メイプルがログインしなかった三日間、ゲームに新しい要素が追加された。
一つ目は防御貫通攻撃に対抗できるスキルの追加。これは【クラスタービット】にもあるが、今回追加されたスキルは常時発動するものではない。
まあ、常時発動なんかにしたらメイプルが止められなくなるからそんなスキルは出てこないだろうが。
二つ目は……【ギルドホーム】の追加、否、解放である。
この階層の建物は、NPC関連を除けば全部中へ入ることが出来ないものだったが、その理由が今回の為のものであったのなら説明がつく。
【ギルドホーム】は、新しくフィールドに現れた【光虫】という金色の虫のモンスターを倒すことで、確定でドロップする【光虫の証】を使うことで購入する権利を手に入れることが出来る。
【ギルドホーム】があるとステータスアップの恩恵があるので、実装されてすぐに多くのプレイヤー達はギルド設立の為に動いていた。
しかし、【光虫の証】には限りがあり、加えてランクもあるようで、ランクは虫の種類によって変わっていく。それだけではなく【ギルドホーム】の購入には500万もかかるのだ。
その為、ギルドのメンバーは仲の良い者達や派閥のような集団で構成されたものが多く、真っ先に設立して有名となったのが、第一回イベントから存在していた大きな集団がそのままギルドへ移行した【炎帝ノ国】と、ペインを筆頭とした上位プレイヤー達が集った【集う聖剣】の二つである。
そんな新要素にプレイヤー達が賑わう中、コーヒーはイズの店に来ていた。
「イズさんはまだギルドに入っていないんですね。てっきりあちこちから来る誘いの一つに乗っているとばかり思ってましたが」
「そうなのよ。確かにあちこちから誘いはあるけど、正直悩んでいるところなのよね。そういうコーヒーは?トッププレイヤーの一人だから色々な人達から勧誘を受けているんじゃないの?」
「確かに俺もあちこちから誘いは受けてますが、今のところは断ってますね。ぶっちゃけメイプル次第といった感じです」
運営からのギルド要素が追加されたという通達が来た後、コーヒーはサリーと共に光虫を狩り、【ギルドホーム】購入の資金集めをしていたのだ。
最も、【ギルドホーム】の購入費を出すのはサリーで、コーヒーはサリーの方にドロップアイテムを多めに譲っていたが。
そのかいあって、コーヒーのゲーム内の財布は七桁代にまで戻り、サリーは【ギルドホーム】を買っても十分なお釣が返ってくるまでに稼げた。
サリー曰く、メイプルはこういう面白そうなものには絶対に食いつくとのこと。もしメイプルがギルドを作るなら、コーヒーはそこに入るということでサリーと話し合っていた。
「まあ、それより……完成したんですよね?新装備」
「ええ。つい他の依頼をそっちのけにしちゃったから早く完成したわ」
イズはそう言って、カウンター前にレンズが薄い紫のサングラスと紫のラインが入った黒い矢筒を置く。
コーヒーは早速サングラスと矢筒を装備する。矢筒は肩でなく腰にではあるが。
ピロリン♪
『オーナー登録されました。以降は他者への譲渡は不可能となります』
「……へ?オーナー登録?」
装備した矢先の通知にコーヒーが困惑していると、イズが苦笑しながら説明を始めていく。
「それらの装備は一度装備すると装備したプレイヤーにしか使えなくなるのよ。それに、驚くのはまだ早いわ。今装備したものの能力を確認してみて。さっきよりも驚くから」
イズのその言葉に疑問を感じながらも、コーヒーは言われるがままに装備の能力を確認する。
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《幻想鏡のサングラス》【HP+50 MP+20 AGI+40 DEX+30 INT+15】
【破壊不可】
【夢幻鏡】
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《カレイドエビラー》【DEX+5】
【破壊不可】
【ミラートリガー】
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「……スキルが付いてますね。それも二つずつ」
本来ならオーダーメイドの装備品には付かない筈のスキルに、コーヒーは目を丸くして画面を凝視してしまっている。
そんなコーヒーに、イズは笑いを堪えながら説明を続けていく。
「そうなのよ。製作する時に分かったことだけど、素材の【幻想鏡の欠片】はスキルが付与されるレアアイテムだったのよ」
「スキルが付与される素材……相当レアな素材だったんですね」
「ええ。たぶん、今後のアップデートでスキルを付与できる素材自体は出てくるでしょうけど……コーヒーが手に入れたようなアイテムは早々出ないでしょうね。その二つは【強化】が出来ないから、はっきり言ってオーダーメイドによるユニーク装備ね。おかげで経験値も本当にすごかったし、その二つだけでレベルが三つも上がったわ」
「本当にご満悦ですね……」
「当たり前よー。間違いなくこの装備品は私の中の最高傑作に入るものだし、そんな凄い装備を作れて大満足だったしね。ついでにスキルの方だけど、【夢幻鏡】はスキル発動の五秒以内に攻撃を受けると、それを無効化して半径10メートル以内の場所に任意でAGIを無視して瞬時に移動できるのよ」
イズの説明を聞きながらコーヒーはスキルを確認していく。
あの偽物が使っていた【夢幻鏡】はリキャスト時間5分、使用回数は3回と少ないが相当強力なスキルであることには違いない。
「次に補助装備のスキル【ミラートリガー】だけど、これはコーヒーにとって相当強力なスキルね。クロスボウ装備時にしか効果を発揮しないけれど、矢を発射してから0.5秒後に自動で次の矢が発射できる状態になるスキルね」
「【夢幻鏡】以上にヤバいスキルですね……完全に弾切れ無しの銃じゃないですか」
「本当にそうよね。最後の【破壊不可】は文字通りのスキルね。おかげで整備しがいがないわ」
「あはは……」
イズのその言葉にコーヒーはが苦笑いしていると、サリーからの通知が来る。
内容は予想通り、ギルドに関することでメイプルもギルドを設立したとのこと。メンバーにカスミとカナデを誘ったから、コーヒーも噴水がある広場に来るようにとのことだった。
「メイプルちゃんもギルドを作ったのね。メイプルちゃんのギルドかぁ……すごく面白そうね」
「……もし良かったらメイプルのギルドに入ります?」
「いいのかしら?」
「まあ、まずは本人達に確認ですね」
コーヒーはそう言って、『イズさんは現在フリー。メイプル達さえ良ければギルド加入を希望』というメッセージをサリーに送信する。
そしたら一分もしない内にメイプルから大歓迎のメッセージが届いた。
「どうやら大丈夫のようです」
「そっかー。じゃあ、一緒に行きましょうか」
こうしてイズもメイプルが設立するギルドに加入することが決まり、一緒に集合場所である広場へと向かっていく。
数分で広場に着くと、既に噂の人物達が集まっていた。
「コーヒーくん!イズさん!」
「久しぶりねメイプルちゃん。歓迎してくれてありがとね」
「少し遅かったか?そっちの赤いのが……」
「カナデだよ。話はメイプル達から聞いてるよ。よろしくね、CF」
初対面から略称で呼ばれたコーヒーは思わず体を硬直させてしまう。
「あれ?違っていたのかな?カスミが君のことをCFって呼んでいたし、なんか響きがカッコいいからそっちで呼んだんだけど」
「ああ、いや……間違ってはないんだ。間違っては……」
コーヒーは不本意な略称呼びが本当に定着しつつあることに肩を落としながら、カナデと握手を交わす。
「というかクロム。お前も一緒だったんだな」
「ああ。と言っても、誘われたのはついさっきだからな」
どうやらクロムもメイプルのギルドに誘われたようである。
一通りの挨拶を終えた一同は、サリーが待っている【ギルドホーム】へと向かっていく。
メイプルが選んだ【ギルドホーム】は大樹を加工して作った、天然の隠れ家のような建物だった。
「ただいまー!」
「おかえり、あれ?イズさんはともかくクロムさんも一緒だったんだ」
「偶然会って、入ってくれるって!」
「じゃあ全員登録しちゃおう」
サリーの言葉で、コーヒー達はそれぞれ奥の部屋にある青いパネルに入力し、ギルドへの加入を済ませていく。
「そういえば……ギルドの名前を決めないとね」
「ギルドマスターはメイプルだから、メイプルが決めたらどうだ?」
「そうだね、僕も賛成だよ」
「ああ。私もそれがいいと思うぞ」
「そうね、皆メイプルちゃんが理由で集まったものだし」
「そうだな、俺も同じ意見だ」
全員からそう言われ、メイプルは顎に手を当ててギルド名を考えていく。
しばらくして思いついたのか、メイプルは青いパネルを操作し、振り返って宣言した。
「【楓の木】!私達のギルドの名前は【楓の木】にしました!」
「【楓の木】か……良い名前だね」
「ええ。【ギルドホーム】の外見にもぴったりね」
ギルド名にイズとカナデは称賛の言葉を送り、コーヒー達も頷いて賛成の意を示す。
「それじゃ早速……シロップ!【覚醒】!」
メイプルが《絆の架け橋》が着いている手を掲げ、その場にシロップを呼び出す。
メイプルのその行動に、サリーとコーヒーは理由をすぐに察してそれぞれの手を掲げた。
「朧!【覚醒】!」
「ブリッツ!【覚醒】!」
サリーとコーヒーも互いの相棒を呼び出し、朧とブリッツもシロップがいる机の上に降り立つ。
「あら、可愛い子たちね」
「そうだね、すごく可愛いよ」
「おいおいちょっと待て!メイプルちゃんはともかく、サリーちゃんとコーヒーもかよ!?」
クロムだけが泡を食ったような表情となる中、コーヒー達はテイムしたモンスターの紹介をしていく。
その流れで、例の空の旅も話した際―――
「空の旅かー。僕も一緒に堪能してみたかったよ」
「メイプルちゃんもそうだけど、コーヒーもやっぱり普通じゃなかったな……」
「味方だから別にいいんじゃないかしら」
三者三様の反応をするのであった。
こうして、メイプルが設立したギルドは少人数のギルドとして活動していく。
そして後に【人外魔境】や【魔界】、【厨二の源泉】などとと呼ばれたりするようになるが、それはまだまだ先のことであることも、コーヒー達は知るよしもなかった。
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