いで駆け寄っていく。
「メイプル!?メイプル!?」
「うきゅ~~……はっ!?」
メイプルはスタンを受けて目を回していたが、すぐに意識を取り戻した。
「メイプル、大丈夫?」
「サリー……うん、何とか大丈夫だよ。けど、今ので【悪食】が全部無くなっちゃった」
心配そうにするサリーに、メイプルは申し訳なさそうに謝る。
メイプルの装備は【破壊成長】ですぐに元通りとなるが、【悪食】はさっきので発動してしまい、蒼銀の飛蝗は一匹ずつしか食えなかった為、今日の分が一気に無くなってしまったのだ。
「そう……そうなるとまずいわね。あの棺桶のHPバーは【悪食】で幾ばくか減ったけど、私達の攻撃は基本通らないし、もし今みたいに襲い掛かってきたら……」
「うーん……どうなんだろ?さっきのはまるで追い払う感じだったし、手を出さなかったら大丈夫じゃないかな?」
メイプルの考えに、サリーは極めて冷静に思案する。
さっきの攻撃は凶悪だったが追撃はしてこなかった。この狭い場所で、さっきの蒼銀の飛蝗が囲うように襲い掛かってきたら、自分達は間違いなく殺られていた。
だが、あの棺桶はそれをやらずに津波一回で済ませたのだ。メイプルの言う通り、こちらから攻撃しなければ仕掛けてこない可能性は十分にある。
「でも、サリーの言い分にも一理あるし、ここから―――」
「わかったわメイプル。あれには一切手出ししない方向で此処にいましょ」
サリーは有無を言わさない雰囲気でメイプルの考えを採用した。
外は骸骨、人魂、ゾンビ……オカルト系のモンスターがうじゃうじゃいるのだ。
サリーにとってはまさに地獄。そんな地獄に足を踏み入れるくらいなら、あの奇妙な棺桶がある部屋で大人しくしていた方が遥かにマシである。
こうして、サリーは断腸の思いでこの廃屋に居座ることを決めた。
「そういえば、棺桶から何か聞こえた気が―――」
「言わなくていいから!!」
―――――――――――――――
…………
……………………
「わあああああああああああああああっ!!!」
ガタンッ!
「……んあ?」
突然襲ってきた揺れと大声に、コーヒーの意識が目覚めていく。
「で、ででで出た!!テーブルに!テーブルにぃ!!」
ガタガタと棺桶が揺れて、聞き慣れた人物の大声が耳に届いてくる。
「白峯……いや、サリーの声か……?念のために解除して確認するか……」
ゲーム内であることをぼんやりと思い出しつつ、棺桶の外の様子を確認するためにコーヒーは【クラスタービット】を解除する。
「ひぎゃああああああああああッ!?」
解除して早々、耳を吹き飛ばすんじゃないかと言うくらいの絶叫がコーヒーの耳に叩き込まれた。
「棺桶が!棺桶が急に消え!?」
「ギャーギャーうるさい!!耳にキンキン響くだろ!?」
サリーの叫び声に、意識が強制的に覚醒させられたコーヒーは、メイプルにしがみついているサリーの声に負けないように抗議の声を上げる。
そこでサリーは気づいたのか、目をパチクリとさせ、呆けた表情でコーヒーを見つめた。
「……CF?何であんたがここに……?」
「ここで寝てたに決まってるだろ。そっちも休憩目的でここで寝泊まりしてたんだろ?」
「う、うん……」
コーヒーの自身の事情を説明しながらの質問に、サリーはブルブルと体を震わせたままコクリと頷く。
「……うにゃ……あれ?コーヒーくん?どうしてここに?」
「お前は図太いな、メイプル」
メイプルの図太さにコーヒーは呆れつつも、ここで寝ていたことを改めて説明した。
「ところで、あの棺桶はなんだったのよ?」
「新しく獲得したスキルだ。それを利用して、安全に寝られるようにしてた」
「……そのスキルは自動で反撃してくるの?」
「?いや、そんな機能はないぞ。どうしてそんなことを聞くんだ?」
「えーと……実はコーヒーくんが寝ている棺桶を攻撃して、それで飛蝗さん達が出てきて襲いかかったから……」
「あ、あれモンスターじゃなかったのか」
「せめて確認しなさいよ!?」
コーヒーの呟きにサリーがツッコミを入れる。
「そういえば、さっきからテーブルの下で呻き声のような低い声が聞こえてくるな?」
「ひぃっ!」
コーヒーの言葉に、サリーが思い出したように体を寝袋にくるんで縮こまらせる。
「なあ、メイプル。サリーはひょっとして……」
「ご想像の通りです」
どうやらサリーはお化けの類が駄目のようだ。
コーヒーが低い声の発生源らしき床のテーブルと絨毯を除けると、そこには切れ込みが入った、取っ手付きの床があった。
コーヒーが取っ手に手を掛けて引っ張ると、床は簡単に開き、地下へ続く階段があった。
「地下への通路……かな?」
「階段もあるしそうだろ。じゃあ、三人でいくか」
「え?私も行くの?」
サリーが信じられないといった感じでコーヒーの顔を見る。コーヒーは少し溜め息を吐いて告げる。
「ここで一人残りたいなら別にいいが、一人の時に何か現れたら」
「行きます。メイプルとCFと一緒に付いていきます」
サリーはピッタリとメイプルに引っ付いて着いていくことを決める。
本当に、お化け関連は駄目なようである。
ある意味、戦力外となったサリーを連れて、コーヒーとメイプルは階段を下りていく。
階段を下りるごとに声は大きくなっており、下り終えた先には古びた扉があった。
「……鍵はかかっていないな。開けるぞ」
「う、うん」
「おっけー。どーんと来い!」
コーヒーが扉を開け、メイプルが先陣で部屋に入っていく。
サリー?今はコーヒーの背中にしがみついてますが?
古びた扉の向こうの部屋は、蝋燭が大量に地面に置かれている。
「痛い……痛い……」
その中央には、血塗れのままで椅子に括りつけられた男性がいた。
「見た限りNPCだな。どうする?」
「んー……痛いって言ってるし……治してあげたいなぁ……」
「私【ヒール】あるけど?やってみる?」
「うん、お願い!」
方針が決まり、サリーが【ヒール】を男性にかけていく。
男性の傷は深いようで、全快させるのにMPポーション二本使うことになった。
「あり……がとう……」
傷が治った男性はお礼を告げて、成仏した。椅子の上には指輪がある。
指輪はHP+100でメイプル向けの装備だった為、メイプルが持つことになった。
「この森のイベントってこれだけかなぁ……?」
「んー、どうなんだろう?時間帯が影響しそうだし……数日はかけないと正確にはわからないわね」
「じゃあ、俺は二日目はここを探索するわ。正直、ボスモンスターは暫く遠慮したい」
「ん?CFは一人でボスと戦ったの?」
サリーの質問に、コーヒーは初日で戦ったデカイ銀飛蝗との戦いを語っていく。
「それ、今の私とメイプルじゃ勝てないわね。【悪食】も下手したら攻撃用の銀飛蝗に使い切らされそうだし」
「あはは……」
話を聞いたメイプルとサリーの感想がこれである。
その後の就寝は、コーヒーを含めた三人の交代制で取ることとなった。
「寝ている間に変なことをするんじゃないわよ?」
「するか!」
二日目。
コーヒーはメイプルとサリーと別れて、このお化けの森の探索を開始するのであった。
感想お待ちしてます