「電気が迸っているなぁ……どう見ても電撃系統のダンジョンだよな、ここ」
洞窟内に入って30分。パチ、パチッと電気が壁や天井、床のあちこちで弾けている光景にコーヒーは呆れ気味に呟く。
道中では、電気を帯びた椋鳥や狼、エレキスライム等の完全に雷一色のモンスターを駆逐しつつ、奥へ奥へと進んでいた。
道中のモンスターを倒したことで、コーヒーの今のレベルは23である。
「おおぅ。足場が結構悪いな」
少し拓けた場所に辿り着くと、そこは高低が激しく、極太の杭のような岩の足場があちこちに点在し、底が暗くて全く見えない場所であった。
試しにそこら辺の石を落としてみるも、音は聞こえてこない。おそらく落ちたら一発でアウトだ。
「向こうには大きな扉があるし……たぶん、あれが最深部の扉なんだろうな」
コーヒーはそう結論づけて、クロスボウを天井に向けて構える。
「【アンカーアロー】」
水色のエフェクトに包まれた矢を発射すると、矢尻には一本の水色に光るロープがクロスボウにくっついたまま、天井へと突き刺さる。
【アンカーアロー】はMPを消費することで遠くのアイテムも取ったり、ロープを伝って移動したりできるスキルだ。効果時間は最大30秒で、敵に当ててもダメージは一切与えられないが、連続で使用可能な使い勝手の良いスキルである。
コーヒーは時間も短いことから、ロープをグッ、グッと引っ張り、助走をつけて一気に跳んだ。
どこぞの映画の如く、勢いよくロープで移動するコーヒー。ちょうど振り切れたタイミングでロープが消失し、その勢いのまま、件の扉の前へと辿り着いた。
「よっと。タイミングぴったしだな」
ロープが消えるタイミングも利用して扉の前に辿り着いたコーヒーは、改めてその扉を見やる。
大きさは、コーヒーの身長の3倍だ。
コーヒーはステータスポイントを【STR】に1、【AGI】と【DEX】に2ずつと割り振る。
「さて、行きますか」
準備を終えたコーヒーは扉に力を込め、ギギギという音と共に両開きの扉を開ける。
部屋の中は、幾つもの大きな岩が電気を帯びて宙に浮いている。部屋の中央にはボスモンスターらしき存在が静かに佇んでいた。
「……どう見ても麒麟だよなぁ」
扉越しに確認したコーヒーはボスモンスターを見てそんなことを呟く。
背丈はおよそ三メートル。
形は鹿、顔は龍、牛の尾と馬の蹄、背中に鱗と額の一本角。
どう見ても麒麟である。
クロスボウを構えたコーヒーは少し呆れたように部屋の中へと入る。
部屋の中へと入った瞬間、後ろの扉が勢いよく閉まる。
同時に、部屋の中央にいた麒麟の全身が蒼い雷に覆われた。
「いきなり戦闘開始か!」
コーヒーは不敵に笑いながら先手必勝と言わんばかりに矢を放つ。
放たれた矢は麒麟の頭部に直撃。
しかし、矢は弾かれ、麒麟のHPバーは一切変化しなかった。
「ダメージ0!?」
まさかのダメージ0という事実にコーヒーは驚愕する。てっきり10くらいは与えられると思っていたのだが……
そんなコーヒーの驚愕を他所に、麒麟は自身の頭上に雷の槍を形成。それをお返しとばかりにコーヒーに向けて飛ばしてくる。
「おっとぉ!」
コーヒーは横に飛んで雷の槍をかわし、【連射】を使って六連射の矢を麒麟に向けて放つ。
だが、それを麒麟は軽快な動作で地面を蹴って飛び上がり、宙に浮く岩を足場代わりして飛び続け、簡単にかわしてしまう。
「小柄で機動力が高いとか……本当に厄介だろ」
宙に浮かぶ岩に降り立った麒麟にコーヒーは乾いた笑みを浮かべて見やる。
そんなコーヒーを卑下するように見つめていた麒麟は、自身が纏う蒼い雷を一際強める。
直後、麒麟は残像が見えるではないかという迅さで足場を蹴り、突撃してきた。
「危なっ!?」
コーヒーは咄嗟に横に飛んで、麒麟の突進を回避する。
かわされた麒麟は地面を削りながら制止して振り返ると、今度は幾条もの電撃を飛ばしてきた。
「うおおおおおッ!?」
コーヒーは地面を転がりながらも、自身に向かって襲いかかってくる雷撃をギリギリで回避していく。
コーヒーはカウンターの要領で矢を放って麒麟に当てるも、HPバーには一切の変動はない。
「【砕衝】!」
コーヒーはノックバック効果のある、爆発系の射撃スキルで麒麟の足下へと撃つ。
着弾。爆発。
爆発の衝撃でもうもうと煙が立ち込めるも、その煙を切り裂くように一本の雷の刃が突きだし、そのまま垂直に振り下ろされた。
「【跳躍】!」
コーヒーは横に飛んで雷の刃をかわし、スキル【跳躍I】で飛び上がり、近くの宙に浮く岩に着地する。
一本角から雷の刃を形成していた麒麟は、雷の刃を消すと同時に今度は雷の球を形成。最初の雷の槍と同じようにコーヒーに飛ばしてくる。
「【アンカーアロー】!」
迫りくる雷球に嫌な予感感じたコーヒーは【アンカーアロー】を別の宙に浮く岩に当て、一切確認せずに足場を蹴ってそこから離脱する。
その直後、岩に当たった雷球はその大きさを5倍近くに膨張させ、コーヒーが先程までいた足場を崩壊させながら放電した。
「あの麒麟、手数多すぎだろ!?」
多彩かつ、一撃でも食らえば致命傷となりかねない麒麟の攻撃にコーヒーは悪態をつく。だが、言葉とは裏腹に、コーヒーは攻略の為に思考を巡らせていた。
(俺自身の攻撃ではあの麒麟にダメージを与えられない……しかも一撃食らってもアウトになりかねない攻撃ばかり……本当にムリゲー過ぎるだろ)
コーヒーは知るよしもないが、本来は祠に祀られていた金の彫像を手に入れておくことで、目の前の麒麟は弱体化され、今のコーヒーのステータスでも十分に倒せる可能性があるステータスになる。
だが、それをしなかった為に麒麟は弱体化されなかった。
そして、弱体化前の麒麟の強さは―――【毒竜の迷宮】のボスモンスターに匹敵する。
そんな麒麟を前に―――
「だけど―――こいつを倒したら、きっと爽快だろうな」
コーヒーは戦意喪失となるどころか、逆にゲーマーの血を滾らせ、闘志を燃え上がらせていた。
コーヒーは麒麟にダメージを与えられる手段を探すため、まずは定番の方法を試すことにする。
クロスボウの通常攻撃を当てて牽制しつつ、襲いかかる雷撃をかわしながら、麒麟を宙に浮く岩の下へと誘導する。
「【砕衝】!!」
麒麟が宙に浮く岩の下に来た瞬間、コーヒーは赤いエフェクトに包まれた矢をその岩に向けて放つ。
着弾。爆発。
爆発によって砕かれた岩は瓦礫となり、真下の麒麟に目掛けて落下。そのまま麒麟の体に直撃する。
麒麟のHPバーは……微塵も変化しなかった。
「駄目かー……なら、次の手段だ」
コーヒーはその後も矢で麒麟を牽制しつつ攻撃をかわし、思いつく限りの手段を片っ端から試していく。
壁への突進、足場を破壊しての落下、宙に浮く岩を利用しての長距離からの狙撃……
そのどれもが、麒麟に僅かなダメージを与えることなく、すべて失敗に終わった。
「ああ、クソ!本当に強すぎだろ!?」
コーヒーはもうヤケクソ気味に麒麟に向かって矢を放つ。当然、麒麟にはダメージが通らない。
ピロリン♪
『スキル【無防の撃】を取得しました』
その瞬間、スキル獲得の知らせが届いた。
「【無防の撃】……?どんなスキルなんだ?」
コーヒーは疑問を露に、麒麟から隠れて急いでステータス画面を確認すると……
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【無防の撃】
このスキル所有者のSTR・INTが0.5倍となり、相手のVITと軽減効果を無視してダメージを与えられるようになる。
取得条件
一度の戦闘でモンスターにダメージ0の攻撃を百回当てること。
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「……おおう」
頑張った結果、便利なスキルを取得できました。
というか、モンスターにノーダメージを百回って……普通じゃ手に入らないな。うん。普通は諦めてリタイアするのが先だ。
「だが……今はとても有難いスキルだ」
コーヒーはクロスボウを握る手に力を込める。このスキルなら、あの麒麟に確実にダメージを与えられる。
それを確信したコーヒーはすぐさま【ソニックシューター】で麒麟に攻撃を仕掛ける。
散々ノーダメージだったせいか、麒麟は回避行動も取らずに悠然と佇んでいる。
結果、矢は弾かれることなく麒麟の体に突き刺さった。HPバーも僅かに減少している。
「よし!」
初めて攻撃が通ったことに、コーヒーはその場でガッツポーズを取る。初めてダメージを受けた麒麟は、体をブルブルと震わせると、眼を一層鋭くしてコーヒーを睨み付けた。
「さあ、第2ラウンドといこうぜ?」
コーヒーは不敵な笑みを浮かべ、再び麒麟と戦っていく。
先程までと違うのは、麒麟にダメージが通っていること。
コーヒーはようやく掴んだ勝機を逃さぬため、今まで以上に意識を集中していく。
そして、麒麟との戦いが始まって7時間後。
パリン
「やっと倒せたぁ~~。本当に疲れた……」
麒麟が光の粒子となって消え、勝ったと確信したコーヒーはその場で大の字となって倒れこんだ。普段なら連戦を警戒するところではあるが、流石に7時間ものノーダメージ戦闘は相当疲れたのである。
ピロリン♪
『レベルが28に上がりました』
『スキル【雷帝麒麟】を取得しました』
『スキル【麻痺耐性小】が【雷帝麒麟の覇気】に進化しました』
『スキル【
レベルが上がり、新しいスキルも手に入った。
コーヒーは地面に倒れたまま、新しいスキルの確認をすることにした。
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【雷帝麒麟】
MPを消費することで麒麟(雷帝状態)の魔法が使える。ただし、このスキル以外での魔法の消費MPは3倍となる。
すべての攻撃に麻痺とスタンが付与される。
取得条件
麒麟(雷帝状態)を初回戦闘かつ単独で撃破すること。
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【雷帝麒麟の覇気】
麻痺とスタンが無効となる。
VITが10%低下する。
一分ごとにMPが最大値の3%回復する。
取得条件
麻痺耐性を取得した上で麒麟(雷帝状態)を単独で撃破すること。
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【
HP、MP以外のステータスのうち、4つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。
取得条件
HP、MP以外のステータスのうち、4つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。
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「……あの麒麟、倍のステータスを持っていたのかよ」
【
このスキルは【廃棄】するしかないだろう。相手によってステータスが変動していては、逆に枷になりかねない。【廃棄】したスキルを取り直す場合、専用の施設に50万G支払わなければならないので、捨てる時は本当にいらない時だけである。
このスキルを活かせるのは、一つのステータスのみを上げる―――『極振り』だけだろう。
極振りになるとプレイがかなり厳しくなるため、実行するプレイヤーは出ないだろうが。
それよりも、この【雷帝麒麟】と【雷帝麒麟の覇気】というスキルが強力過ぎる。デメリットもあるが、それを加味してもかなり強力なスキルである。
【雷帝麒麟】のスキルを詳しく見てみれば、幾つもの魔法が内包されている。早い話、あの麒麟が使っていた攻撃が使えるということだ。
スキルの検証は明日にして、今日はもうログアウトしようとコーヒーは上半身を起こす。
そこで始めて、宝箱の存在に気づいた。
「宝箱……結構大きいな。もしかして、ボスの討伐報酬か?」
横3メートル、縦1メートル、高さ2メートルほどの長方形の宝箱に、コーヒーは立ち上がって宝箱を開く。
その中身は……
「……ぉおおっ」
コーヒーは感嘆の声を洩らす。
黒を基調として蒼と銀の装飾が施されたクロスボウ。
膝まで長く、蒼と黒のツートンカラーで、袖と背中に迅るようにネオンイエローのラインが施されたコート。
同じく蒼と黒のツートンカラーでネオンイエローのラインが施されたカーゴパンツ。
そして、黒を基調としたブーツが宝箱の中に入っていた。
「見た目だけでも凄そうな装備だ……」
コーヒーは胸の高まりと興奮を覚えながら、一つずつ装備を確認していく。
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【ユニークシリーズ】
単独かつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。
1ダンジョンにつき1つきり。
取得した者はこの装備を譲渡できない。
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《雷霆のクロスボウ》【STR+20 DEX+15 INT+5】
【閃雷】
【破壊成長】
スキルスロット空欄:1
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《震霆のコート》【VIT+5 AGI+10 INT+5】
【破壊成長】
スキルスロット空欄:1
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《黒雷のカーゴパンツ》【HP+5 MP+5 DEX+10】
【破壊成長】
スキルスロット空欄:1
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《迅雷のブーツ》【AGI+20 INT+10】
【破壊成長】
スキルスロット空欄:1
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【閃雷】
一発だけ射程距離と矢の速度が【AGI】+【DEX】分、メートル単位で上昇する。
使用後、再使用可能まで30分。
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【破壊成長】
この装備は壊れれば壊れるだけより強力となって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。
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スキルスロット
自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。
付与したスキルは1日に5回だけMP消費0で発動できる。
それ以降は通常通りMPを必要とする。
スロットは15レベル毎に1つ解放される。
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「な、なんつう装備だ……」
装備を確認し終えたコーヒーは顔を引き顰らせる。バレたら、周りのプレイヤーから凄まじい嫉妬を買いかねない。
しかし、この装備を使いたいという思いもある。
「……イズさんに隠蔽の協力をしてもらうか。真っ先にバレそうな人物だし。後、クロムにも掲示板の件を引き合いにして口止めの協力をさせるか」
コーヒーはそう考えて、手に入れた装備をインベントリにしまい、現れた魔方陣で町へと帰還。そのままログアウトして今日はお開きにするのであった。
一方……
「大変だ!麒麟が倒された!!」
「え~?そんなに慌てることかぁ?ダンジョンはギミックを解かないと入れないけど、あれはそこまで強くないだろ?」
「弱体化されていたらな!!今回は弱体化されずに倒されたんだ!!それも単独で!!!」
「はぁっ!?嘘だろ!?」
「あれの弱体化前の強さは俺達の悪意の上位クラスなんだぞ!?それを一人とか……」
「そのプレイヤーの名前は!?」
「コーヒーだ!!」
「飲みたいものは聞いてない!麒麟を倒したプレイヤーの名前を聞いているんだ!!」
「だから、コーヒーという名前なんだよ!そいつは!!」
「なんで飲み物の名前なんだよ!?」
「知るわけないだろ!!」
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