もといた場所に帰還し、さらに30分経った現在。
コーヒーは出口の無い部屋の中央にある一つのパネルとにらめっこしていた。
「本当にどれにするかな……」
顎に手を当てて凝視しているパネルには百個ものスキル名が記載されている。
戦闘系、生産系、ステータスアップ系、どれにも属さないスキルが順に並べられている。
「時間制限がないから急いで選ぶ必要はないが……本当にどれがいいんだろうな」
ちなみにこの部屋にいるのはコーヒー一人だ。メダルスキル選択は専用の部屋に個別で転送される為、自分一人でスキルを決めなければならない。
「【聖剣術】……【龍槍】……【追刃】……【追刃】は近接武器限定か……チッ」
【追刃】は武器での攻撃が成功した時にその攻撃の三分の一の威力の追撃が発動するスキルだが、それは近接武器のみに設定されている。それが無ければ、迷わず取っていたのにとコーヒーは舌打ちする。
この調整は運営のメダルスキルチェックによる修正であることをコーヒーは知るよしもなく、他のスキルを確認していく。
「【攻防一体】……【鷹の目】……【鷹の目】は対象との距離が数値でわかるようになるスキルか……」
対象との距離が分かれば、ギリギリの射程距離から相手を狙うことが可能となる。【遠見】と合わせれば益々狙撃手としての行動もしやすくなる。
「一つ目はこの【鷹の目】にするか。あと一つは何にすべきか……」
メダルスキルを一つ選択したコーヒーは再びパネルとにらめっこを続けていく。
「……ん?【避雷針】?なんだこのスキルは?」
コーヒーは疑問に思ってスキル【避雷針】の詳細を確認していく。
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【避雷針】
一度だけ雷攻撃を誘導、吸収する手持ちサイズの小さな杭を形成する。
吸収した雷攻撃はMPに変換され、自身のインベントリにストックすることができる。最大ストック数は3。
吸収された雷攻撃によってMPの変換量は変化する。
口上
誘うは雷針 漲る雷を集約せよ
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「……これ、使える」
コーヒーはそう呟いて、【避雷針】を選択し、取得する。
こうしてスキルを選択し終えたコーヒーは、ここに転送された時と同じように、光に包まれて消えていった。
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メダルスキルを選び終えた後、コーヒーはイズの店の中で……正座していた。
「へー。あのゴーグル、壊しちゃったんだー?」
「は、はい。相対したボスモンスターの装備破壊能力が凄まじくて……」
仁王立ちで腕を組み、片手にはハンマーを持って笑顔を崩さないイズを前に、コーヒーは冷や汗を流しながら事情をちゃんと説明する。しかし、説明を聞き終えたイズの背後から覗かせている般若は消えないままだ。
「もちろん装備はいつか壊れるものだけど……いつも言っていたよね?装備はちゃんと大事にしなさいって」
「は、はい……」
イズの言葉にコーヒーは怖じ気ついたように素直に頷く。
コーヒーはもといた場所に再び帰還してすぐ、新しい装備品を作ってもらおうとイズのお店に赴いた。
そこでイズがゴーグルはどうしたのかと聞いた際、コーヒーは正直に答えた結果、こうなったのである。
「まあいいわ。それで、今回はどんなデザインにするの?素材は十分にあるんでしょ?」
「あ、はい。後、その前にこれを」
コーヒーはそう言ってインベントリから【職人のレシピ】の巻物を取り出して献上するようにイズへと差し出す。
「これはスキルの巻物よね?」
「はい。スキル名からして生産職向けのスキルなので、俺じゃまったく意味がないのでイズさんに有効活用してもらおうかと。後、スキルの詳細は確認してません」
「そうなの。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうわ」
コーヒーの言葉に納得したイズは素直に受け取って巻物を広げ、スキル【職人のレシピ】を取得する。
「どんなスキルだったんですか?」
「そうね……簡単に言えば補助装備が作れるようになったわね」
「補助装備?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるコーヒーに、イズは丁寧に説明し始めていく。
「ええ。補助装備というのはね、大剣やハンマー、クロスボウや斧といった、一つしか装備出来ない武器のスロットに装備できる装備品なの。具体的には腕にくくりつける本当に小さな盾とか矢筒、臨時のアイテムポーチが作れるようになるスキルね。性能は説明欄を見る限り、本当にちょっとしたものになりそうね。後、【強化】の成功確率も幾ばくか上がったわ」
どうやら生産職プレイヤーにとってはかなり当たりなスキルのようである。
「それじゃあ、早速依頼を受けましょうか。素材は持ってきてるんでしょ?」
「あ、はい。もちろんです」
コーヒーは言うが早いか、今回のイベントで手に入れたものも含めた素材を次々と取り出していく。
もちろん、あの【幻想鏡の欠片】もだ。
「【幻想鏡の欠片】……随分と変わった素材アイテムね」
「はい。かなり特殊な素材だとは思うんですが……」
「これを使って新装備を作るのね?」
「はい。思いきってサングラスをお願いします」
「オーケーよ。補助装備も一緒に作る?」
「じゃあ、矢筒をお願いします」
作ってもらうものとそのデザインが決まっていき、製作費の相談になったことで……最大の問題が発生した。
「作る装備の種類とデザインもこれで決まりね。後はお金だけど―――」
画面を操作して色々と確認していたイズが急にピタリと止まった。
イズは目を瞬きした後、何かを確認するように画面を操作した後、神妙な面持ちでコーヒーに向き直った。
「コーヒー。【幻想鏡の欠片】を使って装備を作るとなると……相当お金がかかるわよ」
「え?」
イズの真剣な言葉に、コーヒーは思わず間抜けな声を出してしまう。
オーダーメイドは素材を幾らか持ち込めば、装備一式でも100万に抑えられる。
コーヒーは今まで貯めた素材を殆ど消費する形でイズに渡したのだが、そのイズが相当お金がかかると言ったのだ。
ようやくそれを理解したコーヒーは恐る恐るといった感じで尋ねた。
「……何れくらいかかるんですか?」
「最低でも一つ1000万」
その瞬間、コーヒーの顎がカクンと下がった。
1000万。普通のオーダーメイドの十倍の値段である。
「二つ作るとなると合計で最低2000万になるけど……どうする?お金、足りる?」
イズの言葉が店内に虚しく響く。
コーヒーは悩みに悩んだ末、今まで貯めてきたお金を全部吐き出すことにするのであった。
この後、サリーからのメッセージ―――メイプルがシロップで空を飛び回って毒の雨を降らせたというメッセージにコーヒーは「うわぁ……」と、実際に見たサリーと同じ言葉を溢した。
そして―――
「あれだけ念押ししたのに何やってんだよぉおおおおおおおおっ!?」
「すいましぇえええええええええええええんっ!!」
「は!?CFが取ったスキルはどうなっている!?」
「確認します!【鷹の目】と……【避雷針】……です」
「【鷹の目】はともかく……【避雷針】?」
「なんで【避雷針】なんだ?いや、まさか……」
「そういえば、あれに制限は設けてなかった……」
「それに【天空殿】の【幻獣の卵】の中身は……」
「「「「…………」」」」
「最悪だぁあああああああああっ!?」
「これじゃあCFは魔法を連発し放題じゃないか!?」
「うわあああああ!うわあああああ!!」
運営は滅茶苦茶泣いていた。
―――――――――――――――
翌朝。学校にて。
「おはよー、本条さんに白峯さん」
浩は何時ものように教室に入って、いつも通り早く登校している本条と白峯に挨拶すると。
「はっ!?敵!?」
本条が振り返りながら右手を腰に持っていき、左手を突き出していた。
「「…………」」
「……あ」
本条のその行動に浩と白峯は無言。本条がやってしまったという表情となり、ちじこまっていく。
「……完全にゲームの癖が出てるぞ本条さん。今日は本当に気をつけた方がいいぞ」
「う、うん……」
「言ってる傍から何やってるのよ……」
まあ、ゲーム内時間で七日も連続でやっていたのだ。向こうでの習慣が思わず出ても不思議ではない。自身が体感するゲームではわりと最初にやらかす失敗である。
「新垣の方も気をつけた方が良いわよ。現実でも厨二病患者呼ばわりされたくなかったらね」
「分かってるさ。というか白峯さん。俺を厨二病患者と呼ぶな。本当に不本意なんだからな」
白峯の揶揄するような注意に、浩は仏頂面で言葉を返す。
流石にゲーム内時間とのズレで眠気があるが、まだ堪えられるレベルであるし、昔一度反射的にゲームの動きをして以来、そういった事には気をつけているのだ。
そうしている内にチラホラと他の生徒が教室に入ってきたので、浩はさっさと自分の席に向かっていく。
そして、今日は特に気をつけて過ごそうと考えながら一限目の授業を受けていると……
「ん……ん?……ふぁ……もう見張り交代?……あれ?」
本条が伸びをしつつ中々に大きな声でそう言っていた。
「…………」
当然、本条の発言に教室がざわめき、浩は可哀想な目を本条に向ける。
「……授業に集中するように」
「は、はい……ごめんなさい」
その本条は先生に注意されて小さくなっていた。
その日のログインでは―――
「しばらくゲームを休むことにしたんだな、メイプルは」
「うん。今日は四回も失敗しちゃったからね。このままだと本当に支障をきたしそうだったし」
「あれから二回も失敗したのかよ……いや、一つ心当たりがあるけど」
サリーの言葉にコーヒーは何とも言えない表情で呟く。
コーヒーの心当たりとは、三限目の休憩時間で二人が一度教室から出て、帰ってきた時に件の人物が俯いていた時だ。
「三回目はCFの時と同じ失敗よ。それで、今日はCFはどうするの?」
「……資金稼ぎに素材集めに没頭しようかと。新しい装備の出費でカツカツなので」
また同じ失敗をしたメイプルに内心で同情しつつ、コーヒーは今日の予定を伝える。
例の装備品の出費で財布の中身は三桁。流石に寂しすぎる。
「……一体いくら使ったのよ?」
「例の素材を加えると最低1000万。二つだから2000万だ」
「……うわぁ」
サリーが分かりやすくドン引きしている。
そりゃそうだ。オーダーメイドでも装備一式で100万なのに、装備一つだけでその十倍の値段がかかっているのだから。
「メイプルも似たようなアイテムを持っていたから、今後の参考に伝えておいた方がいいぞ」
「そうね。メイプルが戻ってきた時に話しておくわ」
「そんなことしなくても現実で連絡……あ、無理か。下手にゲームの情報伝えたら、またやらかしかねないか」
「理解が早くて助かるわ」
その後、幾ばくか話し合った後、コーヒーはサリーと一緒に資金稼ぎをするのであった。
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