てな訳でどうぞ
ユニーク装備を手に入れた翌日。
コーヒーは早速イズの店に行き、昨日の出来事と手に入れた装備について相談していた。
「そう。未発見だったダンジョンに、ソロかつ初戦限定でのボス撃破による整備不要のレア装備の入手……特に後者は生産職プレイヤーを泣かせるわね」
「同感です。強力なスキルまで手に入りましたし」
難易度が高い以上、そんなにポンポンとユニーク装備持ちが出てくることはないだろうが、あの洞窟―――【麒麟の隠れ家】のような特殊なギミックや特定の条件を充たすことで挑戦できるダンジョンが他にも存在しないとは限らないからだ。
それに、ユニーク装備を奪う目的で他のプレイヤーがPKしてこないとも限らない。装備の説明欄を見る限り、死亡しても装備を奪われる危険性は皆無だが、それでも試そうとする輩は出てくる筈だ。
なので、コーヒーはこの情報を第三者に明かす気は欠片もなかった。
「でも、信頼してくれるのは嬉しいけど、簡単に私に相談してよかったのかしら?」
「イズさんに話したのは真っ先に装備に関して気付かれると思ったからです。メンテに来なくなったらその可能性を疑うかと……だから、先に明かして隠蔽に協力してもらうと思っただけです。ゲーマーの嫉妬は本当に面倒なので」
これはコーヒーの嘘偽りのない本音だ。イズに武器のメンテをしてもらった以上、麒麟との死闘で手に入れた武器を使い続けていれば、そう遠くないうちに薄々感づかれるだろう。
それに、イズは生産職プレイヤー。相手との“信用”が何より大事なプレイヤーなら、ちゃんと交渉すれば協力してくれると考えたのもあった。
「なるほどね。それなら、定期的に採掘の護衛を受けてくれるなら協力して上げるわ」
「分かりました。それくらいなら御安い御用です」
なので、イズの協力する見返りにもコーヒーは素直に応じるのであった。
「ちなみにクロムには何て言うの?」
「先日の掲示板のカキコの件を代価に協力させようかと。可能であればイズさんも協力して下さい。具体的には料金の微妙な値上げだったり、優先的に後回しにしたりとかの」
「ふふっ、クロムの慌てる姿が思い浮かぶわね」
そんな会話を交わしていると店の扉が開き、コーヒーに呼び出されたクロムが入ってきた。
「来たぜ、コーヒー。囮の代わりの提案ってのはなんだ?それもイズの店で話すとか」
「それは今から……というか、他言無用を守るなら話す」
「おう、いいぜ。それで囮役が免除されるなら安いもんだ」
クロムがあっさりと了承したので、コーヒーは先程イズに話した事をもう一度説明していく。
「……マジかよ。ダンジョンを初回かつ一人で攻略するとそんな特別報酬があったのか」
「ちなみに約束を破ったら、容赦なくPKしまくるのでそのつもりで。防御を無視するスキルもあるから、逃げ切れると思うなよ?」
「もしそうなったら、私もクロムに要求する金額を一割増やすから気をつけてね?」
「待て待て待て!それはマジで困る!」
コーヒーとイズの脅しにクロムは本気で焦った声を上げる。この様子なら、この件に関しては周りに話したりはしないだろう。
「それが嫌なら本当に他言無用で。いずれ広まるにしても、積極的に広められると本当に面倒なので」
「分かったよ。それに、コーヒーの言い分も分かるしな。ゲーマーの嫉妬ってやつは本当に面倒だからな」
「せっかくだから、ここでそのユニーク装備を装着してみれば?鏡もあるしね」
イズの言葉にコーヒーは素直に頷き、昨日手に入れた装備をすべて装着する。
「……おおおっ」
「あらあら。随分とカッコいいわね」
「それがユニーク装備か……本当に羨ましくなってくるな。俺もその内、未開のダンジョンを探して一人で攻略してみるかな?」
ユニーク装備を装着したコーヒーは自身の今の姿に歓喜の声を洩らす。
イズも素直に褒めあげ、クロムは羨ましげに呟きながら、わりかし本気でユニーク装備の入手を検討するのだった。
「それで、コーヒー。今日はどうするの?」
「そうですね……今日は手頃な場所で装備の性能と昨日手に入れたスキルを確認しようかと」
「それなら、さっそく採掘の護衛をしてくれないかしら?今、ちょうど素材を切らしていてモンスターの多い洞窟に向かわないといけないから」
「分かりました」
「それなら、俺も付き合うぜ。コーヒーの手に入れたスキルに興味もあるしな」
そんな訳で。
コーヒーはイズとクロムとパーティーを組んで、とあるダンジョンの洞窟へ向かうこととなった。
「この装備だと、サングラスやゴーグルが似合いそうですよね」
「素材とお金を用意してくれれば、私が作ってあげるわよ」
「サングラスやゴーグルかぁ……その格好なら、マフラーも似合いそうだよな?」
「ああ、確かに。マフラーも捨て難いなぁ」
そんな他愛ない談笑を続けていると、三人は件のダンジョンへと辿り着いた。
「それじゃあ、道中の護衛はよろしくね?」
「おう。任せとけ!」
「了解です」
イズの言葉にクロムとコーヒーは快く頷き、クロム、コーヒー、イズの順で洞窟の中へと入っていく。
洞窟を歩いて少し、一行はモンスターの群れに遭遇した。
「蝙蝠型のモンスターか……ちょっと数が多いな」
「なら、昨日手に入れたスキルを試してみます」
「あの数を何とか出来るのか?」
「うーん、たぶん、ですけど」
「そうか。なら、頼む」
クロムから了承を貰ったコーヒーは、スキル【雷帝麒麟】の中にある魔法の一つを発動させる。
「【スパークスフィア】」
コーヒーが右手を翳してスキル名を唱えると、右手に一つの雷球が形成される。
それを、コーヒーは野球選手のピッチャーの如く投げ飛ばした。
放たれた雷球は蝙蝠型のモンスターの一体に着弾。直後、雷球が先程の5倍近くの大きさになり、その場にいた蝙蝠型モンスターをすべて雷球の中に閉じ込めた。
「蒼い雷かぁ。キレイな光景ね」
「見た目はな。たぶん、中身はえげつないと思うぞ」
イズとクロムの対話を他所に雷球が消え去ると、蝙蝠の何体かは光の粒子となって消失し、生き残った蝙蝠はその体躯に電気を走らせて痙攣していた。
「蝙蝠達はスタンと麻痺の状態異常を受けているな……コーヒーが言った通り、相当強力なスキルだぞ」
「同感です。ただ、消費MPがちょっと激しいので……今はポンポンと放つのは無理ですね」
コーヒーはそう言いながら、クロスボウで動けない蝙蝠達の頭を撃ち抜いて止めを刺していく。
「そうなると、今後はMP関係のスキルの取得や、MPそのものを上げるのが今後の方針になるのか」
「うーん、どうなんでしょうかね?戦略の幅は広まりましたけど、下手に変えると中途半端に成りかねませんし」
「確かに。失敗したら今までの苦労が水の泡になりかねないからな」
「そこは追々考えていきますよ」
「はいはい二人とも。会話するのは良いけど、ちゃんと護衛してよね?」
「分かってるさ、イズ」
「すいません。少し会話に夢中になっていました」
パンパンと手を叩いて意識をこちらへと戻すイズに、クロムは肩を竦め、コーヒーは素直に謝ってイズの護衛を再開していく。
道中のモンスターはクロムが大盾で引き付けて受け止め、コーヒーが狙撃、たまに魔法を使って仕留めていく。
それだけで、一行はすらすらと奥へと進めていた。
そんな中……
「雷槍よ 万里の彼方まで刺し貫け 【サンダージャベリン】」
コーヒーはちょっと悪乗りして、思いついた詠唱を付けて雷の槍―――【サンダージャベリン】を放って蜥蜴型のモンスターを仕留めた。
「おいおい、少し痛いぞコーヒー。少し様にはなっていたけどよ」
「そうねぇ……男の子はこういうのが好きなのかしらね?」
「ちょっとしたノリですよ。後、忘れて―――」
ピロリン♪
『スキル【口上強化】を取得しました』
「……は?」
突然のスキル取得の知らせに、コーヒーは一瞬間抜けな顔となるもすぐに我に返って、そのスキルの効果を確認する。
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【口上強化】
それぞれの魔法と、一部を除いたスキルに用意された文章を口にすることで、威力と効果が上昇する。
文章は各スキルの欄に記載。
※このスキルは【廃棄】できません。スキルスロットへの付与も同様。
取得条件
痛い台詞を放った後、二秒以内にモンスターを魔法、もしくはスキルを使って撃破すること。
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「……なんじゃこりゃ」
コーヒーはスキルの取得条件から、猛烈に嫌な予感を覚えつつ、【雷帝麒麟】のスキル欄を確認する。
―――ピシィ!!
途端、コーヒーの体が石化したかのように硬直した。
「………………………………ゴフッ」
長い沈黙の後、コーヒーは膝を折ってその場で四つん這いとなった。
「コーヒー、どうしたの?」
「どうしたんだコーヒー?いきなり四つん這いになって」
心配して声を掛けてくるイズとクロムに、コーヒーはギギギ、と錆び付いたブリキ人形のように首を動かして、二人に顔を向ける。
そして、震える声で、四つん這いとなった理由を明かした。
「……痛い」
「「?」」
「新しく手に入れたスキルの……【口上強化】で用意されている口上が……厨二感があって、本当に痛い……」
「「…………」」
どうやら、新しいスキルを確認し、あまりにも厨二感が満載だった為に、メンタルに多大なダメージを受けたようである。
「き、気にしすぎじゃないのか?ゲームなんだから、口上があっても問題ないだろ?」
「そうねぇ。さっきのもそこまで酷くなかったし、一度試してみたら?」
「…………そうですね。ひとまず一度、試してみます」
クロムとイズの言葉に、コーヒーは一旦納得しつつフラフラとした動作で立ち上がり、先ほど確認した魔法の口上を口にする。
「穿つは閃槍 迸るは闇夜に煌めく雷光 雷槍と成りて敵を射し貫け―――【サンダージャベリン】」
コーヒーが詠唱と呼べる口上の後にスキル名を告げた瞬間、先程放ったものより幾ばくか大きくなっている蒼き雷槍が形成される。
コーヒーはそのまま【サンダージャベリン】を放つと、雷槍は先程よりも速い速度で放たれるのであった。
「「…………」」
「……忘れてください」
「……どっちを?」
「口上の方を、です。後、このスキルは【廃棄】します」
イズの質問にコーヒーはそう答え、画面を操作して【口上強化】を【廃棄】にしようとする。
「いやいやいや。流石に【廃棄】はもったいないぞ?実際、同じ魔法なのにしっかりと違いがあったし」
「それも少しじゃないですか!!こんなメンタルをダイレクトに傷つけるヤツをこれからも持ち続けろと!?」
「さっきも言ったが、ゲームなんだからそこまで深刻に考えなくても大丈夫だ!口上というか、詠唱はファンタジー感が増すしな!」
「そう思うなら、クロムも同じスキルを取得しろよ!?」
「俺は……ほら。大盾でのタンクだし、そんなスキルは必要ないからな。というか、取っても無駄に終わる可能性が高いし」
「嘘だ!!自分のメンタルを守るために取りたくないだけなんだ!!」
「違う!断じて違うぞコーヒーくん!!」
「その言動が、ますます怪しい!!現に今も目を逸らしているし!!」
ワーワー、ギャーギャーと激しく口論を続けるコーヒーとクロム。そんな二人を、イズは呆れたように見守っている。
「とにかく、このスキルは【廃棄】する!!」
コーヒーはクロムの説得を振り切り、【口上強化】を【廃棄】にしようと決定ボタンを押す。
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このスキルは【廃棄】できません。
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だが、コーヒーの望みは無情にもへし折られた。
「…………………………………………へ?」
画面に突き付けられた無慈悲な現実に、コーヒーは思考が停止。
やがて、徐々に理解が追い付くと、一気に絶望した表情でその場で再び四つん這いとなった。
これが後に【蒼き雷霆】や【ライトニング・アーチャー】、【厨二病患者1号】と呼ばれる羽目となる始まりであることを、この時のコーヒーは知るよしもなかった。
廃棄できないスキル……あってもいいよね?
感想お待ちしてます