【聖刻の継承者】もコーヒーが今まで取得したスキルと負けず劣らずのスキルだった。
発動中は一分ごとにHPが3%減少し、回復効果も受け付けなくなるリスクがあるが、それを差し引いても強力なスキルだった。
まず一つ目がHPとMP以外の全ステータスの強化。上昇値は1.5倍である。
二つ目は自身が取得しているスキルの強化。
これはスキルのリキャストと硬直時間が半分となり、魔法に至っては消費MPが5%減少して威力と効果が凡そ二倍となる。威力に関しては攻撃スキルも同様だ。
三つ目はスキル発動中の状態異常に対する耐性の一段階引き上げ。持っていない耐性は付与され、既に持っている耐性は一段階上に強化されるのだ。
四つ目はMPの自動回復。これは1秒ごとに1ずつ回復する。明らかに魔法使い向けのスキルである。
五つ目は一部スキルの限定進化。【聖刻の継承者】発動中、コーヒーの場合は【魔槍シン】が【聖槍ファギネウス】に進化する。
【聖槍ファギネウス】はMPを200消費して発動する攻撃スキルだ。攻撃方法は【魔槍シン】と同じだが、範囲と威力は限界までHPを犠牲にした【魔槍シン】よりも上。しかも、スキルによる攻撃や防御、もしくはプレイヤーに直接当たると一定確率で相手の所有スキルを一時間【封印】状態にするのだ。加えて、アンデット系モンスターに対しては威力も効果も二倍となる。再使用可能となるのに20分要するが、回数制限は無いから相当強力である。
後、これは【魔槍シン】も同じなのだが、攻撃方法は空からの掃射以外にもガトリングガンのように地上から放つこともできる。こちらは槍を自身の周囲に召喚するため少なからず隙が生じるが、狭い場所やダンジョン内であっても問題なく使えるのである。
さすがにMPの消費量が【クラスタービット】程でないにしろ多い為、進化前の【魔槍シン】を《雷霆のクロスボウ》のスキルスロットに付与した。スキルスロットに付与してもちゃんと進化することに安堵したのは内緒である。
ついでにスキル発動中は瞳は金、髪は水色に変化し、背後には例の紋様―――槍十字の聖刻が顕れる。益々厨二臭くなったことにコーヒーのメンタルが傷ついたのは言うまでもない。
後、このスキルは何回でも使えるがリキャスト時間は使用を止めてからの三時間なので気楽には使えない。
もう一つ、これは【避雷針】と【グロリアスセイバー】に関することだが、インベントリを確認した際に【聖刻の道標】だけでなく【避雷針】による臨時のMP回復アイテムまで無くなっていたのだ。
これは推測だが、【避雷針】は魔力タンクに近い回復アイテムとなる為に、MPをすべて消費する【グロリアスセイバー】の糧となってしまったのだろう。意図せず最強魔法の更なる威力上昇にコーヒーは思わず苦笑いしてしまったのも言うまでもない。
ちなみに運営はその事実に気づいて少々慌てたが、今さらだと気づいて修正することはなかった。
そんなメイプルに負けず劣らずのパワーアップを果たしたコーヒーは現在、ギルドホームの広場で寛いでいた。
「……クロムも【普通】から足を踏み外したんだな。後、レア装備入手おめでとう」
「おう、ありがとうよコーヒー。俺もメイプルちゃんのお陰でユニークシリーズ持ちになったぜ」
今までの装備から一転して、血に染まったように赤黒い装備一式に身を包んだクロムは素直にコーヒーの称賛を受け取る。
クロムはコーヒーが例のクエストを受けていた頃、自身の存在意義に悩んでいたそうだ。
まあ、端から見ればクロムはメイプルの劣化版にしか見えないから当然かもしれないが。
というか、大盾で火力がある方が異常なのだが。
そんなクロムにメイプルが手助けになればと、シロップを貸したのだ。流石に警戒心が薄いメイプルの行動にコーヒーが頭を押さえたのは言うまでもない。
その事もクロムはもちろん、サリーも注意したことで今後は控えるだろうが。
「本当に呪われそうな外見だな」
「言うなよ、俺も同じことを思っているんだからよ……それでもメイプルちゃんやお前と比べたらマトモに見えちまうけどな」
クロムの全く間違っていない言葉にコーヒーは無言で目を逸らす。
先日なんて、短いメンテナンスで実装されたスキル【毛刈り】と一部のエリアに羊が現れた当日に、メイプルが羊毛を作り出すスキルを取得したのだ。
ほぼ間違いなく、羊を食べて得たスキルであることにコーヒーは頭痛を覚えたのは言うまでもない。
「それよりも第三回イベントだな。今回は期間限定のモンスターが落とすアイテム集めだからな」
「【楓の木】は小規模だから必要個数が少なくて済むけど……メイプルにはキツイイベントだな」
なんせメイプルは防御の極振り。シロップで移動しても他のプレイヤーより足が遅いから狩りの効率が悪い。
「コーヒーは遠距離武器だからこのイベントに結構向いてるよな」
「まあ、いざとなったら【クラスタービット】に乗って駆け回れば十分に狩れるからな。…………」
「ん?どうした?急に黙ったりして?」
「いや……そのイベントでメイプルがまた何かやらかしそうな気がして……」
「いやいや、流石にそれはないだろ」
「だよなー」
「「はははははは」」
そうしてクロムとコーヒーは互いに笑い合う。
……後日、その予感が的中することを知らずに。
「そういえば最近は魚が空を飛んでいるなんて噂が広がっているが、それも何かの見間違いだろ」
「何言ってんだよクロム。魚が空を飛ぶなんて……亀のシロップだけで十分だろ」
「はは、確かにな」
―――――――――――――――
―――イベント初日。
コーヒーは【クラスタービット】に乗ってフィールドを駆け巡り、赤色の牛を見つけては片っ端から倒しまくっていた。
「……完全に作業ゲーだな。流石につまらなくなってきた」
蒼銀の板の上で胡座をかいて空を飛んでいるコーヒーはつまらなそうに呟く。
第三回イベントの期間は一週間もある。
コーヒーは今回のイベントで手に入るスキル、遠距離攻撃の射程を1.5倍にするスキル【スナイパー】と属性攻撃の威力を1.2倍にするスキル【属性強化】を取得する為にも赤牛を狩り続けなければならない。
「流石に纏まった数がいないから、新スキルの出番は無さそうだけどな」
赤牛はクロスボウの矢を二、三発当てるだけで倒せる程弱い。そんな相手に【魔槍シン】は流石にオーバーキル、否、スキルの無駄使いとなってしまう。
特に【ミラートリガー】で引き金を引くだけで矢を放てるのだから、大群でもない限り使う必要がない。
今回は必要な分だけ稼いだら、後はボチボチやってブリッツの育成に力を注ごうと考えた。【狩人】のスキルでドロップ数も一つ追加されるからポイントとなるアイテムも比較的稼ぎやすい。
「ん?サリーからのメッセージか?」
『CFは遠回しに言う必要がないからはっきり言うけど、脱線してぶっ飛んだ行動を起こさないでよ?』
「余計なお世話だ……っと」
本当に失礼なメッセージを送ってきたサリーにコーヒーは顰めっ面で返信する。
実際、コーヒーが手に入れたスキルはどれも凶悪なものばかりだ。
流石にお披露目こそしなかったが、スキルの内容を聞いたサリー達は一部を除いて遠い目となっていた。
『雷、盾の次は槍の弾幕かー……』
『表現としちゃあ間違っちゃいないな……うん』
『メイプルもそうだが、CFも大概おかしいな……』
『次はどうなるんだろうねー?』
『味方ならいいじゃない……味方なら』
『空から振り注ぐ槍……カッコいいよ!』
これが一同の感想である。
そんなことを思い出しながら、コーヒーは赤牛を探しに行くのであった。
―――――――――――――――
「はぁああっ!」
全身を白と青で構成された甲冑に身を包んだプレイヤー―――ギルド【集う聖剣】のギルドマスター【聖剣】ペインが赤牛の群れを両断する。
赤牛達はその一振りだけで光となって消え、イベントアイテムをドロップする。
「……ふぅ、この辺りのイベントモンスターはだいぶ倒したな。そろそろ場所を変えるべきかな?」
ペインは後ろを向き、笛のような短杖で綺麗な音色を響かせている少女に問いかける。
その少女の見た目は紫の髪に灰色の目、巫女服を連想させる服装に身を包んでいる。
その少女は横笛のように構えていた短杖を下ろし、音色を止めて頷く。
「イエス。イベントモンスターもだいぶ数が少なくなってきたようです。【呼集の旋律】で近づくイベントモンスターが減ってきているので」
「そのスキルで他のモンスターも集まってしまったけど……いい鍛練になるよ」
「役に立って何よりです。私は他のギルドメンバーと比べてレベルが低いですので」
「おいおい。そのレベルが低い相手に負けた俺は何だっていうんだよ?」
そんな言葉と共に藪を掻き分けるように現れたのはゴツい体をした大斧使いの男性プレイヤーだ。その隣には魔法使いらしい装備に身を包んだ金髪の女性プレイヤーもいる。
「そうだよー、サクヤちゃん。周りを納得させる為の入団テストで第一回イベント五位のドラグに勝ったんだから、もっと自信を持ちなってー」
「ノウ。あれは私の作戦が綺麗に嵌まっただけです。マトモに戦えば、負けるのは私です」
「そのマトモに戦わせなかったお前が言うことかよ……あの時は本当に焦ったぜ。なんたって、STRとVITが0になっちまったんだからな」
「私もサクヤちゃんと戦うのは遠慮したいなー。だって、決まったら私のINTが0になって手も足も出なくなっちゃうからねー。そのスキルも含めて、サクヤちゃんのスキルは本当に凄すぎるよ」
金髪の女性プレイヤーの言葉に、サクヤと呼ばれた少女は頭を振って否定する。
「ノウ。このスキルも当然ながらリスクがありますし、容易く何度も使えません。二回も使うのはかなり危ない橋です」
「それでもサクヤちゃんがいれば、メイプルちゃんは何とかなるよー。なんたって、サクヤちゃんのそのスキルは極振りプレイヤーにはまさに天敵だからねー?」
「……そうやって貴女が調子に乗ると、必ず失敗するので安心出来ません。先日、モンスタートレインにまんまと巻き込んでくれたバカデリカさん」
「ちょっ!?酷いよサクヤちゃん!確かにあれは私が悪かったけど!」
「バカデリカか……語呂がいいな」
「……確かに」
「ペインとドラグまで!?私はフレデリカだから、間違っても使わないでよね!?」
サクヤの罵倒にペインとドラグと呼ばれたゴツい体をしたプレイヤーは頷き、フレデリカと名乗った金髪の女性プレイヤーは本気で抗議する。
「ノウ、プロブレム。語呂のいい呼び方は他にもあるので大丈夫です」
「……素敵な語録の呼び方もあるよね?」
「ノウ。今のところは評価を下げるものだけです、まな板デリカさん」
「……あ?誰がまな板だって?サクヤちゃんだって大してないくせに」
「ソーリィ。この服は着痩せするのでそこそこあります」
「……ムキィーッ!!」
女の喧嘩ほど面倒かつ恐いものはない。
ペインとドラグは、少しして合流したドレッドと共に我関せずを貫くのであった。
【集う聖剣】側にオリキャラ登場です
テコ入れしとかないと、一方的になるから……ね?
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