二日目のイベントも昼過ぎ。
【楓の木】の奥でサリーがベッドの上からゆっくりと起き上がる。
そして、自身のステータスを確認するもAGIは現在の数値分マイナスされて0のまま。サクヤのスキルは未だに効果を発揮していた。
「……はぁ、完全にミスったなぁ」
サリーは深い溜め息を吐く。本調子とはいえないが、ベッドの上で寝ていたから感覚としては大分疲れが取れたように感じる。
だが、AGIが0だから昨日のような行動が出来ないため、一人でオーブを奪うことは出来ないだろう。
大半のプレイヤーならこの失敗をまだ引き摺るところだが、サリーは違った。
「このお礼は絶対に返して上げる……覚悟しときなさいよ、サクヤ」
サリーは瞳に闘志を宿し、見事に痛手を与えてくれたサクヤにリベンジを誓う。
「あ、メイプルとCFは上手く……」
サリーは思い出したようにマップを開こうとするも、途中で何かを思い出したようにピタリと止まる。
数秒の沈黙。そして―――
「……~~~~ッ!!!」
声にならない悲鳴を上げながら顔を真っ赤に染め、そのままベッドにあった枕に顔を埋めた。
(そういえばCFにお姫様抱っこされた挙げ句に、おぶってもらったまま寝てしまってた!!)
お姫様抱っこだけでなく、色々と精神的に疲れた状態だったとはいえ、男の子におぶってもらった上に寝てしまう等……端から見れば無防備としか言い様がない。
その羞恥心からばったんばったんとベッドの上で暴れているが、幸い部屋にはサリーしかいないので誰も気づくことはない。
いや、気づかれたら気づかれたらでそれも面倒だが。
ちなみにコーヒー本人もそう言えばと思いはしたが、ゲームの中だし別にいいかと割り切ることにした。割り切らないと、対応に困るという理由からだが。
(しかもおもいっきり体重も預けていたけど、大丈夫よね?重いって思われてないよね!?)
ここはゲームの中だから体重はそこまで反映されていないのだが、動揺しているサリーは気づかない。
そもそも、装備品込みの重さとなるのだからサリー自身の純粋な重さ等分かるわけがない。
本当ならオーブのある部屋に向かうべきなのだが、処理能力がオーバーフロー寸前となっているサリーは少しの間、ベッドの上でのたうち回るのであった。
―――――――――――――――
サリーが羞恥からベッドの上で暴れている頃、コーヒーは拠点へと帰還していた。
「帰ったぞ。オーブは15個手に入れてきた」
「前よりは少ないな。やっぱりキツくなってきたのか?」
多くはあるが前回よりも少ない数にクロムは疑問をぶつけると、コーヒーは少し頭を振ってから答える。
「それもあるが……どちらかと言うとオーブがないギルドが多かったんだ」
「成る程な。二日目だからオーブの奪い合いが激しくなってきているのか」
「全部小、中規模ギルドのもんだが……此処からは大規模ギルドのオーブも本格的に狙っていかないと上位は厳しいかもしれない」
「今の【楓の木】のランキングは13位だから……確かに大規模ギルドのオーブを積極的に狙うべきかもしれないな。他のギルドのオーブもある筈だし」
「……それで、カスミさんは一体どうしたんだ?」
コーヒーがチラリと視線を向けた先には、表情がかつてない程に緩み、刀を鞘から出し、しまい、出しを繰り返して眺めているカスミの姿がある。
「はぁああ……いい……」
完全に自分の世界に入っており、しばらくは現実に戻ってきなさそうである。
「お前がオーブを奪っている間に、カスミが競争相手を減らすために外に出てな。そこで【崩剣】と遭遇して倒しはしたが……代償に使っていた刀が壊れてしまったんだ」
クロムの言う通り、カスミは外に出ていた際に【崩剣】のシンと遭遇し、第一回イベントで戦っていたこともありそのまま戦闘へと突入した。
スキル【崩剣】は一つの剣を複数の小さな剣へと変えて自由自在に操る攻撃スキルであり、かなりロマン溢れるスキルである。
前回の戦いからシンの剣の操作技術が上がり、一度に操れる剣の数も倍になって明らかに強くなってはいたが、カスミには届かなかった。
理由はカスミも同様に成長していたのと、ミキが釣り上げたスキルの硬直時間を十分間短縮するアイテム【クールチャージ】を使っていたからだ。
それでカスミは20の小剣の面攻撃を【三ノ太刀・孤月】のモーションを利用して緊急回避。着地して直ぐ様【一ノ太刀・陽炎】で瞬間移動して斬りつけ、【七ノ太刀・破砕】で追撃。
シンはそれらの攻撃を盾で防ぐも二度目の武器破壊攻撃で盾は耐えきれずに破壊。
盾を失ったシンに【終ワリノ太刀・朧月】で高威力かつ高速の連撃を叩き込んで勝利をもぎ取った。
代わりに刀の耐久値が限界を迎えて壊れてしまったが。
その壊れた刀の代わりとしてイズが新しい刀を作ってくれた為、こうして上機嫌で眺めているのである。
とりあえず奪ったオーブを自軍のオーブにセットしていると、奥の部屋で寝ていたサリーが顔を出してきた。
「おっ、起きたかサリー。調子はどうだ?」
「まだ本調子ではありませんが、ベッドの上で寝たから大分楽に感じられます。後、AGIは依然0のままです」
クロムの問いにサリーは現状を伝える。
「そうか。やっぱり前線に出るのは難しそうか?」
「……うん。この状態じゃオーブに近づけないし、包囲されて終わると思う」
コーヒーの確認にサリーは少し視線をずらしながら答える。
確実に昨日の件絡みの反応だとコーヒーは察しつつも、極力意識しないように話を続けていく。
「となると、拠点防衛で待機するしかないのか?」
「それについてなんだけど……」
サリーが新しい提案をしようとしたところで、我らがギルドマスター、最終兵器メイプルが帰還してくる。
「ただいまー!オーブ九個手に入れてきたよ!」
サリーが持ち帰ってきたオーブとほぼ同じ量を手に入れ、ピンピンしているメイプルに一同はメイプルのデタラメ振りに何とも言えない表情となる。
コーヒーはその倍近い数を集めてはいるが、それは空からの奇襲と離脱を繰り返した結果であり、メイプルのように真っ正面から叩き潰した結果ではない。
「あっ、サリー!目が覚めたんだね!」
「うん。改めてゴメンね、メイプル。心配かけて」
「本当だよ!次からは無茶は控えてよね?」
「うん、努力はする」
そうしてメイプルが取ってきたオーブもセットして防衛に専念する中、一同は今後の予定を話し合っていく。
「やっぱり色々なところで戦いが起こってるね」
「ああ。一応、俺達の狙い通りにはなっているが……予想以上に戦闘が激しくなってきているからな」
「大規模ギルドは人数が多いから、一度に奪えるオーブも多いしね」
「だから……プランBを少しだけ修正すべきと思います」
「具体的にはどうするのだ?」
サリーの言葉に具体的な内容を問うカスミに、サリーは冷静さを取り戻すために考えていた修正内容を話し始める。
「今回の防衛が終わったら、メイプルはマイとユイ、シアンの三人と一緒に攻撃に出て。ミキもCFと私で大規模ギルドのオーブを奪いに行く」
「なるほど。攻撃役と支援役がいれば、メイプルの負担が大きく減る」
「ええ。それに、ミキのジベェのスキルなら大規模ギルドに対して有利に立ち回れる。それでCF……」
―――――――――――――――
とある大規模ギルドにて。
「もう少しで防衛が成功だな」
「ああ。このオーブを守りきれば、上位十位以内に食い込める可能性が高まるからな」
「ダルいなあ、ホント。防衛はじっとしてるだけだから楽だけどさ。人数多くてメンドーだけど」
「まあ、誰が来ても余裕で防衛できますけどwww」
「後数十分、気を―――」
会話をしながらも周囲を警戒していた防衛プレイヤーの言葉を遮るように巨大な影が射し込んで、辺り一面を薄暗くする。それも、どんどん範囲を広げて。
「な、なんだ、急に!?」
「上を見ろ!何かいるぞ!」
一人のプレイヤーが上空を見上げながら指を指す姿につられ、他のプレイヤー達も上空を見上げていく。
上空を見上げた彼らの視界に写ったのは……巨大な魚の腹であった。
「な、なんなんだよ!?あの巨大な魚は!?」
「うわぁ……まさかあれと戦わなきゃならない流れ?」
「分からんが、すぐに迎撃―――」
空飛ぶ魚に困惑しながらも迎撃しようとした彼らだが、その巨大魚からまるで潮吹きのように蒼い雷が大量に降り注いで来る。
「うわああああああっ!?」
「あ、あり得ないんですけど……このテセオさんが一方的に、しかも一撃でやられるとか……」
「メンドーだけど、魔法と弓で―――」
指揮官らしきプレイヤーが指示を出そうとするも、今度は大量のボールが降り注いでくる。
ボールは地面に落ちると爆炎を上げたり、白い粘着物となって貼りついたり、煙を立ち上らせたり、閃光を放ったり、甲高い音を出したり、異臭を放ったりと地上の面々に対して猛威を振るっていく。
「本当になんなんだよ!?」
「あー、もう!こうなったらオーブを持って―――」
この場から逃げる。そう指示を出そうとするも、迫り来る巨大な津波を前に言葉を失った。
「……ハハッ」
指揮官が乾いた笑みを浮かべて、一言。
「何で津波が襲ってくるんだよぉおおおおおおおおっ!?」
その言葉を最後に、叫んだ指揮官も含めた防衛プレイヤー達は津波に呑まれ、光に消える、もしくは流されていくのであった。
―――――――――――――――
「やったー。オーブが一気に15個手に入ったよー」
「やっぱり大規模ギルドはオーブを溜め込んでいるな」
「そうね。この調子で他の大規模ギルドを襲撃しようか」
ジベェの背中の上で今回の戦利品を確認しているコーヒー、サリー、ミキの三人はマップを確認して次の標的を決め始めていく。
先の襲撃はコーヒーが威力を最大限まで引き上げた【ディバインレイン】で先制攻撃し、ミキとサリーがミキが釣り上げたアイテムを大量に投下し、止めにジベェの【津波】で流したのだ。
昨晩は深夜の上に一回だけとあってジベェの脅威が広まっていなかったのも、この襲撃が成功した要因でもある。
「それじゃ次に攻めるギルドは……お?」
双眼鏡片手に眼下の戦場を確認していたコーヒーは、その最中である人物を見つける。
「……サリー、メイプル達は今、どのギルドに向かってるんだ?」
「確認するね。…………次は【炎帝ノ国】だそうだけどどうして?」
「そのギルドマスターを見つけたからだ」
コーヒーのその言葉に、サリーはすぐに狙いを察して笑みを浮かべる。
「なるほどね。ここで足止めさせてメイプル達を援護しようってことね」
「正解。戦力を釘つけに出来るチャンスを逃すのはもったいないだろ?」
コーヒーの言葉にサリーとミキも頷き、予定変更でミィがいる戦場へと向かうのであった。
―――――――――――――――
その頃、ミィはミザリーから連絡を受けていた。
「何……?メイプルが私達の拠点に向かっているだと?」
ミザリーからのメッセージを確認したミィは同行していたギルドメンバーにこの事を手早く伝えていく。
「私は急いで拠点へと戻る。諸君、すまないが後を頼む」
ミィの言葉にギルドメンバー全員が頷き、ここは自分達に任せて下さい、早く向かって下さいとミィを送り出す言葉を紡いでいく。
その言葉を受け、ミィはミザリーに急いで向かうと返信しようとしたところで、蒼雷の槍がミィに襲いかかってきた。
「!?くっ―――」
突然の攻撃にミィは驚きつつも、咄嗟に飛び退いたことで何とか蒼雷の槍をかわす。
そのまま蒼雷の槍が飛んできた方向に顔を向けると、ミィの視界に写ったのは、板に乗って猛烈な勢いで近づいてくるコーヒーの姿であった。しかも、その遥か後ろには空を飛ぶ巨大な魚が近づいて来ている。
「このタイミングで襲撃とは……!」
間違いなく自身の足止めに来たのだと察したミィは、ミザリーにすぐに向かえなくなったと返信し、短杖を構えて臨戦態勢を取る。
一方、返信を受けたミザリーはと言うと……
「…………」
「ミザリー……ミィは……?」
「……最悪の状況です。ミィは今、【楓の木】の足止めを受けています」
「……うわぁ……本当に最悪だぁ……僕達だけでやらないと駄目なのかぁ……とても、つらい」
ミザリーの報告を聞いたマルクスはどんよりとした雰囲気を纏って肩を落とす。
何せ、マルクスとミザリーはメイプルとは相性が悪い。時間稼ぎならまだしも、ミィがすぐに向かえなくなったことで時間稼ぎでは駄目になってしまったからだ。
「問題ない。ミィがいなくとも俺がいる。この盾でコピーしたスキルを使えばな」
「カミュラ……」
「そして、俺がメイプルを倒せば……俺の強さに惚れる女性プレイヤーが出てくるだろう。故に、“リア充”の仲間入りを果たす為に、俺はメイプルを倒す!!」
「その言葉で、台無しです……」
カミュラの願望だだ漏れな言葉に、ミザリーは呆れながらも杖を構える。
マルクスも諦めたように頬を叩いて気合いを入れていく。
「……はぁ、本当に僕達だけでやるしかないのか……」
「シンには急いで戻るように、テンジアには現在の位置からこちらに戻るよりミィの方に向かうよう連絡します」
そうしている間にも、空を飛ぶ亀は此方へと近づいて来る。
そして、魔法と弓の射程圏内というところで亀はその姿を消し、四つの人影が地面へと降り立つ。
「……何?あの蛇のような三つの化け物は……?」
「大槌の二本持ち……テンジアと同じ【破壊王】持ちですね……それが二人も……」
「後ろの魔法使いは回復役だな。そして、全員鈍足ということは……」
「極振り、ですね」
「……最悪の組み合わせじゃない?」
そう呟くマルクスの表情はかなり引き攣っている。
圧倒的な防御力を持つメイプルに、攻撃役と回復役が付いているのだ。それも、互いの弱点を補う形で。
鈍足という点を除けば、本当に最悪のパーティーである。
「……とにかく、頑張りましょう。これを凌げれば、希望がある筈です」
自分にも言い聞かせるようなミザリーの励ましに、マルクスは深い溜め息を吐き、カミュラは大盾と白き短刀を構える。
こうして、それぞれの場所で【炎帝ノ国】と【楓の木】は激突するのであった。
感想お待ちしてます