最初にドレッドが右の短剣を振るって仕掛ける。
横薙ぎに振るわれた刃をコーヒーはブリッジするようにかわし、クロスボウの引き金を引く。
放たれた矢をドレッドは体を捻ってかわし、左の短剣を振り下ろそうとする。
しかし、ゾッとした感覚が襲ったためにドレッドは追撃を止めて飛び退き、同時に二射目が放たれる。
その隙に体勢を整えたコーヒーは間髪入れずに矢を銃弾の如く次々と放っていく。
「おい!それはクロスボウだろ!?なんで銃同然に使えるんだよ!」
「教えるわけないだろ!【閃雷】!」
かつての自分と同じツッコミを入れたドレッドに、コーヒーはバッサリと返しながら【閃雷】を放つ。
それに対しドレッドは横に大きく飛び上がり、弾速の矢を地面を転がってかわす。
「柔軟なる疾き風 剛健なる迅き雷 迅雷風烈の息吹となりて走破せよ―――【疾風迅雷】!」
どうやら無事に取得出来たらしい【疾風迅雷】をドレッドは立ち上がり様に使い、およそ三倍となったAGIでコーヒーに猛攻を仕掛けていく。
対するコーヒーは【クラスタービット】をメタルアーマーモードにして、ドレッドの猛攻を凌ごうとする。
【疾風迅雷】の効果時間はおよそ一分。それを凌いだら、今度は此方が攻める。
「【蒼銀の悪魔】か!悪いが既に対策済みだ!」
ドレッドはそう言って、凄まじい速度で動き周りながらヒットアンドアウェイを繰り返していく。
関節部分が浅く斬られるも、それ以上に装甲に何度も当たっている。だが、ドレッドの短剣は折れる気配を見せなかった。
それだけではない。効果時間の一分が過ぎている筈なのに、ドレッドの速度が全く落ちていないのだ。
「……まさか、効果時間が延長されてるのか?」
「気づいたか!お前の予想通り、今の俺のスキルの効果時間はおよそ五倍となってるのさ!ついでに武器の耐久値の減少も大きく抑えられている!時間稼ぎは無意味だぜ!」
ドレッドの種明かしにコーヒーは苦い顔となる。
【疾風迅雷】のAGI上昇時間が五分に伸びたとなれば、対応仕切れずにやられるのは自分の方になってしまう。
これはコーヒーが知るよしもないが、この延長効果はリキャスト時間が十倍になるという、メリット以上にデメリットが大きいスキルだ。
だが、ドレッドはそれを迷うことなく自身に付与させた。すべては、コーヒーに全力で勝つために。
そんなドレッドの覚悟を知ることもなく、コーヒーは勝利のために必死に思考を巡らす。
AGIは向こうがずっと上。加えて、ドレッドには十秒間姿を消せる移動系スキル【神速】もある。それを使われると、約一分もの間、不可視のドレッドと戦わざぬを得なくなる。それだけは避けなければならない。
これ以上戦闘が長引くと圧倒的に不利になると悟ったコーヒーは、新しいスキルを使うことにした。
「【雷翼の剣】!【雷翼の剣】!!」
スキル名を告げ、コーヒーは左手とクロスボウに雷の剣を形成し二刀流の構えを取る。
「新しいスキルか!だが―――」
その瞬間、再びゾッとしたドレッドは雷の剣に対して警戒を強めていく。
「ブリッツ、【覚醒】!同時に【電磁結界】!」
コーヒーはここぞとばかりに指輪からブリッツを呼び出し、スキルを発動させる。
一時的に無敵となったコーヒーはそのまま自身のインベントリを操作し、一つの古ぼけた懐中時計を取り出そうとする。
「させっかよ!」
ドレッドは目の前でインベントリを操作するという行動に嫌な予感を覚えて攻撃を仕掛けるも、隙間を攻撃しても蒼い羽根が飛び散って身体がぶれるだけでダメージが与えられずに無駄に終わる。
その間に目的のアイテムを取り出したコーヒーはその懐中時計を握りしめる。
この懐中時計型のアイテムは、スキルのリキャスト時間を一つだけリセットする効果がある。
コーヒーは竜頭を押し込み、効果を発動。【疾風迅雷】のリキャスト時間をリセットし、再使用可能な状態へと持ち込む。
「柔軟なる疾き風 剛健なる迅き雷 迅雷風烈の息吹となりて走破せよ―――【疾風迅雷】!」
コーヒーはスキル【疾風迅雷】を発動し自身のAGIをおよそ三倍にする。
「【ライトニングアクセル】!」
間髪入れずに【ライトニングアクセル】を発動してさらにAGIを高め、文字通り迅雷となってドレッドに肉薄する。
「チィ―――ッ!!」
接近と同時に交差するように振るわれた双雷剣にドレッドは咄嗟に短剣で防御するも、強力なノックバック効果を受けて大きく吹き飛ばされる。
「うお―――っ!?」
派手に吹き飛ばされ、大きくバランスを崩したドレッドに、全方位から蒼銀の津波が高速で殺到する。
「このままやられるかよ……!」
その光景を前にしたドレッドは諦めようとせず、ダメージを覚悟して正面からの強行突破を試みる。
当然、コーヒーもこれだけでは終わらせなかった。
「【魔槍シン】!!」
HPを限界まで消費し、黒き槍を正面からガトリングガンの如くドレッドに向けて放っていく。
「マジかよ!?それは直接放てるのかよ!?」
ドレッドの驚愕の声が響く。そんなドレッドに蒼銀の津波と無数の黒き槍が容赦なく襲いかかっていく。
「あー、また負けちまったか……」
ドレッドがそう呟く間にも、ドレッド自身のHPバーはどんどん削られ、そのまま全損する。
「だが、また来るぜ。今度はギルドとしてお前達を倒しにな……!」
ドレッドの新たな宣戦布告。それは【集う聖剣】として【楓の木】に戦いを挑みに行くというものだ。
それに対し、コーヒーは返り討ちにしてやると言葉を返そうとしたが、次に続いたドレッドの言葉でそれは吹き飛んだ。
「後、お前さん達には一つ嘘を付いた。【決闘の交響曲】は演奏がなくても効果は持続するんだぜ?」
当然告げられたドレッドの言葉。それがどういう意味かを理解したコーヒーは一気に焦りの表情を浮かべていく。
コーヒーのその表情に、ドレッドはしてやったりとした笑みを浮かべ、光となってその場から消えていった。
「まずい……本当にまずいぞ!」
見事にフェイク情報の意趣返しをされていた事に気づいたコーヒーは、急いで【楓の木】のメンバー全員にメッセージを送る。
『サクヤと思わしきプレイヤーは倒すな!罠だ!』
このメッセージを送って少しして、サリーからメッセージが入った。
『ごめん。やられた』と。
―――――――――――――――
ドレッドが種明かしをする少し前。
状況を打破しようとしていたサリーは一人のプレイヤーを見つけていた。
「やっぱり、笛の音が聞こえる方向にいたわね……!」
サリーが後ろを向いて笛を吹いている巫女服のような服装をした女性プレイヤーを視界に収める。
サリーはドレッドが明かした情報から、サクヤというプレイヤーは音を発していると予想し、耳を澄ませて音を拾おうとした。
結果、見事に笛の音色を拾ったサリーは必死に神経を研ぎ澄ませて音がする方向へと向かい、見事にサクヤを見つけることに成功したのだ。
サリーは逸る気持ちを抑え、茂みや木の陰に隠れながら、慎重に距離を詰めていく。
サクヤは演奏に集中しているのか、サリーの接近に気がついた様子は微塵もない。
まさに千載一遇の好機である。
サリーはそのまま慎重に距離を詰め―――ダガーをその背中に突き刺した。
もし、サリーが万全な状態だったなら違和感に気づき、攻撃を躊躇っただろう。
だが、無理に無理を重ねていたサリーはその違和感に気づけなかった。
背中を刺されたサクヤらしきプレイヤーが陽炎のように揺らめいたかと思うと、不気味なオーラを発するドクロとなって振り返り、サリーに迫ってくる。
「ヒィッ!?」
そのドクロに、サリーはビビって腰を抜かしてしまう。
そんな地面に尻餅をついたサリーに、ドクロはまるで取り憑くように重なり、空気に溶け込むように消えていった。
「な、何、今の……」
完全にビビり腰となったサリーは震えながら自身の状態を確認しようとする。
「釣れたのは貴女ですか。少し残念です」
その直後、淡々としながらも少し残念そうに呟く女の子の声が耳に届いてくる。
サリーは何とか立ち上がってそちらに体を向けると、先程いた筈の少女が笛を片手に持って近づいて来ていた。
「間抜けデリカさんが、貴女が疲労困憊と連絡したのでてっきり応援を呼んで対処すると思ったのですが……アテが外れましたね」
「……貴女がサクヤ?」
「イエス。私がサクヤです。以後お見知りおきをお願いします。見事に罠にかかってくれたサリーさん」
サリーの確認に、サクヤはあっさりと頷いて答える。
「罠って……まさか!?」
「イエス。【決闘の交響曲】は演奏がなくても効果が持続します。貴女のハッタリと比べたら些細なものですが、上手く引っ掛かってくれましたね」
サリーはまんまとしてやられたことに表情を悔しげに歪める。対してサクヤは淡々と、自身が仕掛けた罠を明かしていく。
「スキル【呪い人形】。私そっくりの偽物を作り、その偽物を倒した対象の最も高いステータスの数値を0にする、文字通りの呪いのスキルです。これで、貴女の最大の強みを封じさせてもらいました」
サクヤのその説明に、サリーはますます顔を歪めていく。今のサリーのAGIはサクヤの呪いによって0。つまり、自身の最大の武器である回避能力に大きな制限がかかってしまったのだ。
無論、サリーの回避は集中力なので回避自体は問題はないが、それを最大限に活かすステータスが封じられたのはあまりにも痛すぎる。
『回避盾』としては致命的なダメージ。今のサリーはステータス上は火力が低いザコプレイヤーに成り下がってしまった。
「このまま戦っても良いのですが、マップを見る限りドレッドさんも負けたようですし、面倒なプレイヤーが来る前に離脱しますね」
サクヤはそう言ってサリーに背中を向け、駆け足でその場から立ち去っていく。
「ま、待ちなさい……!」
対するサリーはそんなサクヤを追いかけようとするも、AGIが本当に0になっているのかメイプル並みに足が遅くなっており、あっさりと距離を取られて見失ってしまう。
そのタイミングでコーヒーからメッセージが届く。
『サクヤと思わしきプレイヤーは倒すな!罠だ!』
「……遅すぎだよ」
コーヒーがドレッドに勝利したことよりも、連絡の遅さに悪態を思わず吐いてしまったサリーは近くの木にもたれながらコーヒーにやられたとメッセージを返す。
メッセージを送って暫くして、息を切らしたコーヒーが駆けつけて来た。
「サリー!」
「CF……連絡が遅いよ」
「無茶言うな。罠だと分かったのは、ドレッドが消える直前で明かしたタイミングだったんだからな」
サリーの文句にコーヒーは流石に理不尽だと伝える。
「うん……分かってる」
それに対して、サリーは短くそう答える。
今回はドレッドの言葉を鵜呑みにしてしまった自分の落ち度。それも、普段なら違和感を感じて止まるのにだ。
だが、疲労困憊の状態から無理に動いた結果、まんまとしてやられてしまった。
本当に、泣きたい気分である。
「……悪いけど、担いでくれない?見事にやられて、今の私のAGIが0だから」
「……わかった」
今までになく弱々しくなっているサリーに、コーヒーは追及することなくサリーを背中におぶり、【楓の木】へと戻っていくのであった。
【集う聖剣】と【楓の木】の戦い。
勝利こそしたが、決して無視できない痛手を貰う結果となった。
サリーが散々な目に合ってますが、別に嫌いだからではありません
話の都合上、どうしてもこうなってしまっただけなんですよ(必死の言い訳
感想お待ちしてます