大盾使いのクロムとカミュラを押し飛ばしたスフィンクスモドキを、スキルによる体当たりで受け止めた胴着の男にベルベットとドラグが身構える中、胴着の男は歓喜したように声を上げた。
「いい体当たりだ!タイマンしがいがある強敵を前に、俺の全身の筋肉も歓喜している!」
「……へ?」
「何を言ってるんだ……?」
スフィンクスモドキと押し合いをする胴着の男のその言葉に、ベルベットは目が点となりドラグは本気で何を言っているのかと分からない表情となる。シンとカスミでさえ互いに顔を見合わせて困惑する始末である。
そんな一同に構わず、胴着の男は更なるスキルを発動させる。
「【筋力強化】!【ビルドアップ】!【集気功】!【我が花道】!」
スキル効果によって胴着の男は様々な色のオーラを自身に纏っていく。スフィンクスモドキは胴着の男を押し飛ばそうとするも、スキルの効果からか胴着の男はその場で踏ん張り続けている。
「【火事場の馬鹿力】!【龍脈の力】!高まれ、
更に自己強化スキルを使い、【名乗り】も使った胴着の男はそのままスフィンクスモドキの顔を掴んで豪快に投げ飛ばした。投げ飛ばされたスフィンクスモドキはろくに受け身も取れず、木々をへし折りながら背中から地面へと激突する。
「おいおい、マジか……!?」
「くっ……!リア充ポイントが高い……!」
シアンの回復を受けているクロムは驚きを露に声を上げ、同じく回復を受けているカミュラはよく分からない理由で胴着の男を睨み付けている。
クロム以外のメンバーも驚く中で、胴着の男は爽やかな笑みを浮かべて告げる。
「あのライオンの相手は俺に任せろ!お前達は奴とのタイマンに専念するがいい!」
胴着の男は高らかにそう告げると、体勢を整えているスフィンクスモドキへと単身で突撃していく。
「……どうするっすか?」
「言葉に甘えるしかないんじゃないか?」
困った表情で問いかけたベルベットにシンがそう告げる。巨大ボスのHPはそれなりに高く設定されているのか、HPの減りが乏しいのだ。これに無敵モードと決戦モードが待ち構えている以上、エリアボスにメンバーを割く余裕はないのである。
「「【挑発】!」」
そうこうしている間に、回復が完了したクロムとカミュラがスキルを使ってヘイトを自身へと向け、瓦礫の巨竜の光線と瓦礫の飛来を一身に受ける。瓦礫は大盾で受け止め、すり抜ける光線は自身のVITとHP、ダメージカットスキルで耐え抜く。
「悪い、待たせた!」
「これ以上、遅れを取るわけにはいかん。ルル、【ラーニング】!」
クロムが周りに謝る中、カミュラはルルに指示を出してコピースキルを発動させる。その結果は……
「……失敗か。だが、まだだ!【スキルスナッチャー】!」
ルルのコピースキルが失敗に終わると、今度は大盾のコピースキルを発動させる。瓦礫を受け止め、光線に貫かれる中で発動したそのスキルは、カミュラの笑みによって成功したことを証明させた。
「コピーできたのは瓦礫の方か……【ポルターシュート】!」
カミュラがコピーしたスキルを発動させると、周囲の木々が引き抜かれるように宙に浮かび、そのまま猛烈な勢いで瓦礫の巨竜へと飛んでいき、命中と同時に怯ませダメージを刻み込む。まるでメイプルの装備スキル【ポルターガイスト】を攻撃面へと傾けたようなスキルである。
「ウェン、【風神】!」
「【爆砕拳】!」
そこにシンがウェンに指示を出しつつ分割した剣を飛ばし、ベルベットが高威力の拳打を脚へと叩き込んでいく。
地上組が多少のトラブルに見回れながらも奮闘する中、瓦礫の巨竜に乗り込んでいるメンバーも奮闘していた。
「【トリプルスラッシュ】!」
「【抜刀・烈砕】!」
自身に向けて放たれる光線と砲撃を避けつつ、サリーは三連撃を首へと叩き込み、ジェラフも防御貫通攻撃を同様に瓦礫の巨竜の首へと叩き込む。
「おっと」
「危ない危ない」
攻撃した直後を狙うように、瓦礫の巨竜の身体から鋭い槍が幾つも飛び出すも、二人は予想してましたとばかりに軽々と避ける。この二人は武器の違いこそあるが、戦闘スタイルが結構似ているので互いに合わせるのも容易なのだ。
「本当に巨大ボスはHPが高いわね」
「そこは仕方ないんじゃない?……と言いたいけど、確かにこのままじゃ厳しいかな」
「どうする?使う?」
「もう使うしかないんじゃないかな。お互いにね」
背中合わせにサリーとジェラフは互いに笑みを浮かべると、意を決したように奥の手と呼べるスキルを発動させる。
「【水神陣羽織】!」
「【風神陣羽織】!」
スキル名が告げられると同時に舞う水色と緑色の陣羽織。その二つの陣羽織はそれぞれの使用者の下へと降り、覆い被さるように羽織られる。
「【天ノ恵ミシ雫】!」
「【謡イ踊ル鎌鼬】!」
水神モードとなったサリーはすぐさまバフデバフをばら蒔く雨を降らせ、風神モードとなったジェラフも周囲に優しくも力強い風を吹かせ始める。
「【古代ノ海】!【四式・交水】!【七式・爆水】!」
「【乱れる風】!【翡翠の刃】!【三ノ風・九十九颯】!」
サリーは召喚した青い魚に水を撒き散らしながら水属性スキルの攻撃を放っていく。
ジェラフは自身の周りに幾本もの翡翠に光輝く両刃の剣を召喚し、駆け抜けながら瓦礫の巨竜の背中を切り裂いていく。刀に切り裂かれる度に鎌鼬が飛び、突き刺さる翡翠の剣が追撃を与えていく。
「そっちは追加攻撃がメインなのね。【十式・回水】!」
「サリーの方は弱体化が主軸だね。【四ノ風・風巻】!」
互いに連撃スキルを放ちながらそれぞれのスキルの構成を把握していくサリーとジェラフ。そんな二人に負けじと他の三人も攻撃を躱しながら反撃していく。
「【クインタプルスラッシュ】!」
「【スパイラルエッジ】!」
「【連続斬り】!」
ドレッド、レイド、テンジアがダメージを与えたタイミングで、瓦礫の巨竜のHPがあと少しで半分の域へと到達する。その瞬間にサリーとジェラフがスキルを発動する。
「【水神蒸発】!」
「【風神絶空】!」
その瞬間、瓦礫の巨竜に水蒸気爆発と風の衝撃波が襲い掛かりHPが半分へと到達する。
「【水の道】!」
「【瞬転符】!」
サリーは水の道を作ると直ぐ様潜ってコーヒーとカナデの乗る舟の上へと降り立ち、ジェラフもサリーに瞬間移動の札を張っていたことでサリーが降り立ってすぐに隣へと降り立つ。
ドレッドはレイ、レイドはイグニスの背に乗り、テンジアはリースによる飛行で離脱してすぐ、瓦礫の巨竜が雄叫びを上げて身体中の玉を再び光らせて無敵モードに入る。
「また無敵状態になったわね」
「それじゃ、本来の作戦通り―――」
サリーの呟きにジェラフがそう返そうとした瞬間、コーヒーは何かに気付いて舟を操作する。乱暴な操作で横へと動いた直後、三つの金色の光が先程までいた舟のいた場所を通り過ぎた。
「ちょっとCF!せめて一声掛けなさいよ!」
「ギリギリだったから無理!」
ほぼ抱きつく形となったサリーの赤面での文句を、舟の縁にしがみついているコーヒーはそう反論しながら敵の存在を確認していく。サリーの顔が赤面なのは第三者がいるからである。現に舟に乗っている二名は少しニヤついているのだから。
当然、攻撃を仕掛けられたのはコーヒー達だけではない。レイとイグニスはもちろん、ジベェも地上からの攻撃を受けていた。
「うわっ!下から攻撃が来てる!?」
「……スクリーンとマップを見る限り、攻撃してきているのはエリアボスだよ」
メイプル【身捧ぐ慈愛】でジベェへのダメージがゼロの中、アイテムを利用して例のカメラを幾つか取り付けてミキが垂らす釣り針から送られる映像とマップ情報を確認したマルクスがそう呟く。
「どうしてエリアボスはこっちに来たのかしら?」
「た、たぶんですが……他のプレイヤー達も多く集まっているからだと」
「それはあるかもー。青マークがー、周りに表示されてるしねー」
ミキがそう答える通り、ヒナタの推測を裏付けるように青いマークが巨大ボス周辺にちらほらと存在しているのだ。そのプレイヤーに釣られてエリアボスが此処まで来てしまったのは、十分にあり得た。
その攻撃を仕掛けているエリアボスは、装飾が施された巨大な象に乗って純白の鎧を着た人型モンスターだ。他のプレイヤーに削られたのか、HPが幾ばくか減少していたその人型モンスターが号令を上げるように手を掲げると、金色の光が集って同じ姿のモンスターが次々と姿を現していった。
「あのエリアボス、私とマルクスが攻略したダンジョンのボスに似ているわね」
「武器の種類は向こうが多いけどね」
マルクスのその言葉通り、純白の鎧を着たモンスター達が手に持つ武器は剣や弓、盾や杖など様々だ。
その純白の鎧を着たモンスターの集団の中にいる、弓と杖を持ったモンスター達が一斉に武器を構えると、矢と光球を上空にいる者達に向かって放っていく。
その猛攻に便乗するかのように、瓦礫の巨竜が大口を開けて上空へと極太の白い光線を放った。
「まずいぞっ!おそらくだが、全体攻撃が来る!」
「わかっている!レイ!」
「イグニス!兄上も!」
「委細承知!」
ドレッドの直感からの警告を受け、空を飛んでいたコーヒー達は大急ぎでメイプルがいるジベェの下へと向かっていく。
「連なり守れ、【多重障壁】!」
「【大規模魔法障壁】!」
「【水神結界】!」
「【風神結界】!」
エリアボスの配下から放たれる無数の矢と魔法による弾幕はフレデリカとカナデが魔法を発動して防御していく。瓦礫の巨竜の身体から放たれるすり抜ける光線は、コーヒーの手を掴み【糸使い】でレイに移動したサリーとカナデを抱えて【瞬転符】でイグニスに移動したジェラフが完全防御スキルで防いでいく。
「地上組はゴメンだけど耐えてね!【多重防御】!ノーツ、【増幅】!」
「包み込め、【セイントフィールド】!守り癒せ、【神の息吹】!」
「【スキルブースト】!【霧散の光】!」
「【天星ノ聖剣】!」
「【守護騎士】!【千の護手】!」
地上組を回収する余裕がない故に、ステータスアップやダメージカット等の様々なスキルを次々と発動していく。
「【聖域の演奏】!」
コーヒー達が集合してすぐサクヤが【天上の鍵盤楽器】の内包スキルを発動した直後、空から無数の白い光線が雨の如く降り注ぎ、地上のプレイヤー達を狙い撃ちするように呑み込んでいった。
「光線が凄い勢いで降り注いでるね」
「クロムさん達は大丈夫かな?」
サクヤのダメージ無効スキルで守られているメイプルが心配する中、光線に呑み込まれたクロム達は大ダメージを負いながらも無事に生き残っていた。
「痛ツツ……結構痛いな。カナデ達のバフがなかったらヤバかったな」
「ああ。それにミキから貰った身代わりアイテムもな」
カスミが燃える藁人形や砕けた石の御守りに目を向けてそう呟くと、ドラグ達も同意するように頷く。
「まさか一撃じゃなく何回か降り注ぐとはな。威力も高かったみたいだしな」
「それより早く回復しないとまずいっすよ」
「すぐに回復します!癒せ、【ヒール】!【連続起動】!」
【従者の献身】で無事だったシアンがすぐに回復魔法を使ってクロム達のHPをすぐに回復していく。複数人に向けて発動している故に全快とはいかなかったが、全体の八割まで回復したので十分な回復量である。
地上組が回復している中、上空組の面々は反撃の準備を整えていた。
「【炎神陣羽織】【ファラリスの雄牛】。イグニス、【不死鳥の炎】【我が身を火に】」
「【燃焼の火種】【地獄の焔】【魔術の恩恵】【乾いた草】」
「フェイ、【アイテム強化】」
「これとこれー、他にはこれかなー?」
ミィが自己強化していく中、カナデが魔導書とカードを使ってミィを強化していく。イズもフェイに指示を出して強化アイテムの効果を上げて使い、ミキは有効そうな様々なアイテムを惜しげもなく使っていく。
「この瓶はなんですか?」
「それは【フレアオイル】だねー。炎属性のダメージが大きくなる代わりにー、対象者も炎属性のダメージを受けるよー」
「じゃあ追加だね。【火炎の体】【痛覚変換】」
「回復の準備もしておきますね」
若干リスクのあるアイテムも使う中、突如エリアボスからの攻撃がピタリと止む。コーヒー達は訝しんでマップを確認すると、三つの青いマークがエリアボスと対峙していた。
「どこかのパーティーがエリアボスと戦い始めたみたいね」
「援護すべきか?」
「向こうには悪いけど無視するしかないね。こっちも余力はあまりないし」
申し訳ないと思いつつもエリアボスの相手を任せるしかないと結論が出る中、そのエリアボスと対峙している三人は数の暴力で対抗していた。
「【赫灼の
「【我楽多の椅子】【命なき軍団】【玩具の兵隊】【水晶の尖兵】」
「【王佐の才】【理外の力】【戦術指南】」
エリアボスが召喚した純白の騎士達が剣や槍を構えて突撃する中、緋色の弓を構えたジエスが何羽もの赫い鳥を飛ばしながら無数の緋い矢を放ち、リリィが機械兵士と水晶の兵士を多数召喚し、ウィルバードがそれらを強化していく。
「あの巨大ボスの攻撃は本当にまずかったね。【陣形変更】がなければどうなっていたことやら」
「それはともかく、このエリアボスもクセが強いですね。【再生産】」
「数も質もあるなら、こちらは質を高めるとしましょう。無限の分岐は星の数 未来の道筋は我が采配にあり 此度の星詠みは守りの識なり―――【ディフェンスオーダー】」
「ウィルバードが防御なら、こちらは攻撃だね。無限の分岐は星の数 未来の道筋は我が采配にあり 此度の星詠みは攻めの識なり―――【アタックオーダー】」
ウィルバードとジエスは強化スキルを発動させると、リリィを含めた兵士達が二種類の不思議なオーラに包まれる。不思議なオーラに包まれた兵士達は、純白の騎士達に押され気味だったのが嘘のように押し返し始めていく。
「巨大ボスは彼らに任せるしかないね」
「そうだね。お互い余裕はないだろうしね」
「メダルは惜しいですが、エリアボスを倒してもメダルは得られますし」
三人は依然として暴れている瓦礫の巨竜を視界に入れつつ、相対するエリアボスとの戦闘に集中していくのであった。
キャラ紹介
シアン/蝶野 幸
【楓の木】所属のINT極振りの魔法使いの少女。
ゲーム初心者だったこともあり、強い魔法を使いたいという考えからINTに極振りしたのだが、極振りの弱点によってレベルアップが難航し、パーティーも組めなくなっていた。
ギルドシステムが実装されて勧誘が盛んだったこともあり、毒耐性スキルを得ようと毒竜のいるダンジョンに一人で挑もうとしていたところをメイプル達に出会ったことで、そのまま流れるように【楓の木】の所属となった。
異常筆頭のメイプルの恩恵により、クセの強い強力スキルを得たことにより、メイプルとマイとユイと組んだ際には回復と遠距離攻撃担当となったことで【戦車パーティー】という凶悪なパーティーが誕生することとなった。
モチーフとなったキャラはGV初期のシアン。