【炎帝ノ国】が手に入れる筈だったオーブを横取……奪取したコーヒーは真っ直ぐに【楓の木】へと帰ってきた。
「帰ったぞー」
コーヒーが戻って来た時にはカスミとイズ以外が集まっていた。
「お、帰ったかコーヒー」
「首尾はどうだ?」
「ばっちしだ。オーブは六つ取れた」
「「「「おおー!!」」」」
コーヒーの報告に極振り四人衆から歓声が上がる。
「私もオーブを三つ持って帰ったけど……やっぱCFの方が多く集められるか」
サリーが若干悔しそうに呟く。
「まあ、六個目は【炎帝ノ国】が手に入れる筈のオーブを横からかっ攫っただけだけどな」
「そっか。そういえば【炎帝ノ国】と言えば、帰る途中で【氷刃】のテンジアに会ったわ」
サリーの報告に、一同は真剣な表情となる。
「ただいまー!」
「皆集まっていたか。どうやらタイミングが良かったみたいだな」
本当に丁度良いタイミングでカスミとイズが帰還し、全員でサリーの報告に耳を傾けていく。
「まさかサリーの【蜃気楼】を初見で看破するとは……」
「正直、あのまま戦闘に突入していたらまずかったと思います。勝てないとは言いませんが、こちらの手の内を大分明かされると思いました」
サリーの言葉に全員が頷く。
長剣の二刀流と、マイとユイが防衛中に取得したスキル【飛撃】、青いオーラはほぼ間違いなくサリーと同じスキル【剣ノ舞】。
テンジアは火力とスピードを備えたアタッカーだ。
破壊力そのものはマイとユイに劣るだろうが、二人とは違い機動力がある。厄介なプレイヤーであることは想像に難くなかった。
「そっちは追々考えるとして……まずは今集めたオーブの防衛だな」
クロムの意見に全員が頷く。
「そうですね。実際、オーブだけ盗んできたようなものだから奪い返しにくると思います」
「同意見だな。一人でマトモに大群と戦えないし、俺の方も似たような感じだからな。中規模のやつも含まれているから、大人数で取り返しに来るぞ」
「本当、どっちも信じ難いことをしてるよね……」
カナデが呆れたように呟く。
奪ったオーブは計18個。
その内の七個は防衛に成功して元の位置に戻っている。
最初に攻撃班が手に入れたオーブとサリーが奪った二個のオーブ、四個はコーヒーが奪ったオーブである。
カスミとイズが洞窟への三分間異臭を残す煙を発する【肥やし玉】と【樽爆弾】の大量投下戦法で持ち帰ったオーブ二つとサリーが持ち帰ったオーブ三つ、コーヒーが持ち帰ったオーブ六つ。
現在11個のオーブを防衛しなければならない為、気が抜けない状況には変わりはない。
ただ、守るのはゲーム内最強の盾。
それも、高火力な攻撃担当がいるというオマケ付きでだ。
これを突破できるプレイヤーは……いても片手の指の人数くらいだろう。
「おっと、噂をすればってやつだ」
クロムが武器を引き抜いて入り口を見据える。そこから次々と突入してくるプレイヤーの人数は明らかに小規模ギルドの人数ではなかった。
「どうやらー、一時的に協力してるみたいだねー」
「そうだな。小規模ギルドは他のギルドから相当やられているだろうからな。勝つ為には一時的に協力し合うべきだと判断したのだろう」
「数は……60人ほどでしょうか?」
「下手したらそれ以上かもね。入り口が一つだけだからね」
圧倒的な人数差にも関わらず、のんびりしている【楓の木】のギルドメンバー達。それもその筈、こちらには最大戦力が二人もいるからだ。
「CF。此処からは例の魔法を使っていいわよ。解禁には丁度いいタイミングだしね」
「了解、参謀殿。もっとも、使う必要が無さそうけどな」
サリーから【雷帝麒麟】の使用許可が降りた事にコーヒーは少し肩を竦めて受け止める。
そんな彼等に、連合軍は一斉に攻撃を仕掛けていく。
前衛は雄叫びを上げて突撃し、後方は魔法を次々と放っていく。
目を血走らせる彼等とは対象的に、11人は相変わらずのんびりとしていた。
「皆で戦うのって初めてだっけ?」
「全員が戦闘に関わるのは初めてだな。イズさんは本来、生産職だし」
「メイプル、いつもの頼む」
クロムがそう言うだけで、全員がアレだと理解する。
「慈しむ聖光 献身と親愛と共に この身より放つ慈愛の光を捧げん―――【身捧ぐ慈愛】!」
「癒しの光は彼の者を癒す―――癒せ、【ヒール】」
スキルによって減ったメイプルのHPはシアンがすぐさま全快させる。隙はない。
メイプルの前進に合わせて十人が歩を進める。
正面衝突した両軍がぶつかり合うが、【楓の木】のメンバーは倒れることはない。
「「我が一撃は二撃として放たれる―――【ダブルスタンプ】!!」」
マイとユイの高威力の大槌が猛威を振るう。二人の攻撃をもろに受けたプレイヤー達は轟音と共に弾け飛ぶ。
「な……っ!?」
「あれと正面から戦うな!回り込め!!」
マイとユイがヤバいと認識したプレイヤーが二人から距離を取って回り込もうとするも、今度は鉈と刀が襲いかかる。
「おらぁっ!」
「ふっ!」
クロムとカスミの攻撃に耐え、かわしてオーブを先に狙おうとするも、今度は爆弾の雨が降り注ぐ。
「あら、悪い子ね?オーブだけを狙うだなんて」
イズが爆弾片手に作っては投げ、作っては投げを繰り返していく。
爆弾の雨を強引に潜り抜けた者もいるが、それらはもれなく図書館へご招待である。
「【パラライズレーザー】!」
カナデが魔導書から放つ低威力、高確率麻痺のレーザーが炸裂し、喰らった者の動きが緩慢になる。
「残念でした」
「はーいさよなら」
そんな彼らにはオーブを奪った張本人二人が止めを刺す。
コーヒーに矢で頭を撃ち抜かれ、サリーによって短剣で首をかっ切られていき、動きが鈍くなったプレイヤーは次々とギルドへ送還されていく。
「に、逃げろ!」
「う、うわぁああああああっ!!」
その光景に、同盟軍は戦意喪失。我先にと逃げていく。
「照射せよ、【レイ】―――【連続起動】!」
だめ押しとばかりにシアンが光のレーザーを防衛中に取得したスキル―――一定時間内で一つの魔法しか使わずに敵を一定数撃破したら取得出来るスキル【連続起動】で次々と連射していく。
撃てば撃つほどMPが消費していくが、余剰限界分までMPを回復していたシアンには問題はない。
「この白薔薇の騎士が一矢報いてくれる!断じて『生やせ、ネギモヤ紳士』ではない!!」
そんな中、如何にもキザったらしい長髪の男性プレイヤーが変な言い訳をしながら剣を構え、メイプルに斬りかかろうとする。
「我が剣閃は鎧をも切り裂く―――【ディフェンスブレイク】!」
「我が守りは破砕を防ぐ堅牢―――【ピアースガード】」
渾身の一撃はあっさり防がれた。
キザな男が最後に見たのは……目深に被っていたプレイヤーの顔だった。
「メイプルかよ……」
その言葉を最後に、キザプレイヤーはマイとユイの大槌に潰されるのであった。
こうして同盟軍は完全敗北を喫したのだが……それだけでは終わらなかった。
「いやー、彼らからポーションが沢山釣れたよー。これでー、魔法がもっと使えるねー」
唯一戦闘に参加していなかったミキが、釣竿を振るって同盟軍のプレイヤー達からアイテムを片っ端から釣り上げていたのである。
今頃自身のインベントリを見て、ポーションが減る、もしくは無くなっているプレイヤーは四つん這いで泣いているであろう。
そうして日が沈み、遂に夜襲と暗殺の蔓延る初めての夜となる。
「そんじゃ、行ってくる」
日が進んで一時間。
あの防衛から一足先に休んでいたコーヒーは本格的にオーブ奪取に動こうとしていた。
「群れなすは光の結晶 暁を照らす光は我が従者 此処に顕現し我が守手となれ―――【クラスタービット】」
拠点の外に出たコーヒーは【口上強化】込みで【クラスタービット】を発動。直ぐ様メタルボードにして上に乗って落ちないように足を固定する。
「さて、行きますか……迸れ、
【名乗り】を使ってステータスを底上げしたコーヒーは一気に空へと飛んでいく。
サリーが駆け回って集めたオーブの場所とそのギルドの規模を下にして動いていく。
狙うは奇襲がしやすい、野外にあるギルドのオーブだ。
「放つは轟雷 形作るは天の宝玉 仇なす者に雷球を落とさん―――弾けろ!【スパークスフィア】!!」
見つけて早々にコーヒーは強化した【スパークスフィア】を放つ。
放たれた雷球は、容赦なくオーブを守っていたプレイヤー達を吹き飛ばした。
「うわぁあああああっ!?」
「敵襲っ!!襲撃者は―――え?」
突然の襲撃に防衛プレイヤーは慌てふためくも、指揮官らしきプレイヤーの言葉で一度は落ち着きを取り戻す。
しかし、空を飛んでいるという事実に彼らは思考が指揮官も含めて停止したが。
そんな彼らに構わず、コーヒーは【アンカーアロー】を使ってオーブを奪取。踵を返して一気に離脱していく。
「は!?逃がすな!追え!」
我に返ったプレイヤーが急いで追跡を指示するも、空の上を最高速度で真っ直ぐ移動するコーヒーに追い付くのは困難である。
空を飛べるコーヒーなら、偵察部隊との鉢合わせや待ち伏せに合う心配もない。
なので、コーヒーは片っ端からギルドを強襲、離脱を繰り返してオーブを一気に集めていく。
「何だあれは!?」
「分からんが撃ち落とせ!!」
中には魔法や矢を放ってコーヒーを迎撃しようとするギルドもいたが、コーヒーは魔法と矢の弾幕をかわす、またはメタルボードで防ぎながら近づいていく。
「ブリッツ、【針千本】」
コーヒーはブリッツから放たれる無数の針で防衛プレイヤーを怯ませ、同じ手段でオーブを奪取。またしても離脱していく。
「この調子でオーブを集めれば……いけるな」
コーヒーはどんどん手に入るオーブに思わず不敵な笑みを浮かべる。
そうして野外にあるギルドに襲撃をかけること数時間。コーヒーのインベントリには30近いオーブが入っていた。
「これだけ稼げば、十分だろ。とっとと拠点に帰るか―――【疾風迅雷】」
コーヒーは日付が変わる前にスキルを使って戻っていく。日を跨げば、【クラスタービット】が消えてしまうからだ。
そうしてコーヒーは日付が変わる寸前で拠点へと戻ってきた。
「お帰り、コーヒーくん!どうだった!?」
「おう、ばっちしだ。オーブも大量に手に入れたぞ」
コーヒーはそう言って、30近いオーブを自軍のオーブに放り込む。
「おおおおっ!凄い!凄いよコーヒーくん!」
「マジで凄いな。解禁されてたった数時間でこれだけオーブを集めてくるなんてな」
目を輝かせて絶賛するメイプルに、呆れたように称賛するクロム。マイとユイとシアンも目を輝かせてコーヒーを見つめている。
「まあ、こっちは空を飛べるからな。そういえばカナデとミキはどうして出かけたんだ?」
コーヒーは苦笑しながら称賛の声を受け止め、マップ情報から二人が外にいることに疑問を感じて問い質す。
「カナデは偵察に、ミキは一つだけオーブを取ってくると言って外へ出ていったんだよ」
メイプルの言葉にコーヒーはなるほどと納得する。
今二人が動いているのはサリーの為だろう。サリーはギルドの為にかなり無理な動きをしている。そんなサリーの負担を少しでも軽くするために、カナデとミキが動いたのだろう。
「あっ、ミキからメッセージが来たよ。今入り口にいるって!」
話している内にミキが帰ってきたようだ。
設置した爆弾をマイとユイがずらして安全を確保すると、少ししてミキが入って来る。
「ただいまー。オーブが大漁に釣れたよー」
ミキがそう言って自身のインベントリから取り出したのは12個のオーブ。明らかに一つではない。
「……複数のギルドを攻めたのか?」
「違うよー。大規模ギルドのオーブを釣ったんだよー。最初に【捕縛網】、次に【樽爆弾】を大量に投下してー、爆発させた後にジベェの【津波】で流したんだよー。それでー、そこで釣り上げたらオーブがこれだけ手に入ったんだー」
ミキのその説明に、コーヒーとクロムは遠い目となる。
夜中に上空から網が放たれ、動きを封じられたところで爆弾が大量に投下され、止めに津波によって流される。
ジベェの【巨大化】時に使える、広範囲、高威力、高ノックバック効果がある無差別攻撃スキル【津波】。
防衛に不向きな場所にオーブがある大規模ギルドにとってはまさに悪夢であっただろう。
「やってることが完全に空中戦艦の爆撃だな……」
クロムの力なき呟きにコーヒーが無表情に頷く。対する極振り四人衆は目を輝かせてミキを見つめている。
何にせよ、これで手に入れたオーブはおよそ40個。大快挙である。
「流石に多いから防衛には俺も参加するわ」
「だねー。大規模ギルドが取り返しに来る可能性がー、十分にあるからねー」
今いるメンバーで防衛のローテーションを決め、最初にマイとユイとコーヒー、次にオーブを一つ手に入れて帰ってきたカナデとクロムとミキ、最後にメイプルとシアンの順で休むことを決める。
マイとユイとコーヒーの休憩が終わり、カナデとクロムとミキが休憩しているところで、予想外の事態が起こった。
「あれ?サリーからだ」
メイプルが疑問を露に確認すると、メッセージには一行だけ、こう書かれていた。
『多分死ぬ。ごめん』と。
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