スキルのせいで厨二病患者に認定されました   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


蹂躙開始

【集う聖剣】を退けた【楓の木】は改めて今後の行動の話し合いをしていた。

 

「今回はメイプルのおかげで勝てたが、結構危うかったな」

「ああ。あれがなければ私達は全滅していた」

 

クロムの言葉にカスミが頷く。

今回は何とか勝利したが、あのコンボはあまりにも強烈だった。何せ時間が過ぎる度にステータスが上昇し続けるのだ。普通ならあれで詰みである。

 

「そうね。こちらの明かしていない奥の手は【暴虐】と【聖刻の継承者】のみ……残り二日もあるからこのままだと厳しいでしょうね」

「そうだねー。メイプルの【影ノ女神】もー、発動まで時間がかかるからー、次はごり押しされるかもねー」

「流石に【集う聖剣】は来ないと言いたいが……絶対とは言えないからな」

「それじゃあ、もう次の段階に行くのかな?」

 

カナデのその言葉にサリーは頷く。

 

「ええ。この防衛を成功させたら、一気に仕掛けるべきだと思う」

「【楓の木】が上位に食い込む為のプラン……大規模ギルドを徹底的に荒らして完全壊滅を早めるプランだな」

「最終日前に全壊滅エンドへ導けば、【楓の木】は上位に食い込める。サリーちゃんも弱体化が無事に解けたしね」

「ええ。ここは予定通りに二手。メイプルは私とCF、クロムさんにカスミ、カナデとシアンで攻めて、ミキはマイとユイ、イズさんの四人で強襲をかける」

 

サリーの組分けに全員が頷いて賛成の意を示す。

 

「メイプルはインパクトから抜けきらない内に倒し、ミキは上空から爆弾と津波で蹂躙していく」

「俺達はメイプルのインパクトで動揺した連中を一人でも多く倒してオーブを回収する」

「私達の方は私が爆弾を次々と作ってマイちゃんとユイちゃんに投げ飛ばしてもらって、ジベェの【津波】で止めを刺してからオーブを回収する」

「化け物の襲撃と空中からの爆撃……どちらも堪ったものではないからな」

 

満場一致で方針が決まり、奪ったオーブがすべて元の場所へと戻ったところでサリーが自軍のオーブを回収し、全員が外へと出る。

 

「我が身に宿るは悪魔の化身 我が呼び掛けに応え この身を依り代ろにして顕現せよ!【暴虐】!!」

 

そしてメイプルが【暴虐】を発動。例の化け物の姿となる。

 

「ジベェ、【巨大化】ー」

 

ミキの指示を受けたジベェはその身体を瞬く間に大きくしていく。

そして、コーヒー達は化け物メイプルの背中に、ミキ達はジベェの背中に乗っていく。

 

『よーし!行こう!!』

 

メイプルの掛け声と共に二組は正反対の方向へと進み、一気に他のギルドを殲滅しに動き始めるのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

とある夜の森の中、大規模ギルドが灯りを点けて防衛に励んでいた。

 

「かなりハイペースでギルドが潰れているな……」

「ああ、そろそろ大規模ギルド同士の……」

 

見張りの二人が話していると暗闇の中でがさりと音がする。

 

「……いくぞ」

「ああ、確認しよう」

 

二人は武器を構えて音のした茂みに近づき、灯りを向けると……

 

「「……は?」」

 

口を大きく開いた化け物の頭だった。

二人が驚いて硬直した瞬間、その化け物に食われた。

化け物―――メイプルはそのまま中心へと向かって突き進んでいく。

 

「な、何なんだよあの化け物は!?」

「イベントのラスボスか!?」

 

化け物メイプルの襲撃に大規模ギルドは激しく動揺し、まともな連携も取れずに轢き殺されていく。

さらに、メイプルの背中からコーヒー達が飛び降り、次々とプレイヤー達を倒していく。

 

「【ミラーデバイス】!【アイシクルレーザー】!!」

 

カナデが紫紺の鏡に写った魔導書から幾重もの冷凍光線を放ってプレイヤーを凍らせ―――

 

「輝け、【フォトン】!【連続起動】!!」

「弾けろ、【スパークスフィア】!!」

 

シアンとコーヒーが光球と雷球で吹き飛ばし―――

 

「ふっ!」

「おらぁっ!」

「はぁっ!」

 

サリーとクロム、カスミが討ち洩らしをきっちりと仕留めていく。

結果、僅か数十分で大規模ギルドは半壊し、オーブを奪われることとなった。

 

「オッケー!次!」

『うん!』

 

サリーの指示にメイプルは頷き、コーヒー達を再び乗せたメイプルは通り道にいたプレイヤーを倒しつつ、次のギルドへと向かっていく。

一方反対方向にある大規模ギルドでは……

 

「うわぁあああああああああっ!?」

「急いで洞窟に避難するんだ!!早くしないと吹き飛ばされるぞ!?」

 

上空の影から次々と落ちてくる爆発する大きな樽を前に、ひたすら逃げの一途を辿っていた。

 

「【樽爆弾ビックバン】が出来たわよー。取り付けた【時限爆弾】は30秒にセットしたから急いでねー」

「じゃあー、それはあっちに投げようかー。二人ともー、よろしくねー」

「「はい!」」

 

ジベェの背中の上で双眼鏡片手に方向を指示するミキに、マイとユイは阿吽の呼吸で【樽爆弾ビックバン】を二人で持ち上げて指示した方向へと投げ飛ばす。

そして30秒後。地上では凄まじい爆炎が噴き上がった。

 

「今ので何人吹き飛んだかしらねー?」

「さあー?上空からじゃわからないよー。でもー、止めを差す頃合いかもねー?ジベェ、【津波】ー」

 

途端、ジベェの腹から魔方陣が現れ、そこから大量の水が流れて津波となって地上へと落ちていった。

 

「じゃあー、釣り上げるねー?」

 

ミキはそう言って釣糸を真下へ向かって飛ばす。少しして釣竿を引っ張ると、釣り針にはその真下にあった大規模ギルドのオーブが掛かっていた。

 

「オーブが釣れたよー。次はどこー?」

「ここからだと此方のギルドが近いですね」

「じゃあー、そこに行こうかー。ジベェ、お願いねー」

 

ミキのお願いにジベェが若干身体を反って答えると、ユイが提示した方向に向かって進んでいく。

こうして夜中の三時まで【楓の木】は暴れ続け、半分以上の大規模ギルドに大打撃を与えたのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

その頃、【集う聖剣】の拠点では。

 

「悔しーいー!!あんな小さいギルドに何度も何度もー!!」

 

死に戻りして早々、フレデリカは悔しげに叫んでいた。

 

「というか、メイプルのアレは何!?あんなの幾ら何でも反則過ぎるよ!!と言うかもう存在自体が反則になってるよ!!」

 

フレデリカの言うアレとは【影ノ女神】のことである。攻撃が効かない上に即死させられるのだから……確かに反則と叫びたくもなる。

 

「イエス。幾ら何でもあれは異常過ぎます」

「そんな事はないさ。何処かでイベントをちゃんとこなして手に入れたスキルだろう。それを言ったら、俺達のあれも十分に反則レベルだよ」

 

サクヤが真顔でフレデリカに同意するが、ペインがそんな二人を自分達を引き合いに出した正論で宥める。

 

「確かにそうだけどさー……」

「ノウ。一体どんなイベントをこなせばあんなスキルが手に入るというのですか。詳細を求めます」

 

フレデリカは渋々ながら納得するが、サクヤは納得せず真っ当な疑問で逆に質問してくる。

 

「流石に見苦しいぞサクヤ。いくらしてやった相手にやられたのが悔しいといってもな」

「……恥ずかしがり屋で仮面を被っているレイドさんには言われたくないです」

「…………」

 

サクヤのムッスリとした言葉に、レイドは無言で顔を背ける。

 

「にしてもペイン。あんまり悔しがっていないな?」

「いいや、正直悔しいさ。回復役を無視してメイプルに集中していればと考えるくらいにはね」

 

ドラグの言葉にペインは空を見上げながらそう返し、言葉を続けていく。

 

「状況からして、あれは瀕死になってから二分経たないと発動しないスキルなのだろう。だから、メイプルに攻撃を続けていれば“もしかしたら”と思ってしまったんだ」

「じゃあ、状況が整ったらもう一度挑みに行くのか?」

 

ドレッドの質問に、ペインは頭を振って否定する。

 

「いいや。流石に今回のイベント中に借りを返すのは無理だろう。だから、借りを返すのは次の機会に取っておくさ」

「そうだな。俺もCFに勝ちたいし、勝負はまた今度ってことで。オーブを奪われたわけでもないし、俺達が一位で終わるだろ」

 

ペインの決意にドレッドも頷き、勝負は次の機会までに取っておくことを決める。

 

「そ、そうだよね。完全に負けたわけじゃないからね。負けたわけじゃ」

「ただの負け惜しみ、ですけどね」

 

フレデリカが自分に言い聞かせるように頷くも、サクヤが水を差す。

 

「ペインさん!」

 

そんな彼らに、ギルドメンバーの一人が大慌てで駆け寄って来る。

 

「どうした?そんな慌てて」

「偵察部隊からの報告です!現在、この近くを空飛ぶ巨大な魚が飛んでいるとのことです!しかもその魚からは、大量の爆弾が投下されているとも!!実際、他の偵察部隊はその爆撃に巻き込まれて死に戻りしています!!」

 

その瞬間ペインは苦笑い。ドレッド達は一気に目が死んでいく。

 

「おいおい、空飛ぶ魚って確か……」

「間違いなく【楓の木】だな。まさかとは思うが……あれがそうなのか?」

 

そう言ったレイドが指差す遥か先で大爆発が起こる。明らかに無事ではすまない威力であることが容易に想像できる。

 

「はい!まさにあれです!!」

「……あれが来たら迎撃できる?」

 

肯定されたことで、フレデリカが引き攣った表情でペイン達に問い掛ける。

 

「空からじゃ……厳しいよな」

「確か津波も襲ってくるんだろ?空襲と津波相手に……対処しきれるのか?」

「ノウ。あの爆発の規模からして、対処する前に吹き飛ばされます」

「そもそも、大規模ギルドを偵察していたメンバーは津波に巻き込まれてそのまま死に戻りしたのだ。近づいたら……逃げるしかないだろう」

「ああ。オーブを持って離脱するしかないだろうが……今は様子を見るしかないな」

 

満場一致で抵抗不可能。逃亡可決。【集う聖剣】は来ないことを祈って見守るしかない。

そして、空飛ぶ巨大な魚が近づかずに離れていった時は、ペインも含めて全員が安堵の息を吐くのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

夜の三時に破壊の行進を終えた【楓の木】は自分達の拠点へと戻っていた。

 

「今回奪えたオーブは27個。あんまり多く奪えなかったな」

「ほとんど大規模ギルドのオーブだけどな」

「タイミング的に自軍のオーブしかないところがほとんどだったからね」

 

男三人衆は今回の作戦で奪えたオーブがセットされた自軍オーブの前で呟く。

 

『じゃあ、私は疲れちゃったから先に休むね。このボディだから地べたで寝るしかないけどね』

「大丈夫よー。こんな事もあろうかと……」

 

イズはそう言って画面を操作して本当に大きなフカフカそうな敷毛布を取り出して【暴虐】モードのメイプルへと渡す。

 

『ありがとー!イズさん』

 

敷毛布を受け取ったメイプルはイズにお礼を告げ、奥の部屋へと消えていく。

 

「さて……大規模ギルドの連中はやっぱり取り返しに来るよな?」

「流石に来ると思いますよ。ウチは小規模ギルドですから、大きい減点は避けたい筈ですし」

「こちらとしては潰し合いが起きてくれればいいんだけどな」

 

そうして全員が入口を警戒しつつ、溜まった疲れを抜くことに努めていく。

……三時間後。

 

「……来なかったな」

「ええ。誰も来なかったわね」

 

防衛が完了するまで、誰も来なかったことにコーヒーとサリーは勿論、全員が拍子抜けしたような気分となる。

 

「お陰でポイントが一気に加算されて二位になったんだが……どうして誰も来なかったんだろうな?」

「おそらくだけど、私達に奪われたオーブを取り返すより他のギルドのオーブを奪った方が最善だと判断したのかもね」

 

クロムの疑問にイズが憶測で答える。

イズの憶測は大当たり。この二日だけで【楓の木】の異常さを痛感したギルドはオーブを取り返すより、他のギルドのオーブを奪いに行った方が被害が少なくて済むと判断したからである。

 

「そうだね。実際ランキングを見ると、中規模ギルドも大分潰されているからね」

「このまま引き籠っても、十分に上位十位以内に入れるだろうが……どうする?サリー」

 

コーヒーの質問にサリーは笑みを浮かべて答える。

 

「無論、このまま最後の仕上げに入るわ。幸い例の作戦も大幅に強化できたしね」

「うん。昨日の【夢の鏡】の魔導書にできるスキルは大量に魔導書にしたからね」

「だからCF、【炎帝ノ国】の様子を見に行って来て。予想が正しければ、【炎帝ノ国】は大分荒れてる筈だから」

「ハイハイ。人使いが荒いことで」

 

コーヒーは肩を竦めて外へ出て、メタルボードで空から【炎帝ノ国】へと向かう。

少しして【炎帝ノ国】が遠目から確認できるところまで到達すると、【炎帝ノ国】は戦場となっていた。

 

「本当にサリーの予想通りだったな……」

 

コーヒーはサリーの予想が当たったことに苦笑しつつサリーへとメッセージを送り、最後の仕上げの為に全員で集まるのであった。

 

 

 




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