スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ
※少し修正しました


切り札を切る

ブリッツの背に乗ってコーヒーの隣に降り立ったサリーは、早速文句を言っていた。

 

「何で一人で先に行ってるのよ。【クラスタービット】を使えば一緒に行けるでしょ」

「いや、今のサリーは機動力が落ちてるから安全策で行ったつもりなんだが」

「それじゃブリッツを預けてもらった意味がないでしょ!」

 

コーヒーの言い分にツッコミを入れるサリーの指には、朧の指輪だけでなくブリッツの指輪も嵌まっている。

サリーが出撃前にコーヒーにした提案。それはブリッツを貸してほしいと言うものであった。

 

ブリッツなら【砂金外装】で体を大きく出来るし、被弾を無効にする【電磁結界】もある。

当然、移動はブリッツ頼みとなり回避能力も落ちはするが幾ばくかはマシとなる。

 

「とりあえず、俺とミキが援護するからサリーが攻めてくれ」

「わかった。現状はそれが妥当だしね」

 

コーヒーとサリーが方針を決めている間、ミィ達も方針を決めていた。

 

「空飛ぶ魚……まさかメイプルとCF以外に空を移動する手段を持つ者がいたとは……」

「噂は聞いていたが……まさか【楓の木】絡みとは……」

「……兄上、皆、アレを使う」

 

ミィのその言葉に、テンジアを含めたギルドメンバーは一斉にミィに視線を向ける。

 

「アレとは……“太陽”の方か?」

「いや、“牢獄”の方だ。太陽の方は性質上、大多数向きだからここで切るのは得策ではない」

「牢獄ならCFを閉じ込められる……という事だな?」

「ああ。見た限り回復役はいそうにない。最大限で発動すればCFを倒せる筈だ」

「その一刀両断の決断、承知した。我々が時間を稼ごう」

 

テンジアは頷き、長剣を構えてコーヒー達に再度突撃する。他のギルドメンバー達もミィの前に立ち、自身を盾にする覚悟で戦闘に臨んでいく。

そんな彼らの後ろで、ミィは静かに詠唱を始めていく。

 

「万物の根源 象徴たる炎 その朱き力を以て全てを捕らえし枷となれ―――」

 

テンジア達が動いた事で、コーヒー達も動き出す。

 

「朧!【影分身】!!」

 

サリーが朧のスキルを使い、ブリッツごと分身して先陣を切っていく。

 

「分身のスキルか。だが―――」

 

テンジアは分身して突撃してくるサリー全員を流し見て、誰もいない筈の方向へと向かい剣を振るう。

振り下ろされた長剣は空振りせずに硬い音を響かせて逸らされる。直後、本物のサリーが姿を現した。

 

「……昨日もですが何で分かったんです?」

「視界だけでなく音と気配、自身の勘を用いれば無理難題ではない。最も、一朝一夕でものに出来はしないがな」

 

テンジアはそう言ってもう片方の長剣を振るおうとするも、飛来する矢に追撃は止めて後退を選択する。

 

「地を焼き天焦がす業火よ 闇に揺蕩(たゆた)う眩き(ほむら)よ―――」

「ジベェ、【水鉄砲】ー」

 

完全に動きを止めているミィに、ミキがジベェに指示を出して攻撃を行うも、彼女の前に立つギルドメンバー達が魔法を一斉に放って攻撃を相殺していく。

 

「森羅万象を灰燼と化す灼熱よ 汝に求めるは堅牢 汝に求めるは深い檻―――」

 

ミィの詠唱が続く間も、サリーはテンジアを、コーヒーはサリーを援護しつつ何かをしようとしているミィに攻撃を仕掛けていく。

 

「【瞬影】!」

 

サリーは【蜃気楼】と合わせて【瞬影】を発動させる。

 

「夏炉冬扇!昨日と同じ手が通じると―――」

 

テンジアはそこまで告げるも、本物のサリーが偽物サリーのすぐ後ろであることから嫌な予感を覚えて後ろへ飛び引くもそれは失敗だったとすぐに悟る。

 

「ブリッツ!【電磁砲】!!」

 

ブリッツの口から放たれるシロップの【精霊砲】にも劣らない砲撃。その砲撃はテンジアの体を呑み込んだ。

 

「よし―――!?」

 

サリーはテンジアを倒したと思ったが、恐怖センサーが警鐘をならしたので警戒した直後、ノーダメージのテンジアが先程よりも速い速度で迫ってきていた。

 

「【針千本】!【狐火】!」

 

サリーは直ぐ様ブリッツと朧に指示を出して迎撃しようとするも、テンジアは飛来する無数の針を悉く叩き落とし、炎は体捌きで難なくかわしてしまう。

 

「【飛撃】!!」

「【八式・静水】!!」

 

テンジアから放たれる飛ぶ斬撃。それをサリーは【八式・静水】ですり抜けて回避する。

 

「迸れ!【リベリオンチェーン】!!」

 

コーヒーが雷の鎖と蒼銀の津波を放ち、ミキはジベェの背中から爆弾を放り投げて援護していく。

テンジアはそれを悉くかわし、爆弾はギルドメンバーの弾幕攻撃で爆破されて防がれていく。

 

「燃え盛り燐火と爆ぜ 我が仇敵を繋ぎ止めし絶対無敵の(くびき)となれ!」

 

そして、ミィの本気の詠唱が完成し、万感の思いを込めて放たれる。

 

「真紅の炎帝の名の下に閉じ込めろ!【火炎牢】!!」

 

その瞬間、コーヒーを中心に炎が伸び、半径三メートル、高さ六メートル炎の檻となってコーヒーをその中へと閉じ込めた。

 

「なっ!?」

 

コーヒーの驚愕を他所に、HPバーはどんどん減少していく。コーヒーはHPポーションを使って回復するも、ダメージは常に入り続けている。

 

「継続ダメージ……!しかもHPの減りが早い!」

 

コーヒーはHPポーションを次々と開けるも、回復した傍からダメージが入り完全に無駄使いとなっている。

 

「【夢幻鏡】!!」

 

コーヒーは炎の檻から脱出する為にカードを切るも、スキルは発動しない。どうやら継続ダメージは対象外のようである。

 

「……仕方ないか」

 

コーヒーは諦めたようにクロスボウの銃床部分を三回叩く。

コーヒーが閉じ込められたことに苦い顔をしていたサリーもそれを見てコーヒーの意図を察して直ぐに頷く。

 

「ブリッツ【電撃】!流せ【ウォーターボール】!癒せ【ヒール】!」

 

サリーはミィ達に警戒しながらコーヒーを閉じ込める炎の檻を攻撃し、回復魔法も飛ばしてコーヒーを表面上は助けようとする。

ミキも爆弾と【水鉄砲】を使って術者たるミィを攻撃しようとする。

その頃、ギルドメンバーに守られているミィは【火炎牢】の維持の為にMPポーションを次から次へと開けていた。

 

「まさか兄上の【空蝉】が使わせれるとは……」

「それがなければ私はやられていた。まさに九死一生。【火炎牢】はどれほど持つ?」

「15分だ。与えられる継続ダメージも通常より多く、消費量も幾ばくか抑えられているから上限まで発動できる。炎に触れれば大ダメージ。耐久力も高い。脱出はほぼ不可能だ」

 

何せ【口上強化】と【口上詠唱】、ついでに【詠唱】を使って発動したのだ。大幅に強化された一日限定の切り札は相当な効果をもたらした。

 

「本当はメイプルを倒す為に温存して起きたかったが……背に腹は変えられないからな」

「ああ。出し惜しみして倒されれば、それこそ本末転倒だからな」

 

ミィの言葉にテンジアは頷き、その動向を見守っていく。

だが、これが仇となった。

 

「掲げるは森羅万象を貫く威信 我が得物に宿るは天に座す鳴神の宝剣―――」

 

コーヒーはポーションで回復して直ぐに口上を唱えていた。通常なら最後の台詞で終わるのだが、コーヒーは言葉を続けていく。

 

「夜天に響く雷音は空を切り裂き 無明の闇に煌めく雷光は揺蕩う宝玉 招来(きた)る迅雷は万里を穿ち 滾る雷火は揺るがぬ信念の導となる―――」

 

コーヒーのあの行動。あれは相手に悟られないように決めていた、【グロリアスセイバー】を使うという合図だ。サリーもこの状況なら仕方ないと納得し、誤魔化す為に檻の破壊を試みているのだ。

 

「顕現せし鳴神の宝剣が纏うは我が蒼雷 神雷極致の栄光を現世へ!」

 

コーヒーの詠唱が完成し、蒼い輝きが炎の檻の中で満ち溢れる。

ここでミィ達がようやくコーヒー達の狙いに気づくも既に遅い。

 

「限界を超えし蒼き雷霆よ集え!【グロリアスセイバー】!!」

 

コーヒーの咆哮と共に放たれる最強魔法。

放たれた雷の宝剣は炎の檻を容易く突き破り―――その先にいたミィ達へと猛烈な勢いで迫っていく。

 

「ミィ!!」

 

テンジアが身を挺して盾となるも無意味。ミキの攻撃で一ヵ所に集まっていた【炎帝ノ国】の者達は、ミィを含めて貫かれ、または吹き飛ばされて光となって消えていった。

残ったのは抉り取られた地面の跡。それだけで威力が窺えるというものだ。

 

「……明らかに威力がおかしいわよ」

「悪いけど最大じゃないぞ。奥の手と強化魔法を使ってないからな」

 

【口上強化】と【口上詠唱】、【詠唱】に【避雷針】のストック全てを使ってこの威力なのだ。

【聖刻の継承者】と【ヴォルテックチャージ】を使ったら……メイプルでさえ唯では済まないだろう。

コーヒーがそれらを伝えると、サリーはますます呆れたような顔をしていく。

 

「……まあ、CFもおかしいのは今更か」

 

サリーのその言葉にコーヒーはしかめっ面となるが、事実なため反論のしようがない。

そうして、ミィ達を撃破したコーヒー達は次の大規模ギルドへと向かうのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

一方、【炎帝ノ国】の本拠地でもミィの敗北がマップを通して伝わっていた。

 

「……最悪です。ミィが倒されました」

「うぇぇ……マジで……?」

「くっ……あのリア充が……ッ!」

 

ミザリーの報告にマルクスは頭を抱え、カミュラは憎々しげに吐き捨てる。

ちなみに周りには三人を含めて十数人しかいない。理由は簡単、シアン達によって大打撃を受けたからである。

 

シロップが降下して【火炎牢】に捕らえたメイプルのHPを回復し始めたことで、カミュラ達は狙いをシロップ達に定めたのだが、シロップの【精霊砲】、イズに渡されていた【樽爆弾グレート】の投擲、シアンの攻撃魔法でギルドメンバーが吹き飛ばされてしまったのだ。

 

カミュラも全員を守るのは不可能なため、本当に取り返しがつかなくなる前に下がらせたかったのだが、ミィが敗北したことで全員が浮き足立ってしまっている。

そして、【火炎牢】も時間切れとなって消え始めていく。

 

「蹂躙せよ、終焉城塞(ラストキャメロット)

 

いつもの大盾を装備し直したメイプルの【名乗り】。それはまるで死刑宣告のように聞こえてくる。

それと同時に巨大化したシロップ並みに大きな樽がカミュラ達の目の前に投下される。

 

「「「……え?」」」

 

てっきりメイプルが仕掛けて来ると思っていた三人が予想外であったように揃って声を洩らした直後、その巨大な樽は爆発し、盛大な爆炎を上げるのであった。

 

「あー、【樽爆弾ビッグバン】を使っちゃったかー」

 

爆心地にいたにも関わらず、大したダメージを受けていないメイプルはやっちゃったといった感じで呟く。

【樽爆弾ビッグバン】はイズ印のアイテムであり、その威力は本当に洒落にならないものだ。現に地面が見事なまでに陥没し、メイプルと【不屈の守護者】が発動したカミュラ以外は見事に消えてしまっているのだから。

 

でも、【機械神】を使わずに済んだからいいか!と思い直し、メイプルはシロップを降ろしてシアン達と合流しよとする。

 

「ぐ、ぅ……まだ、だ……」

 

カミュラはHP1の状態で立ち上がり、不退転の覚悟で大盾を構える。

 

「負けるわけにはいかない……非リア充の俺が……こんなところで―――」

 

そのカミュラの決意は、顔面に迫った鉄球によって遮られるのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「負けたぁ~~。せっかく恥ずかしいの我慢して【名乗り】に【口上強化】、【口上詠唱】に【詠唱】まで使ったのにぃ~~」

 

死に戻りして早々、周りに誰もいないことを確認したミィは素でポロポロと涙を流して悔しがっていた。

 

「そもそも何なのよあれはぁ~~!最大の【火炎牢】を破壊した上に跡形もなく吹き飛ばすとか……威力がおかし過ぎるわよぉ~~!」

 

その直後、茂みががさがさと揺れ、ミィは焦った表情でそちらに顔を向ける。そこから出て来たのは……従兄のテンジアだった。

ミィはテンジアであった事に安心すると同時に、泣きついた。

 

「お兄ちゃぁ~ん!!」

「泣くな、ミィ。君は良く頑張った」

 

ぐすぐす泣くミィにテンジアが優しげな表情を浮かべながら、慰めるようにミィの頭を撫でる。

 

「……他の者達がこちらに近づいてきている。慰めはここまでだな」

「う、うん」

 

テンジアの言葉にミィは頷いてテンジアから離れ、すぐにカリスマの仮面を張り付ける。

そして、数秒もしない内に防衛に残っていたメンバーが姿を現した。

 

「……ごめん、ミィ……見事にやられたよ……」

「そうか……オーブはどうなった?」

 

マルクスの謝罪を受けながら、ミィが自軍のオーブの所在を聞く。万が一、防衛が崩壊しそうになった際はオーブを持って離脱するように指示していたからだ。

 

「オーブはシンが回収しようとしましたが……」

「が?」

「……対応が遅れたせいでシンを含めた者達は魔法と鉄球で吹き飛ばされ、回収は失敗。オーブは【楓の木】に持っていかれた」

「……え?」

 

その瞬間、ミィが固まった。

 

「すみません。私達の力が足りなかったばっかりに……」

「…………」

「ミィの敗北に全員が浮き足立っちゃって……戻ってきたシンが皆を纏めて行動しようとしたみたいだけど……それも間に合わなくて……」

「…………」

「おかげで被害が甚大だ。ギルドマスターの敗北で心乱すとは……やはりリア充は脆弱だな」

「…………」

「カミュラ……これはリア充云々は関係ないですよ」

 

カミュラの言葉にミザリーは呆れたようにツッコミを入れるも、ミィの耳には届いていない。

何せ、【楓の木】に完全敗北を喰らったのだ。ショックを受けるのは当然である。

 

「……うぇえええええええんッ!!」

 

そして、ミィは演技をするのも忘れ、泣きながらその場を立ち去るのであった。

 

「次会ったらぜぇ~ったいに、焼いてやるんだからぁ~~!!」

 

この日、【炎帝ノ国】はあることを学んだ。【楓の木】は色々な意味でヤバいという事を。

それが吉なのか凶なのかは……誰にもわからなかった。

 

 

 




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