スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


プランBと【夢の鏡】

ドレッドを倒し、サクヤに痛手を貰ったコーヒーとサリーは拠点へと帰還した。

 

「無事だったか、二人とも」

「何とか、な。だけど、サリーが痛手を貰ってしまった」

 

丁度見張りを交代していたらしいクロムの言葉に、コーヒーは返しながら現在のサリーの状態を説明していく。

 

「一番優れたステータスが0……事実上の前衛からの戦線離脱ということか」

「……うん。魔法が使えるからまだマシだけど、あんまり上げていないから援護くらいにしかならないと思う……」

「厄介なスキルだね。メイプルやシアン達が受けたら、本当にザコキャラにされちゃうよ」

 

カナデの言葉に今その場にいる全員が頷く。何せ極振りプレイヤーがそれにやられたら、すべてのステータスが0。メイプルは毒魔法と【機械神】等の攻撃できるスキルがあるから完全な戦力外にはならないだろうが、マイとユイ、シアンが受けたら完全に出来ることがなくなってしまう。

 

「それでどうするー?わざと死んでリセットするー?」

「大概のスキルは死んだらリセットされるが……このスキルもそうだと言う保証はないし、解けなかったら他のステータスが下がるだけでもっと痛い結果になるだけだ」

「ああ。不確定要素がある以上、その手は使うべきじゃないな」

 

ミキの提案をコーヒーは頭を振って却下し、クロムもそれに同意する。

 

「現状はそのサクヤに会ってもメイプル達には逃げの一手に徹してもらうしかないな」

「……うん。それがいいと思う。後、カナデにはこれを」

 

サリーはそう言って自身の画面を操作して自身のマップ情報を見せる。同時に回収してきたオーブも地面に落としていく。

 

「これは……」

「全てのギルドのオーブの位置と規模が書いてあるから、それを覚えて皆のマップに書き写して。それと、メイプルには起きたらプランBを実行に移すように伝えて。後、心配かけてゴメンとも」

「ん、了解。マップは覚えたよ」

 

サリーの要望にカナデは頷き、その超人的記憶力で余裕でサリーのマップ情報を全て完璧に記憶する。

 

「ありがとう……それと、もう限界だから……落ちる、ね……」

 

サリーはカナデに礼を言うと、そのまま意識を落として眠りについた。

ずっとコーヒーが背負いっぱなしだったから、崩れ落ちる心配もなく、コーヒーの背中で寝息を立てている。

 

「取り敢えず、サリーは奥の部屋でイズさんが用意したベッドの上に放り込んで来る」

「分かった。コーヒーはどうする?」

「俺は【魔槍】のデメリットで数時間はHPが回復できない上に一桁しか残っていないんだ。それまでは後ろからの援護に徹するさ。マイ、ユイ、悪いが防衛の要は任せたぞ」

「「はい!任されました!」」

 

コーヒーの言葉にマイとユイは快く頷いて返す。

そして、コーヒーは奥の部屋に行き、イズが用意したそれぞれのベッドで寝ているメイプルとシアンを尻目に、サリーをベッドの上に寝かす。

 

「さて、今出来ることをやるとするか」

 

コーヒーはそう呟いて部屋を後にし、奪ったオーブの防衛に加担するのであった。

……誰も襲ってこなかったが。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

―――その頃。【集う聖剣】の拠点では。

 

「それでアホデリカさん。偽情報を掴まされた件に関して言い訳はありますか?」

「……ありません」

 

オーブの前で正座して物凄く気まずそうな表情をしているフレデリカと、そんな彼女の正面で少々責める目付きで見つめるサクヤ。

この状況はお察しの通り、フレデリカが恐れていた説教タイムである。

 

「前に言いましたよね?貴女が調子に乗るとロクなことにならないと」

「……はい。言っていました」

「尾行に気付かれて決闘したのはまだしも、自分の情報を晒した挙げ句、ただの反射神経をスキルによるものと植え付けられ、それを皆さんに共有したのは頂けません。それは分かってますね?」

「……はい」

「ドレッドさんが違和感を感じて報告しなければ、彼女だけでも決して小さくない被害を与えられても不思議ではありませんでした。それだけではなく、レイドさんを呼ばなかったら状況はもっと悪化していたでしょう。反省して下さい」

「……はい。申し訳ありませんでした」

「以上、【楓の木】への偵察が失敗した件についてはこれで終わりです。私は疲れたので先に休憩させて頂きます」

 

サクヤはそう言ってその場から離れようとする。対するフレデリカは意外そうな表情でサクヤを見つめていた。

 

「……それだけなの?」

「イエス。それだけですが何か?」

「いや……サクヤちゃんのことだから……てっきり今回の大惨事についても責めるものかと……」

 

フレデリカのその言葉に、サクヤは溜め息を吐きながら告げる。

 

「それに関しては仕方ありません。レイドさんの話を聞く限り、CFさんは強力な範囲攻撃を持っていたそうですから。それに、早々に撤退を指示していたとも言っていましたから今回は大目に見ます。あくまで私はですが」

 

暗にペイン達が何を言っても擁護しないという言葉に、フレデリカは気まずそうに視線をペインに向ける。対するペインは苦笑の表情だ。

 

「俺も今回の大惨事に関しては仕方ないと思っているさ。流石に予想外が過ぎたからな」

「俺なんかCFにまた負けちまったからな。オーブは横取りできなかったし、フレデリカにあれこれ言う資格は俺にはないさ。今回の件は俺達の負けだな」

 

ペインの言葉に頷きながら、ドレッドもこの件は自分達の負けだと告げる。

実際、100人以上の犠牲が出た上にドレッドも一デスしたのだ。それでオーブも横取り出来なかったのだから負けという表現は間違っていない。

 

「だが、サクヤの呪いで一矢は報いたのだろう?」

 

自身のインベントリで刀身の残数を確認していたレイドの言葉に、サクヤはこくりと頷く。

 

「イエス。ですが、呪いを施せたのはサリーさんです。プレイスタイルからしてAGIが0になったでしょうが痛手を与えたと判断するには微妙です。それに、次からは警戒してメイプルさんには絶対に私を攻撃させないかと」

「そう考えるとメイプルを無力化できなかったのは残念だったな。状況からして応援を呼びそうだってのに」

 

サクヤの報告にドレッドが残念そうに肩を竦める。

サクヤの【呪い人形】は確かに強力だが、使用する度に最大HPが半分となる。

 

サクヤはHPにはステータスポイントを振っていないためにHPが低く、下手したら一撃で倒される危険性がある。

そして呪いは自身か対象、どちらかが死ぬまでは解けないスキルであるため、決して使い勝手の良いスキルとは言えなかった。

 

「それでペインさん。【楓の木】の拠点を責めるのは今夜の深夜で間違いないですね?」

「ああ。三日目や最終日に責めて万が一にも負けたら、挽回できないダメージを負う可能性もある。二日目なら、残りの日数で挽回できる芽は十分にあるからな。……本当は互いにベストな状態で挑みたかったがな」

「それは仕方ないかと。個人としてではなくギルドとして戦う以上、【楓の木】への襲撃は実質無意味ですからね。他のメンバーも乗り気ではないですし、日が変わる一時間前に挑みに行けるだけマシかと」

 

サクヤのその指摘に、ペインは少し落胆しつつも納得の意を示す。

サクヤの言った言葉は全て事実。【楓の木】への襲撃は【集う聖剣】のギルドとしては全くと言っていいほど意味がない。

それでも戦いに挑むのは一重にゲーマーとしてのエゴである。

 

「それに偵察隊の報告では、【楓の木】の拠点には複数の罠が仕掛けられているそうだ。一本道だから避けて移動するのは困難だろう」

「ノウ。罠は入口とオーブ周辺だけと見ていいと思います。偵察隊の報告ではメッセージを送ってから中に入っていたと言っていましたので、おそらく無差別でしょう」

 

レイドの指摘に対し、サクヤが偵察隊の報告から罠の性質の予測を告げる。

 

「それなら何とか対処できるかもねー。最悪はドレッドの勘で見つけてもらえればいいしねー」

「……どうしてでしょう。板デリカさんがそう言うと不安になってきました」

「酷いよサクヤちゃん!それと、後で洞窟の奥で待ってろ!」

「ノウ。闇討ちされると分かっているのに待つわけないでしょう」

 

ギャーギャー騒ぐフレデリカと淡々と言葉を発するサクヤ。

正反対ながらも、喧嘩するほど仲が良い二人にペイン達は苦笑するのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「そうか。サリーのステータスが……」

「装備の強化も含めて0にするなんて……かなり厄介なスキルね」

 

あれから暫くして帰還したカスミとイズも、あまり優れない表情で報告を受け止めていた。

当然だ。何せ最も優れたステータスが0にされるというのは、その者の強みを奪うも同然だからだ。

 

「ああ。あまりにも強力だから相応のリスクがあるとは思うんだが、連発できないとは限らないからな」

「俺もコーヒーと同意見だ。現時点ではサクヤが本人だと確信できない限りは手を出さない方がいいだろう」

 

クロムの意見にその場にいる全員が頷く。そのタイミングで、奥からメイプルとシアンが部屋に入って来る。

 

「メイプル、シアン。十分に休憩は取れた?」

「はい。正直、コーヒーさんとサリーさんのことが気がかりですぐに寝付けませんでしたが」

「サリーが寝ていたから無事に戻って来たようで安心したんだけど……何かあったの?」

「実は……」

 

メイプルの疑問に、コーヒーが代表してサリーの現在の状態とサクヤの危険性を話していく。

 

「うわぁ……私がそれにやられたら防御力が0になっちゃうんだ……」

「現時点では、極振りのメイプル達にサクヤとの戦闘はまずい。だから、サクヤと相対したら絶対に相手にせずに逃げてくれ」

「わかったよ」

 

コーヒーの忠告にメイプルは素直に頷く。同時にマイとユイ、シアンも頷く。

 

「サリーから伝言を預かってるよ。作戦はプランBに移行。後、心配かけてゴメンって」

「うん、わかった。朝になったら攻めに行くよ」

「なら、今の内に大まかなルートを決めておくか」

「了解!」

 

カナデがメイプルのマップにサリーが調べあげた情報を書き写し、それを元にメイプルとコーヒーは互いの進攻ルートを決めていく。

そして、早朝。

 

最大戦力のメイプルが出陣し、コーヒーはメタルボードに乗って再び動き出していく。

その間の【楓の木】は……暇を持て余していた。

サリーは未だに眠り続け、修理アイテムは奥の部屋に引っ込んだイズがいるため不要。

 

ミキは拠点で釣りを行い、アイテムを次々と釣り上げている。

カナデは今日引き当てたスキルを確認していた。

 

「今日はどんなスキルを引き当てたんだ?」

「【夢の鏡】というスキルだよ。クセが結構強いけど、魔法使い向けのスキルだね。今日限定だから今の内にたっぷり保管しておかないとね」

 

カナデはクロムの質問に答えつつ、新たな魔導書の作成を始めていく。

 

「神々の叡智の集大成 その大いなる智慧を以て 魔導の理を記録せん―――【魔導書庫】。鏡は万里を繋ぐ道標 世界を隔てる境界を越え その(みち)への空間を結ばん―――繋げ、【鏡の通路】」

 

カナデが【口上強化】しつつ、スキル名を【詠唱】込みで発動すると、二つのタイマーが同時に現れる。

 

「なるほどね。【鏡の通路】は二回使って真価を発揮する魔法……最初に設置した鏡の場所に戻って来れる魔法なんだね。本来は緊急の脱出向けだけど、今回のイベントにも使えるね」

「確かに。オーブを奪ったらすぐに拠点に帰られるからな」

 

確かにカスミの言う通り、一番遠くの地点にあるオーブを奪ってすぐに帰還出来るのはかなりの強みだ。

当然襲撃されるリスクがあるがメイプルがいるから問題がない。

 

「このスキルは……上手くいけば魔導書が一度に大量生産できるかもね」

 

次の魔法を選択していたカナデがあるスキルを見つけ、少々悪どい笑みを浮かべながらスキルを発動する。

 

「紫紺の鏡は合わせ鏡 写し出すは我が能力(ちから) 出でし虚の鏡で模倣せよ―――写せ、【ミラーデバイス】」

 

カナデがそう告げると、カナデの周辺に紫紺の鏡が三つ現れる。

MPを回復した後、その状態で【魔導書庫】を発動させると青いパネルが一つだけ現れ、カナデはその中で【ミラージュロイド】を選択する。

そうすると、【魔導書】の作成タイマーが大量に表示された。

 

「これは凄いや。一度に同じ魔法の魔導書が大量に作成出来て消費するMPも一冊分だけ。流石に作成中は【ミラーデバイス】も使えないけど……今日は一番ついてるよ」

 

そんな事を笑みを浮かべながら呟くカナデに、カスミとクロムは何とも言えない表情で互いの顔を見合うのであった。

ちなみに……

 

「……あれ、やばすぎないか?」

「まさか、あの幻想鏡のスキルを引き当てるだなんて……」

「だけど、今日限定のスキルだから次引き当てる可能性は……」

「そう言ってはいるが、MP消費のスキルをどんどん保管していってるぞ」

「だけど、幾ら消費を抑えてもMPが圧倒的に足りなくなる筈……」

「バカか。隣でミキがMPポーションを渡しているじゃないか。あのインベントリの中身を確認したら、低ランクのMPポーションだけで四桁はあるんだぞ。それも折り返しの桁で」

「あ、魔導書に保管した【ミラーデバイス】を使って【ミラーデバイス】を保管した魔導書の大量生産に入ったぞ」

「なんで【楓の木】のメンバーはどいつもこいつも【普通】の枠に収まらないんだ?」

「今更だろ、そんなの」

 

イベントを管理していた運営は、またしても頭を抱えていた。

 

 

 




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