第三回イベントも無事に終わった後、【楓の木】のメンバー全員が集合していた。
「はぁー……疲れた」
「ああ……私もだ」
サリーは椅子の背もたれに預け、カスミは机に突っ伏して疲れを露にしている。一部を除いてほとんどのメンバーは大小なりとも疲れ切っていた。
「というかCF……ギルド内で一番牛を多く倒したのに、どうしてあんまり疲れてないのよ?」
「移動は基本【クラスタービット】だったからな。上空からクロスボウで撃てば、比較的楽だったし……イベントとは別で精神的に疲れたけどな」
ジト目を向けてくるサリーに、求めたスキルはしっかり手に入れたコーヒーはミキのことを頭に浮かべながら溜め息を吐く。
「イベントとは別だと?今度は一体何をやらかしたんだ?」
「勘違いすんなクロム。俺が何かしたんじゃない。メイプル並みにおかしなプレイヤーに会ったからだ」
クロムの言葉に反論しながら、コーヒーはミキというプレイヤーのことを話していく。
「……それは釣りじゃないだろ」
「【釣り】の定義が明らかにおかしいわよ……」
「ああ。釣りでポーションや爆弾はもちろん、地上のモンスターも釣れはしない」
「面白いからいいじゃない……面白いから」
「うん。その人も面白そうだね」
「空を飛ぶお魚さん……会ってみたい!」
これがコーヒーの話を聞いた一同の反応である。
「一応フレンド登録してるから、呼ぼうと思えば呼べると思うんだが……どうする?」
「お願いコーヒーくん!」
メイプルの一言でミキの招待が決定し、コーヒーはミキにメッセージを送る。
二分後、ミキからまだ町にいるから今から行くというメッセージが返ってきた。それから十分後、ギルドホームの扉が開き、釣竿片手にミキが入ってきた。
「お招きありがとねー。コーヒーから聞いてると思うけどー、ボクの名前はミキ。ただの釣り好きのプレイヤーさー」
相変わらずの呑気な口調で自己紹介するミキに、コーヒーは苦笑いの表情を浮かべる。
メイプル達も互いに自己紹介し、あっという間に打ち解けていく。
「この子も紹介するねー。ジベェ、【覚醒】ー」
ミキが空色の指輪が嵌められている手を掲げると、シロップ達と変わらない大きさのジンベエザメ―――ジベェが現れる。
呼び出されたジベェはそのまま地面に落ちることもなく、ふわふわと宙を浮いて漂っている。
「こいつが噂の空飛ぶ魚か……」
「まあ、魚だからな。浮けなかったら地面でピチピチするだけになるからな」
クロムとカスミが泳ぐように顔を横切るジベェに呆れを含んだような視線を向ける。
「せっかくだから……シロップ!【覚醒】!」
「朧!【覚醒】!」
「ブリッツ!【覚醒】!」
メイプルを皮切りに、それぞれのテイムモンスターを呼び出すと、ジベェはシロップ達と仲良くじゃれあっていく。モンスター仲も良好そうだ。
「君達も連れていたんだねー。ジベェが嬉しそうにみんなとじゃれあってるからー、時々此処に遊びに来てもいいかなー?」
「うん、いいよ!いいけど……良かったら私達のギルドに入らない?」
「いいのー?ボクは釣りしかできないよー?」
「いいよ!私のギルドは楽しければいいから!」
「じゃあー、お言葉に甘えてー」
メイプルの勧誘を素直に受けたミキは、奥のパネルを操作して正式に【楓の木】へと加入した。
……運営にとっての頭痛の種が増える結果となったが。
「改めて自己紹介するねー。ボクはミキ。今日から【楓の木】に入った道楽プレイヤーさー。釣りしかできないけどー、イベントではみんなの役に立てるよう頑張るからさー、これからよろしくねー」
「改めてよろしくね、ミキちゃん!私がギルドマスターのメイプルです!」
「呼び捨てでもいいよー?見た目だけだけどー、年も近そうだしー」
「年が近い……」
メイプルはそう呟くと、ミキの体のとある部位に視線を向ける。サリーに至っては顔を俯けて無言である。
「んー?どうしたのー?」
「……羨ましいよ」
「?何がー?」
メイプルの消えかけの蝋燭のような小さい呟きに、ミキが不思議そうに首を傾げる。
カスミとイズはその意味を察して苦笑い。カナデは素で首を傾げている。
コーヒーとクロムは何を言っても地雷となるので、この件に関してはノーコメントを貫く姿勢だ。
「これで八人だな。普段のパーティーで組める人数の上限だな」
「そうだな。また明後日の方向に飛びそうだけどな」
「それも今さらだろ。というか、その明後日の方向に飛ばす片棒を担いでいるお前が言える台詞じゃないだろ」
「クロムも人のことは言えないだろ」
その後、今回のギルド報酬の話となった際、メイプルがまた何かやらかした事を察し、近々追加される第三層へ行く為のダンジョン攻略でお披露目という事になるのであった。
―――――――――――――――
第三層が追加された日から少しして【楓の木】のフルメンバーは三層に続くダンジョンにやってきていた。
道中はコーヒーとサリー、クロムとカスミの四人をカナデが支援する形で十分に進めている。
メイプルは一切戦闘に参加することなく、イズとミキを守ることのみに集中している。
「わー、この洞窟も色々釣れるねー。今度は大きな樽だよー」
そのミキは地面に釣糸を垂らしてアイテムを釣り上げるという謎行動を起こしていたが。
「その大樽は何て言うの?」
「【樽爆弾】だってー。投げても自動で爆発しないかわりにー、威力が絶大だって書いてあるよー」
「なるほどね……要するに火薬庫みたいなものね」
……かなり物騒なものを釣っている?気がする。
「ミキちゃん。よかったらそれ、譲ってくれない?いざと言う時の護身用に使えるかもしれないから」
「いいよー。他にも色々あるよー。【毒煙玉】、【パラライスボム】、【爆撃砲】、【捕縛網】……選り取りみどりだよー」
「……名前だけでも物騒さが分かるアイテムだな」
「たまにモンスターも釣れるけどな」
ミキの口から告げられるアイテム名に、コーヒーとクロムは遠い目で呟く。
地面からゴーレムが釣れた時なんか、コーヒーとサリーは勿論、クロムとカスミ、カナデとイズまで口をあんぐりと開けて呆然としてしまったのだから相当である。
そのゴーレムはメイプルの【悪食】で瞬殺されたが。
「次は何が釣れるんだろうね?」
「んー。モグラやトカゲが釣れるのも面白いけどー、コウモリさんが出ても面白いよねー」
「宝箱はでてくるかな?」
「ミミックだったら出てくるかもねー、っとー、また釣れたよー」
メイプルと呑気に話しながら、ミキはまた何かを地面から釣り上げる。
釣り上げたのは……宝箱だ。
「おおおおっ!言ったそばから!」
「中身は何かなー?……わー、金銀一杯の財宝だー」
「やったー!ギルドの運営資金の足しになるよ!」
換金アイテムを釣り上げたことに、万歳して喜び合うメイプルとミキ。
対象的にコーヒー達は何とも言えない表情となっている。
「……やっぱりミキの釣りはおかしい。釣りでそんなものは釣れない」
「そうね……明らかにおかしいわ」
「ああ。むしろ、こんな場所で釣りをすること自体が異常だ」
「いくらゲームでも世界観壊し過ぎだろ……」
「おいしい思いが出来てるからいいんじゃないかしら?」
「次は何を釣り上げるんだろうね?」
ボス部屋に到着する前から精神的に疲れてくるコーヒー達だが、それでもまだ受け入れようと努力していた。
だが、ボス部屋に到着し、現れたボスをメイプル一人で対応した際、メイプルが見事にやらかしてくれた。
「影より出でるは混沌の遣い その昏き顎で近づく物を噛み千切れ―――【捕食者】!」
メイプルが口上告げてスキルを発動した途端、メイプルの周りから凶悪そうな三匹の化け物が姿を現す。
「溢れる混沌よ 我が意に従い 我に仇なす者を喰らい尽くせ―――【滲み出る混沌】!」
それが合図のように三匹の化け物が一斉にボスモンスターに噛みついていく。
樹木の姿をし、幹部分が顔となっているボスモンスターはどんどんHPを削られていく。ボスモンスターは抵抗しようにも攻撃が激しくて抵抗出来ていない。
「……どう見ても、モンスター……だよな?」
「そうかー……そんな感じかぁ……」
「天使の次は化け物かー……」
「CFも大概だが、メイプルも見る度に付属品が増えているのは何でだろうな……」
「平常運転で安心したよ」
「食欲旺盛なウツボさんだねー」
「もう味方ならいいわ……味方なら」
約一名は平常運転だが、コーヒー達は何かを悟ったようにメイプルの進化を受け入れようとしていた。
だが、それもすぐに吹き飛ばされた。
「止めは……我が身に宿るは悪魔の化身 我が呼び掛けに応え この身を依り代にして具現せよ―――【暴虐】!」
そう告げた途端、メイプルの体が黒い光に包み込まれる。
そして、真っ黒な太い光の柱が天に向かって伸びると、手足を生やした、メイプルが呼び出した化け物そっくりの巨大な化け物が黒い光の柱の中から現れた。
「「「「「「……………………」」」」」」
「おー、メイプルがサンショウウオみたいな姿になったよー」
約一名だけ、本当に約一名だけが平常運転の中、絶句するコーヒー達の目の前でメイプルらしき化け物がボスモンスターを蹂躙していく。
噛みつき、口から火を吐いて、爪で切り裂き、蹴り砕き、喰らっていく。
やがて、ボスモンスターは化け物によって倒されるのであった。
「「「「「「……………………」」」」」」
『いやー……これ操作が難しいよー!』
「へー、そうなんだー。どんな感じー?」
『大きい着ぐるみの中で動いてるみたいな感じかなー?』
メイプルらしき化け物はそう言うと、化け物の腹部が裂けてそこからメイプル本人が落ちてくる。
メイプルが化け物から出てくると、化け物は崩れて消えていった。
「えっと……出来る範囲で説明してくれると嬉しいんだけど……」
流石のサリーも今回の化け物は許容範囲を超えてしまったらしい。
というか、あれは余裕で許容範囲をオーバーする。どこぞの衝撃映像にでも出したら間違いなく上位にランクインすると確信できるほどだ。
「えっとね……あれは装備の効果が全部無くなる代わりにSTRとAGIが基本は50増えて、HPも基本は1000になって、HPが無くなっても元の状態に戻るだけっていう……後、一日1回しか使えないかな」
「……【口上強化】した場合は?」
「全体的に1.3倍くらいかな?」
「その姿で泳げるかなー?」
「んー……沈むと思うよー」
「そっかー。見た目がサンショウウオだったからー、水の中もスイスイ行けると思ったんだけどねー」
あれをサンショウウオと表現して平常運転を続けるミキに、コーヒー達は疲れたように溜め息を吐く。
「……遂に人間を辞めたのか、メイプルちゃん」
「ああ、辞めたな……この上なくな」
「メイプルもだが、平然としているミキの方がある意味おかしい」
「そうね……あれをサンショウウオって表現するミキは絶対に普通じゃないわ」
「私でもこれが普通じゃないことくらいわかるわ……」
「うん……僕でもそう思うよ」
取得してしまったものは仕方ないといった心境で諦め、コーヒー達は三層に向かって歩いていく。
三層の町は曇り空に覆われた、機械と道具の町だった。
しかも、空ではプレイヤー達が多様な機械よって空を飛んでいる。
この階層もまた癖が強そうだと感じながら、コーヒー達は第三層にあるギルドホームに向かうのであった。
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