てな訳でどうぞ。
第八回イベントが終わった翌日。
「うーん……これといった情報が見つからないな」
残念そうに溜め息を吐くコーヒーは現在、町の図書館で本を読んでいる。
コーヒーが本を読んでいる理由は単純に、クエストやイベントのヒント探しからだ。第八回イベントで銀のメダルが三十枚超え……最大で三つのスキルを交換することが出来る。その上、ユニーク素材も手に入れたのだ。
メダルの方は交換期間があるからすぐにする必要はないが、三つも選べるとなるとこれはこれで悩んでしまう。今回は更新されていないから、わざと残して次に更新された時に使うという選択も取れる。
実際、【楓の木】のメンバーもそれなりに悩んでいる。マイペースな釣り人以外は。
そのマイペースな釣り人であるミキは、速攻でメダルスキルを二枚使って交換した。交換したスキルは、収集系スキル【トレジャーハント】と、生産系スキルの【調合実験】である。
レアアイテムの取得率を上げる【トレジャーハント】はまだしも、釣りとは無関係の生産系スキルも取得したのは、ミキなりにギルドに貢献しよう考えたからだそうだ。一応、【調合実験】の効果を交換エリアから確認したが、このスキルはポーション系のアイテム二つを混ぜ合わせ、半分の確率で別のアイテムを生み出すという一種のギャンブルスキルとのこと。
このスキルの利点はイズのようにその場で生産可能なところだが、熟練度に関係なく成功確率が半分なので、失敗したら調合に使ったアイテムは喪失。本当に役に立つのか怪しいスキルである。
「今の所持スキルを考えれば、攻撃の手数を増やすくらいしか浮かばないんだよな」
【無防の撃】で常時貫通攻撃とはいえ、攻撃力は半減しているので基本的な威力は低い。そうなれば基礎火力を上げるスキルが妥当なところなのだが、今のスキル構成(半分くらいが偶然得た当たり)からして、どこか違う気がするとコーヒーは感じているのだ。
「……試しに四層を調べ直してみるか?カスミのハクの時のように、新しく実装されたクエストがあるかもしれないし」
思い立ったが吉日。コーヒーは気分転換も兼ねて四層へと赴く。四層は相変わらず妖怪たちが街中を歩いているが、これと言った目ぼしい変化はない。そもそも、この階層はカスミによって調べ尽くされていると言っても過言ではない。そこからカスミも知らない新たな要素を見つけるのは困難なのだ。
「やっぱり厳しいか……ん?」
新しい要素を見つけられずに溜め息を吐きかけたコーヒーであったが、本が数冊並べられた露店に目が止まる。興味本位でその露店にある本を調べてみるも、その本はオブジェクト以上の価値はなさそうなものであった。
「一冊100Gくらいか……全部買っても1000程度だし、思い切って買ってみるか」
何かしらのイベントフラグが起きる可能性を期待して、コーヒーはその露店に売ってあった本を全部購入する。【クイックチェンジ】のように何かしらのスキルが手に入ることもなく、空振りに終わる。
「やっぱり駄目か……いや、店主に話しかけてみてから……」
コーヒーは落胆しかけるも、落ち込むにはまだ早いと考え直してNPCの店主に話しかける。その思いが通じたのか、NPCの台詞に変化が現れた。
「その本を全部買うなんて随分と物好きな客人だねぇ。そんな奇怪な客人に良いことを教えてやるよ。どこかの賭場にいる鼠の旦那にそれらの本を持って話しかけてみな。面白い話が聞けるかもしれないぜ?」
何かしらのフラグが立ったことにコーヒーは内心でガッツポーズをし、さっそく賭場にいるであろう鼠を探し始める。四層の街中は結構広いため、賭場も何ヵ所も存在している。ちなみに賭場は雰囲気程度で、実際に博打を打つことはできない。
そうして賭場を巡り、七軒目で漸く花札に興じている人間サイズの鼠を見つけることができた。
「たぶんアイツだな。さっそく話しかけてみるか」
コーヒーは期待を胸にその鼠に近寄って話しかけると、鼠はすぐに反応した。
「ん?お前さん、俺が書いた二束三文にもならない本を全部持ってるのか?随分と物好きだねぇ。そんなに物好きなら、ここから西の方にある絡繰屋敷に挑戦したらどうだ?俺の本を持って奥までいけたら、面白いことが起こるかもしれないぜ?」
鼠はそれだけ告げると、再び花札へと興じていく。
「クエストメニューも出ない辺り、ただのヒントか」
コーヒーはそう呟きつつ、西の方にある絡繰屋敷のことを思い出していく。
絡繰屋敷はフィールドに存在しており、そこでは死亡することはなく、奥に到達すると換金アイテムが手に入ることで知られている。難易度もそこそこであり、息抜きで楽しめるアトラクションとしてわりと人気なスポットだ。
「面白いことには興味があるし、試しに挑戦してみるか。どっちにしろ換金アイテムは欲しいし」
例のユニーク素材を手に入れた為、コーヒーはすぐにイズに渡してHP・MP強化の装飾品の作成を依頼していた。その時にイズからステータスのマイナス補正が生じると説明を受けたが、【破壊成長】付きのユニークシリーズがあるから構わないと思い了承した。
何せ、コーヒーの持つユニークシリーズの【破壊成長】はメイプルと比べたら伸びは悪いが、全体的にステータスを上げられるのだ。そこにマイナス補正が入っても十分カバーできるのである。
「せっかくだしクロムを誘うか。向こうも俺と同じ理由で金欠気味だろうし」
コーヒーはクロムにメッセージを送ると、少しして了承の返事が返ってくる。それからクロムと合流してすぐ、目的の屋敷へと向かい出した。
「絡繰屋敷をそのアイテムを持ってクリアすることが条件で発生する何かか……メイプルもだが、コーヒーも変わったフラグを見つけるよな」
「……今回のはマシな筈」
クロムの指摘に対し、コーヒーはそう呟きながら顔を明後日の方向へと逸らす。【聖刻の継承者】然り、【孔雀明王】然り、【ワイルドハント】然りとスキル入手の手順は同じなのに、脱線に近い形で得ているのだから。
「それよりクロム。今度のメダルスキルはどうするんだ?」
「正直に言えば、結構迷っているんだよな。三つも交換できると考えると、ついセットで考えてしまうからな」
やはり最大で三つも交換できるとなると、時間の猶予も相まってどれと交換しようかと悩んでしまうようだ。見る人が見れば、贅沢な悩みと揶揄られるだろうが。
「それに最終日で【集う聖剣】に【炎帝ノ国】、それに【thnder storm】も三つになったしな」
クロムがそう呟いた通り、共闘した三ギルドも最終日で一気に銀のメダルが大量に手に入ったのだ。他の上位ギルドもそれなりにメダルもレア素材も手に入れているだろうし、対抗する意味でもどうしても慎重になるのは当然かもしれない。
「しかしお前から誘うなんて珍しいな。こういう場合は、サリーやメイプルを誘うだろ?」
「二人は下層で息抜きすると言っていたし、水を差すのも悪いだろ」
「それもそうだな」
コーヒーとクロムがそう話し合っていると、モンスターである小鬼の集団が二人の前に姿を現し、立ちはだかる。
「迸れ、
コーヒーは早々に匣を召喚し、二丁クロスボウにして小鬼を次々と射ち抜いていく。匣からのすり抜け光線と空からたまに降る星、追加雷撃によって小鬼たちはあっさりと全滅した。
「マジでそれ凶悪だな。今のような集団相手だと、かなり一方的だぞ」
「躱されたら無意味だけどな」
【遺跡の匣】の追加攻撃はダメージの有無に関わらず命中することが必須条件だ。メイプルやクロムのような防御が主軸のプレイヤーが相手ならかなり有効だが、サリーのような回避が主軸のプレイヤーの場合は効果は薄いというのがコーヒーの出した結論だ。
それでもクロムが指摘した通り、集団戦において凶悪なのには変わりないが。
そんな感じで道中のモンスターを倒しつつ進んでいくと、立派な二階建ての長屋が見え始めた。
「あれが目的の絡繰屋敷か」
「ああ。換金アイテムも大層なものじゃないが、何回でも挑めるから生産職のプレイヤーに結構人気なんだよな」
クロムのその言葉にコーヒーは確かにと頷く。
生産職プレイヤーは直接の戦闘が得意でない以上、リスクを侵さずにアイテムを得られる場所というのは、それなりに魅力的なのだ。
コーヒーとクロムはさっそく絡繰屋敷の引戸を開き、中へと入る。六畳程の広さの部屋には棚が一つだけであり、障子一つない空間であった。
「絡繰屋敷だから、回転扉とか収納式の階段か?」
「そこの棚を動かせば扉が開くと掲示板にあったぞ」
クロムの言葉を受け、コーヒーはすぐに壁際にあった棚を空いてる空間へとずらしていく。部屋の端まで棚を移動させると、カチッという音と共に入口から向かって左の壁が収納されるように沈んでいき、奥へと続く通路を覗かせた。
「まるで現実にある絡繰屋敷そのものだな。実際に行ったことないけど」
「
「それってVIT関係なし?」
「ああ」
「メイプルが遠慮しそうだな……」
何せ痛いのが嫌だからVITに極振りしたメイプルなのだ。防御貫通スキル多数実装前のレベルの痛みが襲いかかるのなら、進んで挑戦しようとは思わないだろう。
絡繰屋敷の仕掛けは定番の隠し扉や
……屋敷の奥に到達するまでは。
「ここがゴールか」
「棚と宝箱だけで、何かしら変わったところはないな」
多少盥に頭を打たれながらも奥に到着したコーヒーとクロムは、宝箱の中の換金アイテムを回収してから部屋を捜索していく。
少しして、本が納まっている棚を調べていたクロムが違和感に気付いた。
「ん?この本棚……所々に隙間があるな。コーヒー、この本棚に例の本を納められるんじゃないか?」
「確かに……さっそく試してみるか」
コーヒーは自身のインベントリから例の本を取り出すと、ぴったりと入る本をその隙間に順次入れていく。一冊一冊の厚さが違うので、どこの隙間にどの本が入るかはわりと簡単である。
そうして最後の一冊を棚に収納すると、ガコンッ!という大きな音と共に本棚が天井へとせり上がっていき、薄暗い入口を露にした。
「これが鼠が言っていた面白いことか」
「隠しエリアか。この奥には何があるんだろうな?」
クロムはそう呟き、そのまま件の入口を潜ろうとする。しかし、それは押し潰さんばかりに落ちてきた本棚によって強引に遮られた。
「「…………」」
その光景にコーヒーとクロムは無言。クロムは一先ず後ろに下がると、本棚は再び天井へとせり上がっていった。
「これ、俺しか奥に行けないパターン?」
「どうやらそうみたいだな。フラグをしっかり立てないと、この奥には進めなさそうだ」
どうやら最低でも例の本を全部買わないと駄目だったと分かり、本そのものを持っていなかったクロムは仕方ないと云わんばかりに肩を竦める。
コーヒーも此処からは一人で行くしかないと割り切り、一人でその入口を潜る。中に入るとすぐに入口の本棚が下がり、真っ暗闇になるとほぼ同時に部屋全体がゆっくりと下降し始めた。
「これ、すぐに終わるやつじゃないのか」
地味に時間が掛かりそうだとコーヒーが呟いていると、エレベーターのように下降していた部屋が止まる。そのまま扉がスライドすると、目に写ったには蝋燭に照らされた薄暗い通路であった。
「如何にも何か出てきそうな通路だな」
何かしらのアイテムがありそうだと思いながら、コーヒーは一歩前に出る。その直後、天井から何本もの矢が襲いかかった。
「うおおおっ!?」
突然の矢の洗礼にコーヒーは驚愕しながらも、咄嗟に横に飛ぶことで放たれた矢を躱す。
「弾けろ、【スパークスフィア】ッ!!」
敵からの攻撃かギミックによる罠か判断できなかったコーヒーは、確認の意味を込めて【スパークスフィア】を天井に向けて放つ。
放たれた雷球は天井で蒼く輝くと、天井に空いてある無数の穴の存在を露にした。
「さっきの矢はあの穴からかよ!?」
コーヒーがそう叫ぶ間にも、天井の穴から次々と鏃が顔を覗かせていく。それを見たコーヒーは顔を引き攣らせた。
「【クラスタービット】!!」
【クラスタービット】を素早く発動して早々、コーヒーは自身を守る防壁のように展開する。そのすぐに新たな矢が放たれ、銀色の防壁に甲高い音を響かせていった。
ここが絡繰屋敷の延長である以上、どこかに矢を止める仕掛けがある筈。しかし、通路が薄暗いせいでその仕掛けがすぐに見つけられそうにない。
「本当にこれ、タチが悪すぎるだろ」
【クラスタービット】で雨のように放たれる矢を防ぎながらコーヒーはぼやきつつ、目を凝らして仕掛けを探していく。矢の雨を防げたお陰で焦らず探すことができた為、微妙に床の一部がせり上がっていることに気付くことができた。
コーヒーはそのせり上がっている床に手を置いて体重をかけると、カチッという音と共に沈むと同時に天井からの矢もピタリと止んだのであった。
「気楽な息抜きから一転、ガチ探索か……」
コーヒーは溜め息を吐きながら奥へ進むと、重厚そうな扉へと到達する。まさかのゴールかとコーヒーは疑ったが、扉に書かれていた文字でその可能性はすぐに霧散した。
『此より先は死地なり。挑める機会は一度のみ。腕と智に自信あらば、扉を開けて挑むが良い』
「ここからは死亡判定ありの上、挑戦は一度きりか……絶対レアな何かがあるな」
これは大当たりが期待できそうだとコーヒーは内心でガッツポーズを取ると、メタルボードに乗ってから扉を開けるのであった。
―――運営ルームにて。
「マジか。コーヒーが絡繰屋敷の隠しエリアに突入したぞ」
「あそこのレアアイテム、装飾品の装備枠を増やせるんだよな」
「枠数自体は《救いの手》の倍くらいだったよな?ゲームバランス崩れないよな?」
「そこは安心しろ。ちゃんとデメリット……プラス補正の半分化とスキルが弱体化するように調整しといたから」
「ですが《救いの手》をそれに装備したら……」
「そこも大丈夫だ。《絆の架け橋》とかの一部の特殊なやつは装備できなくしてあるからな」
【トレジャーハント】
採掘、採取、釣り、宝箱におけるレアの獲得率が上昇するが、HP・MP以外のステータスが5%低下する。