カミュラの宣戦布告から少しして、コーヒーは目的地である昇降機の前に到着していた。
「……本当に誰もいないな」
コーヒーは前に来た時にも感じたことだが、この辺りにはプレイヤーはもちろんのこと、NPCも一人もいない。
周りは寂れた建物しかない為、プレイヤーがいないのは当然なのだが。
「さてと……行くか」
コーヒーは【自由への翼】を取り出し、昇降機の端末にある鍵穴に差し込む。途端、端末が音を立てて稼働し始めていく。
「ん?これ、回せるのか。なら、回せばいいのか?」
コーヒーが差し込んだ【自由への翼】を回すと、昇降機はガコン!という音と共に下がり始めていく。
「完全にエレベーターだな。地下には何があるのやら」
コーヒーは腕を組んで昇降機の進むままに静かに待つ。
昇降機が下に向かってからおよそ十分。コーヒーを乗せた昇降機は薄暗い通路の入口に到着した。
「うわぁ……これまた不気味な空間だな。取り敢えず、慎重に進むか」
クロスボウを構えたコーヒーは周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいく。
少しして、コーヒーはモンスターらしき存在を見つけた。
「宙に浮く青い光を放つ球体……どう見ても見つかったら駄目なやつだ」
赤色灯ならぬ青色灯を天辺に光らせ、球体の中心にはカメラアイらしき部分がサーチライトを照らしている。
見つかったら、強力なモンスターを呼ぶか通路が閉鎖されるかのどちらかだろう。
「本当に気をつけて進まないとな……しかもあれは一体だけじゃないようだしな」
コーヒーが視線を向ける先には、通路の中心をふわふわと浮いて移動している監視装置の光が三つある。
幸い、この通路は入り組んでおり、隠れたりやり過ごすのは可能である。
「下手に破壊するわけにもいかないし……上手くやり過ごしながら進むしかないな」
コーヒーはそう呟いて、【遠見】と【暗視】で監視装置を遠くから見つけ、通路の陰や監視装置の死角を突きながら通路を進んでいく。
監視装置は決まった通路内しか移動せず、パターンも決まっている為、掻い潜るのはそれほど難しくはない。
だが、入り組んだ通路と薄暗い場所である為、方向感覚も狂い、進んでいるのかかなり怪しく感じられる。
そうして進むこと二時間。コーヒーは如何にもな扉の前へと辿り着いた。
「……出来ればボス戦は勘弁したいなぁ」
間違いなくこの扉の向こうにボスがいると感じながら、コーヒーは鋼鉄の扉を開く。
扉を開いた先には……機械の天使と形容すべき存在がいた。
錆び付いた屑鉄のような翼。
あちこちに歯車やネジ、バネを覗かせる銅と鉛の身体。胸の中央は青白い光を明滅させている。
そして、その機械の天使は天井から伸びる鎖で雁字搦めに十字架のように拘束されている。
そんな拘束されている機械の天使にコーヒーは警戒しながら近づいていくと、機械の天使が言葉を発し始める。
『グ……ガ……クル、シイ……タス、ケ……』
「…………」
『オネ、ガ……ガァアアアアアアアアアアッ!!』
コーヒーが動向を見守る最中、機械の天使は苦しそうに声を上げ、青白い光が町の機械と同じ青い光へと変わっていく。
同時に、機械の天使を拘束していた鎖が弾け飛び、機械の天使は屑鉄の翼を羽ばたかせて滞空する。
『オ前ハ大人シク……我ニ使ワレテイレバヨイ……ガラクタノ王ト同ジク……ナ』
明らかに先ほどの声とは違うことに、コーヒーは警戒心を露にクロスボウを構える。
そんなコーヒーの目の前で、機械の天使は青い光を放つ胸の中央から雷の剣を自身の周囲に複数形成していく。
『オ前モ……ガラクタニシテ使ッテヤロウ』
機械の天使がそう告げた瞬間、雷の剣が弾丸の如く一斉に放たれる。
「!【クラスタービット】!!」
コーヒーは雷の剣の発射速度に驚きつつ、【クラスタービット】を強化無しで展開する。
【クラスタービット】を幾枚のシールドとして展開するも、【クラスタービット】は雷の剣が炸裂した瞬間に容赦なく吹き飛ばされていく。
「強力なノックバック効果付きか!?」
コーヒーは【クラスタービット】が吹き飛ばされたことに驚きつつも、迫り来る雷の剣の雨霰をギリギリのタイミングでかわしていく。
「誘うは雷針 漲る雷を集約せよ―――【避雷針】!!」
コーヒーは左手に【避雷針】の杭を形成し、それを上空に向かって投げ飛ばす。途端、雨霰の如く放たれていた雷の剣は全て【避雷針】へと吸い込まれていく。どうやら単体の連続発動ではなく、一つのスキルとしての攻撃だったようだ。
「放つは猛虎 その剛健で吹き飛ばせ!【パワーブラスト】!」
その隙をついて、コーヒーは【パワーブラスト】を機械の天使の頭部に向けて放つ。
放たれた高威力の一撃は機械の天使の頭部に見事に当たり、後ろへとよろめかせる。
そこで再び、機械の天使が言葉を放ち始める。
『グ……ゥ……胸ヲ……攻撃……シテ……ソレデ……私ハ……倒セ……ル……』
そう告げる機械の天使の胸の中央の光には鳥のようなぼんやりとした影が浮かんでいる。あれが弱点であるのは間違いないのだろう。
『オネ……ガイ……誰カヲ……傷ツケル前ニ……コロ……シテ……』
確かに彼処を攻撃すれば、機械の天使は簡単に倒せるだろう。だが、幾らゲームでもすんなりと、はいそうですかとできる程、コーヒーは非情にはなれなかった。
「深淵に潜む光 輝きは次代に継がれ 此処に顕現す―――【聖刻の継承者】」
なので、コーヒーはあの時手に入れた切り札を使い、弱点部位以外を攻撃して倒すことを決める。
【聖刻の継承者】を発動したことで、コーヒーの髪の色が変わり、背後には蒼い輝きを放つ槍十字の紋様が顕れる。
「照すは希望 煌めくは受け継ぎし刻印 天に昇りて絶望を祓う光の柱と化せ」
コーヒーはクロスボウを掲げ、自身の周囲に白き槍を無数に展開していく。放つのは上空からではなく、地上からの弾幕攻撃だ。
「【聖槍ファギネウス】!!」
コーヒーは掲げていたクロスボウを機械の天使にへと向け、引き金を引く。
それが合図となったように、無数の白き槍は機械の天使へと殺到していく。
『ァアアアアアアアアアアアッ!!!』
白き槍は容赦なく悲鳴を上げる機械の天使を穿ち―――胸以外を塵にするかの如く吹き飛ばした。
掃射が終わると、機械の天使は胸の球体パーツだけを残して消えている。
コーヒーが終わったと判断してクロスボウを下げると、胸の球体パーツにヒビが入る。
やがてヒビが大きくなって粉々に砕け散ると、中から青白い光を放つ小さな鳥が空に向かって羽ばたいていた。
『……アリガトウ』
その言葉と共に小鳥がコーヒーの周囲を飛び、空へ向かって飛んでいった。
ピロリン♪
『スキル【フェザー】を取得しました』
『スキル【雷翼の剣】を取得しました』
新しいスキル取得の知らせ。コーヒーはどんなスキルなのかと画面を開いて確認する。
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【フェザー】
すべての攻撃に雷属性と羽根が舞うエフェクトが追加される。
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【雷翼の剣】
MPを30消費して強力なノックバック効果のある雷の剣を生み出す。
耐久値は自身のHPが反映され、0になると消失する。
攻撃力は自身のSTRが反映される。
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またしても自分向けのスキルであることにコーヒーは苦笑しながら、その場を後にするのであった。
―――運営では。
「マジかー……」
「またCFが俺達の予想を上回ったな」
「ああ。【フェザー】はともかく、【機械に囚われし天使】の弱点部位を一切攻撃しないで倒すことで手に入るスキル【雷翼の剣】まで手に入るなんてな」
「いや、あの演出じゃ弱点部位を攻撃なんて出来ないだろ。……それ以外を攻撃しても、本来なら通らずに苦渋の選択という展開を描いていたのに」
「弱点部位以外じゃ、ろくにダメージを与えられない筈なんだけどなぁ……」
「CFは【無防の撃】があるからな。全ての攻撃が貫通攻撃だから高威力のスキルを使えばこうなるのは必然だろ」
「……【無防の撃】を修正するか?」
「別にいいんじゃね?コーヒーの基本火力は、そのスキルで低いんだし」
「確かに。それを他のスキルで埋めてるだけだしな」
「今回得たスキルでまたそれが埋まったけどな……」
またコーヒーが予想以上の強化を果たしたことに、運営は疲れたように溜め息を深く吐くのであった。
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―――その頃、【集う聖剣】のギルドホームの一室にて。
「さて、ギルド対抗イベントだが……気掛かりなギルドは二つだ。第一回イベントで四位、八位、九位がメンバーの巨大ギルド【炎帝ノ国】と、少数だが二位、三位、七位、十位が所属する【楓の木】だ」
ペインは戦局を大きく変えられるようなメンバーがいるギルドは、この二つだと考えている。実際、それは間違っていない。
「【楓の木】には第二回イベントで話題になった青服の子もいるんじゃなかったけー?」
「イエス。同時に生産職のトッププレイヤーも所属している筈です」
フレデリカの言葉に、サクヤが自身の知っている情報も付け加えながら同意する。
【楓の木】に関しては圧倒的に情報が少なく、そのヤバさが明確に分からないのだ。
特に新メンバーのマイとユイ、シアンに関しては存在自体が知らない為絶無である。
「イベント内容にも寄るが……俺らのギルドは全体的に強いやつが集まっている。幾ら個人が強くても物量攻撃ならボロが出てくるし、全員に毒耐性を付けさせ、可能な限り麻痺耐性も付けさせれば大丈夫だろ。むしろ、警戒するのは【炎帝ノ国】の方だろ?」
ドラグがそう言ってペインに言って聞かせるも、その意見にサクヤが反対の声を上げた。
「ノウ。【炎帝ノ国】はある程度予想できますが、【楓の木】はまったく予想出来ません。事実、彼女に関するスレを見ればその異常さが分かります」
「あー……私もサクヤちゃんに言われて見たんだけど……空飛ぶ亀や天使や羊毛まみれとか方向性がまったく定まっていないんだよねー。防御方向に向いているのは分かるけどさ」
「イエス。こんな彼女ですから、どんな手札を持っていても不思議ではありません」
「それにCFもいるしな。空飛ぶ亀が雷を降らせたというのは、ほぼ間違いなくCFの攻撃によるものだろうな」
「……そう言われると、確かに【楓の木】も要警戒しなければならねえか」
サクヤ、フレデリカ、ドレッドの意見に、ドラグは確かにと納得する。
「ああ。それにサクヤ達のような無名の強者がいないとも限らないからな」
「一応、ギルドの生産職さん達には三層で見つけたダンジョンにある、スキルが付与できる素材を周回で大量に手に入れてもらって、状態異常耐性の高い装備を作ってるけどねー」
「ともあれ、今は情報が欲しい。フレデリカ、頼めるか?」
「オッケー。【炎帝ノ国】と【楓の木】の二つだねー。【楓の木】はちょっと手間取りそうだからー、まずは【炎帝ノ国】の方が先になるけどねー」
ペインの要望にフレデリカは快く引き受ける。ペインもそれに反対することなく素直に頷く。
【炎帝ノ国】が先なのは【集う聖剣】同様に大きなギルドな為、情報統制にはどうしても穴が出てくるから。
逆に【楓の木】は少人数ギルドな為、情報収集という点に置いては時間がかかるのは明白であり、情報が比較的に集めやすい【炎帝ノ国】が先になるのは当然のことであった。
「サクヤは例のスキルの練習をしてくれ。【英雄の協奏曲】は強力だが演奏が難しいんだろう?」
「イエス。【英雄の協奏曲】はパーティーにおいて相当強力ですが、ミスを行えば盛大なデメリットとして返って来ます。特にフレデリカさんのあれと合わせればそのデメリットは大きく跳ね上がります」
「あー、あれね。確かにあれは強力過ぎるよ。だって、上手くいけばペインのステータスが物凄い勢いで上昇し続けるからねー」
フレデリカの言葉にペインはもちろん、ドレッドとドラグも深く頷く。
サクヤの【笛】のスキルは、一部を除き、演奏が続く限りはずっと効果を発揮するのだから。
その後、フレデリカとサクヤが部屋を出て行った後、ペインはドレッドとドラグにもある要請をする。
「ドレッドとドラグは、彼女が来たらレベル上げに同行してくれ」
「あの仮面剣士の嬢ちゃんか」
「レイドか……アイツもCFやメイプルと同じくゾッとした。あの戦いぶりは仮面と合わせるとまさに【鬼神】だからな」
その直後、部屋の扉が開いて新たな人物が入ってくる。
薄く長い金髪と蒼い瞳、顔の上半分を鬼を連想させる白い仮面で隠し、黒いマントと黒いライダースーツのような服、銀のガントレットとレガース、幅広の刀のような武器を腰に携えたプレイヤーだ。
顔を仮面で隠してはいるが、体つきからして女性のようである。
「済まない。リアルの都合で予定より少し遅れてしまった」
「いや、大丈夫さ。レイド、来て早々で悪いけど……」
「私のレベル上げだろう?」
「ああ。ドレッドとドラグと一緒にレベルを上げてくれ。次のイベントまでの時間も限られているから、出来る限りレベルを上げてほしいんだ」
「承知した。二人も済まないが……」
「構わねぇよ。俺のレベルも上げられるしな」
「同感。レイドがガンガン暴れるだけだから、同行する俺らは楽だけどな」
そうして、ドレッドとドラグはレイドを連れて部屋を後にした。
「打てる手は可能な限り打ってはいるが……未知は何よりも恐ろしい。フレデリカが【楓の木】について何かを掴めればいいのだが……」
一人呟くペインの直感は間違っていない。
クロムのユニーク装備。
カナデが得た、魔法を記録、保存し使い捨てで使えるようになる魔導書。
ミキの異常と呼べる釣り。
サリーの回避能力。
マイとユイ、シアンの破壊力。
コーヒーの攻防一体の盾と銃の如きクロスボウに槍の雨、雷の剣。
そして、メイプルの化け物と亀の光線、新たに手に入れた機械の力。
それらを知らずとも、ペインは【楓の木】は一番警戒すべきだと直感で感じていたのだった。
後に、イズがユニーク装備を手に入れたことで【戦う生産職】となり、更にヤバさが増加した。
レイドのモチーフは鋼鉄のあのキャラです
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